ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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※8/4時点 ちょっとキャラの印象にそぐわない表現があったので修正
吞みながら書くのはやっぱアカンみたい。


【プライドという名の自己保身】

 ラスベガス第二支部は四方を分厚い対アラガミ防壁(ぼうへき)に守られた要塞(ようさい)でもある。

 外壁は定期的に偏食(へんしょく)物質でコーティングされており、たとえ大型種が攻め込んで来たとしても複層(ふくそう)構造の防壁を食い破られるまで30分以上はかかるとされている。

 

 大型アラガミですら易々(やすやす)と突破できない外壁を、中型アラガミであるシユウが簡単に踏破(とうは)できた理由は――単に外壁の上を飛んで入り込んだという単純なものであった。

 

 ただし、それは高度一万五千メートル地点からの急襲(きゅうしゅう)だ。飛翔(ひしょう)能力のあるアラガミは複数確認されているため、どの支部でも空中を飛ぶアラガミに対して、偏食物質を塗布(とふ)した拠点防衛用30mmガトリング砲(CIWS)や、修復困難となった神機を高速射出する“空圧(くうあつ)ジャベリン”などで対処(たいしょ)を行う。

 

 だが、下部成層圏(せいそうけん)に達しようとする超高高度から垂直落下した敵に対し、これらの兵器は全く意味をなさない。自由落下による速度に加え、シユウは落下中に何度も加速を加えたことで超音速にまで速度を高めていた――これは弾道ミサイルを撃ち込まれるに(ひと)しい。迎撃できる兵器は、少なくともこの第二支部には存在しなかったのだ。

 

 さらに運の悪いことに、現在この第二支部で尉官以上の手練(てだ)れの神機使いが軒並(のきな)み出払っていた。付近に現れた大型アラガミの討伐(とうばつ)へ出向いており、支部にいるのは配属されたばかりの新人二等兵ばかり。

 

 この状況でまともに戦えるのは、第一部隊――つまり僕達しか存在しなかった。

 

「クソ……無事でいろよ、ガキ共……!」

 

 屋根伝いに()びながら、アレックスがそう呟いた。

 

 ファームにはブラウン牧師だけじゃない。10歳前後の大勢の幼い子供達もいる……最悪の事態となる前に、何としても辿(たど)り着かないと!

 

 ――僕が先行する! ポチっ!!

 

 ガウルルッ!!

 

 オオカミ形態となったポチにまたがると、ポチは(すさ)まじい速度で屋根の上を疾駆した!

 

 速く。もっと速く。最悪の事態となる前に――!

 

 ホログラムが指し示す場所まで約800メートル。すると遠く前方に異様な存在を見つける。

 

 人間のように二本の足で直立する青黒い存在。しかし体高は3メートル近くあり、組んだ腕の両肩から、さらに巨大な蛇腹(じゃばら)状の翼腕(よくわん)を生やしている。

 

 表情がうかがい知れない仮面のような装甲をまとう顔が、真っすぐに見据(みす)えているのは――大勢の子供たちと、彼らを必死で守ろうとする黒ジャージの老いた男性――ブラウン牧師だった。

 

「逃げなさい! 早くっ!!」

 

 牧師の言葉に(したが)い悲鳴を上げて逃げていく子供達。しかし一人だけ、腰を抜かしてしまったのか逃げ遅れた子供がいた。

 

 確か――ザックスという子だ。ゴッドイーターになりたいと夢を語っていたあの子が、実際にアラガミを目にした恐怖で動けずにいる……!

 

 ――ポチっ! もっと速く! 突っ込むんだ!!

 

 ポチはさらに加速を続ける。しかし。

 

 シユウが動いた。体を地面と平行にし、低空での滑空(かっくう)!

 

 ブラウン牧師は両腕を広げる! 身を(てい)してしてザックスを守るために……!

 

 このままでは間に合わない――!

 

 ――カンナっ! 撃つんだ! アラガミを撃てっ!!

 

 遠距離狙撃を得意とする彼女を呼んだ。

 

 しかし――返答はなかった。

 

 代わりに、彼女のものとおぼしき荒い呼吸がスピーカーから聞こえる。

 

 ……後に聞いた話だが、彼女はこの状況下で重大な決断を()いられていたらしい。

 

「ハア、ハア……!」

 

 彼女は7キロメートル後方の地点から全てを見ていた。

 

 右目にかけていた“スポッターモノクル”は、望遠(ぼうえん)観測だけでなく、標的までの距離や風向き・気温・湿度・気圧・重力の影響やコリオリ力までを計算し、銃口に備え付けられた小型カメラから射線(しゃせん)明示(めいじ)。マイクロ単位の銃口の動きから着弾成功のパーセンテージをリアルタイムで算出(さんしゅつ)することまでできる。

 

 成功率は――30%前後。普段の彼女なら絶対に引き金を引かない数値だ。

 

 さらに、アラガミが滑空したことでこの数値がさらに下降。

 

 市民に攻撃を加えようとしている――当たらなくてもいい、とにかく引き金を――!

 

 しかし。

 

 スポッターモノクルが警告を発した。

 

 着弾想定範囲内に、市民が――牧師までも含まれてしまったから。

 

 けれど、このまま撃たなければ牧師はアラガミに殺される。

 

 撃てない。でも――撃たなきゃ――撃たなきゃ――!

 

 彼女の指先は、(こお)ってしまったかのように動かない。

 

 人を誤って撃ってしまうことが怖かった。

 

 ……違う。そうじゃない。

 

 本当はわかっていた。

 

 なにより怖いのは、誰よりも優れていると自負していた射撃に失敗すること。

 

 小さい頃から何をしてもダメで、人から笑われたり(あざけ)られるばかりで。けれど射撃の腕前だけは人一倍優れていた。彼女にとってそれが自分の中で唯一(ゆいいつ)(ほこ)れる部分だった。誰にも負けない自分だけの長所だと信じていた。

 

 もしも。

 

 もしも失敗してしまったら、あたしは……

 

 もしも人を傷つけてしまったら、あたしは……!

 

 それは人を守りたいとする感情ではなかった。己の、ちっぽけな自分自身の、さらに矮小(わいしょう)なプライドを守り切りたいとする、身勝手極まりない感情だったのだ。

 

 わずか0.5秒。わずかなそのためらいが、未来を決定的なものとしてしまった。

 

 スポッターモノクルが激しい警告を発する。さらに降下を続ける着弾率。

 

 モノクルを通じた望遠映像が、牧師の(くちびる)の動きを察知し文字起こしする。

 

 神よ。

 

 私はどうなろうと構わない。

 

 どうかこの子をお守りください。

 

 罪なき子供らをお救いください。どうか子供たちに未来を――!

 

 神への願い。神への懇願(こんがん)

 

 しかし、この世に神はいない。

 

 ゆえに、奇跡も起こらない――

 

 ヴオオっ!!

 

 シユウの巨大な翼腕が振り下ろされ。

 

 ブラウン牧師の上半身は無残に吹き飛ばされた。

 

 骨も臓物(ぞうもつ)も脳も一撃で砕かれミンチ状に混然(こんぜん)とされ、赤黒と青灰(せいかい)の血肉が雨のように周囲へ降り注ぐ。

 

 地面にへたりこむザックスの頭上から、大量の血の雨が降る。

 

 生ぬるい体温が残る血の雨。噴水のように血を噴き上げる下半身。

 

 それらが――父親のように(した)っていたブラウン牧師のものだと認識し――ザックスは絶望の涙を静かに流した。

 

「あ、あ、あたし……あたし、あたしは……」

 

 カンナは――最後まで撃つことができなかった。

 

 ――ポチぃぃっ!!

 

 僕は歯噛(はが)みし、怒りの感情のままシユウへと吶喊(とっかん)した!

 

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