端末を見ると、“配属が決定されました”との文字。呼ばれたのは僕らしい。
言われたとおり前に出ると、アレックスも僕の隣に立った。
「よし……カイ・サクラダ・アウベス。アレックス・ミラー。イリア・エバンズ。お前達3人は俺と同じ、第一部隊に配属される」
第一部隊。ってことは、レオナルドさんが僕の上司になるってことかな……?
「つか、同じチームだったのかよ……」
アレックスが気まずそうに小声でそう言い、僕も苦笑いを返した。
彼の隣を見ると、金髪のボブカットをした小柄な少女が佇んでいた。
イリアと呼ばれたのは彼女だろうか? 顔立ちの整った、同い年くらいのおとなしそうな子だ。けれど少し緊張している、というより何か
「早速だが出発だ。格納庫で神機を受け取り、40分までにヘリポート裏の駐車場まで来るように。以上」
えっ!? 神機を持って出発って……いきなり実戦っ!?
「マジかよ急すぎるぜ……普通訓練とかやるもんだろ……」
大きく肩を落とすアレックス。ゴッドイーターとなったからには、アラガミとの戦闘は避けられない。
こんな時代に食うに困らないほどの待遇を受けられる。その代償が、アラガミ討伐の最前線に立たされることなのだ。
ゴッドイーターの試験を受けたときから覚悟はしていたつもりだったが……いざ急に行けと言われると流石に戸惑ってしまう……
『指定された時間まで残り36分です。上官の命令に違反した場合処罰の対象となります。急ぎ準備をされることをおすすめします』
フギンが、まるでこちらを追い立てるようにそう忠告した。行くしかないか……気は進まないけど。
アレックスと共に大きくため息をつきながら、地図のホログラムが示す格納庫へと向かった。
下りの階段に差し掛かった時、不意に廊下から声を掛けられた。
「やっほー! キミ、もしかして極東出身?」
声に振り向くと、
赤い腕輪と
――あ、いや僕は極東には一度も行ったことはありません。父は極東出身だと言ってましたけど……
「お、やっぱり極東につながりがあるんだねー。あたしは
そう言って瀬名さんは握手を求め、僕もそれに応じた。
握手を交すと、瀬名さんはまたにっこりと笑う。
「ふふん、昨日の試験でゴッドイーターになりたてって感じ? じゃあ、お姉さんがお祝いにこのお守りをあげよう」
すると、瀬名さんは腰のベルトに付けていたものを僕に手渡してきた。
手の平サイズで金属のボール状のもの……まさかこれ、手榴弾!?
「スタングレネードだよー。危なくなったらアラガミに投げつけて。光と音でしばらく動けなくなるからさ」
――えっ、これ結構大事なものじゃないんですか? いいんですかもらっても?
「いーよいーよ。支給品だものそれ。カワイイ後輩にプレゼントしたげるー」
そう言いながら、瀬名さんは慣れた手つきで僕のベルトにスタングレネードを装着してみせた。
……こんな綺麗な女の人に体を触られるの、少しドキドキするな……
「オッケー! んじゃ、あたしはこれで。お互い長生きしようぜ!」
瀬名さんは親指を立てながらそう言い、にこやかにその場を後にした。
ゴッドイーターも軍に属しているわけだし、厳しい人が多いかもと思ってたけど、あんなにフレンドリーな人もいるんだなあ。
改めて階段を降りようとしたとき、数段下にいたアレックスが、ニヤニヤした顔をこっちに向けていた。
――な、なに?
「……惚れたか?」
――はあっ!? そ、そんなことないって!!
「そーかそーか、まあまあ、俺は応援しとくぜ?」
――だから違うっての!
そんなやりとりをしてると、イリアが僕らの横をすり抜け、無言で階段を降りていった。まるで、僕らのことが全く見えていないかのように。
「……あいつとは、仲良くできそうにないな」
同じチームだけど、僕もあの子と仲良くなる自信ないな……
◆◆◆
ヘリポートの近くに集合というから、ヘリに乗せられるのかと思いきや、僕達3人は古びた軍用のトラックの荷台に乗せられた。
トラックには神機を固定する台が6つほど作られていて、僕達はそれぞれの台に自分の神機を置き、その隣に腰掛けた。
「よし、出発してくれ」
レオナルドさんも荷台に乗り込み、運転手に向かって合図した。エンジンを点火したトラックは一度大きく身震いをすると、じゃりじゃりと音を立てゆっくりと路面を走り出す。
荷台には
銃器を抱えた警備員が駐在するものものしいゲートをいくつかくぐり、最後に鋼鉄製の巨大な門が開くと……そこは支部の外。視界の先に
どうしてこんな所に支部を作ったのか。聞いたところによると、こういう場所のほうがアラガミが寄りつきにくいので安全なのだとか。
加えて、支部の地下には大きな水源があるらしい。それは飲み水として使うだけでなく、発電するためにも使われ、その電力は食料を自動生産する機械にも使用されているそうだ。
確か、アーコロジーとかって言ってたような……あとでフギンにも聞いてみようかな。
ふと、揺れるトラックの荷台の
……いや、よく見るとこれは、機械だ。ロボットの昆虫なのか……?
『遠隔監視用インセクトロイドですね。三つ目トンボと呼ぶ人も多いようです。この機械が撮った映像は支部司令室のオペレーターに共有されるんですよ』
フギンがスラスラと解説してくれた。監視というと、僕達を見張ってるってことなのか?
『そういう目的もあります……ああ誤解なされないように。三つ目トンボは周辺のアラガミの探知や戦場での状況把握を目的に運用されます。軍規違反など、明確な問題を起こさない限りあなた達に不利益を与えることはありません』
フギンが言い終えると、向かいに座っていたアレックスがうんざりした声を上げる。
「まだAIなんかとおしゃべりしてんのかよ。切っちまえよ、端末の電源」
「いや駄目だ。その端末を介して、服の中のスピーカーからオペレーターの指示が出されるからな。今回オペレーターはいないが、習慣として必ず端末の電源は入れておくように。もちろん端末を忘れて出撃するのは厳禁だ」
レオナルドさんがアレックスをそうたしなめた。運転席側に背中を預け、何か本のようなものを読んでいる……こんなに揺れる車内で本なんて読んで酔わないのかな?
「……えっとよ、レオナルドっつったっけ? あんた?」
「すまんな。一応隊長なんだ。隊長と呼んでくれ」
本に目を落としつつ、特に気に留めていない様子でレオナルド隊長はそう言った。
「……レオナルド隊長。それで、俺達これからどんな奴と戦うんだ?」
戦い。その単語を聞き、僕の横に座っていたイリアがびくりと体を震わせた。
「ん……いや大丈夫だ。今回は実地での訓練だからな」
訓練。アラガミと戦わなくていいのか。
アレックスとイリアはホッとしたように胸をなで下ろす。僕も安堵の息を吐いた。
「この砂漠を越えた先に街がある。完全に機能は停止してるがな……まずは現場の空気を感じつつ、神機を使った基本訓練を受けてもらう」
レオナルド隊長の表情は冷たく、その様子からこちらへの配慮は一切無いように思えた。
訓練は訓練で厳しそうだな……
アレックスは過酷な訓練を想像したのか、青空を仰いで深く嘆息。
イリアはまるで借りてきたネコのように縮こまり、膝を抱えて沈黙している。
『カイさんならきっと大丈夫です。私がついてるのでご安心ください』
携帯端末に映るフギンが、両翼を丸めて握りこぶしのようにして僕をはげましてくれた。
君がついてるって言われてもね……苦笑し、僕はおざなりにお礼を言った。
……不安だ。