ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【補修】2

終末捕食(しゅうまつほしょく)? ああ、あれかね。アラガミは最終的にこの星すら食らい、世界終了グッバイ地球とかいうアレかね?』

 

 深刻そうに問うアレックスとは対照的に、ドクターはこめかみを指でかきつつ軽い調子で答えた。

 

『いつの時代も終末論を好む(やから)は多いねえ。ご期待には沿()えないかもだが、吾輩(わがはい)に言わせればナンセンスな理論だ。起こるわけがない』

 

 まるで週刊誌のくだらないゴシップ記事でも見かけたような、心底つまらなそうな表情でドクターはそう言い切った。

 

「いやでも、アラガミは年々巨大化してるって話だしよ、際限(さいげん)なく巨大化したら……」

 

『フー……アレックス君だっけ? 巨大な生物が闊歩(かっぽ)していた時代は今だけではない。例えば約1億万年前の白亜紀(はくあき)だと全長15メートル以上の巨大な恐竜なんかが出現していたわけだが、あれだけ巨大化できた理由はなんだと思うね? 答えは酸素濃度だ。

 巨体を動かすには大きな筋力が必要で、筋肉を動かすには莫大(ばくだい)なエネルギーが必要だ。実際あの時代は酸素濃度の高かったので筋肉を動かすエネルギーがペイできたと。

 しかし白亜紀と比べ現代は酸素濃度が低い。巨大化すればするほどかかる重力も増し、消費されるエネルギーも増える。つまり、わかるね? アラガミにとって巨大化するメリットはないのだ』

 

 アラガミは生存のためさまざまなエネルギーを得ようとするが、そのために巨大化して余計なエネルギーをロスしてしまえば本末転倒だ。

 

 理屈はわかるが……それでも実際、見上げるほど巨大なアラガミも存在していると聞く。ドクターの言っていることは矛盾しているような……

 

『アラガミというのは不思議な性質を持っていてねえ。エネルギーを得るために溶岩に突っ込んで行ったりもする。当然我々と同じく炭素と水でできた細胞が800度以上の熱に耐えられるわけがないのだが、溶け残った肉体がエネルギーを吸収・充填(じゅうてん)することですぐに再生してみせたりするわけだ。

 つまり、彼らが巨大化するのは高いエネルギーにさらされても生き残れるようにする、いわば生存戦略といえる。大量のエネルギーを食ったから大きくなるのではない、体積が削れるのを見越しての巨大化というわけだ……興味深いだろう? これは半分自殺しているようなものだ! 我々のような生態系とは全く異なる極端にダイナミックな生態だ!!』

 

 溶岩や高圧電流などに耐えるために巨大化していった……?

 

 いや待った。そんな無茶なエネルギーの吸収をしなくても、そもそも大型化しなければいいんじゃ……?

 

 僕がそう(たず)ねると、ドクターは『そう、その通り!』と口角(こうかく)を上げて笑った。

 

『彼らなりにエネルギーを得るため模索(もさく)した結果だよ。莫大なエネルギーを得るために大型化してはみたが、あれは進化の袋小路だろうね。おそらく現状存在する大型アラガミ程度の大きさが限界だろうねえ。あれ以上大きくなれば消費するエネルギーが勝ってしまう。

 つまり、地球を食ってしまうほど巨大化することはない。というか、偏食(へんしょく)するような生き物が地球全体を食えるわけがないのだ。好き嫌いが激しいのはイカんねえ! わはは!!』

 

 そういえばアラガミは偏食するんだった。なら、終末はまだ来そうにないってことでよかったのかな?

 

「でもよ……なんか、極東で終末捕食を起こすようなアラガミが見つかったとか……」

 

寡聞(かぶん)にして存じないねえ! そんな(うわさ)話レベルのものを聞かれても困るっ!』

 

「……」

 

 まだ納得していないような顔でアレックスは口を閉ざす。

 

 ()わりに、イリアが挙手(きょしゅ)をしてドクターに問うた。

 

「アラガミは地球の自浄(じじょう)作用のために現れた……って聞きました。人類が環境を変化させすぎたから、地球が元の環境に戻すために生み出した、って……」

 

 すると、ドクターは先ほどとは打って変わって、急に両手で頭を抱えて(うな)りだした。

 

『ハア……その話かね? 環境を破壊した人類への(ばつ)とかそういうやつかね?

 ならば言わせてもらうが、地球環境の破壊はすでに人類以外が何度も起こしているのだ。約24億年前、シアノバクテリアによる“大酸化(だいさんか)イベント”で大量の生物が死滅した。また約2億5,000万年前も、海中のメタン生成菌による“メタンバースト”で地球上の実に9割近い生物が死滅した。

 シアノバクテリアもメタン生成菌も今でも元気に活動中だが、地球は彼らを罰しないのか? なぜ人間だけを目の敵にする? 全く理解不能だ!!』

 

 へえ、そんな昔にそんなことが起きてたのか……大仰(おおぎょう)に手を振りながら反論するドクターの怒りはよくわからないけど……

 

『いわば地球というのは川辺に落ちてる(こけ)むした石ころと同じだ! コケの生えた石ころは生きているのか? 表面に生えたコケの生態を守るために何かするのか? 全くもってナンセンス!! 

 地球環境がどうだの人類の罪がどうだの言う(やから)はだね、結局自分たち人類が特別な存在だと思い込んでいるに過ぎんのだ!! 他のアニマル同様(どうよう)に地球に住む一生命体に過ぎんのに、神だの地球だのが自分たちを特別視していると勝手に喜んだり悲観したりと! 実にくだらん!! 付き合いきれんよ実際っ!!』

 

 コケの生えた石ころと同じって……

 

「……まあ、仮に地球が生きてたとして、人類以前も環境はコロコロ変えられてるってんなら俺たちを消す理由なんてないか……地球にとっちゃ、俺らなんか微生物レベルの存在なんだろうし、そんなのわざわざ相手しねえよな……」

 

 アレックスが腕を組みながらそう口にすると、イリアがポツリと呟く。

 

「でも、わたしは体がニオってきたらお風呂に入るし……地球からしても、わたし達微生物が増えるのはあんまり気分よくないのかも……」

 

 えーと、イリア?

 

『ほう? つまりなにかね? 地球はデオドラント対策のために我々人類を全力で滅ぼしにかかっているとそういう理屈かね!? 実に斬新(ざんしん)な理論だっ!! 今ので吾輩の脳細胞も急速に活発化したようだ!! 実に愉快(ゆかい)!! わははははっ!!』

 

 長い黒髪を()らしながら爆笑するドクター。あの、何が面白いんですか……?

 

 終末捕食というシリアスな話題は、一変(いっぺん)して馬鹿馬鹿しい珍妙な空気に変わってしまった。

 

 そんな状況で、アレックスはやや()を寄せて複雑な表情を浮かべつつ、ドクターに問う。

 

「……とりあえず、終末捕食なんて起きないって理屈はわかったよ。でもよ、もしも本当に起きたらどうすんだ? アラガミってのはなんでもアリな連中だ。もしもってこともあるかもしれないだろ?」

 

『万が一、微粒子(びりゅうし)レベルの確率で起きたとしたらどうするか? 結論我々ではどうすることもできんよ。ただまあ、もしもそのような大規模な絶滅イベントが起きるなら、相応(そうおう)予兆(よちょう)というものは観測されるだろう。フェンリル本部がそれを(つか)み、初動(しょどう)で対処できれば、といったところかねえ。

 フーム、しかしもしも起きてしまったら、か。何事(なにごと)も例外はつきもの。重力の(くさり)を脱し、際限なく巨大化を続け、偏食(へんしょく)の問題すらクリアするとなると、一体どのような理由でどのような機序(きじょ)でそうなったのか? いや実に興味深いね! 研究のしがいが十分にあるっ!!』

 

「いや、あんた終末捕食は絶対起きないって言ったじゃねえか! つか、自分の予想外れたとしてもそんなテンション上げられんのかよ!?」

 

『当然じゃないか! 予想通りの結果なぞつまらん! 予想と実験の結果が同じというのはだね、結局それはただの“作業”でしかない! そこに“思考”が生まれんのだ!! 予想と真逆の結果が得られたり、実験で予期(よき)せぬ副産物が得られたりと、予想外のアクシデントが起きてこその研究だ!! 

 予想が外れる? 大いに結構(けっこう)!! その時は吾輩の脳細胞全体から虹色のスパークが発せられるだろう!! ファンタスティック! これでさらに研究ができるぞっ!!』

 

 歓喜(かんき)に打ち震えるドクターの様子に、僕達全員がドン引きした。

 

 この人……終末捕食が起きて地球が終わる瞬間までウキウキで研究してそうだな……

 

「ええと、なんの話だったか……神機の話だったか? なんかとんでもねえ方向に話が進んじまったが、ありがとよドクター」

 

 フリードさんが顔をひきつらせながら通信を切ろうとしたとき、(さき)んじてドクターが僕へと話しかけた。

 

『ああ待ちたまえ! カイ君、君は今日休みだったね? では今日あたりどうかな!? 待ちに待ったお待ちかねのポチ君の実験に付き合ってくれるね!?』

 

 ああ、そうだった。僕の神機――ポチへの実験を約束していたんだった。

 

 正直この人と一対一で話したりするのは避けたい所だが、神機を強化するチャンスでもある。話に乗るべきなんだろうなあ、ハア……

 

 僕が了承(りょうしょう)すると、『では14時きっかりに神機保管庫で落ち合おうじゃないか! 今から実に楽しみだねえ! わははははっ!!』と、異常なテンションで通信を切ってしまった。

 

 うわあ、なんか今から不安なんですけど……

 

「ああ、もう時間か。やれやれ、結局講義の内容をすべてやり切ることはできなかったな」

 

 口惜(くちお)しそうに肩を落とすフリードさんをよそに、講義終了と聞いてアレックスが待ち構えていたように素早く席を立つ。

 

「ハイハイ終了―っ! んじゃカイ、実験とやらの前にちょっと訓練付き合ってくれ」

 

「ああ待て、まだ行くな! まだお前らに伝えることがある!」

 

 うんざりしたような顔を浮かべるアレックスを気にせず、フリードさんは一つ(せき)ばらいをして、改めて口を開く。

 

「実はな。第一部隊に一人、新しい隊員が加わる。しかも聞いて驚け? あの極東からやってくるって話だ」

 

 極東。その単語にアレックスとイリアは驚きに目を見開いた。

 

 全世界の支部の中でも極東は激戦区だ。新種を含め多種多様なアラガミが出没し、それらに対応するゴッドイーター達も“超一級”の猛者(もさ)ぞろいと聞いたことがある。

 

 そんな人が僕たちの隊に加わってくれるのか……でも、そんな激戦区からどうしてわざわざこっちに? 向こうも人手が足りないはずでは……?

 

 そんな僕の疑問をよそに、アレックスは極東という言葉に色めき立っていた。

 

「マジかよ! 信じられねえ! 一気に戦力アップするんじゃねえの!? なあ、どうするよ? 極東から助っ人だってよ!!」

 

「……うん、どんな人だろ……仲良くできるかな……」

 

 やや不安そうなイリアをよそに、アレックスが今度は僕の肩を叩く。

 

「なあ知ってるか? 極東の中でも第一部隊の戦績(せんせき)が飛びぬけてスゲーらしいんだ。なんか新しく隊長になった奴がとんでもねえ奴らしくてさ、新種も大型アラガミも一人でバッタバッタなぎ倒してるんだと。アラガミ以上のバケモンじみた強さらしいぜ!!」

 

 そうなんだ……ていうか、同じ第一部隊なのか。そんなすごい人と比較されたらやだなあ……

 

「明日にはこっちに着くそうだ。向こうからすりゃあ単身(たんしん)で異国に来るようなもんだからな。心細いだろうから、フレンドリーに接してやれよ?」

 

「わかってるって! さっそく明日か……ホント、どんなヤツなんだろうなあ……」

 

 期待に胸を(おど)らせるアレックス。その横で、イリアが何やら決意したように両手を固く(にぎ)りしめる。

 

「ひとりぼっち……じゃあ、わたしがなんとかしないと……!」

 

 いや、そんな何が何でも仲良くなってやる、みたいな勢いで行ったら逆に引かれると思うけど。

 

 ……しかし、極東からの助っ人かあ。実力のあるベテランをなんの理由もなく派遣するとは思えないし。

 

 案外、僕たちと同じ新人だったりするんじゃないかな?

 

 ……うん、大ベテランが来られたら結構対応に困ってたし、同い年くらいの新人さんなら仲良くなれそうだ。

 

 極東からの新メンバーがどんな人なのか、僕達3人はワイワイ予想し合いながら会議室を後にした。

 

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