ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【言語に絶する卑劣】

 BRRRRRRRT!!

 

 ガトリングの銃声! 僕の足元で弾丸が地面を()ぜさせ、思わず背後へと飛び退(すさ)った。

 

 弾丸を放ったのは――ブラッドだった。

 

「よっしゃあ!! 新型のコアもゲットーっ!!」

 

 声はあのブラッドの仲間、ロブのものだった。

 

 ……ありえない。あの新種の馬のアラガミの対処を僕たちに押し付け、倒した途端(とたん)コアを回収するために僕たちを狙って発砲し、当然のようにコアを横取りしたのだ。

 

 こいつら、本当に……

 

「なに横取りしてんだ!! てめえマジでふざけんじゃねえぞ!!」

 

 アレックスの抗議の声に、ブラッドはまるで無知蒙昧(むちもうまい)(やから)を相手にしているかのように、わざとらしく肩を落とした。

 

「横取り? アラガミの再生を阻止するためにコアを捕食した。ゴッドイーターなら当然の行動だ。被害妄想もほどほどにしろよ?」

 

「……だったらそのコア渡せ。そいつは俺たちが倒したアラガミだ」

 

 ブラッドは小馬鹿にするように鼻で笑う。

 

「ここじゃ俺が隊長だ。コアの処遇(しょぐう)は俺が公平に判断しよう。新種のアラガミを引き連れてきた失態を犯し? 部隊を混乱に(おとしい)れた第一部隊には懲戒処分として、今回の任務における一切の報酬はナシとする。当然このコアは俺たちのものだ」

 

 アレックスは怒りの表情を浮かべ、よろよろと立ち上がる。頭の血は止まっていたが、それでもまだダメージが残っているようだった。

 

「……新種に恐れをなして逃げ出した臆病モンが偉そうに何ほざいてんだ? 味方置いて敵前逃亡した腰抜けがよ……」

 

「態勢を整えるための一時転進(てんしん)だ。お前らは逃げ遅れたノロマに過ぎない。新種を倒して得意になっている(ところ)悪いが、ようは自分たちの失態を自分たちで穴埋めしただけだ。お前らだけで倒すのは当然だろ? 馬鹿じゃないのか?」

 

「テメーはその顔面のケツ穴から屁理屈(へりくつ)しか出さねえのか? マシなワビの言葉考えとけ。ここでくたばる前によ……」

 

 地面を荒々しく踏みしめ、激しい怒りを両拳にこめて向かうアレックス。

 

 ブラッドは――ありえないことに、神機のガトリング砲の照準を彼に向けた!

 

 ――何をやってるんだ! 神機(じんき)を下ろせ!!

 

指図(さしず)するな。ただの自己防衛だ……それに忘れたか? 監視の三つ目トンボによる記録はされていない。ここで俺が撃ち殺したとしても“アラガミによる不運な犠牲(ぎせい)”にできるんだぜ……? それ以上近寄れば、わかるよな?」

 

 アレックスは構わず、煮えたぎるような怒りの視線をブラッドに向けたまま、進む。

 

「おい!! 近寄るな! 脅しだと思ってるのか? お前もミートボールマンも俺にとっちゃ同じだ!! 引き金ひとつですぐにひき肉にしてやれるんだ!!」

 

 ブラッドのこめかみから冷や汗が()れる。アレックスは、構わず、進む。

 

「お、おい、ブラッド、これヤバくねえか……?」

 

「うるせえロブ! クソ、()めるなっ!!」

 

 アレックスは構わず進む。追い詰められたブラッドは――

 

「クソっ!!」

 

 発砲した。

 

 ――クッ!

 

 僕は奴が引き金を(しぼ)る動きを察知し、一瞬早くアレックスの前で盾を展開!

 

 銃声。そして複数のオラクル弾が盾に命中する轟音が排水路中にこだまする。

 

「ふ、フン。ただの威嚇(いかく)射撃だ。ビビってんじゃねーよ」

 

 威嚇? どこが……? 

 

 僕が盾を展開していなければ、弾丸は間違いなくアレックスを(つらぬ)いていたぞ……?

 

「いいか? 俺は警告した。無視して近づいてきたお前が悪い。勝手にキレて突っかかってきやがって、お前らは撃たれて当然の――」

 

 ――ふざけるなぁっ!!

 

 腹の底から()き上がった怒りの感情を、ヤツに叩きつけるように叫んだ。

 

 横暴。卑劣。下劣。あまつさえ味方に引き金を引いておいてなお、こちらの非をあげつらう邪悪。僕自身の精神も限界に達していたのだろう。

 

 ブラッドとロブはびくりと体を縮こませ、驚愕(きょうがく)(おび)えが混じった顔でこちらを見るが、すぐに気を取り直して余裕の態度をとりつくろった。

 

「フン、な、なに急にキレてんだこいつ? 気持ち悪い……行こうぜ、ロブ」

 

「お、おう」

 

 そのまま二人は逃げるようにその場を後にした。

 

「……悪い、リーダー……頭に血ィ昇っちまってた」

 

 背後で、アレックスが大きくため息を吐く。

 

「クソ、あのクソ共。新種を前に逃げ出したヘタレのクセに……いや、それ言ったら俺もリーダーやイリア置いて……ああクソ。人の事言えねえのか? ……って何笑ってんだよ」

 

 ――いや、本当にマジメだな、と

 

「馬鹿にしてんのかよ……ありがとな、リーダー。そうだ、イリアは大丈夫か?」

 

 振り返ると、彼女は以前出撃した時と同じように、両肩を震わせて地面にへたりこんでいた。

 

「……違う。わたしは……じゃない……わたしは……」

 

 顔を(うつむ)けて何事かを(つぶや)くイリア。僕は彼女の細い肩に手を置き、言った。

 

 ――行こう。もう任務は終わった。

 

「…………」

 

 沈黙のみを返すイリア。

 

「動けねえなら担架(たんか)でも持ってきてもらうか? 緊急ヘリも一緒によ」

 

 アレックスが場を(なご)ませるように冗談まじりでそう言った。

 

「…………」

 

 イリアは一言も発さず……ゆっくり立ち上がり、己の神機を手にとぼとぼと出口へ歩いていく。

 

 ――イリア。

 

 彼女の足が止まる。

 

 ――何か悩みや問題があるなら、僕たちに言って欲しい。

 

「…………」

 

――僕たちは仲間だ。悩みや問題はみんなで解決しよう。

 

「…………」

 

 彼女は一言も発さず、再び重い足取りで出口へと向かって行った。

 

「ありゃあ、重症だな」

 

 ため息()じりにそう言うアレックス。彼女を追うように、僕たちも帰路(きろ)へと()いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 第二支部に戻り、神機を格納庫(かくのうこ)に預けていると――ポケットの携帯端末が鳴った。

 

 エル支部長からの連絡だった。例の任務について話がある、とのことだ。

 

 胸に一抹(いちまつ)の不安がよぎる。まさかヤツらの仕業(しわざ)だろうか? あることないことをでっち上げ、僕らへ何らかの処分を下させようとしたのか……?

 

「第一部隊全員招集(しょうしゅう)か……どうする、カイ?」

 

 ――僕たちはやましいことは何もしていない。何を聞かれても、堂々(どうどう)と答えよう。

 

 僕の返答に、アレックスは満足げにうなずく。

 

「だな。イリアは……また部屋か。しょうがねえ、俺たちだけで行くか」

 

 結局彼女は何一つ話してはくれなかった。僕たちに話せない理由があるのか……あるいは、僕たちを信用していないのか。

 

 ……ともかく、今は目の前のことを一つ一つ片づけることが先だ。僕たちは支部長が待つ執務室(しつむしつ)へと向かった。

 

 扉を開けると、心配げにこちらを見るレインさんと、子供には似つかわしくない深い眉間(みけん)のしわを(たた)えるエル支部長が待ち(かま)えていた。

 

「ご苦労。さっそくだが、これを君たちに返そう」

 

 そう言い、支部長は机の上の何かを指で動かす。

 

 それは――真空パックされたオレンジ色の物体――アラガミのコアだ。

 

 ひょっとして、あの新種のコアなのか……?

 

「君たちが遭遇(そうぐう)したとされるアラガミ、以後“ティンダロス”と(しょう)するが――第四部隊のブラッドが、レアなアラガミのコアだとして行商人(ぎょうしょうにん)に売りつけていてな。すぐに買い戻させてもらった。ああ、もちろん金は僕のポケットマネーだ。支部の金ではないから安心してほしい」

 

「野郎、こっちが苦労して倒したアラガミのコアを、安い小遣(こづか)い稼ぎに使いやがって……!」

 

 アレックスが歯を食いしばりながら忌々(いまいま)しく(つぶや)く。

 

「第四部隊からの報告は目を通した。だが携帯端末が切られていたせいで、彼らの報告が正しいものか裏付けが取れない……一体何があったのか、君たちの口から聞かせて欲しい」

 

 エル支部長に(うなが)され、僕は極力冷静に、客観的な視点であの二人からの仕打ちを報告した。

 

 聞き終えると、エル支部長は目を閉じ、深い落胆(らくたん)の息を吐いた。

 

「第四部隊の評判は耳にしていたが……ここまでとはな。ゴッドイーターという立場が、彼らの自我を(みにく)肥大化(ひだいか)させてしまったのか……」

 

 ゴッドイーターとなれば最前線でアラガミとの戦闘は避けられないが、その代わりさまざまな恩恵も与えられる。

 

 衣食住の担保はもちろん、その親族にも手厚い福利厚生(ふくりこうせい)が与えられ、第二支部の第一層エリアで使用人付きの立派な家で優雅な暮らしができるほどだ。

 

 支部の人々からはアラガミから守ってくれる英雄のように持ち上げられることもある。しかしそんな境遇について、時として優越感を持つGE(ゴッドイーター)も現れるそうだ。

 

“小型アラガミすら倒せない弱者が、自分を優遇し()(たた)えるのは当然のこと”、といったように徐々に自己評価が肥大化していくわけか……

 

「そもそも、彼らは偵察(ていさつ)部隊ですから。第一線でアラガミと戦闘する部隊よりも安全圏で立ち回っているともいえます。任務への慣れと気の(ゆる)みも、己が特別なのだという傲慢(ごうまん)さにつながっているのかもしれません」

 

 レインさんが大きくため息を吐いた。

 

「若く容姿(ようし)の良い女性と見ればGEや職員、市民にまで節操(せっそう)なく声を掛けてきますし、素行(そこう)について注意をすればあれこれと屁理屈を()べて相手の口を封じようとしてきます……“論破”、なんて言ってましたね。各所から苦情が多くて……」

 

「下劣なソフィスト(詭弁家)か。始末に()えんな」

 

 エル支部長が右手で頭を抱える。

 

「ええ。それでも少数ですが彼、ブラッドを(した)う者もいるんですよ。ロブもその一人ですね。屁理屈で相手を“論破”している姿がクールだと思えるのでしょうか……?」

 

「なんだそりゃ。バカのカリスマだな、まさに」

 

 アレックスが舌打ちをしながらそう断じた。

 

「……彼ら第四部隊についてはよく理解した。今後君たちと共同で任務に当たらないよう調整させてもらう。君たちが本来の目的に集中できるようにな」

 

 僕は感謝の言葉を支部長に伝えたが、彼は一切の笑みすらこぼさず、(うれ)いを(たた)えた表情で再びティンダロスのコアを僕たちに差し出した。

 

「もう少し楽しい話をしよう。さっそくこのコアで神機を強化するといい。以前の小型アラガミよりも大幅に性能を向上できるだろう。それに合わせて君たちの身体能力もより高まるはずだ。

 ……ただし、コアは一つにつき神機一つまでしか強化はできない。誰の神機を強化するか、慎重に判断してくれ」

 

「俺は今回活躍できなかったから辞退(じたい)するぜ。カイ、お前かイリアが使うべきだ」

 

 アレックスはやや自虐(じぎゃく)的に笑いながらそう言った。

 

 ――わかった。じゃあ、イリアの神機に使用してもらおう。

 

「いいのかよ? っていうか、これ以上アイツを強くして大丈夫か……?」

 

 また単独で暴走されることを心配しているのだろう。確かに、また斬られかけたりするのは大問題だが……

 

 ――コアは一番戦闘に貢献(こうけん)した人が使用するっていうルールだからね。ティンダロスを倒したのはイリアだ。それに、スピードを強みとするアラガミだったから、彼女とは相性がいいと思う。

 

「貢献したってんならお前のほうだと思うけど……まあいいさ。アイツの精神が落ち着いてくれたなら、俺たち第一部隊にとっちゃ大きなレベルアップだからな」

 

 そうだ。部隊全体の戦力向上という意味でも、イリアの神機を強くすることは重要だ。

 

 そして問題はアレックスが指摘した通り、彼女自身の精神状態だ。戦闘を恐れるが、一方で人が変わったようにアラガミを憎悪し殺戮(さつりく)の限りを()くす極端な二面性。その危ういバランスをどう保たせればいいのだろうか?

 

 もしかすると、彼女の過去に何か原因があるのかもしれない……フリードさんが言っていた……過去、人を二人殺している、と……

 

 それが真実だとすると、その出来事が原因で彼女の精神は不安定なのか? そして、そんな彼女にオオグルマが付け入り、さらに彼女の精神をかき乱している……?

 

 ……なんのためにだ? わからない。推論(すいろん)を重ねようとも、前提(ぜんてい)の知識が不足している。

 

 ……僕は、彼女のことを何もわかっていないのだ……

 

 

 

 そして、事件はその日の深夜に起きた。

 

 発端(ほったん)は、自室に閉じこもるイリアが1通のメールを受け取ったこと。

 

 あのオオグルマ・ダイゴからのメッセージだった。

 

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