ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【最低最悪の下種】

 午後3時を過ぎたころ、僕とアレックス、イリアの三人は支部辺境基地(センタースワン)内5階にある作戦指令室へと呼び出された。

 

 腕輪をかざして電子錠(でんしじょう)の扉を開くと、軍服姿で口ひげにスキンヘッドが特徴的な男性、フリードさんが腕組みをしながら僕たちを待ち構えていた。

 

「ええっと、確か……フリード、っつったっけ? あんた?」

 

「ああそうだアレックス。次からは一応“隊長”と付けてくれ……支部長、全員(そろ)いました」

 

 すると――フリードさんの背後に、エル支部長の上半身がホログラムとして浮かび上がった。

 

『来たか。すまないが緊急事態ゆえ、君たちに応援を頼みたい。ここから西に向かったところに広大に張り(めぐ)らされた地下排水路があるのだが、そこに厄介なアラガミが出現したとの報告があった』

 

 ――それを、僕たちだけで討伐(とうばつ)するのですか?

 

『ああ……悪いが手が足りない。北東から大型アラガミの“ヴァジュラ”が接近している。他のほとんどの部隊はそちらの対応へ向かってもらった』

 

 大型アラガミか……確か体長が6メートル以上あり、その危険性はこれまで僕が相手をしてきたオウガテイルやコンゴウとは比べ物にならない程だそうだ。

 

 あのニャルラテップも大型種だ。僕達も参加できればヤツを倒すための貴重な経験となるかもしれないが、今の実力では参加することすら許されないのだろう。

 

「あの……ヴァジュラって、確かこの大陸には存在しないアラガミでは……?」

 

 おずおずと挙手しながらイリアが(たず)ねる。

 

『……そのはずだったのだがな。アメリカ支部でもこれまで見られなかったアラガミ種が現れるようになったらしい。多種のアラガミが現れる地といえば極東だが、どうやらアラガミ動物園はこちらにも出張を始めたようだ』

 

 全く笑えないジョークだ……

 

『ディノは現在“特務(とくむ)”に就いている。アマテラスを中心としたウロヴォロスの群れが付近に存在していることがわかった。討滅(とうめつ)するまでしばらく時間がかかるだろう』

 

 アマテラス? ウロヴォロス? 

 

 一体どんなアラガミなのかはわからないが、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべるイリアの様子から、とんでもなく強いアラガミなのかもしれない。

 

そんなアラガミの群れをたった一人で片づけに行くとは……ディノが“本部が有する最大戦力”と(うわさ)されるBH(ブラックハウンド)部隊に在籍(ざいせき)していたというのは本当のようだ。

 

「それで、動けるのは俺たちだけってわけか……で、俺たちはどんなヤツと戦うんだ――戦うんスか?」

 

 アレックスの問いに答えるのは、支部長の隣へ新たに投影(とうえい)された人物。

 

『そのことについては私から説明を。討伐対象は“ウェンディゴ”と呼ばれるアラガミです』

 

 明るいブラウンの髪をロールアップしたメガネ姿の女性……この声、オペレーターをしていたレインさんだ!

 

『元は“カテゴリーC”に(ぞく)していたアラガミです。他のアラガミとは違い、生物や他種アラガミに寄生するという厄介な特性を持っています』

 

 ――カテゴリーC? 寄生するアラガミというのは……?

 

『順番に説明しましょう。カテゴリーCアラガミとは、放置すれば人類種を含めたこの星の全生物に甚大(じんだい)な影響を与える、災害級ともいえるアラガミ種の総称です』

 

 え……!?

 

「オイオイオイ! そんなとんでもねえ奴をこいつらに戦わせるつもりか!?」

 

 驚愕(きょうがく)し抗議するフリードさんだったが、レインさんは落ち着き払った様子で応える。

 

仰々(ぎょうぎょう)しく聞こえたかもしれませんが、カテゴリーCに属するアラガミは必ずしも高い戦闘能力を有するわけでもありません。放置し増殖されるとこの星の環境に悪影響を与える存在……過去の例でいえば、小型の甲虫型のアラガミや地面を覆うコケ型アラガミなどが挙げられます』

 

 レインさんの説明によると、甲虫型アラガミは太陽光からエネルギーを得るため、増殖されると空全体を覆う大群に発展し地球全体が寒冷化に見舞われるリスクがあったとのこと。

 

 コケ型アラガミの方は、放置すると光合成をしまくることで星全体の酸素濃度が急上昇し、全生物が酸素中毒に見舞われるほか、火災の甚大(じんだい)化で大陸全土に広がる大火災が発生していたリスクがあったらしい。

 

 どちらのアラガミもフェンリル本部によりすでに駆逐(くちく)されたとのことだ。確かに戦闘力はなさそうだけど、危険性だけでいえば他のアラガミ達と比べても抜きんでている。そういうアラガミも存在していたのか……

 

「な、なるほど……メチャメチャ強えってわけじゃねえのはわかったけどよ……でも、寄生するアラガミってのはどういうことだよ……?」

 

『その名の通りです。アレックスさん、たとえばあなたが寄生されれば、あなたは自我を失いそのアラガミの指令のままに動く“生ける(しかばね)”となります。ウェンディゴに寄生された生物は例外なく体の支配権を奪われ、目に映るものを見境(みさかい)なくひたすら食らい続けるだけの存在となるのです』

 

 な――

 

「じ、十分危険じゃねえかっ!! そんな奴と戦うのかよ!?」

 

『ええ。寄生されてしまうと一発アウト。しかし、戦闘力自体は寄生する宿主に由来するため、決して高いとはいえません。発見されたウェンディゴはアラガミに寄生していたわけではなかったようで、駆除は容易(ようい)との判断からあなた達に討伐要請(とうばつようせい)が下されました』

 

 戦闘力は宿主しだい……なるほど。放置しても生態系全体を揺るがすような問題には発展しにくいから、カテゴリーCから外された、というわけか。

 

 しかし……寄生されると一発でお(しま)いというのは、アレックスの言う通りかなりリスクの高い相手といえるのではないだろうか?

 

『他のアラガミ種が相手でも急所にダメージを受ければ一撃で死ぬ。リスクの高さは他のアラガミと同じだ。気負(きお)わず事にあたってほしい』

 

 そう支部長は言ってくれたが……うーん、そう言われれば、そうなんだろうか……?

 

『それからもう一つ。ウェンディゴ討伐は、偵察(ていさつ)任務を主とする第四部隊と共同で行ってもらいます。彼らは対象アラガミとの戦闘に慣れていますから、討伐自体は問題なく進められるはずです』

 

 ……討伐自体は?

 

 その言い回しがひっかかり、レインさんに尋ねると――彼女は、大きなため息を吐いた。

 

『その部隊自体に問題があるです……トラブルばかりを起こす、いわゆる問題児のチームですから……くれぐれも携帯端末は忘れないように。端末は監視用の三つ目トンボともリンクしていますから、忘れたり電源を切ったりするとこちらも彼らの監視ができなくなってしまいます』

 

 レインさんが監視し続けないといけないような相手なのか? 一体どんなチームなんだろうか……不安しかないな。

 

『……ウェンディゴは最近見つかった新種のアラガミでもある。捕食しコアを得れば君たちの神機の強化にも使えるだろう。厄介な役回りをさせてしまうが、これも第二支部や周辺の衛星支部の安全のためだ。人々のため、力を貸して欲しい』

 

 そう言って真摯(しんし)に頭を下げる支部長に対して、なんだか不安なので嫌です、などといえるはずもなく。

 

 僕達3人は了承し敬礼を行ったのち、保管庫から神機を受け取り、問題の地下排水路へと急いだ。

 

 

◆◆◆

 

 地下排水路は、すべて一本の通路につなげると約960kmにもおよぶ、広大な地下トンネルだ。

 

 縦横無尽(じゅうおうむじん)に入り組んだそこは昼でも夜のように暗く、点在(てんざい)する壁面のLED灯がぼんやりと足元を照らすのみだ。

 

 ほこりと湿気が混じった生ぬるい風が(ほお)()でる。風が吹く先を見れば、不気味なグラフィティアートが導く底知れない通路の暗闇が、こちらを待ち(かま)えるように口を開けていた……

 

「……こんな所で戦うのか? 他にもっとマシな明かりはねえのかよ……」

 

 アレックスの言い分ももっともだ。こちらにも寄生するという危険なアラガミを相手とするのだ。入り組んだ通路の闇からいつ襲ってくるのかわからない。

 

……いや、待てよ。明かりがあるということの方が不自然だ。アラガミはエネルギーを放つものを優先して食らいに来る。だから衛星支部では電化製品の類は一切使用しない生活を送っているのだ。

 

 であればこのLED灯は、先行した第四部隊の人が設置したものだろうか……?

 

『第一部隊、そのまま明かりが設置されている道を進んでください。まもなく第四部隊と合流できます』

 

 レインさんの言葉に従い進むと……崩落した通路の瓦礫に、腰かける二つの人影があった。

 

「……ようやく来たか第一部隊。新人のクセに待たせるとは、ずいぶん大物のようだな?」

 

 人を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、金髪に整髪料をたっぷりつけたオールバックの男がそう言った。

 

「すっげー! ワビ一つ言わねーよこいつら! 30分近く待ってたんだぜー!? 第一部隊ってよぉー、いつからそんな偉くなったんだ~??」

 

 オールバックの男に同調するように、首筋や腕に大量のタトゥーを()った、まるでパイナップルのようなツーブロックヘアの男が(あお)り立てる。

 

 ……ああ。なるほど。問題児の第四部隊。言葉を交わす前にもう理解してしまった……

 

「オイ、リーダー……」

 

 アレックスは露骨(ろこつ)不服(ふふく)そうな顔をしたが、しかし彼らは確かに僕達より先輩でもある。同じ作戦に参加する以上、ここで波風を立てるわけにはいかない。

 

 僕はアレックスとイリアに代わり、二人に対して第一部隊の代表として頭を下げ謝罪した。

 

「ふ……頭を下げれば済むと思ってるのか……すぐにペコペコ謝れるように軽くできてるんだろう。ところでその頭、中身はちゃんと入ってるのか?」

 

 オールバックの男はニタニタ笑いながらそう言い、パイナップル男がゲラゲラと馬鹿笑いをする。

 

 腹の底から煮え立つような怒りの感情が()いてきたが……我慢だ。危険なアラガミを倒すことが第一なのだ……

 

「俺の名はブラッド。そっちのタトゥーの奴はロブだ。そっちの名は?」

 

 ――僕は――

 

「違う。お前じゃない。男の名前なんぞ覚えたくもない……そっちの可愛い金髪の君ィ、君の名前を教えてくれないかなあ?」

 

 ブラッドは気色の悪い猫なで声でイリアにニタリと笑いかけた。

 

 イリアは戸惑(とまど)いつつも、自分の名をブラッドへ()げる。

 

「うんうん。名前も可愛いんだねー。よろしくねえー。ああ、立ちっぱなしで話すのもなんだから、こっちに座りなよ。ここまで来るのに疲れたっしょ?」

 

「オイなんなんだよ、ずいぶんこいつと俺らで態度違うんじゃねえの?」

 

 アレックスの抗議の声に、ブラッドは深く深くため息を吐き、大仰(おおぎょう)に肩をすくめてみせた。

 

「おいおい、態度を改めるのはお前のほうだぞ? ここを仕切(しき)るのは第四部隊。つまり隊長であるこの俺だ。部隊長には隊員の采配(さいはい)も任されている。誰を優遇しようが誰を除外しようか俺の自由なんだよ。わかったか赤毛? 頭の悪いオツムできちんと理解できましたかぁ~?」

 

「野郎……」

 

 今にも殴りかからんとするアレックスを、僕は右手で無理やり抑えつけた。奴にムカついているのは僕も同じだが、ここを仕切るのが第四部隊だというのはレインさんからも聞いていた。

 

 ここで事を起こし、僕達が作戦から除外されるとなると問題だ。僕たちは少しでも強くなるため、一体でも多くのアラガミを倒さなければならないんだ。

 

『……第四部隊、それ以上の侮辱(ぶじょく)行為は規律違反に問われます。作戦の遂行(すいこう)を優先してください』

 

 レインさんの冷静な叱責に、ブラッドは顔をしかめて舌打ちをする。

 

「……ああそうだな。スムーズな作戦遂行のために――オイ、お前ら3人、端末をこっちに寄越(よこ)せ」

 

 なに……!?

 

 

『いけません! こちらの監視を遮断するため端末の電源を切るつもりです!! 絶対に渡してはなりません!!』

 

「いいんだぜ、渡したくないならよ……それなら上官の命令不服従ってことで、今度はお前らが規律違反に問われるなあ? 運がよけりゃあ減給、悪ければ懲罰房(ちょうばつぼう)行きだ。おお、怖い怖い」

 

 懲罰房……!? まずい、そんなことになれば、貴重な時間を無駄にしてしまう。ニャルラテップから生き延びるには、それだけは避けたい……!

 

『そんな無茶苦茶な道理(どうり)が通るはずありません! 第一部隊、決して端末は渡してはなりません!』

 

「そう思うならそうすればいい。俺はこの場の責任者として起きたことを粛々(しゅくしゅく)と伝える。その結果どうなるかはお前らの責任だ。すべてお前の決断しだいってわけだ? で、どうするリーダーくん?」

 

 …………

 

 目的は……アラガミを討伐すること。

 

 僕たちが強くなるため。いいやそれだけじゃない。周辺地域の安全のため……衛星支部で出会ったあの男性のような悲劇を防ぐため……!

 

 こんな奴らだけに任せられない。ならばここは、従う……しかない……

 

『ああ、そんな……』

 

「よしよし、おりこうさんだねえー。オラ、後ろの二人もさっさと出せよ」

 

 アレックスは舌打ちし、イリアはしぶしぶながら、僕と同じく携帯端末を差し出した。

 

 ブラッドは当然のように僕たちの端末の電源を切る。ゴミでも扱うかのようにその辺に捨てると、彼はアレックスの方へニヤつく顔を向けた。

 

「ん? どうした? なにか言いたいことあるのか?」

 

「……別に、なんもねえよ……」

 

「あ? 聞き違いか? 今、タメ口()いたよな? 今?」

 

「…………」

 

 無言で(にら)みつけるアレックス。しかしブラッドは(かま)わずさらに調子に乗り出した。

 

「黙ってちゃわかんねえだろ? 何? もしかしてビビってる? 怖くて怖くて涙目で睨みつけることしかできないの? ボク~?」

 

「……OK。いいぜ。殺してやる」

 

 まずい。完全にキレた。

 

 僕は必死にアレックスを抑えようとしたが、彼は力づくで僕をはねのけ、ブラッドの胸倉(むなぐら)をつかみ上げた!

 

「ヒッ! おご、お前……こんなことしてタダで済むと思ってるのか!?」

 

「知るかよ。挑発したのはテメーだ。ぶちのめされるのもテメーだ。全部テメーの責任だクソゲロ野郎」

 

「い、一発でも殴ってみろ! 規律違反! 傷害罪!! 確実に懲罰房にブチ込んでやる!!」

 

「そりゃいい。テメーが治療センターから出てこれるのとどっちが先か競争しようぜ? 二度とセンターから出られない体にしてやるよ」

 

 ――だめだアレックス! 手を出すのはダメだ!!

 

「リーダー! 止めんなよ……!」

 

 ――生き残るためだ! ケンカなんかで時間を無駄にしてる(ひま)はない!! アレックス! ここは抑えるんだ!!

 

「…………」

 

 ――アレックス!!

 

「……わかったよ、クソっ!!」

 

 アレックスはブラッドを思い切り突き飛ばすと、怒りをにじませながら僕に告げる。

 

「……周りの偵察(ていさつ)してくる。ここにいたらマジでブッ殺しかねねえ……イリアのこと頼むぜ、リーダー」

 

 大剣型神機を肩に(かつ)ぎ、アレックスは排水路の奥の闇へ消えて行った。

 

「ふ、フン……結局ビビッて何もできなかったな。何もできないくせにイキりやがって、みっともない奴だ」

 

「だよな~! 尻尾巻いて逃げやがったぜ~!!」

 

 アレックスがいなくなった途端(とたん)に調子づくブラッドとロブ。本当にみっともないのは誰なのかも理解できてないようだ。

 

「さて……イリアちゃ~ん? こっち来なよ、俺の隣にさあ? ねえ?」

 

「……!?」

 

 唐突にブラッドの邪悪な矛先が自分に向き、イリアは戸惑(とまど)いと不快感が混ざった表情で(まゆ)を寄せた。

 

「……早く来いよ。ここじゃ俺が上官だぞ? 上官命令だぞ? おい?」

 

 イリアは不安げな表情で僕を見た。

 

 僕は――リーダーとして、彼女を守らなければならない……

 

「オイ、どうした? 上官命令に(そむ)くつもりか……?」

 

 従わなければまた懲罰房に送るとでも言うのだろう。それだけは避けたいが――こうしてあの男に従い続けることが本当に正しいことなのか……?

 

 アレックスや、イリアも犠牲(ぎせい)にしてこんな奴の言いなりになることが、本当にチームを(たば)ねるリーダーとして正しいのか……!?

 

 その時だった。

 

「……大丈夫。わたしは大丈夫だから……」

 

 ――イリアっ!?

 

 彼女は自らブラッドの言葉に(したが)った……僕の考えていることを理解し、その上であの男に従ったのだ……それがチームのための最良なのだと……

 

「よしよし。キミ本当に可愛いねえ~? 髪型もイケてるし肌もキレイだ。普段からケアしてるでしょ? してないの? マジ~? ならしっかりケアしたらもっとキレイになるってことじゃん! ダイヤの原石(げんせき)って君のことを言うんだろうねえ~!」

 

 ブラッドはそんな調子で、しぶしぶながら横に座ったイリアに対してベラベラと調子のいいことをほざき続けた。

 

 そこから先はまさに地獄だ。ブラッドはイリアの肩や腰に腕を回し、ほぼ密着に近い状態でペラペラ得意げに自らの武勇伝を語り続けていた。

 

「あの……討伐対象のアラガミは……」

 

「ん~? 心配性だなあイリアちゃんは~。大丈夫。ここで待っていれば奴らの方から来る。もちろん君の事は俺が守るよ。この肌に傷ひとつ付けることなくね……」

 

 ここぞとばかりにイリアの(ほお)()で、ベタベタと彼女の体に触れるブラッド。それがこの上なく不快なのか、遠目でもわかるほどイリアのこめかみに青筋(あおすじ)が走っていた。

 

 ……だめだ。このまま彼女を放っておくわけにはいかない!

 

 さすがにこれ以上黙っていられず、僕は抗議の声を上げた。それ以上彼女の意に反したことをするのは、それこそ規律違反であると。

 

 しかし――ブラッドは大きく舌打ちし、批判した僕へ怒りの視線を向ける。

 

「はあ……まだいたのお前? 男が俺に声かけんじゃねえよ。最悪だ。気分ぶち壊しじゃねえかよ……」

 

 こいつ……!

 

「ハッ、なんだよ、イラついたか? つーかお前さ、人様に偉そうに意見言える立場だとか本気で思ってる?」

 

 ――なんの話だ……!?

 

 僕が問うと、心底侮蔑(ぶべつ)するかのようにブラッドが笑った。

 

「何もわかってないな……ニャルラテップとかいうアラガミ。お前らが生きている限りアレはお前らに付きまとうってことだろ? 本当に迷惑だよなあ? お前らのせいで俺たち第二支部の人間全員巻き()えになるなんてよ!!」

 

 ――僕たちの、せいだっていうのか……!?

 

「馬鹿か? 本気で馬鹿なのか? 当たり前だろ馬鹿。ゴッドイーターは人々を守るために存在する。それなのに自ら危機を呼び寄せるなんてよ、そんな奴は死んだ方がいい! 

 ああ、死ねばよかったんだよ!! あの時、ニャルラテップに素直に食い殺されてりゃよかったんだ!! 勝手に生き残ってんじゃねえよ!! みんな迷惑してんだよゴミがっ!!」

 

「…………っ!!」

 

 両腕を強く(にぎ)りしめ、イリアが激怒したように無言で立ち上がった。

 

「えっ……やだなあイリアちゃ~ん。君のことは俺が守るって言っただろぉ? あいつらは死のうがどうなろうがどうでもいい。でも君だけは俺が守り抜く。たとえ相手が大型アラガミだろうとね……」

 

「おい、ブラッド……」

 

「……なんだよロブ。空気読めよ、うるせえぞ」

 

「いや、来てるんじゃねえか? ほら、あれ……」

 

 ブラッドは遠い通路の先の闇を鋭く見定(みさだ)める。

 

「……なるほど。タイムオーバーか。まったく空気の読めねえダボばかりだな」

 

 ブラッドは立ち上がり、自らの武器であるガトリング形式の神機を抱え上げた。

 

「ショウタイムだ。これより対象アラガミ、ウェンディゴの討伐(とうばつ)に移る」

 

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