口元からおびただしい血を
ボウッ!
シユウが左の翼腕から火球を放つ! とっさに顔を
何か可燃性の油のようなものを着火し射出したのか? いずれにせよ避けられない攻撃ではない!
――行けぇ!
ポチに命じてヤツの
ヴォアアアッ!!
シユウが肉塊を捨て、両方の翼腕から
だがポチはその
よし――神機形態に戻し、一撃を見舞ってこの場から下がらせよう。
ポチの背にある、
しかし、その時。
シユウが、とっておきと言わんばかりの巨大な火球を両手で作り出しているのを見た。
――まずい!!
僕は素早くポチを神機形態に戻し、そのまま盾を展開!
数瞬後に放たれた巨大火球が盾に衝突、破裂!! すさまじい
だが、僕は
シユウは両腕を組み、肩の翼腕の手のひらを己に向け、挑発するように指先を前後に動かしてみせた。
バケモノのくせに挑発とは……乗ってやるつもりはないが、落とし前はしっかりとつけさせてもらおう。
シユウは翼腕を鳥のように後方へしまうと、こちらへ向かい二本の脚で突進!
その時、ヤツの右側面から
「うおおらぁぁっ!!」
アレックス。巨大な大剣型神機を頭上に振りかぶり、全身全霊のからたけ割りを放とうとしていた!
ヴォオオっ!!
シユウは素早く反転。後方へ飛び
アレックスは紙一重で火球を避け、
「……俺はおとりだ、クソ野郎」
シユウが飛んだ背後。いつの間にか、イリアが短剣型神機を構えて
ヴォアッ!?
彼女に気づきシユウが一瞬動きを止める。この
僕も全速力で突進し、彼女の
――装甲の隙間だ!
「わかってる!!」
シユウは両の
蛇腹状になった翼腕。装甲と装甲の隙間に
ヴォアアアアッ!!
シユウの絶叫。ザクリと肉を断ち切る重い手ごたえが神機に残った。
そして僕とイリアがほぼ同時に翼腕を両断したことで、こいつの腕を使った攻撃は完全に封じられた形となる。
死んで
逃がすか……!
やつは恐らく、高高度からの奇襲で大量のエネルギーを使ってしまったのだろう。おおかた支部内に着地した衝撃で大ダメージを負い、そこで体を再生させたことでエネルギーを
逃げて
僕は再びポチにまたがり、逃げるシユウを
ヴォ……!?
仮面のような装甲で
追いついたポチが巨大な口を開け、シユウの頭上から襲い掛かったのだ。
バギイイン!!
風圧すら感じるほどの勢いで
しばらく脚がジタバタとみっともなく動き回るが、やがて
体内のコアを
…………
しかし、悲しみは残されたままだ。
背後を振り返る。牧師の血に染まりうずくまるザックスに、避難していた子供たちが泣きながら向かっているところだった。
あの子たちにとっては何も終わってなんかいない。
これから……親のように
アラガミが存在する限り、このような悲劇はいつまでも繰り返されてしまうのだろう……
やるせない思いを抱きつつ、僕はイリアとアレックスの二人と共に、彼女の元へと向かった。
屋根の上で、銃型神機を握ったまま立ち尽くす――カンナ。
「……撃てたのに……あたし……撃って……」
うわごとのようにそう何度も
近寄り、声を掛けようとしたが、彼女はくるりとこちらに背を向け、肩を落としたまま力ない足取りで帰還していった。
「リーダー……」
心配そうな様子で僕に振り返るイリア。
僕は、静かに首を振った。
あの様子だと何を言っても響かない。逆に、
――今はそっとしておこう。
アレックスは、遠くで牧師の
「なあ……あれも、“あのヒル”の
ウェンディゴ。寄生されると、アラガミは捕食のためではなく人を殺すためだけに行動するようになる。
わざわざ高高度から奇襲を行った理由があのアラガミの影響だというのなら、確かに全て納得はいく。
――支部長に話そう。あのアラガミは危険だ。
やがてアラガミが
彼は――任務から戻ったリアムさんは、どんな顔で戻ってくるのだろう。
任務中に、また大切な人を失った彼の心情を思うと、胸の奥で鋭い痛みが走った。
……強くならなければならない。
あのニャルラテップから生き
アラガミの
街に戻る大勢の人々の波を避けながら、僕はひとり、そう決意した。
◆◆◆
早朝5時50分。
そんな時間帯に――1人、センタースワンの
「よいしょ、っと……ふう」
カンナだ。また大きな
「ふー……すごく短い間でしたが、お世話になりました……」
カンナはセンタースワンへ深く一礼し、そのまま気落ちした様子で立ち去ろうとした。
そこで。
「……あ、」
ようやく、前方に立つ僕の存在に気が付いたようだった。
「リーダーさん……すみません、やっぱりあたし、この仕事向いてなかったみたいっス……」
――極東に帰るの?
「はい。現実ってやつがよーくわかりました……あたしにはやっぱりこの仕事無理でした……あたしなんかじゃみんなの足を引っ張るだけっスから……実家の農業でも手伝おうかと思うっス……」
――それでいいの? 君は、本当にこれで満足してる?
「……っ! あたしが満足してどうするんスか!! あたしがあの時撃ってれば! もしかしたらあの牧師さんは助かったかもしれないのに!! でもあたしは撃てなかった……
全部あたしのせいなんスよ。だからあたしは責任を取らなきゃいけない。のうのうと何事もなかったように仕事なんてしちゃダメなんスよ……だから、
――君が辞めて、何が変わるんだ?
「いや……だ、だから、あたしは辞めて責任を取るんス。それがスジってもんじゃないんスか!? とにかくどいてください! あたしはもうあなたの部隊の一員じゃないっスから!!」
カンナは強引に僕の
しかし直後にその足が止まる。僕の後ろに、アレックスとイリアが待ち構えていたからだ。
「なんで……みんなして……」
「見え見えなんだよ。お前の考えそうなことなんてな」
アレックスがため息を吐き、
「……実はカイがみんなに伝えてくれたから、ここにいる」
イリアがぼそりとぶっちゃけると、アレックスが「いや俺だって言われる前から分かってたし!」と苦しい言い訳をしだした。
「……なんなんスか。あたしは前のグボログボロとの戦いでもご迷惑かけて、牧師さんもみすみす死なせちゃったクズなんスよ? そうやって……
「お前……」
アレックスの目が
――牧師さんが死んだのは、君のせいじゃない。
ぴくり、とカンナの肩が動いた。
――君はあの時、自分のできる限りのことをやった。けれど残念ながら結果として失敗した。それだけだ。誰も君を責めないし、君も君自身を責めるべきじゃない。
「……そうじゃない。そうじゃないっ!!」
カンナが振り返り、泣きそうな顔で僕に感情のすべてをブチまけた。
「あたしはっ! あの時撃てたはずなんスよ!! あたしは……あたしは、失敗するのが怖かったんス! 人の命が失われるよりも!! 失敗して、失望されて、みんなに見捨てられるのが怖かった!!
……最低なんスよ。人の命より自分の事を優先して……あたし、最悪なんス。だからもう、もうゴッドイーターなんてやる資格ないんスよ……! あたしなんかが人を
カンナの目から、涙が一滴、静かに
彼女の発言から、彼女が今どういう心境の中にいるのかがよくわかった。
その上で、彼女に問う。
――だから、責任を取って辞めるっていうの?
「グスっ……そうっスよ! それ以外に何があるっていうんスか……!」
――わかった。責任を感じるというなら、その心まで否定するつもりはない。ただ一つ言わせてもらう。責任を負うこと、責任を果たす事とは、仕事を辞めて解決するようなものじゃない。
涙で
「じゃあ……じゃあ、どうすればいいんスか!? 責任を取るって、どうやって取ればいいんスか!?」
僕は一瞬言葉を切って考えた。
ブラウン牧師の死体にすがりつく、子供たちの悲痛な顔が脳裏をよぎり――深く息を吐いて、答えた。
――向き合うんだ。残された子供たちに、
「…………!」
カンナの瞳の奥に、恐れの感情が一瞬よぎった。
そうだ。
彼女も本当はわかっていたんだ。自分が何をするべきなのかを。
けれどそこから目を
彼女には恐怖に打ち勝って欲しい。一度敗北した自分自身の恐れに打ち勝って欲しい。
だから僕はこう申し出た。
――僕も一緒に行く。謝りたければ一緒に謝ろう。もし子供達から
「そんな! リーダーさんは……!」
――だから、“捨てる”のは止めて欲しいんだ。
負けてもいい。一度逃げたっていい。そこからまたやり直せるなら何度だって逃げてもいいさ。
でも“捨てる”のだけは絶対にやっちゃいけないんだ。捨てたらもうそこで終わるんだ。やり直すことすらできなくなる。
僕は、僕たちは、君にもう一度やり直して欲しいと思っている。もう一度立ち上がって欲しいと心から願っている。
だから“捨てて”欲しくない。自分自身を、
「……あたしは、でも……あたしは…………」
「そうだな、カイ――いや、リーダーに賛成だ。なんたって俺はお前の射撃に一度救われてるからな……ええと、なんつうか、ま、また一緒に戦ってくれよ……な?」
「アレックスさん……」
「……怖いの、わかるよ。わたしも、自分のことなのに自分で抑えきれなくて、怖くて、閉じこもってたことあったから……でも、閉じこもってても解決しないってことが分かったから。
自分でどうにもできないことは、自分以外の人に頼るしかないって知ったから。自分の事は自分だけで解決しようっていうのはただのカッコつけだってわかったから……」
「イリアさん……!」
僕は一歩進み、カンナの正面に立って、言った。
――僕たちは君を見限らない。怖いことも、悲しみも、
人の悩みは他人事にしない。チーム全体で解決する。それがこの第一部隊のルールだ。
(……そうだったのか?)
(そうだったんだ……)
カンナの後ろでアレックスとイリアが
「う、う、ううう~っっ!!」
カンナはその場でへたりこみ、これまで抑え込んでいた感情を爆発させるように、その場で泣き続けた。
肩を大きく落とすアレックスの横で、イリアがおろおろとした様子で僕とカンナを
僕は見かねて、彼女に向けて一つ大きく
「っ!!」
僕の意図を察知し、イリアはへたり込んで泣き続けるカンナの肩を優しく抱きしめていた。
ともかく、これで一件落着ということでいいのだろうか。
なんというか、初めてリーダーっぽいことができたような、そうでもないような……?
けれど、カンナが一歩踏み出せるようになったのなら、それ以上の収穫はないだろう。あのまま見捨てていれば、彼女はきっと自分自身から逃げ続けるだけの人生を送っていただろうから。
……朝日が本格的に上り始めた。
それでも僕達3人は、カンナが泣き止むまでずっとそばに