ロブが
通路の暗闇の中から、よろめくような動きで人影が一つ、現れる。
人間……だと思った。闇の中で動くそれは“人の形”はしていた。
しかし――
「……っ!!」
僕とイリアが思わず息を飲む。携行LED灯が映し出したのは、おぞましい存在であった。
胴体や手足は一般的な人の姿形をしていたが、頭部だけが以上に巨大化していた。
およそ4、5倍は
目・鼻・耳はなく、顔の中心にはひび割れのような巨大な口があり、その
口の大きさとは
4年前のあの時。僕のいる難民キャンプを集団で襲った怪物。親友のマックスを生きたまま食い殺したあのアラガミ――!!
BLAAAM!!
ガトリングの銃声。ブラッドが4連射した弾丸は
「いい
「あいよ!」
砕けた
まさかあれが……ウェンディゴ、という寄生種アラガミの本体なのか?
いや待て、あれは以前の任務で、ザイゴートのコアに張り付いていたヒルと同じもの……?
僕が考えている間に、ロブは神機を捕食形態とし、逃げ惑うヒルの群れを土砂ごと一気に捕食した!
「ハッ、楽勝! っと……追加オーダー来てるぜ、ブラッド」
「射線開けな。来た順にバラバラにしてやる」
暗い通路の奥から、続々と大きな球体の頭をした者たちが現れる。先ほどの個体とは違い、通路の壁を駆け、
ブラッドは――口元に笑みをたたえ、呟く。
「見え見えなんだよ」
BRRRRRRRRRRT!!
宣言通り、近寄ってきた怪物を次々と神機の弾丸の餌食にしていく。弾丸の雨に体は宙に踊り、頭部は無残に砕かれ、暗い排水路の上に
「あの……」
「ん~? どうしたんだいイリアちゃん? 危ないから俺の後ろから離れちゃダメだぞ?」
「人じゃ……ないんですか? あれって……人間じゃ、ないんですか……?」
そんな彼女の問いに、ブラッドとロブは吹き出すように笑った。
「人間“だった”というべきかなぁ? 寄生型アラガミのウェンディゴはあらゆる生物に寄生する。寄生されるとああいう風な化け物に
ああなっちゃ救う
元人間……ウェンディゴに寄生されることで、あの異形の怪人に成り下がるのか……
こんな存在が増殖しつづければ人類全体の危機だ。だから“カテゴリーC”に認定されたのか。
しかし、レインさんの話ではウェンディゴはすでにカテゴリーCから外されているという。その理由は……?
「カテゴリーC? ああ、そんな風にも言われてたな、こいつら」
どうやら無意識に考えを口にしていたらしい。ブラッドが僕の発言をせせら笑う。
「教えてやるよ。こいつらがカテゴリーCとされた理由は、生物に寄生し乗っ取る性質からじゃない――これを見ろ」
ブラッドは懐からガラス
すると――ボウっ!!
ビンの中にあった溶液が衝撃によって発火! 暗い排水路の一部が火の海と化した!
通路の奥から続々とミートボールマンたちが現れる。奴らは炎にも動じることなく、避けるように
「わかったか? これが奴の真の異常性だ」
接近するミートボールマンをかたっぱしからハチの巣にしつつ、ブラッドは余裕の表情で語る。
「アラガミはな、決して人間を好んで
だがこいつらは違う。見たろ? エネルギーである炎に目もくれず、俺たちを
明確に人類を敵視するアラガミ……!?
アラガミの発生と増殖で人々は甚大な被害を受けたが、それはアラガミによる捕食によるものだけでは決してない。アラガミ達がインフラの胆である発電所や電波塔、電気で動く機器類を次々と捕食したからだ。
インフラの破壊。流通の
ここに、人間を優先的に狙うアラガミが現れたとしたら――今度こそ人類は
「次に、なぜカテゴリーCから外されたか、だが……それは見ての通りだ」
接近するミートボールマンが、再びブラッドのガトリング砲によって宙を舞い粉々に砕ける。無様に地面に落ちる死骸を、彼は鼻で
「弱い。ただそれだけだ。人に寄生されても俺たち
寄生されるリスクはあるが、こうやって銃型神機で射撃し、動かなくなったところを近接神機で捕食すれば安全に処分できる……しかし? 元カテゴリーCだけあって、報酬は小型アラガミとは段違いだ。楽して
…………
本当に、そうだろうか?
ウェンディゴに寄生されていたと思しき、あのザイゴートは周囲の小型アラガミをまるで自身の部隊のように指揮してみせていた。
食欲に促されるままの行動ではない。規律と
ウェンディゴ……このアラガミは、決して軽く見てはならない相手といえるだろう。
ロブがミートボールマン達の死骸を捕食し終えると、僕たちは奴らがやってきた通路の奥を目指して進んだ。
いまだに燃え続ける炎を避け、煙を吸わないよう口元を
「意外と近かったな。これがウェンディゴの巣だ」
視界に現れたのは――赤い、半透明のトーテムポール、のような存在だった。
壮年の男性、女性、子供、老人――年齢・性別を問わない巨大で様々な人間の頭部が、
そして、その内部にはあの小さく細いヒルが無数に存在している。半透明の頭部の中にみっしりと詰まるウジ虫のようなヒルの群れ――吐き気を
「あのミートボールマン共はな、人を一定数食うと、こういう巣を作り出すんだ」
顔を青くして後ずさるイリアとは対照的に、ブラッドは楽しげにそう語った。
戦闘力の低いアラガミ。すなわち弱者。それをいたぶることが何よりの
「ヒル一匹ずつにアラガミのコアがある。これ、全部処分すりゃあどうなると思う? 俺の見立てじゃあ1万
そう言い、ブラッドはためらうこともなく、その邪悪な赤いトーテムポールへガトリング砲を叩き込んだ!
「近接神機しか持たない部隊じゃあこうはいかない! 銃型神機で一方的に
ブラッドが
無数の弾丸に
「よおし回収回収っ!! 今回もボロ儲けできそうだな、ブラッド!」
「フッ、そうやって調子乗ってると足元から寄生されるぞ? 油断するなよロブ?」
「ド新人じゃねんだからよぉ~!? んな間抜け
ロブは危なげなく赤いヒル――ウェンディゴを捕食し尽くした。
「さて……どうだいイリアちゃん? 怖かった? そうでもなかった? 俺が守ってたんだ、危ないことは何一つなかったろ?」
相変わらずの気色悪い猫なで声だったが、しかしイリアは視線を落とし、
「……寄生するアラガミ……寄生された人は助からない……どうして、そんなに楽しそうに倒せるの……?」
「優しいなあイリアちゃんは~? あれはもう人間じゃない。人じゃないならどれだけ
ブラッドは相変わらず鳥肌が立つような歯の浮くセリフをほざくが、イリアはそんな彼にも
元人間だったアラガミを処分する……そんな任務に心を痛めているのかもしれない。
……フリードさんが、イリアが過去人を殺したという
ミートボールマンと化した人々にすら
と、その時だった。
「――リーダーっ!! イリアっ!!」
遠くで発せられる声――間違いない、アレックスだ!
「ここにいたか!! みんな、大丈夫か!?」
息も絶え絶えにそう問うアレックス。何があったんだろうか? 僕が
「汗だくでどうした? ミートボールみたいな頭のザコにでも追われてビビったか? 何があったんだ? ん?」
アレックスは大きく舌打ちし、ブラッドではなく僕に向かって口を開いた。
「……中型のアラガミを見つけた。けど……あれは今まで聞いたどのアラガミとも違う! 新種だ! 新種のアラガミがいたっ!!」
――新種のアラガミ!? どこで見つけたんだ!?
「向こうだ! ここの通路をまっすぐ行って、左の――!?」
アレックスの言葉が
彼が指さした先――未だに燃える通路の炎に照らされ、見たこともないアラガミがゆっくりと姿を現したからだ。