ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【イリアの実力】

 茶色い球体のシルエットに巨大な一つ目、その目の下には鼻から上がない青白い女性の上半身のような器官が霊魂のごとくゆらゆらと()れている。

 

 ザイゴートは血のように赤い瞳で僕を見下ろしていたが、次の瞬間、白い牙を()きだしながらその巨大な口で咆哮(ほうこう)する!

 

 GYAAAAAAAAAHH!!

 

すると、6体のオウガテイルが整然(せいぜん)と行動を開始した。

 

 3体が僕の正面へ向かって突進し、残りの3体は大きく迂回(うかい)し僕の背後へ回ろうとしている――(はさ)み撃ちをしようというのか!? アラガミが、狩りの戦術を仕掛けてきている……!?

 

『リーダー! 挟撃(きょうげき)されないよう注意しつつ、住民の方を避難させてください! 今、あなたの向きから7時の方角です! 急いで!!』

 

 僕はレインさんの指示に従い、住民男性を先に逃がして一時退却。

 

 追いついてきたオウガテイルが数体飛びかかるも、盾を展開しながら防ぎ続ける! バースト状態だからか、複数のオウガテイル相手でも問題なく対応できた。

 

 この数のオウガテイルを相手にするのは厄介だが……それ以上に油断できないのが、あのザイゴートだ。

 

 奴がこのアラガミ達を(たば)ねるリーダーなのか? ならば最優先に叩くべきなのだが……5メーター以上の高さで浮遊しているあのアラガミをどうやって攻撃すればいい?

 

 またポチに乗って建物の上から飛びかかることも考えたが、こう次から次へとオウガテイルに攻撃されている状況では、ポチに乗る暇すらない!

 

『住民の男性は離脱しました! リーダー、アラガミ達に囲まれないよう、移動しながら一体一体を仕留(しと)めてください!』

 

 立ち止まればすぐにアラガミの群れに取り囲まれる。移動しながらなら、こちらに追いついたアラガミのみを一体ずつ相手にできる。的確(てきかく)な指示だ。僕はレインさんに従い移動を続けようとした。

 

 その瞬間。

 

 ドボッ!!

 

 僕の四方(しほう)を取り囲むように、地中から4つの何かが勢いよく現れた!

 

 それは――矢じりのような帽子を被る少女のような顔と、昆虫の(さなぎ)のような質感の胴体(どうたい)を持ったアラガミ。コクーンメイデン。

 

 僕は慄然(りつぜん)とした。あのザイゴートの狙いは初めからこれだったのだ。あたかもオウガテイル達で取り囲もうとし、僕をこの場所まで移動させ、追い込んだ――コクーンメイデン達が潜伏(せんぷく)していたこの場所まで!!

 

 ゴギン、という硬質(こうしつ)な音とともに、コクーンメイデン達の首が90度に折れ曲がり、頭頂部を僕の方角に向ける。

 

 同時に帽子のような部位が開口し、中の暗く巨大な砲身がこちらを見返した――まずい!!

 

 ドドドウッ!!

 

 僕はとっさに地面へ()せる! 間一髪、コクーンメイデンが放った砲弾は頭上で炸裂(さくれつ)した。頭部は神機の装甲で守ったが、破裂した砲弾の衝撃と無数の破片が容赦(ようしゃ)なく僕の全身を降り注ぐ。

 

 ――ぐあっ!!

 

 全身を走る激痛に思わず声を上げる。はるか頭上ではザイゴートが悠然(ゆうぜん)と浮遊し、オウガテイル達が殺到する足音が近づいてくる。

 

 逃げようと立ち上がればすぐさまコクーンメイデンによる砲撃が飛んでくるだろう。

 

 どうする? 一体どうすればいい? (あせ)りの感情が(つの)り心臓の鼓動(こどう)徐々(じょじょ)に早まる。空転(くうてん)しかける思考を押さえつけ、地面に伏せながら冷静に周囲を見る

 

 この状況、どう切り抜ける……?

 

 その時だった。

 

 ジャッ!

 

 地面を蹴り上げる音。一瞬空を横切る影がひとつ。

 

 イリアだ。建物の屋根を飛び、はるか上空へ――ザイゴートの頭上を取る!!

 

「フッ!!」

 

 鋭い呼気(こき)と共に短剣型神機の切っ先をザイゴートに突き立てた!

 

 GYAABAAAHHH!!

 

耳をつんざく絶叫と共にザイゴートが落下。司令塔であったザイゴートが襲撃された影響か、オウガテイルとコクーンメイデンが動きを止める。

 

 動くなら今か? 僕が体を起き上がらせた、その時。

 

『リーダー! 背後にオウガテイルが!!』

 

 しまった。死角に回っていたアラガミがいたのか!

 

 こちらに牙を()いて飛び掛かるオウガテイル。僕が回避行動を取るより早く、巨大な大剣がオウガテイルの(どう)を真っ二つに切り裂いた!

 

「無事か、リーダー!」

 

 アレックスだ。しかし、イリアといい、二人ともどうしてこんなに早くここにたどり着けたんだ?

 

 と、遠くでヘリの飛行音が聞こえた。そうか、ここまで送ってくれたヘリに途中まで乗ってきたのか。

 

「よし、待ってな、今こいつを……!」

 

 アレックスの持っていた神機がベキベキと音を立て変形。捕食形態(ほしょくけいたい)となり、3対の目を持つ巨大な(オオカミ)(あご)が現れる。

 

 グオッ!!

 

 神機が()え、先ほど両断したオウガテイルの肉を捕食。コアもろとも、ほぼ丸のみに近い状態で神機に食わせた。

 

『ま、待ってくださいアレックスさん! 明らかに捕食の規定量を超えています! そのままではオーバーフローの危険が――』

 

「承知の上だ! オラっ! もっとだ! もっと食え!!」

 

 まさか……オウガテイルを使って、無理やり“喰潰(しょくつい)”を行おうというのか……?

 

 神機の顎はオウガテイルの頑強な頭部を砕きながら、両断された上半身を飲みこんだ。すると――アレックスの体に異変が起こる。

 

「う、っぐ……!?」

 

 頭を左右に揺らし、立ち(くら)みのように足元がおぼつかなくなる。

 

『いけません! オーバーフローを発症しています! リーダー、今すぐ彼を――!?』

 

「……よ、余計な心配だ……思ってた以上にキツイが、いけるぜ……!!」

 

 アレックスはゼイゼイと肩で息をしながら、それでも無理やり笑ってみせた。

 

 そして両足を広げ、中腰(ちゅうごし)姿勢になりながら大剣を両手で肩に(かつ)ぐような体勢で、静止。

 

 すると――アレックスの大剣が急激に赤熱(せきねつ)余剰(よじょう)分のエネルギーを放出するように、神機のコアが煌々(こうこう)とオレンジ色の輝きを放つ。

 

『そ、そんな状態で“渦空断(かくうだん)”を放つつもりですか!? すぐに止めてください! あなた、体がバラバラになりますよ!?』 

 

 カクウダン……? 大剣型神機には特有の技巧(ぎこう)があると聞いたことがあるが、そのことなのだろうか……?

 

「……リーダー、この技はちょいと時間がかかる。俺が合図したら地面に()せろ。それまでは、あいつと一緒にアラガミ共を抑えてくれ」

 

 アレックスの視線の先には、イリアがいた。

 

 オウガテイル達の攻撃をなんなく(かわ)しながら、足元に転がるザイゴートを容赦(ようしゃ)なく斬りつけ続けている。

 

 ギャギャっ!!

 

 悲鳴を上げるザイゴート。しかし、斬りつけたそばから傷の治癒が始まっている。これでは仕留(しと)めるまで時間がかかりすぎる。

 

「……」

 

 イリアはそれを悟ったのか、剣を振り上げたまま動きを止める。

 

 と、その神機がゴキゴキと音を立てて変形。捕食形態を取った神機が空に向かってその獰猛(どうもう)な牙を()いた。

 

「フッ!」

 

 殺意のこもった呼気(こき)と同時に、捕食形態の牙がザイゴートに食らいつく! そして横一文字に文字通り()千切(ちぎ)って見せた!!

 

ブチ撒けられた体液と臓器の中から、オレンジ色に輝くコアが転がる。残ったザイゴートの半身は砂のように砕けて散った。

 

「フウゥゥ……!」

 

 神機から大量の偏食物質が右手から全身を駆け巡っているのか。制服の下からわかるほど無数の血管がミミズ()れのように浮かび上がっていた。

 

 バーストにより体の底から湧き上がる力。イリアは細く息を吐き、瞳はさらに鋭く、冷たく細めていく。

 

 と、その時。

 

『イリアさん! 背後からオウガテイルが!!』

 

 背後を回り込んだオウガテイルが、その巨大な尻尾をイリアへ向けて振り下ろした!

 

 しかし彼女は、後ろへ振り返ることもせず、とん、と背中から背後へと飛ぶ。

 

 オウガテイルの攻撃を避け、背中をギリギリで飛び越えながら4回転。着地と同時に――刃に付着したオウガテイルの灰色の体液を振り払った。

 

 ゴガッ!?

 

 遅れてオウガテイルの体が4つに輪切りされる! 紙一重の回避と同時に反撃。完全にオウガテイルの攻撃を見切っていなければできない芸当(げいとう)だ……!

 

 だが、オウガテイルはまだ4匹も残っている。

 

 ――イリア! 上だ!!

 

 イリアの頭上からとびかかるオウガテイル。イリアは円盾(えんじゅん)を展開するが――間に合わない!!

 

 盾が展開しきる前に、オウガテイルの頭が差し込まれる! 二つの装甲板にオウガテイルの頭が挟まるような格好(かっこう)だ。

 

 僕は彼女の防御が遅れた結果だと思った。だが――それは違った。

 

 ギギ、ガガガ……ッ!?

 

 ミシミシ、メキメキと辺りに響く破砕音。

 

 オウガテイルの頭部が、徐々(じょじょ)に、徐々に盾の装甲板によって()し潰されていく……!

 

 そして。

 

 ブヂィィン!!

 

 肉のはじけ飛ぶ音と金属音が重なり、頭部を破裂させたオウガテイルが噴水のように体液を()きながら彼女の足元に落ちた。

 

 と、4体のコクーンメイデンがぐるりと一斉(いっせい)にイリアに体を向ける。

 

 彼女は僕とそれほど離れていない。つまり、僕と同様にコクーンメイデンに囲まれているわけだ。これはまずい!

 

 ――砲撃が来るぞ! そこから離れるんだ!!

 

 しかし。イリアは動かない。

 

 灰色の体液が付着した円盾(えんじゅん)を構え続けている。四方からくる砲撃を盾ひとつで防ごうというのか? いくらなんでも無茶だ!

 

 ドドドン!

 

 コクーンメイデンからの砲撃! イリアはそれらを盾で受け――そして受け流して見せた。

 

 4方向から来たコクーンメイデンの砲撃は軌道を修正され――対角線上にいる各々へ次々と着弾!!

 

 体の大部分を(えぐ)られ行動不能となるコクーンメイデンを尻目に、イリアは何事もなかったかのように平然と(たたず)んでいた。

 

 強い。あまりにも強すぎる……! 

 

 隊長との訓練でかなりの実力者だとは思っていたが、ほぼ一瞬のうちに6体ものアラガミを倒して見せるほどとは……

 

 GE(ゴッドイーター)となり数日しか()っておらず、これが実質アラガミとの初戦闘だというのに、この体捌(たいさば)きのすさまじさ……オウガテイルを前に震えることしかできなかった彼女と同一人物とはとても思えないほどだ。

 

 イリアの援護(えんご)に回ろうと思ったが、これは僕が行けば逆に彼女の足を引っ張るかもしれないな。

 

 などと思っていると、レインさんからの緊急通信が届く!

 

『リーダー! 先ほど避難させた男性がまた戻ってきています! 彼の保護を優先してください!!』

 

 背後を振り返ると、砂で汚れた外套(がいとう)を着た中年男性が、必死の形相(ぎょうそう)で遠くに立つテントへ向かって走っているのを見た。

 

 馬鹿な……どうして!?

 

 いや、考えている(ひま)はない! もう一度彼を避難させなければ!!

 

『リーダー! 背後にオウガテイル、接近しています!!』

 

 ――くっ!

 

 後ろから猛追(もうつい)するオウガテイル。僕はやむなく盾を(かま)えると――オウガテイルの背に、イリアの神機が突き立った!!

 

 ――イリアっ!?

 

「……」

 

 イリアは僕の声にも応えず、冷酷に、冷淡(れいたん)に、オウガテイルの首を()ね胴を輪切りにし、転がり落ちたコアを足で踏み砕いてみせた。

 

 ――イリア……

 

「あ、あ……す、すみません、私は、その……」

 

 くたびれた表情の中年男性が、申し訳なさそうに頭を下げる。すると、彼の表情が驚愕(きょうがく)にこわばった。

 

「うわあっ!! あ、アラガミがっ!?」

 

 残っていた2体のオウガテイルがこちらへ飛びかかろうとしていた。

 

 迎撃するべく神機を構えるイリア。

 

 その時だった。

 

「いくぞ、リーダーっ!!」

 

 アレックスの声が届く。僕は一瞬の判断で、保護対象の男性とイリアの背を押し、地面に()せさせた。

 

 僕たちを目掛けて飛び掛かるオウガテイル。

 

 しかし――(さき)んじてアレックスの一撃が叩き込まれた!

 

「うゥうるるるぁああァッッ!!

 

 それは。

 

 全長50メートル以上の巨大な剣が、周囲一帯を()ぎ払ったかのように。

 

 偏食物質をまとった空気の(うず)が、真空の刃を造り出し、一帯全土(いったいぜんど)のアラガミ達を一撃のもと斬り裂いた!!

 

 僕たちへ躍りかかった二体のオウガテイルも斬られ、再生しつつあったコクーンメイデン達も斬られ、頭部を再生し立ち上がったオウガテイルも両断される。

 

 巨大な刃は周辺の建物すら巻き込んだ。轟音(ごうおん)と共に崩落(ほうらく)する建物。そしてコアだけ残して瓦解(がかい)するアラガミ達。

 

 一撃。たったの一撃で、7体ものアラガミの群れを一掃(いっそう)して見せるなんて……!

 

 そんな(すさ)まじい戦果(せんか)を残したアレックスは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべると同時に――その場に無様(ぶざま)にぶっ倒れた。

 

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