センタースワン内に戻った後、僕はフリードさんからメールを受け取った。
呼び出された先は、第二層のメインストリート近くで営業をしている、立派なレストランの中だった。
「よう来たな。先に注文してるから、食いながら話そう。ここのメシはうまいぞ?」
そう言いながら、フリードさんはいつも
――あの、わざわざここに呼んだ理由は……?
「ああ。基地内じゃあ聞かれる恐れもあるからな……カンナのことだ」
ああ。やっぱりその話か……
「AIがまとめたレポートに目を通した……リーダーであるお前の意見に
――はい……正直予想外すぎましたけど……でも、狙撃兵ってそもそもああいう立ち回りをするものじゃないんですか?
「まあな。俺の認識でも遠距離支援や優先目標の排除が従来の狙撃兵の役回りなんだが、ゴッドイーターの場合はそうもいかないらしい。
――その、従来の運用方法自体に疑問を感じています。
銃型神機に近接のような装甲板は付けられていない。理由は銃型神機が近接神機に比べかなりの重量を持っているからだ。盾用の装甲までつけてしまうとさらに重量が増え、素早い敵を狙い撃つことすら困難になってしまう。
一応側面には金属板が付けられているが、これは神機自体を衝撃などから守るものであり、神機使いの身を守るものではない。だから銃型神機使いはアラガミの攻撃に対し、素早く身をかわし続けるしかない。
大型アラガミはかわすことすら困難な大規模攻撃を繰り出すと聞いたことがある。もしも戦うことになれば、盾を使える僕達ならいざしらず、ろくな防御手段のないカンナを同じ場所に連れて行くのは流石に危険すぎるように思えた。
「そうだな……カンナをお前たちから離しておけば、部隊の全滅も防げるかもしれん。例えば、お前やアレックス、イリアが強力なアラガミによって倒されたとしよう、カンナが残っていればアレが使える。
回復柱。それは衝撃を与えることで周囲
……もしも遠距離から回復柱を投げ込んでくれたのなら、確かに全滅する事態は避けられそうだ。カンナのように遠距離からの支援役も必要なように思えた。
しかし……
「OA(オラクルアモー)が届かないんじゃあ、銃型神機の一番の役回りを果たせないからなあ……お、来たな」
店員さんが手慣れた手つきでテキパキと料理を運んでくれた。温かな
――あ、あの、いいんですかこんな豪勢な料理を食べても!? かなり高いんじゃ……
「ああ気にするな! 俺一人じゃあ酒代くらいにしか金は使わんからな。大いに食ってパワーを
フリードさんは上機嫌でステーキをナイフで切り、分厚い肉の一切れを
うーむ、これ基地の食堂で出されるプリント肉じゃない、オーガニックな肉だよね? 初めて食べるかも……ちょっと緊張するな……
「それからな、カイ、お前に一つ言っておきたいことがある」
――なんですか?
ナイフで食べやすい大きさに切り、フォークで肉を口に運ぼうとしたとき、頭を抱えてうなだれるフリードさんが目に入った。
「周囲に聞かれるとマズイかと思ってお前をこの店に呼んだんだが……失敗だったかもしれん」
――えっ?
ふと、ガラス窓の外から店内に影が
僕は振り返り――驚きのあまりフォークを落っことしそうになった。
「ぐぎぎぎぎ……夕食を食べずに出かけるから怪しいと思って後をつけたら
そこにいたのはカンナだった。
まるでヤモリのように窓ガラスにへばりつき、ガラスに押し付けたほっぺたからヨダレを
「ハア……放置してたら市民になんて思われるかわからんな。もうお前も入れ、みっともない……」
聞くや
フリードさんは彼女の分まで注文したが、カンナは待ちきれない様子で隣の僕の皿のステーキをなめまわすようにガン見してきた。
食べづらいことこの上ない。仕方ないな……
――ひとくち、食べる?
「えっえっいいんスか?! 最初の一口をあたしが食べちゃっていいんスか!? むほ~っ! なんか
何を今さら言ってるんだか……
「ふはあ~お肉なんて久しぶり……! お肉ちゃん! あたしに会いたかったっスか!? あたしも会いたかったっスよ~!」
に、肉に話しかけているっ!?
「ではでは……っ! うぅ~~ん!! おいすぃ~!!
カンナは肉を口いっぱいにほおばりながら満面の笑みを浮かべた。しかしなんてイイ顔でご飯を食べるんだ……
「で? それでお二人はなんでこんなところでコソコソご飯食べてるんスか? 何かナイショ話とかしてたんスか?」
「……ああ、お前のことを話してたんだよ……」
フリードさんは頭を抱えながらそう答える。
「おお~う! 話題の中心はやっぱりカンナちゃんなんスね~! で? で? 主にどんな事話してたんスか!?」
――ああ、遠距離で戦う君のスタイルにも強みがあるんじゃないかって……
「ぬほっ!! わかってくれましたか!? 遠距離からクールにバシっと決めちゃうカンナちゃんの素敵さが!? さっすがリーダーさんっスね~! どっかの頭悪そうな赤毛のヤンキーとは大違いっスよ~!」
アレックスのことだろうか? 別に君のことを
「まあ、そうだな。映像を見たが腕前はかなりのもんだ。あれを生かすにはやはり
「フホホホッ! いやあ~それほどでも? ないような? あるような? ウフフもっと言っちゃっていいっスよ隊長さん~!」
すごいな……僕と同い年くらいなのに、ここまで小学生並みに
なんか、だんだんストレスが
「褒めてるわけじゃない! 狙撃の腕前は認めるが、それでAP(アポトーシス)弾が撃てないんじゃあ片手落ちだ!」
「うぐっ!」
「それにだ、一番の問題はこの事をリーダーや仲間に隠し、勝手な行動を取ったことだ!! お前のやったことは明らかな命令違反だ! 減給どころか
「ううう……で、でも……あたしも……一応活躍しましたし……」
先ほどとは打って変わって、カンナはシュンと肩を落として小さく
……本当に精神が子どもみたいだな、この子は……
「でもでもっ! アラガミの攻撃を避けながら正確な射撃をするのなんてあたしにはできないんスよ!! 冷静に、心を落ち着けた状態じゃないと完璧な狙撃はできないっス!! 隊長さん、リーダーさん! そこんとこをどーか! よろしくっスよ~!」
両手を
彼女の熱意にほだされたわけじゃないけど……カンナの強みを消してしまうのは、部隊にとっても損失になるだろう。
――ようは、OAをカンナに届けられないのが問題なんです。ここさえクリアできれば、この子のスタイルは僕達にとっても心強いものになります。
「ここさえっつってもなあ、そこが一番のネックなんだが……一応、あのドクターにでも相談してみるか? アラガミだけじゃなく神機にも精通してるらしいしな」
ドクターQ・Oか……確かにあの人に
「おおっ! ありがとうございます~!! このご恩は働きでお返ししちゃうっスよ~!」
「浮かれるな! 話はしてみるが、もしも技術的に不可能であるなら、お前も他の銃型同様に近接隊員と行動を共にしてもらうからな!!」
「……はい」
カンナはしょんぼりとした様子で了承する。
「お待たせいたしました。こちらお料理となります」
「ぬほ~っ! 来た来た来たっスよあたしのお肉ちゃん~!! それでは! いっただきまーすっ!!」
料理が来た瞬間にテンションをブチ上げた。表情がコロコロ変わるのは見てて楽しいけど……疲れるなあホント。
料理は確かにおいしかったけど、隣のハイテンションなカンナに
僕とフリードさんとの話し合いは、彼女に対する大きなため息で
……そんなことがあってから、3日後。
カンナにとって大きな
座学を行っている僕達の頭上から、
『第二層Cブロックエリアに中型アラガミ“シユウ”が現れました。第一部隊は至急現場へ
「なっ……中型アラガミだと!? なんでいきなり街中に……!?」
――それどころじゃないアレックス! このままじゃ街の人が危ない!!
第二層の人々はパニック状態に
「わわわっ! 人多すぎっスよ~!!」
「くっ……ぜんぜん進めない……!」
あまりの人の多さに身動きのとれないカンナとイリア。すると、襟元のスピーカーからレインさんの声が届く
『11時の方角にある階段を使ってください! そこから隣の建物の屋根に移り、屋根伝いに移動を! 現場までのルートを送ります!!』
僕達4人は指示に従い、急いで階段を上り隣の屋根に飛び移る。
腕輪にはめた携帯端末が、目標アラガミのいるエリアをホログラムで表示した。
だが……
「オイ……リーダー、ここって……!」
指し示した先は――ブラウン牧師のいたファームと目と鼻の先だった。