ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【グボログボロ戦】

 第一部隊にカンナを加えた翌日、さっそく僕達にアラガミの討伐指令が下された。

 

『司令部よりアラガミの討伐作戦が発令(はつれい)されました。第一部隊は17:30までに指定迎撃ポイントに向かってください。繰り返します――』

 

 僕たちは訓練を途中で切り上げ、すぐに神機(じんき)保管庫へ向かった。

 

「準備しながら聞け、作戦について話しておく」

 

 フリードさんがタブレットを片手に説明を始める。

 

「迎撃ポイントはここから南西に20kmの地点だ。かつてのリニア高速路(こうそくろ)があったところだな。迎え撃つアラガミについてだが――中型アラガミのグボログボロってやつだ」

 

 グボログボロ……なんだか妙な名前のアラガミだなあ……

 

「中型か。仕留(しと)められればまた俺たちの神機も強化できそうだな……で、ソイツはどんなヤツなんだ? フリードのおっちゃん?」

 

「ハア……もう好きに呼べ。ほら、画像を端末(たんまつ)に送ってやる。極東じゃあこいつのことをワニとか呼んでいるらしい」

 

 送られた画像を携帯端末で確認する。表示されたアラガミは、灰青(かいせい)色のうろこを全身に(まと)い、巨大な口に刃物のような牙をぞろりと(そろ)えた凶悪な見た目をしていた。

 

 そして頭部は巨大な角のように盛り上がっており、その(ひたい)にはまるで戦車の砲塔(ほうとう)のような器官を備えていた。小さく凶悪な赤い目。足はなく、その代わり短い尾と(むな)ビレをつけた姿……いや、ていうかコレ……

 

「……どこがワニなんだよ? 全然似てねーぞフリードのおっちゃん!? ほぼ魚じゃねーかおい!」

 

 アレックスに続き、イリアもあごに手をやりながら意見を()べる。

 

「……深海魚とかにいそう。こんな感じの魚がいた気がする……」

 

 確かに。なんていうか、チョウチンのついてないアンコウみたいな見た目だな……

 

「ワニに似てねえとか言われても知らねえよ! 言ってるのは極東の奴らなんだ! 俺じゃなくせめてカンナに()けっ!」

 

 僕たちがカンナを見ると、彼女は唖然(あぜん)とした表情のまま、こう(たず)ねた。

 

「あ、あの~……グボログボロって、ユーラシア大陸のアラガミっスよね……な、なんでこんなところに出現してるんスか……?」

 

「おっと、説明してなかったか? 最近ここいらじゃあ、極東並みに多種多様なアラガミが出現するようになってな」

 

「はああっ!? き、聞いてねーっスよ~!! アラガミ動物園に配属(はいぞく)されるのが嫌だからここに志願したのに――ハッ! あ、いや、冗談っスよ冗談。あたしは極東出身っスから! どんなヤツもどんと来いって奴っスよ!? は、ハハ……」

 

 恐ろしく下手な言い訳でその場を取り(つくろ)おうとするカンナ。

 

 ああ……なんだかこの子がどういう子なのか、だんだんわかってきた……

 

 前途多難(ぜんとたなん)を予感しつつも、それでもアラガミは待ってくれない。僕は保管庫内にある装備品や薬品などを収納するロッカーを開け、着々と準備を進める。

 

 タクティカルベルトを装着し、ポーチにOC(オラクルキュア)アンプルや回復錠、毒素中和剤、緊急用信号弾にタクティカルライトなんかを()め、ストラップにスタングレネードも装着する。

 

 ふと、隣のロッカーに入っていた頑丈(がんじょう)そうな小型ケースが目に()まる。

 

 これは……“ホールドトラップ”だ。ケースの中には円盤状の機器が入っており、中心のスイッチを押すと円盤の中から無数の鋭いトゲのついたワイヤーが四方(しほう)へ展開される。

 

 トゲにはアラガミ由来の非常に強力な麻痺毒が塗られており、これが()さると大型のアラガミですらしばらく行動不能に(おちい)るほどだ。

 

 ただし、この毒はアラガミだけではなくこちらにも有害だ。もしも刺されれば、ゴッドイーターですら1分足らずで心臓が麻痺(まひ)し死に(いた)るとされている……

 

 だから(あやま)って押してしまわないよう、スイッチは足で踏みつけないと押せないほど固く作られており、さらに戦闘中の衝撃で誤作動しないよう頑丈なケースで保護されているわけだが。

 

 ……訓練で扱い方はしっかり学んだが、それでも危険性からこれを使おうとは思わなかった。

 

 けれど、以前苦戦したティンダロスに関しては、このトラップがあれば有利に戦いを進められただろう……これからは、こういうのも使いこなせるようにならないと。

 

 僕は決心し、ホールドトラップのケースを取り出し、リュック型の細いストラップに両腕を通した。

 

「銃型の神機使いのカンナが加わったことで、戦術の(はば)は今までよりも大きく広がるだろう。だが気をつけろ? 銃型神機は弾丸を神機内で生成できるが、こいつは無限に作れるわけじゃない。エネルギー切れを起こせば即弾切れになり、デカイだけのお荷物になっちまうからな。

 銃型神機のエネルギー源はOA(オラクルアモー)、つまりアラガミの肉片(にくへん)だ。近接がアラガミを食らい、それを後方にいる銃型神機使いへ受け渡すことでエネルギー切れをさせずに継戦(けいせん)できるって寸法(すんぽう)だ」

 

 後方にいる銃型神機使いへ受け渡しをする方法は学んでいる。神機を肩にかけた状態で剣の(つか)の先端、石突(いしづ)き部分を押し込むだけのシンプルな操作だ。アラガミを捕食していれば、射出器官を生成し未消化の肉片を後方へ吐き出すことができるのだ。

 

 ちなみに、銃と剣がセットになった新型神機使いであれば、銃口から遠距離の神機使いへOA(オラクルアモー)を届けることもできるらしい。

 

「……いや、まあ、OA以外にもエネルギーを補給する方法はあるんスけどね。O(オラクル)アンプルとか使えば……」

 

 なぜか口ごもりながらそう言うカンナ。何か都合の悪いことでも隠しているような態度だけど……

 

「それからな、銃型神機使いは特有の攻撃方法がある。OAを消化・吸収することでそのアラガミの細胞を自死(じし)させるAP(アポトーシス)弾を撃てるようになるそうだ。なんでも、アラガミの強固な装甲すら一撃で溶解させられるほどの絶大な威力らしい……極東じゃあ“アラガミ弾”なんて呼んでるらしいな、カンナ?」

 

 フリードさんに問われ、カンナはぎくりとした様子で肩を小さく跳ね上げた。

 

「そ、そーっスね~。なんか切り札的に扱われることもあるらしいっスけど……あ、あたし的にはそんなに期待しない方がいいかもっていうか……」

 

 しどろもどろにそう答えるカンナとは対照的に、アレックスは期待を込めた瞳で彼女に振り向いた。

 

「マジかよ! そんな必殺技使えるのか!? じゃあ、お前に弾渡しまくればラクに倒せそうだな!」

 

「い、いや! そんな連続して撃てねーっスよ! AP(アポトーシス)弾は精製(せいせい)されるまで時間かかるんで……戦闘は、近接の人たちがメインっすからね……あたしはあくまで後方支援なんで……」

 

 一体どうしたのだろうか。来た当初は「自分に期待してくれていい」と豪語(ごうご)していたのに。

 

 いざ実戦となると急に自信なさげに振舞(ふるま)っている……やはり何か隠し事がありそうだ。

 

 ――カンナ、出撃前に確認しておきたいことが――

 

「よ、よ~し準備完了っ!! ほらほらリーダーさん、皆さんも! 早くしないと指定されている時間に遅れちゃうっスよ!! ワッチャゴナドゥ!? 早速爆走レッツ&ゴーっスよ!?」

 

 半分やけくそみたいな勢いで、カンナはスナイパー型神機を手に保管庫を飛び出していった……

 

 やはり何か隠しているな。本人が何も語りたがらない以上、戦闘中は彼女の動きにも注意したほうがいいかもしれない……

 

 

◆◆◆

 

 

 迎撃ポイントに着き、大型の軍用トラックの荷台から降りると、巨大な構造物が僕たちの前に鎮座(ちんざ)していた。

 

 砂漠の中に現れた、()ちて崩れた巨大な陸橋(りっきょう)残骸(ざんがい)である。

 

 これは、かつてロサンゼルスと呼ばれた都市まで伸びていたリニア車用の高速道路の成れの果てらしい。

 

 リニア車とは、超電導状態をエネルギーなしで長期間維持できる“断熱磁石(だんねつじしゃく)”を使った個人用車両のことだ。燃料いらずで走れる夢の車として爆発的に普及したらしいが、アラガミが出現し専用道路も寸断(すんだん)されたことで、現在ではガソリンを使う車しか使用されることはない。

 

 まるで()け落ちた鉄のように輝く夕日とは対照的に、血のように赤いサビを(まと)って横たわる陸橋の死骸は、これまでの人類の栄光の(はかな)さを無言で物語っていた。

 

「アラガミはまだ来てねえみてえだな。ここで待ってりゃいいのか?」

 

 キョロキョロと周囲を見回すアレックスに、オペレーターのレインさんが答える。

 

『こちらから討伐(とうばつ)対象のアラガミを補足(ほそく)しました。あなた達の場所から約2km先で移動をしています……まだ無事な陸橋の上を移動しているようですね』

 

「今じゃアラガミ専用の道路ってわけかよ……どうする? 俺らも陸橋上がって迎えにいくか?」

 

 アレックスがそう提案すると、

 

「……あの陸橋の上だと逃げ場は限られてる。前に戦ったティンダロスみたいに、防御ができない攻撃をする相手だと危険だと思うけど……」

 

 イリアがすぐに懸念(けねん)を口にした。

 

『この場においてはリーダーの意見を尊重(そんちょう)いたします。どうしますか、リーダー?』

 

 僕は二人の意見を吟味(ぎんみ)し、周囲の状況も(かんが)みつつ、思考を巡らせた。

 

 イリアの言う通り、ここで待ち(かま)えていたほうが安全ではある。

 

 だが……相手は2kmも先だ。しかも相手はアラガミ。道草を食わずにこちらへまっすぐ来るとも限らない。

 

 ぼやぼやしていれば日が落ちる。街灯もない、夜の闇の中でアラガミと戦うのだけはなんとしても避けたい……!

 

 ――日が落ちる前にこちらから迎撃に向かう。陸橋(りっきょう)の上に登ろう。

 

『了解いたしました、瓦礫(がれき)(つた)って登れそうなポイントを算出いたします。しばしお待ちください』

 

 ――カンナも、それでいいよね?

 

「ふぉっ!? あ、あー、いいんじゃないっスかね? ええ? えへへ?」

 

 キョロキョロと周囲を見渡しながらそう言うカンナ。あからさまに挙動不審(きょどうふしん)だ。

 

 ――あのさ、戦闘前に聞いておきたいんだけど、君、なにか隠し事が――

 

「ひ、日が落ちちゃうっスよ!? さっさと行かなきゃダメなんじゃないっスかね!? さっさと行ってチャチャっと片づけるっスよ!? 即断即決(そくだんそっけつ)的な!?」

 

 ……ダメだ。ここで追及(ついきゅう)してもきっと押し問答(もんどう)になるだけだな……

 

 レインさんから陸橋へ上がれそうなポイントを教えてもらい、僕たちは瓦礫を足場に巨大な陸橋の上へと登った。

 

 高さは5メートル以上はあるんじゃないだろうか。黒い路面(ろめん)はひび割れているが、足場はまだしっかりしているようだ。

 

 水平線へ沈みつつある太陽を横目に、神機(じんき)を構えて僕たちは陸橋の上を走る。

 

 しばらくすると――遠くで動く何かを発見する。夕陽を反射する青いウロコをした生物。目標のグボログボロで間違いない!

 

「野郎も俺らに気付いたみたいだな。真っすぐこっちに突っ走ってきてるぜ……!」

 

 一(かか)えほどもある大剣型神機を肩に乗せ、アレックスは緊張した面持ちで遠くのアラガミを見据(みす)える。

 

「大丈夫……わたしは大丈夫……シミュレーションと同じ……大丈夫……」

 

 自分に言い聞かせるように、小剣型神機を構えるイリア。オオグルマの教えに従っていたあの頃とは違い、その瞳には恐怖を、己自身を克服(こくふく)しようとする強い意志があった。

 

 ――カンナは大丈夫?

 

 僕はそう彼女に声を掛けた。が、返答がない。

 

 ――カンナ!?

 

 振り返る。しかし、いつの間にか彼女の姿はどこにもなかった。

 

『カンナさん? リーダーがお呼びです。返信を』

 

 すると、マイクが切り替わったのか、彼女の側から何やら奇妙な音が発信された。

 

 パリパリ、ボリボリと何やら固い何かを食べているような音。

 

『……え? あ、あ~ハイハイ。ちゃんと聞こえてるっスよ~。こっちは位置に付いてるんで、いつでも始めてOKっスよ~』

 

「……オイちょっと待て、お前……」

 

 アレックスの鋭い声に、カンナが(あわ)てて弁解(べんかい)しだす。

 

『い、いや違うっスよ! おせんべいを食べてたのはアレっスよ!? 脳に栄養を与えてパフォーマンスをモリモリ上げるつもりだったんスよ!? サボってお菓子食べてたわけじゃ断じてないっス!!』

 

「違えよ! いやそっちもおかしいが、それよりもだ! お前今どこにいんだよ!! 敵がこっちに向かって来てんだぞお前っ!!」

 

『え、え~と……こ、ココっス! 皆さんから左斜め後ろの、でっかい立体駐車場(けん)パーキングエリア的な建物あるじゃないですか!? そこの屋上っス!! 見えるっスか~!?』

 

 振り返ると、遠くにそびえ立つ巨大な廃墟の頂上に、彼女の神機である銃身3メートル近い銀色のスナイパー型神機と、ぴこぴこ手を振る豆粒のように小さい彼女の姿が見て取れた。

 

「はあっ!? お前なんで一人でそんなとこに逃げてんだ!? さっさとここまで来いよ!!」

 

『逃げたわけじゃねーっス!! あたしはスナイパーっスから、遠くで狙い撃つのは当然じゃないっスか!!』

 

「いやお前フリードのおっちゃんの話聞いてたか!? そんな場所からどうやってOA(オラクルアモー)の受け渡しすんだよ!? 俺らの場所から届かねえのわかってるよな!?」

 

『……えっ? カンナさんは何かの作戦のために別行動しているのではなかったのですか!? カンナさん!! 至急現場へ急行(きゅうこう)してください!!』

 

『ここがあたしの持ち場っス!! 遠距離支援がスナイパーの(はな)っスからね!! 絶対ぜーったいここは離れないっスよ!!』

 

 ……なんてことだ。ここに来るまでずっと挙動不審だったが、どうやら彼女はずっとこのことを隠していたようだ。

 

 他の銃型神機使いのように部隊に追随(ついづい)せず、かつてのスナイパーの(ごと)く遠距離に陣取(じんど)る戦闘スタイル……しかし、それではOAの受け渡しもできず、AP(アポトーシス)弾すら撃つことができないということだ。

 

『目標アラガミ、30メートルまで接近! まもなく会敵(かいてき)します!!』

 

 ……敵は目前。やるしかない……!

 

 僕とアレックス、イリアは腹をくくり、巨大な牙を()いて迫り来るグボログボロを迎え撃った!

 

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