ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【狼の時代】

 フェンリル本部が全世界に宗教戦争を起こしている……?

 

 アラガミが出現し、それと同時にフェンリルが台頭(たいとう)したと同時に、かつての三大宗教は徐々に姿を消していった。それは単に人々が生きるのに必死で宗教を(かえり)みなかった結果ではないのか?

 

 フェンリルが裏でかつての三大宗教を迫害(はくがい)していたというのか?

 

 いや待った。宗教戦争とはどういう事だ? その言いぐさでは、まるで“フェンリルが一種の宗教である”ということになってしまう……

 

「アンタ何言ってんだ!? 宗教戦争だと!? フェンリルはアラガミに対抗するため、世界中に技術と支援を行う巨大組織だ! アンタらみたいな神様頼りとは違って科学技術を結集させて実際に人々を救ってんだ! 信じりゃあ救われるとかアンタらがほざいている間に人々を救ってきたのはフェンリルだ! 宗教と一緒にすんじゃねえ!!」

 

 (まゆ)を吊り上げ反論するアレックス。対するブラウン牧師は彼の言い分をしっかりと聞いた上で、ゆっくりと口を開く。

 

「科学技術を結集させる巨大組織……君のフェンリルに対する認識は正しい。彼らは神を信じず、己らの知識と技術のみを信じている。

 ……いや、これまでに聞いた彼らの振る舞いを考えると、むしろ“信奉(しんぽう)している”と言っていいだろう。彼らは、技術を持つものこそがこの世を()べるべきと考える技術至上主義(テクノクラティズム)の集団だ」

 

 ……ブラウン牧師は……一体この人は何を言っているのだろうか? 発言が突飛(とっぴ)過ぎていてついていけない。

 

 フェンリルは……科学技術を妄信(もうしん)する宗教家なのだといいたいのか……? そんな馬鹿な理屈を受け入れるわけには……

 

「アラガミが出現し、国を主導するべき国家元首すらも捕食(ほしょく)され、混乱のるつぼと化したこの世において、唐突に現れ人々を救ったフェンリル……元はといえばアラガミは彼らの過ちでこの世に解き放たれてしまったものだが、それにしても“手際(てぎわ)が良すぎる”。

 国々の政権中枢(ちゅうすう)の官僚たちへいともたやすくコンタクトを行い、“まるでこの時を予見(よけん)していた”かのように偏食物質(へんしょくぶっしつ)を利用した兵装(へいそう)供与(きょうよ)、アーコロジーを始めとした人々を生かすための先進的な技術の数々……人々はフェンリルとこの世の救世主ともてはやしたが、それでもこの違和感はぬぐえない」

 

 何を……言っているんだ……この人は……

 

 心臓の鼓動(こどう)徐々(じょじょ)に早まる。まるで、この世界の真実の裏側を聞かされているような……全て聞いてしまえば、今まで通りフェンリルの兵士の一人として戦えなくなってしまいそうな、僕はそんな危惧(きぐ)を抱きつつあった。

 

 全部この人の妄想に過ぎない……そう信じたい自分がいた……

 

「……彼らは、この時のために秘密裏に研究を続けていたのではないか? アラガミを解き放ち、対抗するための技術を提供し、その技術の凄まじさを認識させ、依存させ、屈服させる……国々は国境を失い、フェンリルという唯一のシンボルの元に再統合された。

それは、かつて他民族同士の(たば)ねるために使用した“宗教”のように」

 

「……笑えねえな。冗談にしちゃあよ」

 

 怒りの感情をにじませ、アレックスがブラウン牧師を睨みつける。

 

「全部アンタの妄想だろうが。テメエ等の信じる神様は一向(いっこう)に現れず、フェンリルにも全く相手にされねえってんで逆恨(さかうら)みしてんじゃねえのか? 元々アラガミを研究してたんだ。アラガミへの対抗策を持ってたってなんの不思議もねえだろうが! 

 アンタらの神様の代わりにバケモノを退治してくれたんだ! 救世主と言って間違いはない! 何が宗教だ! 当然の評価じゃねえか!!」

 

 ブラウン牧師は動じず、穏やかに反論する。

 

「アラガミの研究者ならば対抗策も当然知っている。その点は同意しよう。しかしだ……なぜかつての国々を解体するような真似(まね)をした? アラガミの出現で大勢が死に、人々は混乱し、国の体を成さなくなった。そんな状況でフェンリルが人々をまとめ上げる。

 ここまではわかるが……国境まで消してしまった理由がわからない。『国境を残せばかつての国々の禍根(かこん)をも残すことになる』というのが彼らの意見だが、アラガミによる脅威にさらされるこの状況で国家間のいさかいなど起こるはずもないだろう? 私には、これがかつての支配者による思想統制の一環(いっかん)に思えてならない。

 支配者は被支配者達が信奉していたものを(さげす)み、(おとし)め、そして自分たちが信奉するものに取り込んでしまう。ゆえに、あのバケモノたちはアラガミと呼称され、かつて信仰された神々の名をあてがわれ、それを滅する“技術”を人々に信仰させる……」

 

 つまり……フェンリル本部は“技術”を信仰(しんこう)する宗教組織の一面を持つ、というのだろうか……?

 

 信仰の対義語(たいぎご)は科学知識であると思っていた。しかしそれも過度に妄信(もうしん)すればいずれは宗教になり果てると……?

 

『神とはアラガミ。神は祈らず打倒するべし』。これがフェンリル本部のモットーだ。ならばフェンリルとは、神を信じるべからずとする“宗教”だというのか……?

 

「国境を無くした理由……? ……そ、そんなこと、関係ねえだろ……!」

 

「……生まれた時からフェンリルに帰属(きぞく)している君たちにはわからないかもしれない。国というのはそこで生まれた人々にとって大切なものなのだ。それは単なる帰属意識にとどまらず、自身のアイデンティティともなる。

 それを奪うのはどのような理由であれ侵略行為にほかならないのだ。極東(きょくとう)にいたっては、かつての“日本”という名すら支部に残されず、他の支部以上にフェンリル本部からの強力な支配下に置かれているらしい。あの国では宗教を()み嫌う人々が多くを占めていた。フェンリル本部があの地域で支配を強めているのはそういった点が理由かもしれない」

 

 ……日本。確かに父から、極東がかつてそのような名の国であることは聞いていた。

 

 他の地域より抜きんでてアラガミからの被害を受けており、国として滅びる寸前まで追い込まれていた。しかしフェンリルからの大規模な支援で立て直し、その過程で名前も失ったと……

 

 ……おかしい。よく考えるとおかしな話だ。ブラウン牧師が言うように国が人々のアイデンティティ、すなわち精神的支柱ともなるものであったなら、たとえ滅びに(ひん)していたとしても軽々しく捨てることなどできるはずがない。

 

 かつての国々には国々の名を(かん)した支部がある。アメリカ大陸にはアメリカ支部、グレートブリテン島にはイギリス支部、ユーラシア大陸東部には中国支部というように。

 

 なぜ極東支部にだけかつての国の名前が付けられていない? いや、そもそもなぜフェンリルは国境を廃し、国という枠組(わくぐ)みを消し去ってしまったんだ?

 

 かつての国々の人から反感を買ってまでそんなことをした理由は……

 

 ……支配、するため。ブラウン牧師の理屈が、すとんと胸の内に落ちる。それがフェンリルの目的であったなら、全て辻褄(つじつま)があってしまうのだ……

 

「……なんのためにだよ。仮にだ……フェンリルが世界を支配するためにそんなことをしでかしたってんなら……なんのために世界を支配しようとしてんだよ……?」

 

「これは宗教戦争だと言ったね。私が思うに、つまりは彼らの教義のためだ」

 

 ――教義……?

 

「彼らは既存(きぞん)の宗教を敵視し憎悪している。自らが至上(しじょう)とする科学知識・技術こそが正義であり、それ以外の“科学的ではない”もの全てを悪と考えている。

 そのためにかつての宗教を“現実から逃避するための空想”と断じ、支部内での布教(ふきょう)活動を全面的に禁じ、集会すら本部への謀反(むほん)の疑いがあるとして厳しく取り()まっている……風の噂では、フェンリルに従わない団体信徒に対し“カルト宗教”のレッテルを張り、直属(ちょくぞく)の討伐部隊を差し向けているという話もある……」

 

 ……そうか。

 

 ブラウン牧師たちがこんな路地裏で暮らしているのは……支部内で排斥(はいせき)されているからだったのか……教会のことを“ファーム”と呼び、本来の牧師の服すら着られず、宗教のシンボルすら奥にしまい込んでいるのも……

 

 あの男の子、ザックスがゴッドイーターになりたいと言ったのも、こうした厳しい生活をなんとかしたいとする気持ちからだったのかもしれない……

 

「待てよ……おかしいだろそんなの……フェンリルは人々のためにアラガミと戦う組織じゃねえのか……? なんで人を排除したり襲ったりなんて……」

 

 アレックスが眉根(まゆね)を上げ、あえぐようにそう問うた。

 

 ブラウン牧師の目に(あわ)れむような色が浮かぶ。アレックスを、そして犠牲となった人々を哀悼(あいとう)するように。

 

「フェンリル本部の目的は人々の支配、および管理なのだろう。つまり人類の繁栄には全く興味がないということだ。人の数が減ればそれだけ彼らの管理も容易(ようい)となるからな」

 

 ――そんな……管理するため……? 自分たちの箱庭(はこにわ)、支部の中だけで生きていろと……?

 

「そうなるね。宗教の一部は人類史であり法であるとも言ったね? フェンリルが支配する前の国の歴史や人類史など彼らにとって不都合でしかない。支配が目的ならば当然国も宗教も滅ぼしにかかるだろう。非常に合理的だ。彼ららしい振る舞いだと言える」

 

 そして、ブラウン牧師は憂鬱(ゆううつ)な表情で深くため息を吐く。

 

「宗教はかつての法でもある。物事の善悪という概念(がいねん)、全ては神が見ており、良き行いは神の祝福を、悪しき行いは神の裁きを受ける――こうした考えが根付いたことで、人々の中で無意識に順法(じゅんぽう)意識というものを抱くのだ。

 ……フェンリルは、この善悪という考え自体も宗教由来のものとして排斥しようとしているらしい」

 

 ウソだ。

 

「う、嘘つくんじゃねえ! そんな話、聞いたこともねえよ!! ありえねえだろうが!?」

 

 ブラウン牧師は、ゆっくりと首を左右に振る。

 

「宗教由来の考えや習慣について、フェンリルは徐々(じょじょ)に人々から排除している。クリスマスやイースター、ハロウィン……これらの言葉を聞いても君たちはすでにピンとこないだろう。

 善悪といった考えも同様だ。子供たちがよく見ているアニメのバガラリ―だが、最近こんなフレーズを多用しているそうだ。『行き過ぎた正義感が人々を狂わせる。正義も悪も幻想だ。誰かが勝手に押し付けたくだらない思想なんだ』とね」

 

 善悪といった考えすら否定しようとしている……?

 

 けれど、行き過ぎた正義が人を狂わせるというのはある意味で正しい。行き過ぎた思想が自分や周囲を傷つけてしまうというのはよく聞く話でもあるのだ。

 

 しかし……それと正義や悪といった概念自体を疑えというのは全く違う話だ。もしも、もしもそんなことをしてしまったら……

 

「正義や悪の妄信(もうしん)は破滅を生む。私や君たちのように、ある程度の年齢を過ぎ精神が成熟していれば受け入れられるだろう。だが……子供たちはそうはいかない。

 行商人から聞いたが、最近犯罪を起こす子供の割合が急に増えてきたらしい。子供の時期はむしろ善悪を妄信するべきなのだ。その後に“過ぎた思考の危うさ”を理解するのが正常のプロセスだったはずだ。

 ……もしもこの世から善悪という概念が消失したとしたら、それは己の力のみを信じ、己より強いフェンリルを信奉する、力こそ全てといった世になるだろう。弱者は容赦なく切り捨てられ、少数の力ある者が生き残る……獣の時代、いや、“(オオカミ)の時代”と呼ぶべきか。フェンリルが目指すのはそんな世の中なのかもしれぬ」

 

 ……確かに、小さい子供達の強盗団によって民家が襲撃された、といったニュースは支部で聞いたことがあるが……

 

 狼の時代……それは優れた科学技術を有するフェンリル本部を頂点とし、その下に僕達ゴッドイーターが()き、アラガミを討伐する(かたわ)らで人々を監視し時に粛清(しゅくせい)すら行う。人々は強者であるゴッドイーターに憧れ、フェンリルを崇拝(すうはい)し、絶対的な力に心酔(しんすい)する。

 

 一方弱者は、ゴミ同然に排斥(はいせき)され道端の(すみ)(かえり)みられることもなく死んでいく。右腕を失い、第三層で見捨てられたシャールのように。

 ……それがフェンリル本部の理想とする世の中なのだとしたら、断じて受け入れることはできない……!

 

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