施設内をしばらく進んでいると、レインさんが僕達へ止まるよう警告した。
『そこの扉から炎の
バックドラフト……確か、火災が起きた密閉空間で一気に空気が入り込むと、爆発的に炎が
僕たちは言われた通り扉から離れ、突き当りの
レインさんが操る三つ目トンボが、無線通信を介して
バックドラフトは発生しなかったものの、これでは前がまともに見えない。
「こりゃやべえな……救助なんてできる状況じゃねえぞ」
すると、マイクから外に待機しているカンナの声が届く。
『煙が出てる、ってもしかして、みなさんあの大穴の近くにいるんスか? あたしの方でも煙モクモク上がってる穴が見えてるんスけど……あ、画像送りますね?』
『……画像確認しました。壁面が
アレックスは壁に背を
「消火完了までここで待つだけかよ、クソ……」
要救助者がこちらの助けを待っているかもしれない状況だ。彼の気持ちはわかるが、だがあの煙の中に突っ込むのはほぼ自殺行為だ。ここは待つことしかできない。
僕とイリアは肩を落とし、その場は諦めて待機しようとした。
その時だった。
『待ってください! 音声が――間違いありません、人の声をキャッチしました! 扉の奥に、救助者の声があります!!』
「何だと!?」
これは――のんびり消火を待っている余裕はなさそうだ。
僕は
『リーダー! 危険です!!』
――それでも放ってはおけない!!
肌が
僕は目を
声は……救助者の声はどこだ? 耳をすませる。爆ぜる炎の音。ざりざりと鳴る靴音。
すると、僕の靴音に交じって、背後から複数の靴音が続いた。
「一人で突っ込んでどうにかなるもんじゃねえだろ、全く……」
「みんなで助け出そう……!」
アレックスとイリアだった。二人を
今は救助が最優先だ。迅速に見つけ出しすぐにこの場から離れなければ……!
『声の方角はそこから10時の方角です! 煙をまともに吸い込まないよう、冷静に行動を!』
レインさんの指示に従って進むと――かすかに、聞こえた。
声は――目の前の瓦礫の下からだ!
僕達3人は神機を置き、急いで手で瓦礫を取り除く。やがて、下から血を流す白衣姿の女性研究者が姿を現した。
「う、う……」
体のあちこちの骨が折れているのだろう。ぐったりとしていたが、まだかろうじて意識がある。すぐに応急処置をすればきっと助かるはずだ!
「よし、一旦外に運び出そうぜ」
僕はうなずき、研究者の体をゆっくりと抱き上げる――
その時だった。
グオオオォォオオォッ!!
地面を、壁を、炎を、揺るがし
僕は見た。
振り返った先に、全身に炎を
◆◆◆
そのアラガミは、さながら燃える巨人のようでもあった。
崩落した天井の瓦礫の上に、2本の太い足で立ち、巨大な両腕を左右に大きく広げる。手のひらは白い骨のような
まるで巨大な
鹿の頭蓋骨は上あごだけがあり、牙の隙間から、4本の
新種……間違いない。こいつがこの研究所を襲ったアラガミ……!
戦闘は避けたかったが、救助者の前に立ちはだかった以上、戦うほかはないだろう。
しかし一番の問題は――今この腕の中に、重傷を負った救助者がいるということだ……!
「行け! リーダー!! 俺たちが
アレックス。素早く僕のそばを離れ、神機を手に取りあの燃えるアラガミへと勇敢に突っ込んでいく!!
「わたし達があいつを外におびき寄せる! リーダーはその人を安全なところに!!」
イリアもまたアレックスの後を追う。二人の動きを
二人の事は心配だが、今は救助者の避難が先だ。
『アラガミ、動きます! すぐに回避行動を!!』
炎の巨人が丸太4本分はありそうな巨大な右腕を振り下ろし、
けれど僕は振り返らず、全速力で施設の奥へと引き返す。炎や煙が届かない場所まで腕に抱えた怪我人を運び出さなければならない!
二人とも、無事でいてくれ……!
僕は全速力で来た道を戻り、無人の廊下を何度も曲がり、戦闘音すらほとんど届かない場所まで救助者を運び出した。
腰のメディカルポーチを開け、除菌ジェルの塗られた止血テープを研究者の
『救護用ドローンの要請を行いました。彼女はここに安置していただいて問題ございません』
三つ目トンボの一匹が僕についていたようだ。
――レインさん、状況は!?
『新種のアラガミを外におびき寄せる事には成功しました。アレックスさん、イリアさんも無事ですが――明らかに
――くっ!
僕は再びアラガミが現れた場所まで取って返す。
全速力で行き来したことで息が上がる。しかし未だ立ち込める黒煙を吸い込めば、この
やがて、煙の間から炎の明かりに照らされる僕の神機を見た。柄を握りしめると、神機から伸びる
どくり。
どくり。どくり。どくり。
偏食物質により体の奥底から活力が
壁に開いた大穴を目掛けて、一足に
施設の
……いや、死闘というには一方的すぎた。次々と振り下ろされる炎の巨人の攻撃に、二人が紙一重でかわし続けているだけだったのだ。
「リーダー……!」
イリアの声。
僕に振り返った彼女の声は――
「避けてっ!!」
見ると、炎の巨人は僕へ向けて
僕は地を這う
……直撃していたら骨も残さず消し飛んでいただろう。ホッと
炎柱を回避し
……避けられない。過剰なノルアドレナリンで加速した脳が僕へそう告げた。
動かない。足が、腕が、体が動かない。
攻撃を避けて着地した、その
加速した脳が敵の攻撃を予測する。
加速した脳が敵の攻撃が直撃した後の悲劇を予測する。
加速した脳だけが振り下ろすアラガミの右拳をスローモーションに見せる。
けれど動かない。
体が動かない。動けない。避けられない――!
その時。
『やらせないっスよ!!』
カンナの声だった。
そして――衝撃。
アラガミの拳は僕の体から数十センチ離れ、地面へとその威力が解放。僕は全身を
今のは……そうか、カンナだ。
地面にしたたかに打った背中を起こしながら、状況を整理する。アラガミの右拳が振り下ろされる瞬間、彼女の狙撃弾が敵の拳の軌道を
これは奇跡ではなかった。彼女の
だから――それは敵にも、あの燃える巨人のアラガミにも、脅威を感じ取られたのだ。
『……えっ?』
巨人のアラガミは、ゆらりと立ち上がると――
まずい――!
『避けてください!! カンナさん!!』
瞬間。
ドウッッ!!
『ひ――』
まだ僕の脳に残っていたノルアドレナリンが火球の
スローモーションで射出される火球――今度は、体が動く!
僕の意思とリンクし、
巨人の火球は僕の神機の火炎弾が炸裂したことで形状が変形。火球は金網の足場を逃げるカンナのポンチョの端を
『ふおおおっ! あたし生きてる! 生きてるーっ!!』
スピーカーからカンナの歓喜の声が届いた。
よかった……僕は大きく
『リーダー!!』
頭上に落とされる大きな影。
振り下ろされる巨人の右腕、
――くおっ!!
僕は地面を転がり、なんとか直撃を避けた。
……直撃は、避けられた。
だが――
「リーダーっ!!」
僕は……その時、初めて気が付いた。
避けそこなった僕の左足首が、巨人のカギ爪によって切り落とされていた事実に……!