トラックは廃墟となった街の外れに止まり、僕達が下りると元の道へと走り去ってしまった。
レオナルド隊長に聞くと、アラガミは高いエネルギーを発するものに引き寄せられるから、車を長く停めておくことはできないそうだ。
……それって、この辺りにはアラガミが出るってことじゃ……?
僕がそう疑問を発するより先に、レオナルド隊長が僕らに訓練の開始を告げた。
「
僕達は言われた通り、自分達の神機を構えた。
特に目を引いたのがアレックスの神機。巨大な刀身と分厚い装甲がついた、無骨な神機だ。彼が平然とそんな神機を扱えるのは、ゴッドイーターとなれたからなのか。元々力も強かったのかもしれない。
イリアは僕の半分くらいの長さの、神機の中では小ぶりなタイプのものを握っていた。扱いやすそうだけど、リーチが短いからアラガミと戦う場合はかなり近づかないといけないだろう。大丈夫かな……?
「構えたな。では、素振りを1000回ほど始めろ」
――えっ!?
「ちょ、ちょっと待て! せせせ1000回って本気かあんた!?」
あわてて問い直すアレックスに、レオナルド隊長はすげなく答える。
「当然だ。神機を振るう体勢、使う筋肉、剣の間合い……それらを体に覚えさせるには1000回でもまだまだ足りん。今日はまず1000回。明日以降はそれ以上の回数をこなしてもらう」
「嘘だろ……正気かよ……」
「訓練はアラガミを倒すため。ひいてはお前達自身の命を守るためのものだ。常に全力で剣を振るように。手を抜いたら抜いた分回数を二倍に増やす」
お、鬼だ…………
「それ、まずは一回。声を出し、全力で剣を振れ!」
「「い、い~ち!」」
……約1時間半後。僕達は1000回におよぶ神機の素振りを達成した。
ただ振るだけならばまだしも、常に全力で振り続けなければならないのがキツすぎる。終わった頃には僕とアレックスは
そんな僕達を見て、レオナルド隊長が呆れたように肩を落とす。
「なんだ。もうバテたのか。イリアを見ろ、全然余裕そうだぞ」
彼女を見ると、多少息は乱れていたものの、汗ひとつかかずにその場に佇んでいた。
「……そりゃアイツの神機、見るからに軽そうだしよ……」
「文句を言うな。文句を言っても適合した神機は変えられん」
にべもなくレオナルド隊長に返され、アレックスはぶつくさ文句を呟くだけだった。
……しかし、本当に神機が軽いだけの話なんだろうか? 実はあの子、かなりの実力者なんじゃ……?
「2人とも立て。次はシールドの訓練を行う」
……ほとんど休む時間もくれないのか……キッツいなあ……
アレックスと2人でヨロヨロ立ち上がり、乳酸が溜まりまくった重い腕で、さらに重い神機をやっとこさ持ち上げた。
「よし。お前達の神機の側面にある装甲板。それを展開することでシールドを張ることができる」
レオナルド隊長は言いながら、自身の神機を構えた。
「柄の上にある神機の“核”に触れろ。それでシールドを展開できる」
……神機の核。このオレンジ色に輝く部位だろうか?
触れてみると――ガチン! と勢いよく機構が作動する。バネで跳ね上がるような反動と共に、側面の2枚の装甲板が全面に展開。
二枚の装甲が連結し、一枚の強固なシールドが展開された。
「慣れれば触れずとも展開できるようになる。神機に慣れる……つまり、己の神機とある程度の
そう言いながら、レオナルド隊長がスタスタと僕の前まで歩いてきた。
え……何か、嫌な予感……?
予感は的中した。
ガキィン!!
突然レオナルド隊長が僕のシールドを
――な、何を……!?
「これがシールドの訓練だ。今から5分……いや10分間、俺はお前を攻撃し続ける。俺はあらゆる方角から攻撃する。斬られたくなければ全て防いでみせろ」
――そ、そんな無茶な――
ガギィィン!!
僕の抗議にも耳を貸さず、レオナルド隊長は攻撃を繰り返してくる!!
「その調子だ。俺の一挙手一投足に集中しろ。攻撃の予備動作を把握するんだ。それを掴めば敵のどんな攻撃も事前に防ぐことができる」
左斬り上げ、
突きの威力で全身が浮き、両腕にビリビリと衝撃が伝わる……こ、これを10分も、受け続けろっていうのか……!?
「気を抜くな。集中しろ。訓練とはいえ俺は真剣を振っている。まかり間違えば腕や足を斬り落とされるだろう……五体満足でいたければ、死ぬ気で防げ」
やっぱり鬼だ……!!
その後も僕はレオナルド隊長の攻撃を防ぎ続けた。
ここに来る前に、アレックスと腕が切られた後のサバイバル方法について話していたことが脳裏をよぎる。
冗談じゃない。生きていけるわけがない。絶対に腕や足を斬られる訳にはいかない――!
凄まじい勢いで攻撃が繰り出され、僕は死ぬ気で防ぎまくった。そして、
「……10分経ったか。よくやった。全て防ぎ切るとは、なかなかスジが良い」
再び疲労困憊で倒れ、汗にまみれゼイゼイと息を吐く僕の頭上で、レオナルド隊長が涼しい顔でそう言った。
……明日以降もこの人の下で訓練するんだろうか。心折れそう……
「次、アレックス。前へ」
「うう……次は俺かよ……」
心底嫌そうな顔をしながら、アレックスが盾を構えた。
僕と同じように隊長から攻撃を受け続けるアレックス。
しかし6度目の攻撃で、隊長の剣先が彼のふくらはぎを浅く切った!
「痛っってえ!!」
「……騒ぐな。ただのかすり傷だ。ゴッドイーターの体は常人の数十倍の治癒力を有する。その程度ならすぐ血は止まり、数分で傷跡も残さず治癒される」
レオナルド隊長の言うことは本当だった。アレックスの傷の血はたちどころに止まり、傷跡もかさぶたすら作らずに徐々に薄くなっていく……!
「……た、確かに大したことねえことかもしれねえけどよ! 痛えもんは痛えんだよ!!」
「痛覚だけは常人のままだからな。お前の盾は大きい分防げる範囲は広い。必要最小限の動きで防げるはずだ。今度は傷を受けないようにしっかり受け続けろ」
「いや、神機使うのも初めての状態なのにそんな達人みてえなこと――痛ってえ!!」
その後もアレックスはちょいちょい隊長に斬られつつ、10分間をなんとかしのぎ切った。
「……防御面では改善ありだな」
アレックスも僕と同様に疲労困憊で倒れ込んでしまった。傷はいずれもかすり傷で、すでに完治しているようだ。
……かすり傷程度で済んでいるのは彼の技量……というより、隊長の技術の高さの表れなのだろう。
「さて……イリア。前に出ろ」
イリアは無言で隊長の前に進む。彼女の盾は僕達以上に小さい。隊長からの
そんな僕の心配は……完全に
ギイン!
素早い隊長の攻撃を、イリアはいとも簡単に防いでみせた。
「ほう……」
続く隊長の3連擊。右袈裟・左袈裟・右斬り上げの攻撃を、イリアは平然とした様子でブロックしてみせる。
これに隊長は攻撃を一旦止めて、訝しむようにイリアを見た。
「……技能試験の成績はあまり良くなかったはずなんだがな……一段階スピードを上げる。付いてこいよ」
ギンギンギンギンギン!!
レオナルド隊長の連撃……いやこれはもはや“乱舞”だ。速すぎて目で追えないほどの速度の連続攻撃を、イリアは正確に精密に防ぎ続けてみせた。
……盾で防ぐ、というより、あの曲線を描く
「……す、すげえ……」
アレックスが思わず
対角線状の攻撃。フェイントを交えた攻撃。地面スレスレの攻撃すら跳んでかわし、頭上を迫る攻撃すら空中にいながら余裕で防ぎ逸らす。
隊長が攻撃を逸らされ、体勢を崩した
「そこまでだ」
落ち着いたレオナルド隊長の声が辺りに響く。イリアの神機の切っ先は、レオナルド隊長の喉元で静止していた。
「……誰が反撃しろと言った?
「……!!」
イリアが驚愕の表情を浮かべる。見ると、レオナルド隊長の左膝が彼女の腹部の手前で止まっているのがわかった。
……もしもイリアが攻撃を止めていなければ……寸前に隊長の膝蹴りが彼女の腹部を突き上げていただろう……なんて攻防なんだ……!!
「……すみません、でした……」
イリアが神機を下ろし、か細い声でそう隊長に謝罪した。
「なんだ。素直な奴じゃないか。腕試しをしたかったらいつでも俺を呼べ。相手になってやろう」
レオナルド隊長はそう言い、携帯端末で時刻を確認した後――こう切り出した。
「遅くなったが……昼飯にしよう。休憩だ」
「よっしゃあ!!」
寝転がったままガッツポーズをするアレックス。隊長は失笑するようにわずかに口元を緩め、僕はその様子に苦笑を浮かべるほかなかった。