ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【己と向き合う事】

 翼腕(よくわん)で牧師だった肉塊(にくかい)(つか)(むさぼ)り食らうシユウ。

 

 口元からおびただしい血を()らしながらも、奴は冷静にこちらの接近に対応して見せた。

 

 ボウッ!

 

 シユウが左の翼腕から火球を放つ! とっさに顔を()らして避けると、火球は僕の髪の毛先を()がし、左後方の地面に着弾・破裂した。

 

 何か可燃性の油のようなものを着火し射出したのか? いずれにせよ避けられない攻撃ではない!

 

 ――行けぇ!

 

 ポチに命じてヤツの(ふところ)へと接近する。牧師を――顔見知りの人を無残に殺された怒りはあるが、それよりも彼が命がけで守ろうとしたザックスからヤツを離さなければならない!

 

 ヴォアアアッ!!

 

 シユウが肉塊を捨て、両方の翼腕から矢継(やつ)(ばや)に火球を連続射出!

 

 だがポチはその軌道(きどう)を完全に読み、左右に跳んで(かわ)しながら肉薄(にくはく)する。

 

 よし――神機形態に戻し、一撃を見舞ってこの場から下がらせよう。

 

 ポチの背にある、(つか)を握る手に力が入る。敵との距離はおよそ3メートル。

 

 しかし、その時。

 

 シユウが、とっておきと言わんばかりの巨大な火球を両手で作り出しているのを見た。

 

 ――まずい!!

 

 僕は素早くポチを神機形態に戻し、そのまま盾を展開!

 

 数瞬後に放たれた巨大火球が盾に衝突、破裂!! すさまじい轟音(ごうおん)と衝撃が全身を貫き、僕は数メートル後ろに吹っ飛ばされる。

 

 だが、僕は無様(ぶざま)に地面を転がることはなかった。足で地面をブレーキングし、じわりと熱を帯びる靴底の感覚を味わいながら、正面の敵を見据(みす)える。

 

 シユウは両腕を組み、肩の翼腕の手のひらを己に向け、挑発するように指先を前後に動かしてみせた。

 

 バケモノのくせに挑発とは……乗ってやるつもりはないが、落とし前はしっかりとつけさせてもらおう。

 

 シユウは翼腕を鳥のように後方へしまうと、こちらへ向かい二本の脚で突進!

 

 その時、ヤツの右側面から猛然(もうぜん)と迫る者がいた。

 

「うおおらぁぁっ!!」

 

 アレックス。巨大な大剣型神機を頭上に振りかぶり、全身全霊のからたけ割りを放とうとしていた!

 

 ヴォオオっ!!

 

 シユウは素早く反転。後方へ飛び退()き回避しながら、両の翼腕による火球を至近距離で破裂させる!

 

 アレックスは紙一重で火球を避け、忌々(いまいま)しくシユウを見やり、(つぶや)く。

 

「……俺はおとりだ、クソ野郎」

 

 シユウが飛んだ背後。いつの間にか、イリアが短剣型神機を構えて(たたず)んでいた。

 

 ヴォアッ!?

 

 彼女に気づきシユウが一瞬動きを止める。この(すき)は逃さない!!

 

 僕も全速力で突進し、彼女の加勢(かせい)に入る!

 

 ――装甲の隙間だ!

 

 「わかってる!!」

 

 シユウは両の翼腕(よくわん)を振り回そうとしたが、もはや遅い!

 

 蛇腹状になった翼腕。装甲と装甲の隙間に(やいば)(すべ)らせ、疾走する勢いと上背(うわぜい)の筋肉を生かし神機を振り抜き――両断した!

 

 ヴォアアアアッ!!

 

 シユウの絶叫。ザクリと肉を断ち切る重い手ごたえが神機に残った。

 

 そして僕とイリアがほぼ同時に翼腕を両断したことで、こいつの腕を使った攻撃は完全に封じられた形となる。

 

 死んで灰白(かいはく)色に染まるオラクル細胞を流出させながら、シユウは急に方向転換。僕達から距離をとるべく疾走(しっそう)する!

 

 逃がすか……!

 

 やつは恐らく、高高度からの奇襲で大量のエネルギーを使ってしまったのだろう。おおかた支部内に着地した衝撃で大ダメージを負い、そこで体を再生させたことでエネルギーを浪費(ろうひ)したのだ。今のシユウは他のアラガミのように体の高速再生は行えない。

 

 逃げて再起(さいき)を図ろうというのか。そんなことはさせない!

 

 僕は再びポチにまたがり、逃げるシユウを猛追(もうつい)する!

 

 ヴォ……!?

 

 仮面のような装甲で(おお)われたシユウだったが、振り返ったヤツは間違いなく驚愕(きょうがく)の表情を浮かべていた。

 

 追いついたポチが巨大な口を開け、シユウの頭上から襲い掛かったのだ。

 

 バギイイン!!

 

 風圧すら感じるほどの勢いで(あご)は閉じられ、シユウは上半身を丸々ポチに()みつかれた。

 

 しばらく脚がジタバタとみっともなく動き回るが、やがて痙攣(けいれん)だけをのこして脱力する。

 

 体内のコアを捕食(ほしょく)されたのだ。僕がポチの背から下りると、シユウは完全に動きを停止し、やがて残された下半身も砂のように崩れて散った。

 

 …………

 

 (かたき)はとった。

 

 しかし、悲しみは残されたままだ。

 

 背後を振り返る。牧師の血に染まりうずくまるザックスに、避難していた子供たちが泣きながら向かっているところだった。

 

 あの子たちにとっては何も終わってなんかいない。

 

 これから……親のように(した)っていた牧師がいない人生を始めなければならない……

 

 アラガミが存在する限り、このような悲劇はいつまでも繰り返されてしまうのだろう……

 

 やるせない思いを抱きつつ、僕はイリアとアレックスの二人と共に、彼女の元へと向かった。

 

 屋根の上で、銃型神機を握ったまま立ち尽くす――カンナ。

 

「……撃てたのに……あたし……撃って……」

 

 うわごとのようにそう何度も(つぶや)いている。

 

 近寄り、声を掛けようとしたが、彼女はくるりとこちらに背を向け、肩を落としたまま力ない足取りで帰還していった。

 

「リーダー……」

 

 心配そうな様子で僕に振り返るイリア。

 

 僕は、静かに首を振った。

 

 あの様子だと何を言っても響かない。逆に、(かま)えば構うほど彼女を傷つける恐れもある。

 

 ――今はそっとしておこう。

 

 アレックスは、遠くで牧師の遺骸(いがい)にすがりつく子供たちを痛々しい様子で(なが)めながら、口を開く。

 

「なあ……あれも、“あのヒル”の仕業(しわざ)だと思うか……?」

 

 ウェンディゴ。寄生されると、アラガミは捕食のためではなく人を殺すためだけに行動するようになる。

 

 わざわざ高高度から奇襲を行った理由があのアラガミの影響だというのなら、確かに全て納得はいく。

 

 ――支部長に話そう。あのアラガミは危険だ。

 

 やがてアラガミが討伐(とうばつ)されたと知った市民が戻り、血まみれの子供たちを大人たちが抱きかかえ、破壊されたファームから安全な避難場所へと連れて行った。

 

 彼は――任務から戻ったリアムさんは、どんな顔で戻ってくるのだろう。

 

 任務中に、また大切な人を失った彼の心情を思うと、胸の奥で鋭い痛みが走った。

 

 ……強くならなければならない。

 

 あのニャルラテップから生き()びるためだけじゃない。

 

 アラガミの犠牲(ぎせい)となる人を一人でも減らすために、僕は、さらに強くならなければならない……!

 

 街に戻る大勢の人々の波を避けながら、僕はひとり、そう決意した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 早朝5時50分。

 

 濃紺(のうこん)のビロードのような空の東の隙間から、オレンジ色の陽光が顔を(のぞ)かせる。

 

 そんな時間帯に――1人、センタースワンの用務員(ようむいん)用の(とびら)から、コソコソと外へ出てくる人影がいた。

 

「よいしょ、っと……ふう」

 

 カンナだ。また大きな風呂敷(ふろしき)を肩に背負い、何度もため息を吐きながらとぼとぼと歩く。

 

「ふー……すごく短い間でしたが、お世話になりました……」

 

 カンナはセンタースワンへ深く一礼し、そのまま気落ちした様子で立ち去ろうとした。

 

 そこで。

 

「……あ、」

 

 ようやく、前方に立つ僕の存在に気が付いたようだった。

 

「リーダーさん……すみません、やっぱりあたし、この仕事向いてなかったみたいっス……」

 

 ――極東に帰るの?

 

「はい。現実ってやつがよーくわかりました……あたしにはやっぱりこの仕事無理でした……あたしなんかじゃみんなの足を引っ張るだけっスから……実家の農業でも手伝おうかと思うっス……」

 

 ――それでいいの? 君は、本当にこれで満足してる?

 

「……っ! あたしが満足してどうするんスか!! あたしがあの時撃ってれば! もしかしたらあの牧師さんは助かったかもしれないのに!! でもあたしは撃てなかった……肝心(かんじん)な時に怖くなって撃てなかった……! 

 全部あたしのせいなんスよ。だからあたしは責任を取らなきゃいけない。のうのうと何事もなかったように仕事なんてしちゃダメなんスよ……だから、()めます。すみませんでした……」

 

 ――君が辞めて、何が変わるんだ?

 

「いや……だ、だから、あたしは辞めて責任を取るんス。それがスジってもんじゃないんスか!? とにかくどいてください! あたしはもうあなたの部隊の一員じゃないっスから!!」

 

 カンナは強引に僕の(わき)を通ろうとした。

 

 しかし直後にその足が止まる。僕の後ろに、アレックスとイリアが待ち構えていたからだ。

 

「なんで……みんなして……」

 

「見え見えなんだよ。お前の考えそうなことなんてな」

 

 アレックスがため息を吐き、

 

「……実はカイがみんなに伝えてくれたから、ここにいる」

 

 イリアがぼそりとぶっちゃけると、アレックスが「いや俺だって言われる前から分かってたし!」と苦しい言い訳をしだした。

 

「……なんなんスか。あたしは前のグボログボロとの戦いでもご迷惑かけて、牧師さんもみすみす死なせちゃったクズなんスよ? そうやって……(うわ)(つら)の仲間感出して内輪(うちわ)だけで気持ちよくなってるだけじゃないんスか? あたしの事なんて放っといて欲しいっス……」

 

「お前……」

 

 アレックスの目が徐々(じょじょ)に怒りの色を帯び始める。僕は彼に向かって静かに首を振り、彼に()わって冷静に彼女へ語りかける。

 

 ――牧師さんが死んだのは、君のせいじゃない。

 

 ぴくり、とカンナの肩が動いた。

 

 ――君はあの時、自分のできる限りのことをやった。けれど残念ながら結果として失敗した。それだけだ。誰も君を責めないし、君も君自身を責めるべきじゃない。

 

「……そうじゃない。そうじゃないっ!!」

 

 カンナが振り返り、泣きそうな顔で僕に感情のすべてをブチまけた。

 

「あたしはっ! あの時撃てたはずなんスよ!! あたしは……あたしは、失敗するのが怖かったんス! 人の命が失われるよりも!! 失敗して、失望されて、みんなに見捨てられるのが怖かった!! 

 ……最低なんスよ。人の命より自分の事を優先して……あたし、最悪なんス。だからもう、もうゴッドイーターなんてやる資格ないんスよ……! あたしなんかが人を(まも)る資格なんてないっ!!」

 

 カンナの目から、涙が一滴、静かに(ほお)を伝った。

 

 彼女の発言から、彼女が今どういう心境の中にいるのかがよくわかった。

 

 その上で、彼女に問う。

 

 ――だから、責任を取って辞めるっていうの?

 

「グスっ……そうっスよ! それ以外に何があるっていうんスか……!」

 

 ――わかった。責任を感じるというなら、その心まで否定するつもりはない。ただ一つ言わせてもらう。責任を負うこと、責任を果たす事とは、仕事を辞めて解決するようなものじゃない。

 

 涙で()れたカンナの瞳が、驚いたように僕を見返す。

 

「じゃあ……じゃあ、どうすればいいんスか!? 責任を取るって、どうやって取ればいいんスか!?」

 

 僕は一瞬言葉を切って考えた。

 

 ブラウン牧師の死体にすがりつく、子供たちの悲痛な顔が脳裏をよぎり――深く息を吐いて、答えた。

 

 ――向き合うんだ。残された子供たちに、真摯(しんし)に、向き合い続けるんだ。

 

「…………!」

 

 カンナの瞳の奥に、恐れの感情が一瞬よぎった。

 

 そうだ。

 

 彼女も本当はわかっていたんだ。自分が何をするべきなのかを。

 

 けれどそこから目を(そむ)けた。子供達と向き合うことを無意識に恐れた――だから、早朝に誰にも告げずに逃げ出すような真似(まね)をしたのだ。

 

 彼女には恐怖に打ち勝って欲しい。一度敗北した自分自身の恐れに打ち勝って欲しい。

 

 だから僕はこう申し出た。

 

 ――僕も一緒に行く。謝りたければ一緒に謝ろう。もし子供達から非難(ひなん)を受けたとしても僕が一緒に受け止める。牧師さんを助けられなかったのは僕も同じなんだ……

 

「そんな! リーダーさんは……!」

 

 ――だから、“捨てる”のは止めて欲しいんだ。

負けてもいい。一度逃げたっていい。そこからまたやり直せるなら何度だって逃げてもいいさ。

 でも“捨てる”のだけは絶対にやっちゃいけないんだ。捨てたらもうそこで終わるんだ。やり直すことすらできなくなる。

 僕は、僕たちは、君にもう一度やり直して欲しいと思っている。もう一度立ち上がって欲しいと心から願っている。

 だから“捨てて”欲しくない。自分自身を、見限(みかぎ)らないで欲しい。

 

「……あたしは、でも……あたしは…………」

 

「そうだな、カイ――いや、リーダーに賛成だ。なんたって俺はお前の射撃に一度救われてるからな……ええと、なんつうか、ま、また一緒に戦ってくれよ……な?」

 

「アレックスさん……」

 

「……怖いの、わかるよ。わたしも、自分のことなのに自分で抑えきれなくて、怖くて、閉じこもってたことあったから……でも、閉じこもってても解決しないってことが分かったから。

 自分でどうにもできないことは、自分以外の人に頼るしかないって知ったから。自分の事は自分だけで解決しようっていうのはただのカッコつけだってわかったから……」

 

「イリアさん……!」

 

 僕は一歩進み、カンナの正面に立って、言った。

 

 ――僕たちは君を見限らない。怖いことも、悲しみも、(くや)しさも、すべて僕達に共有して欲しい。

 人の悩みは他人事にしない。チーム全体で解決する。それがこの第一部隊のルールだ。

 

(……そうだったのか?)

 

(そうだったんだ……)

 

 カンナの後ろでアレックスとイリアが困惑(こんわく)した様子で耳打ちしていた。ちょ、ちょっと人がカッコよく言っている時に後ろでそういうのやめてくれない!?

 

「う、う、ううう~っっ!!」

 

 カンナはその場でへたりこみ、これまで抑え込んでいた感情を爆発させるように、その場で泣き続けた。

 

 肩を大きく落とすアレックスの横で、イリアがおろおろとした様子で僕とカンナを交互(こうご)に見る。

 

 僕は見かねて、彼女に向けて一つ大きく(うなづ)いた。

 

「っ!!」

 

 僕の意図を察知し、イリアはへたり込んで泣き続けるカンナの肩を優しく抱きしめていた。

 

 ともかく、これで一件落着ということでいいのだろうか。

 

 なんというか、初めてリーダーっぽいことができたような、そうでもないような……?

 

 けれど、カンナが一歩踏み出せるようになったのなら、それ以上の収穫はないだろう。あのまま見捨てていれば、彼女はきっと自分自身から逃げ続けるだけの人生を送っていただろうから。

 

 ……朝日が本格的に上り始めた。

 

 それでも僕達3人は、カンナが泣き止むまでずっとそばに居続(いつづ)けた。

 

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