ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【実験で得た能力】

 昼食を終えた後、僕はドクターQ.Oとの約束のため、神機の保管庫へと向かった。

 

 ヒマを持て余していたアレックスも付いてきたのだが――神機の修繕・管理を担う整備主任のヘンリーさんに見つかり、現在彼はヘンリーさんにどやされながら、以前にもらった故障バイクの修繕(しゅうぜん)を行っていた。

 

 エンジンやタイヤなどを外されたバイクを、ガスバーナーで炙ったりハンマーでガンガン叩いたりしながら修繕を行っている。聞けば、『フレーム修正マシンなんて気の利いたもんはここにはねえんだよ!』とのことだった。

 

「あーめんどくせえ……いつまで叩けばいいんだよコレ……」

 

「オメーがろくすっぽ修理しねえからだろうが! ワシだってお前らの神機の世話で忙しいんだ! オメーのスクラップなんざ相手してやれるわけねえだろうが!?」

 

「スクラップだとぉ……!?」

 

「スクラップ以外の何に見えるんだオメーは!? 骨組みだけになったバイクに対して、お前スクラップ以外になんて評価つける? んん?」

 

「いずれは……立派なバイクに生まれ変わる……スクラップ……」

 

「おうそうだ馬鹿野郎! こいつは正真正銘(しょうしんしょうめい)のスクラップだ! なんにも手を加えなければただの鉄クズだバカヤロウ! で、どうする? 捨てるか!? 作業するか!? どっちだ!?」

 

「……やるっつってんだろクソジジイ!!」

 

 そう答え、アレックスはがむしゃらにバイクのフレームをガンガン叩き続ける。

 

 はた目には常にケンカ(ごし)で言い合っているようだが、実際二人はとても楽しげに作業をしているようだ。

 

「いずれはよう、カイ! このバイクが直ったらV8エンジン積んでよ! 今日みたいな休みの日には支部の周りを爆速で走り回ってやろうと思ってんだよ!!」

 

「ガハハハ! レストアついでにボスホス作ろうってか!? ありえんだろガハハハハッ!! せめてV6程度にしとけガハハハハ!!」

 

 ……いや、僕はバイクとかには全然詳しくないけど、V6エンジンって車に乗せるエンジンだよね? V8もV6もバイクに乗せるのはそもそもおかしいと思うのだけど……

 

 爆笑するヘンリーさんとつられて笑うアレックス。ついていけずに立ち尽くしていると――背後から、ドクターQ.Oの声が掛けられた。

 

「やあ待たせたねえカイ君!! それでは始めようか!? 早速始めようっ!!」

 

 バッキバキの目をしつつ強烈な笑顔でこちらへ近づくドクター……こっちはこっちでやっかいな感じだ。僕は一度ため息を吐き、そして気を取り直してドクターに向き直った

 

 ――それで、僕は何をすれば……?

 

 (たず)ねると、ドクターは右手で黒縁の丸メガネを押し上げながら、歓喜(かんき)(きわ)みと言わんばかりの邪悪なスマイルを浮かべて見せた。

 

「それはもちろんっ! まずはポチ君の自立化を行わなければ話にならんよ! さあ、呼びかけたまえっ!! かの神機の自由意志をっ!?」

 

 興奮しているのか、やたら芝居がかったような仕草でそう答えるドクター。まあ、当然といえば当然だ。

 

 僕はしぶしぶながら、僕の神機へ――ポチへと呼びかけた。

 

 すると。

 

 バウッ!!

 

 ハンガーに固定されていた僕の長剣型神機が一変。ハンガーからしなやかに逃れ、跳躍(ちょうやく)と共に回転しながら、僕とドクターの前へと着地してみせた。

 

 禍々(まがまが)しい牙をぞろりと生やし、頭の左右に黄色く輝く目を無数に(そろ)える異形の黒犬。神機の刃部分は頭から背中にかけてトサカのように生やす凶悪な見た目だ。

 

 しかしそれとは裏腹に、僕の左手を()め回しながら甲高(かんだか)い声で鳴くしぐさは、本当にただの犬のようでもあった。

 

「ウウム! やはり何度見ても素晴らしいっ! 挙動から見て、やはり神機になる以前のアラガミだった頃に逆戻りしているようでもあるっ!!」

 

 ――アラガミだった……? 神機が、ですか?

 

「おお! まだ習っていなかったのかね? 近接型の神機はかつて存在したオオカミ型のアラガミのコアを元に造られているのだよ。特殊な超音波のようなものでやりとりしながら集団で狩りをするアラガミでねえ、一部神機使いには“感応現象(かんのうげんしょう)”なるものが発現するそうだが、おそらくは例のオオカミ型アラガミ由来のものかもしれないねえ!」

 

 感応現象というのは、一部神機使い同士で記憶や思考を共有する、一種のテレパスのような現象らしい。

 

 それにしても、神機の元がオオカミ型のアラガミだったとは……ポチは犬のように振舞(ふるま)ってるけど、実際にはオオカミだった頃に戻っている、ということなのだろうか……?

 

 オオカミの特徴である耳はなく、体毛も生えておらず、表面が若干(じゃっかん)ヌルヌルとしている黒い繊維状の肌……初見でこれをオオカミだとわかる人はたぶんいないだろう。

 

「ちなみに銃型神機は鳥型のアラガミが元となっていてねえ、だから近接型の神機のようにアラガミの肉を食い千切(ちぎ)るような捕食(ほしょく)ができないのだが……」

 

 ドクターは解説を続けながら、ポチの後を追うように歩く。

 

 ポチは保管庫の周りを歩きながら、フンフンと鼻で周りの機器類のニオイを嗅いでいる。まさに散歩中の犬のように……いや、これ本当にオオカミなの?

 

 神機の調整を行う大きな銀色の固定台。ポチは興味深そうにクンクンし、その近くにあったコア因子調整機へ近づき――

 

 片足を上げてオシッコをかました。

 

「ぬがああっ!! 何してくれてんだこの犬コロ――ぐはあっ!?」

 

「どきたまえヒゲジジイ! 素晴らしいっ!! 神機がマーキングとは! すぐにサンプルを取らねばっ!!」

 

 ブチ切れるヘンリーさんを押しのけ、ドクターは懐から脱脂綿(だっしめん)と試験管を取り出しオシッコへまっしぐらだ。

 

 ……地獄かな?

 

「なんか、マジで犬みてえだよな。芸でも仕込んでみるかカイ? お手とかやってみろよ?」

 

 アレックスが笑いながらそう提案(ていあん)した。いや僕の神機だし、ペットじゃあるまいし。

 

「それは良い提案だ! 知能テストも兼ね、ぜひ試して欲しいっ!!」

 

 アレックスのジョークにドクターが全力で乗っかった。あれ、実験するって聞いてたけど、こんな事でいいの……?

 

 さっきのネコといい、なんだか今日は動物に触れ合ってばかりな気がするな。まあ、向こうと違ってこっちは全然可愛くないけど。

 

 ポチが神機の柄の部分を尻尾のように振りながら僕の近くへすり寄る。ドクターとアレックスの期待するような視線を受けながら、僕はポチの前足を持ち上げながら芸を教え込んでみた。

 

 右手を差し出した時、左前足を乗せる。何度も反復して教え込ませてみた。

 

 ポチは不思議そうな、やや興味深そうな顔で僕の顔と僕の手を交互に見る。本当に、普通の犬だったらめちゃくちゃ可愛いかったんだけどなあ……

 

「そろそろ良いのではないかな? ではさっそくテストをしてみよう、カイ君!」

 

 では、と満を()して僕はポチへと手のひらを広げて見せる。

 

 ――ポチ、お手っ!

 

 すると。 

 

 ズルリ。

 

 ポチは僕の手に左前足ではなく――体から5本目の足をにゅるりと出現させて僕の手に置いた!

 

「うおキモっ!!」

 

 アレックスがドン引きして叫ぶ。僕も全身の毛が逆立つようにゾワっとしたが、ドクターだけは何故か興奮していた。

 

「なんということだっ! 見たかね今のを!? 前足を置くのではなくわざわざ生成してお手をして見せたぞっ! わざわざ生成してみせた理由とは? つまり、ポチ君にとっては前足を上げるのと同じくらいの気軽さで身体の変形ができるということだ! 細胞の流動と再構成っ! 少ないエネルギーでこれを達成できるのは、やはり表皮のゲル物質の――」

 

 ドクターはそうして推論(すいろん)を展開し続けたが、専門的すぎて何を言っているのかさっぱりだった。

 

 と、その時、保管庫にもう一人のゴッドイーターが姿を見せる。

 

「ふう……」

 

 見覚えのある少年だった。深緑(しんりょく)の髪に、どこか遠くを見据えるような表情……確か、ポチを見てガトリング形式の神機を向けていた人だ。確か、リアムという名前だったような。

 

 リアムはガトリング型の神機をハンガーに固定した後、指でロックを外して神機の(つか)を時計回りに半回転。

 

 すると――神機の側面がバシュッと音を立てて開き、銃の弾倉(マガジン)のように無数に整列したオレンジ色の小さな球体が現れた。

 

 アラガミのコアだ。小型アラガミのものだろうか? 5~6個近くあるが、もしかしてたった一人で狩ってきたのだろうか?

 

 ちなみに神機の柄は左回転すると、薄皮(うすかわ)が刃を(おお)って偏食物質(へんしょくぶっしつ)を再充填することができる。これを“刃を()ぐ”とGE(ゴッドイーター)間で呼ぶのだが、新人の数名はたびたび(あやま)って右に回してしまい、弾倉を露出させて周囲を笑わせることがある。

 

 かくいう僕も一度うっかり……うん。思い出すと顔から火が出そうになるから二度と思い出さないようにしよう。

 

「やあ。元気そうだね。君の妙な神機も相変わらずか……」

 

 リアムは僕の方を見ず、慣れた手つきでアラガミのコアを次々と近くの機械に放り込み、真空パックをし続ける。

 コアは放置すればいずれ元のアラガミへと復活してしまうが、真空パックすることでオラクル細胞を寄せ付けなくなるため、安全に取り扱うことができるのだ。

 

 すると、ポチが興味深そうにリアムの元へと近づいていく。いや、リアムの持つアラガミのコアに興味を持っているようだ。

 

「……なんだ? これが欲しいのか……?」

 

 ポチはハッハッと荒い息遣(いきづか)いでリアムの持つコアを見つめる。

 

「ほほう?」

 

ドクターが丸メガネをかけ直すと、レンズに照明の光が反射しギラリと危険な輝きを放った。

 

「アラガミのコアに食欲を……アラガミは共食いはするが、コアだけは捕食できない。コアから大量の偏食物質が分泌されるからね。神機もまた同じだ。アラガミの肉を消化してもコアは消化しない……ゆえにコア内部の遺伝物質をコア因子調整機で抽出(ちゅうしゅつ)し、神機のコアの遺伝物質に組み込んで強化するわけだが……ポチ君はコアを捕食したがっている? ありえないことだ。だが、待てよ、まさか……」

 

 口元に笑みを浮かべながらブツブツと(つぶや)くドクター。やがて顔を上げ、ツカツカと歩みリアムの正面に立った。

 

「ものは相談なのだが……そのコア、(ゆず)ってくれまいか?」

 

 一瞬あっけにとられるリアムだったが、すぐに冷静さを取り戻し、こう切り返す。

 

「いいですよ。もちろんタダでとはいきませんが」

 

「ムッ! 足元を……!? まあいいだろう! 実験に浪費はつきものだ! いくらだね!?」

 

「コア一つ100FC(フェンリルコイン)でどうです?」

 

「ぬぐっ!?」

 

 ちなみに1FCは、極東のかつての金銭の単位である“円”にたとえると100円ほど。100FCは一万円という計算になる。

 

「ぐぐぐ……よ、よかろうっ! これも研究のためだ! 君が持っているコアすべて買い取ろうじゃないかっ!!」

 

「まいどあり……それじゃあ、ここに保管していたコアも全部差し上げますよ。だいたい20個ほどありますけど」

 

「ぬぬぬっ!! し、しかし! 数がなければ実証もままならん! 全部買おうっ!!」

 

「ありがとうございます……これで今日はあいつらに美味(うま)いもの食べさせられるな……」

 

 リアムは小さく呟き、保管していたコアをすべてドクターに手渡した。

 

 ドクターは深いため息を吐きながら端末を操作し、入金されたと思しきリアムは対照的に薄い笑みを口元にたたえた。

 

「フウ……待たせたね! では実験の再開といこう! カイ君! これをポチ君に食べさせてくれたまえっ!!」

 

 ドクターは買い取った大量のアラガミのコアを僕に手渡してきた。

 

 これも実験なのだろうか? 僕はパックからコアを取り出し、ポチへ向かって放り投げてみた。

 

 ワフッ!

 

 ポチは飛び上がり、空中でコアをキャッチ! そのままボリボリとコアをかみ砕いてみせた。

 

 すると――

 

 グルルル……

 

 一瞬。ポチの尻尾が長く伸び、まるでオウガテイルの尾のように白く扁平(へんぺい)な尾が姿を見せた。

 

 今のは……?

 

「やはりそうかっ! さあ何をぼんやりしているのかねカイ君!? 今の調子でポイポイ食べさせたまえよ!!」

 

 やけにテンションを上げているドクターに促され、僕は手渡されたコアをすべてポチへと食べさせた。

 

 その間、ポチはオウガテイルやザイゴート、コクーンメイデンといった小型アラガミ達の形質を一瞬だけその身に現わしてみせた。一体これは……?

 

「カイ君。遺伝形質(いでんけいしつ)の事は習ったかね? アラガミのコアで強化した神機は、そのアラガミの形質を受け()ぐことがある」

 

 遺伝形質。それは聞いたことがある。確か、神機を強化すると強化元のアラガミのコアの形質を受け継ぐというやつだ。

 

 炎を操るアラガミなら刀身から炎を(ほとばし)らせる神機となり、物を氷結させる技を使うアラガミなら、そのコアで神機を強化すると刀身に触れただけで、アラガミの血肉すら凍らせるようになるという。

 

「通常はコア因子調整機を用いねばならんが、どうやらポチ君は捕食することで遺伝形質を得ることができるようだ! しかも通常受け継がれることはない小型アラガミの形質までっ!! 素晴らしい! さっそく受け()いだ形質を試してくれたまえよ!!」

 

 小型アラガミの遺伝形質……つまり、小型アラガミの技を使えるようになったってことか……?

 

 僕ははやる気持ちを抑えつつ、ポチを神機形態に戻し、入手した新たな技を色々と試してみた。

 

 結果として、ポチ――僕の神機は、3つの技を習得することができた。

 

 ()の部分から柔軟性の高い白い尾を出す“テイル”。

 

 柄の一部から大きな排気筒を露出させて空中を飛翔する“スラスト”

 

 シールド展開状態から装甲の一部を変形させ、無数の(とげ)を射出する“スパイク”――それぞれ、オウガテイル・ザイゴート・コクーンメイデンから得られた遺伝形質である。

 

 特にスラストは制御が難しく、何度も操作を誤って保管庫の床へ落下し特大の尻もちをつくことになったが、20回目のトライ以降は安定して乗りこなすことができた。

 

「スゲーじゃねえかカイ! 空も自由に飛べるなんてよ! これで空中にいるアラガミも余裕でブッた切れるな!!」

 

 空を自由に……僕の感覚としては神機と一緒に射出されて、神機が広げる翼状のもので滑空(かっくう)しているだけって感じだから、あんまり自由は感じないんだけど……

 

「やはりだ! 捕食という手段を用いた形質の遺伝! いや、むしろこれは……アラガミは捕食を一種の種族間の交流、コミュニケーションの一つとして用いているという説を裏付けることになるのかっ!? ウウム、詳しく調べたいところだが――もはやタイムアップか! そろそろ培地(ばいち)の可愛い細胞たちにエサを与える時間だ!! 口惜(くちお)しい! 楽しい時間とはどうしてこうも早く過ぎ去ってしまうのかっ!!」

 

 ――あ、実験はもう終わりですか?

 

 僕の質問に、ドクターは悲しそうにため息を吐いた。

 

「残念ながらそうなるね……しかし! 予想以上にさまざまなデータを得ることはできた! 次もまた、カイ君の休暇に合わせて実験をしていこう! ウーム! 今からワクワクが止まらんっ!! また合う日までさらばだっ!!」

 

 ドクターはギラついた笑みを浮かべつつ、汚れた白衣を(ひるがえ)して走り去って行った……

 

「……強烈な人だったね」

 

 ぽつりと(つぶや)くリアムに、僕は深く頷いた。あの人のヤバさを理解してくれる人が一人でも多くいることが、少しだけ心強く感じるような気がした。

 

 ……単に自分以外に振り回されている被害者を探したかっただけなのかもしれないけど……

 

「……そうか。君たちは今日休みか。もしもヒマなら、僕の任務に付き合ってくれないか?」

 

 任務。その言葉に、アレックスが身を乗り出して尋ねる。

 

「アラガミか!? アラガミ倒しにいくのか!?」

 

 しかし、リアムは静かに首を横に振った。

 

「僕は第二部隊。防衛班だ。支部周辺の防衛任務と警邏(けいら)が主な仕事さ……君たちはここに配属されたばかりでまだこの街のことをよく知らないだろう? 街の警邏をかねて、一緒に見回らないか?」

 

 ……確かに、この街に訪れてからまだ5日程度。主要な通り以外はほとんど知らない状態だ。僕としてはこの提案はありがたいけど――

 

「なんだ。アラガミと戦わねえのか。じゃあいいよ、カイと二人で行ってくれ。俺はバイクの修理で忙しいからよ」

 

 そう言って背を向けるアレックスに、ヘンリーさんが笑いながら声を掛ける。

 

「おう! 街に行くのか!? ならメモしてやるから買い物してこい!!」

 

「ハア? 買いもんぐらい一人で行けっつの! 俺はバイクの修理しなきゃなんねーだろ?」

 

「馬鹿野郎が! その修理するために必要なモン買ってこいっつってんだよ!! ホレ、ネジとナットと潤滑油(じゅんかつゆ)、ちゃんと規格(きかく)も店主に伝えろよ!? んで道草食わずにさっさと帰って来い! お前が来るまで修理は進めねえからな!」

 

「ああそうかよ! わかったよクソジジイ!!」

 

 相変わらずの殺伐(さつばつ)としたコミュニケーションを済ませ、アレックスを加えた三人で僕たちは街へと向かうこととした。

 

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