ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【それでも時は前へ進む】

「……終わったのか?」

 

 ブラウン牧師が亡くなった翌日の昼過ぎ。彼の葬儀(そうぎ)を終え、センタースワンに戻ると、ロビーの椅子(いす)に座っていたアレックスがそう声を掛けてきた。

 

 僕が(うなづ)くと、僕の後ろを歩いていたカンナが、泣き()らして赤くなった目と鼻で僕の横に立つ。

 

「……大丈夫?」

 

 イリアが心配そうに駆け寄るが、カンナはグスグスと鼻を鳴らし、無言で頷くことしかできないようだった。

 

「やっぱ……責められたか? 子供達に……?」

 

 僕はレンタルした喪服(もふく)の上着を(たた)みつつ、首を横に振った。

 

 葬儀の前に、僕とカンナは子供達に会い、二人(そろ)って頭を下げて謝罪した。

 

 カンナに至ってはボロボロと大粒の涙を流しながら、何度も何度も頭を下げた。自分が撃てなかったせいだ、自分のせいなんだと涙ながらに……

 

 けれど、子供たちは誰一人として、僕やカンナを非難(ひなん)したり罵倒(ばとう)することはなかった。

 

 カンナが謝るたびに、言った。『お姉ちゃんのせいじゃない』と。

 

『悪いのはアラガミだよ。お姉ちゃんたちはアラガミをやっつけてくれたから。感謝しかしてないよ』……と。

 

『牧師様は、常日頃からこの子たちに言い聞かせていたんだ』

 

 喪服姿のリアムさんがそう言った。

 

『もしも誰かがアラガミに食べられてしまったとしても。お前たちは何があっても人を(うら)んではいけない。一番恨むべきはアラガミだ……とね』

 

 リアムさんは……いつも通りだった。その表情に一切の変化はない。

 

 ただ、目の奥に、その視線の先に、より一層の寂寥(せきりょう)を感じさせる深い影を見た気がした。

 

『カイ。少しいいか?』

 

 リアムさんに連れられ、建物の柱の(かげ)で彼と話す。

 

『……あの子たちは強い。まだ牧師様の死を受け止め切れていないだろうに、君たちの前では決して涙をみせようとしない。

 まだ時間はかかるだろうが、あの子たちは前を向こうとしている。牧師様の死を乗り越えようとしている……彼女も、前に進めるよう君から背中を押してあげて欲しい』

 

 僕がうなずくと、リアムさんは懐から何かを取り出して見せる。

 

 それは、黒いバンドが付いた射撃用の保護ゴーグルだった。

 

『ザックスの宝物だ。バガラリーのイサムが使っていたゴーグル、のレプリカらしい。ザックスに渡されたんだ。これを君たちに渡してほしい、と』

 

 僕達に……?

 

『それから……牧師様の(かたき)を取ってくれてありがとう、と言っていた。とても(くや)しそうにね……あいつはきっとゴッドイーターになるんだろうな。このゴーグルだが、彼女に渡してくれないか? ザックスと……子供たちの心と、共に戦って欲しいんだ』

 

 僕は了承(りょうしょう)し、葬儀の後にカンナにゴーグルを手渡した。

 

 事情を知った彼女はまた涙を流し続けたが、それでも――その瞳の奥に、強い決意を秘めた光を見た気がした。

 

 現在ゴーグルは、彼女の喪服の上に首から下げた状態で掛かっている。それから彼女は、出撃の際は必ずそのゴーグルを身に着けるようにしていた。

 

「そうか……」

 

 ほっとした様子で胸をなでおろすアレックス。葬儀に出ている間、ずっと僕達を心配してくれていたのかもしれない。

 

 ――そういえば、君は葬儀に出なくてよかったの?

 

「俺か? いや……俺は、宗教家には関わるつもりはねえ。気の毒とは思うが、葬儀にまで顔を出すつもりなんかねえさ」

 

 言い放った後、アレックスは少し考え、ぼそりと(つぶや)く。

 

「……あの牧師は、立派だったけどよ……」

 

 すると、今度はイリアが思い出したように口を開く。

 

「……そういえば、隊長のお葬式ってやってないよね? お葬式……あげたほうがいい?」

 

『レオナルド隊長のお葬式ならすでに終えておりますよ?』

 

 携帯端末から、AIのフギンが唐突(とうとつ)(こた)える。

 

『あなた達に配慮(はいりょ)し、早朝に彼と(えん)が深い関係者だけで式を()り行いました。空の(ひつぎ)しか埋まっておりませんが、隊長のお墓までご案内可能です。ナビゲートいたしますか?』

 

 僕達に配慮して隊長の葬式を……まあ、確かにあの時は、僕以外部屋に閉じこもったままだったし、無理に式に出させることはできなかったのかもしれない。

 

「そうなんだ……せっかくだから、みんなで行ってみる?」

 

 イリアの提案に僕は賛成したが、アレックスは首を横に振った。

 

「墓参りってのはついででいくもんじゃないだろ? それに、手土産もナシで行くのも無粋(ぶすい)ってもんだ」

 

 彼は口元にわずかな笑みをたたえた。

 

「ニャルラテップ……墓参りをするなら、アイツを倒した後だ。野郎を倒した土産話を隊長の墓に(そな)えてやろうぜ……」

 

 アレックスらしい言い分だ。僕とイリアは彼の提案に(うなづ)いた。

 

「グスっ……あの、ニャルラテップって……?」

 

 カンナが涙をにじませた瞳で僕達を見る。

 

 ……ここで話すべきだろうか? 僕たちとヤツの因縁(いんねん)を。いずれ来る奴との戦いのことを。

 

 僕たちは一瞬視線を()わし、すぐにお互い視線を外す。

 

 それだけでお互いの意思を共有した。

 

 彼女に話すべきじゃない。

 

 いや……彼女を、僕達3人の戦いに巻き込むべきじゃない……

 

 ――僕達の前の隊長を殺した、大型種のアラガミだよ。君も知ってるだろう? ヴァジュラってアラガミだ。隊長を殺した個体を“ニャルラテップ”と僕たちは呼んでいる……大型種を倒せるようになれば、いずれ討伐してやるつもりさ。

 

 僕は嘘をついた。

 

 話の中の一部分だけ変える。ニャルラテップを巨大な虎のような大型種、ヴァジュラだと言い()えた。

 

 ヴァジュラは大型種の中でも数が多く、それゆえ討伐数も多い。だから大型種の中でも倒しやすい相手とされており、そんな奴が相手だと知れば彼女の関心度合(どあ)いも下がるだろう。

 

 ……カンナはいい加減なところも多いけど、ここぞというところで責任感の強い子だ。あんなバケモノと戦うと知れば、きっと無理にでも参戦しようとするだろう……

 

「ヴァジュラ……わかりました。そいつが出てきたら、あたしもお(とも)しますね……グスっ」

 

「おう、頼りにさせてもらうぜ」

 

「……現れたらカンナにも教える。みんなで戦おう」

 

「……任せてくださいっ!」

 

 僕たちは嘘をついた。

 

 強い決意を胸に秘めるカンナの目を、誰も、まともに見ることはできなかった。

 

 ……奴が標的としているのは僕達3人。

 

 ならば、戦うのは僕達3人だけでいい。

 

 人の悩みは他人事にしない。チーム全体で解決する。それが第一部隊のルール。

 

 ……自分で言った言葉がそのまま自分に跳ね返ってきた。

 

 僕達のしていることは間違っているのかもしれない。

 

 けれど……死闘(しとう)となることがわかっているこの戦いに、気軽に彼女まで巻き込むような真似だけは……どうしてもできなかった。

 

 自室へと戻っていくカンナを見送り、僕たちは無言でお互いを見て、そして無言のまま自室に戻り次の訓練の準備を行った。

 

 ヤツとの決戦の期日は、粛々(しゅくしゅく)と、進んでいた。

 

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