ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【ウェンディゴ】

 ロブが長剣(ちょうけん)神機(じんき)を構えなおし、ブラッドがガトリング形式の神機を向ける先。

 

 通路の暗闇の中から、よろめくような動きで人影が一つ、現れる。

 

 人間……だと思った。闇の中で動くそれは“人の形”はしていた。

 

 しかし――

 

「……っ!!」

 

 僕とイリアが思わず息を飲む。携行LED灯が映し出したのは、おぞましい存在であった。

 

 胴体や手足は一般的な人の姿形をしていたが、頭部だけが以上に巨大化していた。

 

 およそ4、5倍は(ふく)れ上がり、完全な球型。その表皮は焼く前のハンバーク生地(きじ)のようにひき肉状で、肉と肉の間を常に無数の小さな何かが這い回っている。

 

 目・鼻・耳はなく、顔の中心にはひび割れのような巨大な口があり、その隙間(すきま)からは牙ではなく、巨大化した人間の前歯のようなものが4本覗いていた。

 

 口の大きさとは不釣(ふつ)り合いに巨大な前歯が、相手との遠近感すら狂わせさらに不気味さを(かも)し出している……

 

 愕然(がくぜん)とした。この姿。この怪物――僕は、この存在に見覚えがあった。

 

 4年前のあの時。僕のいる難民キャンプを集団で襲った怪物。親友のマックスを生きたまま食い殺したあのアラガミ――!!

 

 BLAAAM!!

 

 ガトリングの銃声。ブラッドが4連射した弾丸は肥大(ひだい)化した肉の頭を(つらぬ)き、ひき肉状の頭部は見るも無残に弾け飛んだ。

 

「いい(まと)だな。おいロブ、さっさとウジ虫共を捕食(ほしょく)してこい」

 

「あいよ!」

 

 砕けた肉々(にくにく)しき頭部から無数の赤い何かが蠢いていた。それは深紅(しんく)に染まった小さなヒルの群れのようであった。

 

 まさかあれが……ウェンディゴ、という寄生種アラガミの本体なのか? 

 

 いや待て、あれは以前の任務で、ザイゴートのコアに張り付いていたヒルと同じもの……?

 

 僕が考えている間に、ロブは神機を捕食形態とし、逃げ惑うヒルの群れを土砂ごと一気に捕食した!

 

「ハッ、楽勝! っと……追加オーダー来てるぜ、ブラッド」

 

「射線開けな。来た順にバラバラにしてやる」

 

 暗い通路の奥から、続々と大きな球体の頭をした者たちが現れる。先ほどの個体とは違い、通路の壁を駆け、()(のぼ)り、こちらを翻弄(ほんろう)するように不規則(ふきそく)な動きで接近する!

 

 ブラッドは――口元に笑みをたたえ、呟く。

 

「見え見えなんだよ」

 

 BRRRRRRRRRRT!!

 

宣言通り、近寄ってきた怪物を次々と神機の弾丸の餌食にしていく。弾丸の雨に体は宙に踊り、頭部は無残に砕かれ、暗い排水路の上に死骸(しがい)が続々と積まれていく……

 

「あの……」

 

「ん~? どうしたんだいイリアちゃん? 危ないから俺の後ろから離れちゃダメだぞ?」

 

「人じゃ……ないんですか? あれって……人間じゃ、ないんですか……?」

 

 そんな彼女の問いに、ブラッドとロブは吹き出すように笑った。

 

「人間“だった”というべきかなぁ? 寄生型アラガミのウェンディゴはあらゆる生物に寄生する。寄生されるとああいう風な化け物に変貌(へんぼう)し、意識もなにもかもあのヒルに支配されちまう……ああいう状態になったヤツを、俺たちは“ミートボールマン”と呼ぶ。

 ああなっちゃ救う手立(てだて)てはない。本人の意識もすでに消滅している。できることは、速やかなる処分だけさ」

 

 元人間……ウェンディゴに寄生されることで、あの異形の怪人に成り下がるのか……

 

 こんな存在が増殖しつづければ人類全体の危機だ。だから“カテゴリーC”に認定されたのか。

 

 しかし、レインさんの話ではウェンディゴはすでにカテゴリーCから外されているという。その理由は……?

 

「カテゴリーC? ああ、そんな風にも言われてたな、こいつら」

 

 どうやら無意識に考えを口にしていたらしい。ブラッドが僕の発言をせせら笑う。

 

「教えてやるよ。こいつらがカテゴリーCとされた理由は、生物に寄生し乗っ取る性質からじゃない――これを見ろ」

 

 ブラッドは懐からガラス(びん)を一つ取り出すと、それを通路の奥へ投げつける。

 

 すると――ボウっ!!

 

 ビンの中にあった溶液が衝撃によって発火! 暗い排水路の一部が火の海と化した!

 

 通路の奥から続々とミートボールマンたちが現れる。奴らは炎にも動じることなく、避けるように壁面(へきめん)を四つ足で疾走(しっそう)してくる……!

 

「わかったか? これが奴の真の異常性だ」

 

 接近するミートボールマンをかたっぱしからハチの巣にしつつ、ブラッドは余裕の表情で語る。

 

「アラガミはな、決して人間を好んで捕食(ほしょく)したりはしない。奴らは常にエネルギーに飢えている。人間を食って得られるエネルギーより、さらに高いエネルギー……例えば炎や高電圧線、高い電磁波を放つ機器なんかを優先して食らうんだ。

 だがこいつらは違う。見たろ? エネルギーである炎に目もくれず、俺たちを目掛(めがけ)けて襲い掛かってきた。つまり、こいつらは人類を明確に敵視し優先的に捕食する“敵意”がある。正真正銘の人類の敵……だからこそ“カテゴリーC”の称号なのさ」

 

 明確に人類を敵視するアラガミ……!? 

 

 アラガミの発生と増殖で人々は甚大な被害を受けたが、それはアラガミによる捕食によるものだけでは決してない。アラガミ達がインフラの胆である発電所や電波塔、電気で動く機器類を次々と捕食したからだ。

 

 インフラの破壊。流通の寸断(すんだん)。これらが全世界規模での()えと混乱をもたらしたが――人類がそれで滅びることはなかった。それは、アラガミ側に人を好んで捕食する習性がなかったからに他ならない。

 

 ここに、人間を優先的に狙うアラガミが現れたとしたら――今度こそ人類は終焉(しゅうえん)を迎える。なるほど、危険性で言えば世界を滅ぼすリスクのある“カテゴリーC”に入るのも納得だ。

 

「次に、なぜカテゴリーCから外されたか、だが……それは見ての通りだ」

 

 接近するミートボールマンが、再びブラッドのガトリング砲によって宙を舞い粉々に砕ける。無様に地面に落ちる死骸を、彼は鼻で(わら)って見せた。

 

「弱い。ただそれだけだ。人に寄生されても俺たちGE(ゴッドイーター)にとっちゃ相手にもならない。アラガミに寄生したところで、そのアラガミ本体を劇的(げきてき)に強化するわけでもないからな。

 寄生されるリスクはあるが、こうやって銃型神機で射撃し、動かなくなったところを近接神機で捕食すれば安全に処分できる……しかし? 元カテゴリーCだけあって、報酬は小型アラガミとは段違いだ。楽して(もう)かるいい任務だぜ」

 

 …………

 

 本当に、そうだろうか?

 

 ウェンディゴに寄生されていたと思しき、あのザイゴートは周囲の小型アラガミをまるで自身の部隊のように指揮してみせていた。

 

 食欲に促されるままの行動ではない。規律と思慮(しりょ)(ともな)った合理的な狩り――他のアラガミにはない明確な殺意がそこにあった。

 

 ウェンディゴ……このアラガミは、決して軽く見てはならない相手といえるだろう。

 

 ロブがミートボールマン達の死骸を捕食し終えると、僕たちは奴らがやってきた通路の奥を目指して進んだ。

 

 いまだに燃え続ける炎を避け、煙を吸わないよう口元を(そで)(おお)いながら進むと――さらなる異常な存在が目の前に現れた。

 

「意外と近かったな。これがウェンディゴの巣だ」

 

 視界に現れたのは――赤い、半透明のトーテムポール、のような存在だった。

 

 壮年の男性、女性、子供、老人――年齢・性別を問わない巨大で様々な人間の頭部が、段々(だんだん)乱雑(らんざつ)に積まれている。

 

 そして、その内部にはあの小さく細いヒルが無数に存在している。半透明の頭部の中にみっしりと詰まるウジ虫のようなヒルの群れ――吐き気を(もよお)した、そのおぞましき存在に。

 

「あのミートボールマン共はな、人を一定数食うと、こういう巣を作り出すんだ」

 

 顔を青くして後ずさるイリアとは対照的に、ブラッドは楽しげにそう語った。

 

 戦闘力の低いアラガミ。すなわち弱者。それをいたぶることが何よりの愉悦(ゆえつ)といわんばかりに。

 

「ヒル一匹ずつにアラガミのコアがある。これ、全部処分すりゃあどうなると思う? 俺の見立てじゃあ1万FC(フェンリルコイン)以上だ! だからウェンディゴ討伐任務はやめられない!!」

 

 そう言い、ブラッドはためらうこともなく、その邪悪な赤いトーテムポールへガトリング砲を叩き込んだ!

 

「近接神機しか持たない部隊じゃあこうはいかない! 銃型神機で一方的に蹂躙(じゅうりん)し! そのあと近接がコアを回収する!! もはや慣れ切ったメソッドだ! 欠伸(あくび)が出るぜ!!」

 

 ブラッドが容赦(ようしゃ)なく弾丸を浴びせ、トーテムポールの顔たちはぶるぶると(ふる)えながら大きく口を開ける。それはまるで無言のまま断末魔を上げるようでもあった。

 

 無数の弾丸に穿(うが)たれ、顔面は破裂。中にいた無数のヒルは地面にこぼれてのたうち、やがて倒れこむトーテムポールによって圧し潰された。

 

「よおし回収回収っ!! 今回もボロ儲けできそうだな、ブラッド!」

 

「フッ、そうやって調子乗ってると足元から寄生されるぞ? 油断するなよロブ?」

 

「ド新人じゃねんだからよぉ~!? んな間抜け(さら)すわけねえっつの!!」

 

 ロブは危なげなく赤いヒル――ウェンディゴを捕食し尽くした。

 

「さて……どうだいイリアちゃん? 怖かった? そうでもなかった? 俺が守ってたんだ、危ないことは何一つなかったろ?」

 

 相変わらずの気色悪い猫なで声だったが、しかしイリアは視線を落とし、(つぶや)く。

 

「……寄生するアラガミ……寄生された人は助からない……どうして、そんなに楽しそうに倒せるの……?」

 

「優しいなあイリアちゃんは~? あれはもう人間じゃない。人じゃないならどれだけ殺戮(さつりく)しようと問題ないのさ……もちろん、たとえ相手が本物の人間だろうと、君に危害を加えようとするなら誰だろうと俺は容赦(ようしゃ)しないぜ?」

 

 ブラッドは相変わらず鳥肌が立つような歯の浮くセリフをほざくが、イリアはそんな彼にも(うつむ)いたまま微動だにしない。

 

 元人間だったアラガミを処分する……そんな任務に心を痛めているのかもしれない。

 

 ……フリードさんが、イリアが過去人を殺したという(うわさ)があると言っていた。これで確信した。やはりその噂はデマだったのだと。

 

 ミートボールマンと化した人々にすら(あわ)れむ彼女が、人を傷つけられるはずがない……!

 

 と、その時だった。

 

「――リーダーっ!! イリアっ!!」

 

 遠くで発せられる声――間違いない、アレックスだ!

 

「ここにいたか!! みんな、大丈夫か!?」

 

 息も絶え絶えにそう問うアレックス。何があったんだろうか? 僕が(たず)ねるよりも早く、ブラッドが嘲笑しながら皮肉交じりの声を掛ける。

 

「汗だくでどうした? ミートボールみたいな頭のザコにでも追われてビビったか? 何があったんだ? ん?」

 

 アレックスは大きく舌打ちし、ブラッドではなく僕に向かって口を開いた。

 

「……中型のアラガミを見つけた。けど……あれは今まで聞いたどのアラガミとも違う! 新種だ! 新種のアラガミがいたっ!!」

 

 ――新種のアラガミ!? どこで見つけたんだ!?

 

「向こうだ! ここの通路をまっすぐ行って、左の――!?」

 

 アレックスの言葉が()まった。

 

 彼が指さした先――未だに燃える通路の炎に照らされ、見たこともないアラガミがゆっくりと姿を現したからだ。

 

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