ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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※原作に登場する台場のちゃん様ではありません。念のため。


第五章 極東の方から来た女
【イングリッシュ上等兵】


 その日、僕たちはフリード隊長に呼び出され、センタースワンの中央棟(ちゅうおうとう)2階へ集合した。

 

 ここなら一階部分のロビー全体を見渡すことができる。朝日に綺麗なスキンヘッドをキラキラ反射させながら、フリード隊長から告げられたこととは――

 

「そろそろ極東から転属(てんぞく)してきた隊員が現れるはずだ。それっぽい奴が来たら下へ降りて歓迎しよう」

 

 僕たち第一部隊に配属される人を迎える準備をしろ、とのことだった。

 

 いや、まだ朝の9時とはいえ、大勢の市民や職員が行きかうこの場でどう見つけろというのか。せめて特徴とか教えて欲しいところなんだけど。

 

「……なあ、フリードのおっちゃん。今から来る奴ってのは、フェンリル本部からの指示でやってくるのか?」

 

「隊長と呼べ隊長と。本部の指示かだと? 本人から転属要請(ようせい)があってここに配属(はいぞく)されるとしか聞いていないが……どうしたアレックス? 昨日はあんなに(よろこ)んでいたってのに?」

 

「……別に」

 

 アレックスはそれだけ言い、複雑な表情で沈黙する。

 

 無理もない。昨日ブラウン牧師からフェンリルに関する重大な事実を知らされたばかりだ。

 

 彼は最後までブラウン牧師達を信じないと言い張っていたが、本部に対する疑念は(いま)(ぬぐ)い去ることができないようだった。

 

 と、その時、イリアが階下にいた一人を指さした。

 

「ねえ、もしかしてあの人……?」

 

 彼女が指した方角を見る。すると――ひとり、明らかに周りから浮いている人物が歩いてきていた。

 

 僕達と同じゴッドイーターの制服に赤い巨大な腕輪をした少女。

 

 薄い桃色(ももいろ)の髪を()んだ長い髪に、大きな栗色(くりいろ)の瞳は周囲の目を()くほどの美貌(びぼう)である。

 

 しかしそれ以上に目を引いたのが――彼女の3倍はあろうかという巨大な荷物だ。何か不思議な模様の描かれた布で包んで背負い込んでいるが――あの布はもしや、極東で(いにしえ)から伝わるミステリークロス、Furoshikiというやつでは……?

 

「……あれか? あれなのか? フリードのおっちゃん?」

 

「た、多分な……じゃあ、行くか!」

 

 僕たちが階下(かいか)へ降りようとしたとき、先んじて別方向から二人組が彼女に声を掛けた。

 

「ゲッ! あいつら……!」

 

 忘れたくても忘れられない。整髪料(せいはつりょう)をべっとりと髪になでつけた金髪オールバックの男と、パイナップルみたいな髪型の男――ブラッドとロブだ。

 

「やあ君。君だよ君。カワイイね。ここは初めてかな?」

 

「……はい?」

 

 少女は困惑(こんわく)しながら二人を見る。

 

「ここの中を案内してあげようか? 行きたい所をいってごらん? 隅々(すみずみ)まで案内してあげるよ……」

 

 隠しきれない性欲をにじませながら、さらに少女へ距離を()めるブラッド。正直あの二人とは二度と関わりたくなかったが、この状況ではそうも言ってられない。

 

 僕が二人を(とが)めようとした、その時。

 

「えっなんスか? キモ……半径3km以内に近寄らないで欲しい……」

 

 少女が、その可憐(かれん)容姿(ようし)とはかけ離れた暴言を放ち、ブラッドのキモい笑顔が一瞬で固まった。

 

「こ、こ、コイツッ! 二等兵のド新人のくせに、上官に向かって――!」

 

「オイ。何キレてんだ? 上官がなんだと?」

 

 フリード隊長がブラッドたちを咎める。フリードさんの階級は大尉。ブラッド達よりも上官といえる立場だった。

 

「……フン。ゴッドイーターでもない一般人が偉そうに。なんだ? 第一部隊の新しい仲間だったのか? ハッ、何人増えようがお前らの未来は変わらない。せいぜい無駄な努力を()んで無様(ぶざま)に死んでくれ……行こうぜ、ロブ」

 

 最後まで不快感たっぷりのニヤついた笑みを浮かべ、連中は去っていった。

 

「あ~よかった! あのキモイ二人が第一部隊の人たちだったらどうしようってマジで(あせ)ってたんスよ~!」

 

 少女はホッと胸をなでおろしながら、独特の言葉遣いで改めて自己紹介した。

 

「あたしは台場(だいば)カンナっス! 親戚(しんせき)のお姉ちゃんは極東の第一線でバリバリやっちゃってるゴッドイーターなんスよ~! だからまあ、フフ、期待してくれていいっスよ?」

 

 カンナはそう自身満々に胸を張りつつも、しかしその目は若干(じゃっかん)空中に泳いでいた。

 

 ……ん? なんだか様子が少し変だな。何かとんでもない嘘を(かく)しているような……?

 

「ようこそカンナ! 俺は隊長代理のフリードで、こっちはリーダーのカイだ。戦場ではコイツが部隊のトップになるわけだから、ちゃんと指示には(したが)うようにな」

 

 フリードさんが僕の背中を押して彼女の前に立たせる。僕が手を()()べると、彼女ははつらつとした笑みで握手(あくしゅ)を交わしてくれた。

 

「おおう? もしかしておんなじ極東出身っスか~? よろしくっスよリーダーさん!」

 

 ――いや、よく勘違(かんちが)いされるけど、僕は極東には一度も言った事ないから。

 

「あ、そうなんスね? こっちの人は?」

 

「俺はアレックスだ。これからよろしくな」

 

 アレックスとも握手を交わし、カンナが最後に残ったイリアに笑顔を向ける。

 

「あ……えっと、わたし……イリア、です」

 

 緊張と()れが入り混じったような表情で、イリアがおずおずと手を差し出す。

 

「うぃ~っす!! よろしくっスよ~!! おんなじ女子がいてくれて心強いっスね~!!」

 

「う、うん、よろしく……」

 

 底抜けに明るいカンナの勢いに気圧(けお)されつつも、イリアは(うれ)しそうに少しはにかんだ笑みを浮かべた。

 

「ようし。自己紹介が済んだところで、お互い聞いておきたいこととかあるか?」

 

 フリードさんに(うなが)され、最初に挙手をしたのは――イリアだ。

 

「じゃあ……極東って、OCアンプルを使わずに回復錠(かいふくじょう)だけで怪我を治してるって聞いたけど、本当……?」

 

 OCアンプルとは、直接動脈(どうみゃく)偏食物質(へんしょくぶっしつ)を注入し、ゴッドイーターの怪我を瞬時に回復させる注射器だ。回復錠との違いは怪我の治癒(ちゆ)速度にあり、消化管を通じて作用する回復錠は急速な怪我の治癒には不向きとされているのだが……

 

「あ~それ本当っスよ。極東の回復錠は特別製っスから。新陳代謝(しんちんたいしゃ)を高める成分をGE(ゴッドイーター)一人一人の体質に合わせて処方してるらしくて、だから経口摂取(けいこうせっしゅ)でもソッコーでバッキバキに効果てきめんらしいっスねー」

 

「おお、それは俺も聞いたことがあるぞ! 確かカンポーとかってやつだな?」

 

「漢方? ああそっスね~、隊長さんよくご存じで。その辺の知識も応用されてるっぽいっスねー」

 

 へえ、回復錠だけでも支部ごとに特色みたいなものがあるのか……

 

「OCアンプルは極東で使ってる人全然いないっスね~。ほら、戦ってる時に割れたりしたら困るじゃないですか? だから使われないみたいっスよ?」

 

 ……アンプルは頑丈(がんじょう)な強化プラスチック製で、しかも緩衝(かんしょう)ゲル入り耐衝撃メディカルポーチの中に入れられているから、激しい戦闘中でも割れることはまずないんだけど……

 

 それでも割れる心配をするとは、どれだけ激しい戦いをしているんだろうか、極東の人たちは……

 

 ドン引きしつつも、アレックスが次に挙手をする。

 

(うわさ)で聞いたんだが、極東じゃあ気絶した奴を肩ポンポンするだけで(よみがえ)らせることができるらしいが、それってマジなのか?」

 

「えーっと……あたしはやったことないですし、見たこともないんスけど、実際そうやって気絶した仲間を起こしてるって話は聞いたことあるっスね。

 なんか、柔術の活法(かっぽう)? とかいうのと、感応現象(かんのうげんしょう)の合わせ技らしいっスよ?」

 

 ……本当に肩ポンポンするだけで気絶した人すら起こせるのか。知れば知るほどとんでもない所だな、極東は……

 

「じゃあ、あの話は本当か? 極東に、終末捕食(しゅうまつほしょく)を起こすアラガミが見つかったって噂は……?」

 

「ああ~そんな話聞いたことあるような……? うーんでも、あそこって新型アラガミが出ることは日常茶飯事(さはんじ)なので、どれがそんなヤバいアラガミなのか正直わかんないんじゃないっスかね? みんな? あたしは全く知らないっス」

 

「そうか……」

 

 噂の真偽(しんぎ)(さだ)かではないが、カンナも知らないと聞いて、アレックスは少しだけホッとしたような表情を浮かべた。

 

「リーダーさんはあたしに()きたいこととかないっスか?」

 

 そう問われ、ふと僕は彼女の服装が気になって(たず)ねてみた。

 

 ――その水色のケープコートみたいな服は?

 

 カンナは僕達とは違い、GEの制服の上から、水色の(えり)がついたケープコートのようなものを身に着けていた。遠くからみるとまるで水色のテルテル坊主のようでもある。

 

「あ、これっスか? 狙撃兵用のミリタリーポンチョっスねー。雨とか降られても全然平気ですし通気性もいいんスけど……特にデザインがカワイイじゃないっスか。ほら、GEの制服って変にピチピチしてて、体のライン出るから可愛くないっていうか……」

 

 そう言いながら少し不快そうに(まゆ)をひそめるカンナ。そんなに体のラインが出る服が嫌いなのか。

 

 そう思った――その時だった。

 

「気をつけろ少年……! あの少女、ポンチョの下は何がとは言わんが相当デカイぞ……!!」

 

 っ!?

 

 耳元でそう(ささや)かれ、声に急いで振り向くと、そこにはなぜか高笑いをしながら立ち去ってゆくセンパイの後ろ姿があった。そして当然のように上半身(ハダカ)である謎も残されたままだ。

 

 何なんだ……わざわざセクハラを言うために現れたのか? そして気をつけろとは一体何に気を付ければいいんだ……?

 

「あの変なマッチョの人知り合いっスか? で、質問タイムはおしまいでいいっスかね?」

 

 ――あ、それじゃあもう一つ。かなり英語が上手いけど、極東でもみんな英語を話してるの?

 

「え? いやフツーに日本語っスよ? あ、日本語ってのは極東で使われてる言語の事っス。“キョクトー語”とか言う人よくいるんスけど違うんで。そこんとこヨロシクっす」

 

 ――英語じゃないんだ。それなのによくそんなに流暢(りゅうちょう)に話せるね?

 

「フフン、いやー、ここに配属されるって知ったんで猛勉強したんスよ! そのかいあって今じゃあもうペラペラっスよ本当――」

 

『マイクから距離が離れています。マイクを近づけてください』

 

 唐突(とうとつ)に、カンナの襟元(えりもと)からそんな機械音声が発せられた。カンナはあわてて襟元や(ふところ)をゴソゴソしだす。

 

「オ~ウ、ワ~オ。ンーフー? イナフイナーフ……えーとこれをこうして……ハイハイオーケー、イングリッシュ上等」

 

 ……ああ。なるほど、機械で同時翻訳(ほんやく)してただけだったのか……

 

 なんだろう、その場のノリや雰囲気で適当なことを言ってくるこの感じ……これからこの子と一緒に戦場に向かうのがだんだん不安になってきた……

 

 ニコニコ笑顔のカンナをよそに、僕達三人は未来を(あん)じる視線をお互いに交わし合ったのだった。

 

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