レッスン?
イリアの
気に入らない。ここまでの戦闘をまるで単なる予行演習のように扱うこの男の態度に。
溶鉱炉のごとく燃え
スミスの銃撃を警戒し展開した円盾から――濃密な煙が発せられていた。
この体にまとわりつき、ネバつくような煙。見覚えがある。排水路で出会ったあの新種のアラガミの能力――
「
ぽつりとスミスが
「アラガミの中には特殊な能力を有する個体もいる。炎や電撃、極低温での冷却攻撃を用いた攻撃をする個体だ。そういったアラガミを用いて神機を強化すると、そのアラガミが有していた能力を神機が引き継ぐ場合がある。それを遺伝形質と呼ぶ。
……それは例の新種のアラガミのものか? 確か奴は音速での体当たりを行うと聞いた。もしも同じ技を放つつもりならやめておけ。こんな狭い場所でソニックブームを発生させれば、君自身も大きなダメージを負う」
「関係ない。お前を倒せるなら……!」
「そうか」
スミスの言葉は軽い。しかしその構えからは一切の油断は感じられない。
ネバついた煙がイリアの全身を
ただ、真っすぐに直進する。
それだけで――執務室のデスクや家具類は
スミスは一瞬早く彼女の挙動に気づき、巻き込まれぬよう素早く回避。
――かかった。
イリアは膨れ上がる怒りの
音速での突進は行っていない。彼女は
あたかも音速で突っ込んだように周囲の物を弾き飛ばしながら。しかしスミスはソニックブームを避けるべく大きく背後へ避けた。これが勝機につながる。
スミスは態勢を大きく崩し、さらに弾き飛ばされた家具類に視界を封じられている。
この隙を逃がすわけにはいかない!
疾走するイリアの眼前に迫る壁。しかし彼女は減速しない! 神機の
姿勢を低く。吹き飛ぶ家具の影に隠れ、スミスに接近する。
スミスは眼鏡の奥のその鋭い瞳で、急接近する者を
しかし彼女はすでに彼の2メートル圏内にまで入り込んでいた!
彼女はあと一歩でスミスを
こと近接戦闘において銃は剣に遅れる。銃は照準を合わせて引き金を引いて初めて相手を倒せる。つまり行動を完了させるまで2つの工程を経なければならない。
剣には照準を合わせる工程は不要。刃を振り上げるか、振り下ろすか、突き上げるか――いずれにしろ工程はたったの1つ。時間にしてわずかな差であるが、それがこの極限状態であれば大きなアドバンテージとなるのだ。
回避により態勢を崩したスミスはまともに彼女へ銃の照準を合わせられない。左手の銃口は右上の天井を
この状態で彼女へ銃弾を叩き込むなど不可能。
そして――イリアは一歩進み、ついにスミスを刃圏内に収めた!
勝った! その首を
BLAM!!
一つの銃声と共に完全に防がれた。
……え?
イリアは
一体なにが起きたのか? なぜ、スミスの首を狩ろうとした彼女の神機は、
イリアは見る。床下に向けられていたスミスの銃口から、薄い煙が立ち上っているのを。
床に深く残される弾痕。跳ね上げられるように軌道を
まさか。
それらの事実が一つの答えへと導いた。
――
なんてことだ。銃で敵を倒すには2つの工程が必要! しかしこの男は、あの極限状態で照準を合わせるという工程を省略してみせた!
ありえない――この男は、あまりにも対人――対ゴッドイーター戦に長けている――!!
攻撃のタイミングを
「が、ふっっ!!」
部屋全体を揺るがすほどの衝撃。ダメージにより壁にめり込んだまま動けないイリア。
激痛に顔をしかめる彼女の目が、
「この敗北から大いに学べ、イリア・エバンズ」
一発の銃声が、この戦いの幕を引いた。