『
深刻そうに問うアレックスとは対照的に、ドクターはこめかみを指でかきつつ軽い調子で答えた。
『いつの時代も終末論を好む
まるで週刊誌のくだらないゴシップ記事でも見かけたような、心底つまらなそうな表情でドクターはそう言い切った。
「いやでも、アラガミは年々巨大化してるって話だしよ、
『フー……アレックス君だっけ? 巨大な生物が
巨体を動かすには大きな筋力が必要で、筋肉を動かすには
しかし白亜紀と比べ現代は酸素濃度が低い。巨大化すればするほどかかる重力も増し、消費されるエネルギーも増える。つまり、わかるね? アラガミにとって巨大化するメリットはないのだ』
アラガミは生存のためさまざまなエネルギーを得ようとするが、そのために巨大化して余計なエネルギーをロスしてしまえば本末転倒だ。
理屈はわかるが……それでも実際、見上げるほど巨大なアラガミも存在していると聞く。ドクターの言っていることは矛盾しているような……
『アラガミというのは不思議な性質を持っていてねえ。エネルギーを得るために溶岩に突っ込んで行ったりもする。当然我々と同じく炭素と水でできた細胞が800度以上の熱に耐えられるわけがないのだが、溶け残った肉体がエネルギーを吸収・
つまり、彼らが巨大化するのは高いエネルギーにさらされても生き残れるようにする、いわば生存戦略といえる。大量のエネルギーを食ったから大きくなるのではない、体積が削れるのを見越しての巨大化というわけだ……興味深いだろう? これは半分自殺しているようなものだ! 我々のような生態系とは全く異なる極端にダイナミックな生態だ!!』
溶岩や高圧電流などに耐えるために巨大化していった……?
いや待った。そんな無茶なエネルギーの吸収をしなくても、そもそも大型化しなければいいんじゃ……?
僕がそう
『彼らなりにエネルギーを得るため
つまり、地球を食ってしまうほど巨大化することはない。というか、
そういえばアラガミは偏食するんだった。なら、終末はまだ来そうにないってことでよかったのかな?
「でもよ……なんか、極東で終末捕食を起こすようなアラガミが見つかったとか……」
『
「……」
まだ納得していないような顔でアレックスは口を閉ざす。
「アラガミは地球の
すると、ドクターは先ほどとは打って変わって、急に両手で頭を抱えて
『ハア……その話かね? 環境を破壊した人類への
ならば言わせてもらうが、地球環境の破壊はすでに人類以外が何度も起こしているのだ。約24億年前、シアノバクテリアによる“
シアノバクテリアもメタン生成菌も今でも元気に活動中だが、地球は彼らを罰しないのか? なぜ人間だけを目の敵にする? 全く理解不能だ!!』
へえ、そんな昔にそんなことが起きてたのか……
『いわば地球というのは川辺に落ちてる
地球環境がどうだの人類の罪がどうだの言う
コケの生えた石ころと同じって……
「……まあ、仮に地球が生きてたとして、人類以前も環境はコロコロ変えられてるってんなら俺たちを消す理由なんてないか……地球にとっちゃ、俺らなんか微生物レベルの存在なんだろうし、そんなのわざわざ相手しねえよな……」
アレックスが腕を組みながらそう口にすると、イリアがポツリと呟く。
「でも、わたしは体がニオってきたらお風呂に入るし……地球からしても、わたし達微生物が増えるのはあんまり気分よくないのかも……」
えーと、イリア?
『ほう? つまりなにかね? 地球はデオドラント対策のために我々人類を全力で滅ぼしにかかっているとそういう理屈かね!? 実に
長い黒髪を
終末捕食というシリアスな話題は、
そんな状況で、アレックスはやや
「……とりあえず、終末捕食なんて起きないって理屈はわかったよ。でもよ、もしも本当に起きたらどうすんだ? アラガミってのはなんでもアリな連中だ。もしもってこともあるかもしれないだろ?」
『万が一、
フーム、しかしもしも起きてしまったら、か。
「いや、あんた終末捕食は絶対起きないって言ったじゃねえか! つか、自分の予想外れたとしてもそんなテンション上げられんのかよ!?」
『当然じゃないか! 予想通りの結果なぞつまらん! 予想と実験の結果が同じというのはだね、結局それはただの“作業”でしかない! そこに“思考”が生まれんのだ!! 予想と真逆の結果が得られたり、実験で
予想が外れる? 大いに
この人……終末捕食が起きて地球が終わる瞬間までウキウキで研究してそうだな……
「ええと、なんの話だったか……神機の話だったか? なんかとんでもねえ方向に話が進んじまったが、ありがとよドクター」
フリードさんが顔をひきつらせながら通信を切ろうとしたとき、
『ああ待ちたまえ! カイ君、君は今日休みだったね? では今日あたりどうかな!? 待ちに待ったお待ちかねのポチ君の実験に付き合ってくれるね!?』
ああ、そうだった。僕の神機――ポチへの実験を約束していたんだった。
正直この人と一対一で話したりするのは避けたい所だが、神機を強化するチャンスでもある。話に乗るべきなんだろうなあ、ハア……
僕が
うわあ、なんか今から不安なんですけど……
「ああ、もう時間か。やれやれ、結局講義の内容をすべてやり切ることはできなかったな」
「ハイハイ終了―っ! んじゃカイ、実験とやらの前にちょっと訓練付き合ってくれ」
「ああ待て、まだ行くな! まだお前らに伝えることがある!」
うんざりしたような顔を浮かべるアレックスを気にせず、フリードさんは一つ
「実はな。第一部隊に一人、新しい隊員が加わる。しかも聞いて驚け? あの極東からやってくるって話だ」
極東。その単語にアレックスとイリアは驚きに目を見開いた。
全世界の支部の中でも極東は激戦区だ。新種を含め多種多様なアラガミが出没し、それらに対応するゴッドイーター達も“超一級”の
そんな人が僕たちの隊に加わってくれるのか……でも、そんな激戦区からどうしてわざわざこっちに? 向こうも人手が足りないはずでは……?
そんな僕の疑問をよそに、アレックスは極東という言葉に色めき立っていた。
「マジかよ! 信じられねえ! 一気に戦力アップするんじゃねえの!? なあ、どうするよ? 極東から助っ人だってよ!!」
「……うん、どんな人だろ……仲良くできるかな……」
やや不安そうなイリアをよそに、アレックスが今度は僕の肩を叩く。
「なあ知ってるか? 極東の中でも第一部隊の
そうなんだ……ていうか、同じ第一部隊なのか。そんなすごい人と比較されたらやだなあ……
「明日にはこっちに着くそうだ。向こうからすりゃあ
「わかってるって! さっそく明日か……ホント、どんなヤツなんだろうなあ……」
期待に胸を
「ひとりぼっち……じゃあ、わたしがなんとかしないと……!」
いや、そんな何が何でも仲良くなってやる、みたいな勢いで行ったら逆に引かれると思うけど。
……しかし、極東からの助っ人かあ。実力のあるベテランをなんの理由もなく派遣するとは思えないし。
案外、僕たちと同じ新人だったりするんじゃないかな?
……うん、大ベテランが来られたら結構対応に困ってたし、同い年くらいの新人さんなら仲良くなれそうだ。
極東からの新メンバーがどんな人なのか、僕達3人はワイワイ予想し合いながら会議室を後にした。