ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【プレリュード】

 ――ぐ、あっ……!!

 

 遅れて、ようやく焼けるような激痛が左足を襲った。

 

 血は出ていなかった。足先が、燃えるアラガミの熱によって炭化(たんか)していた。少なくとも失血(しっけつ)の心配はない、が……

 

『第一部隊リーダー! すぐに戦線(せんせん)を離脱してください!! アレックスさん、イリアさん、カンナさん!! リーダーが脱出するまで援護を!!』

 

 この足では戦えない。無事にセンタースワンへ戻れれば再生治療を受けることはできるだろう。二度と戦えなくなったわけではない。

 

 しかし問題はそこじゃない。直近であのアラガミから逃れることができるか否かだ。僕が駆けつける前ですら三人は防戦(ぼうせん)一方(いっぽう)だった。ケガ人の僕を(かば)いながらなんて無茶に決まっている。

 

 最悪僕の脱落(だつらく)を皮切りに、全員が道連れに全滅しかねない……! それだけは避けなければ!!

 

 ――援護(えんご)はいらない!! みんな目の前の戦いに集中するんだ!!

 

「でもリーダーっ!」

 

『リーダーさん!!』

 

 ――僕を気にして勝てる相手じゃない!! 行くんだ!!

 

「……リーダーは簡単に死ぬやつじゃねえ。冷静になれ。奴から注意を引く。それが一番の助けだ」

 

 アレックスの声に、他の二人もようやく納得してくれた。彼には感謝をしなければならないな。

 

「こっちだバケモン! よそ見してんじゃねえ!!」

 

 攻撃を仕掛けようとするアレックスに反応し、燃えるアラガミが彼へと突進する。するとイリアがアラガミの背後を回り込み、素早く足首へ()り付けた!

 

 しかし――襟元(えりもと)のスピーカーからは喜びではなく驚愕(きょうがく)の声が届く。

 

『じ、神機の刃先(はさき)が溶けている!? 直接攻撃は届かないの!?』

 

「これは――!?」

 

『イリアさん! 頭上からアラガミの攻撃です! 回避を!!』

 

 アラガミが巨大な足で踏みつけを行い、地下全体に地響きの(ごと)く振動と轟音(ごうおん)が響き渡る。

 

 イリアやアレックス、カンナが奮闘(ふんとう)しているのを横目に、僕はポチへと呼びかけた。

 

 ――ポチ、僕の切れた足がどこに落ちているか、分かるか……?

 

 神機形態からオオカミの姿に(へん)じたポチは、クンクンと周囲へ鼻先を向けて匂いを()ぎ分ける。

 

 すると――見つけたようだ、遠く一点を見つめ、小さく()える。

 

 ――よし。そこへ僕を連れて行ってくれ……ゆっくりとだ。素早く動くと奴に感づかれる。静かに、僕をその場所へ引きずってくれ……

 

 クウン、とポチは悲しげに鳴き、オオカミ形態のままゆっくりと僕の体をその場所へ連れていってくれた。

 

 未だに切断された足先から猛烈(もうれつ)な激痛が押し寄せ、痛みの波は引くどころか時間経過とともに徐々に大きくなり、やがて耐えきれないほどの痛みがやってくることを予感させた。

 

 けれど僕はポチの尾のように()れた神機の(つか)を握りしめ続ける。のんきに戦線離脱している状況じゃない。一刻(いっこく)も早く復帰しなければならない。

 

 そのためには、切断された僕の足を……!

 

 三人がアラガミの注意を引き、さらにポチのおかげで、ようやく僕の足首を見つけることができた。

 

 ブーツの途中から焼き切られたようになっており、周囲に肉と繊維が焼けた嫌な臭いが立ち込めていた。

 

 こんな状態では医者に見せたところで縫合(ほうごう)など絶望的だろう。もちろん悠長(ゆうちょう)に医者の元まで向かうつもりなんてない。

 

 今信じるべきは医学ではない。人からGE(ゴッドイーター)へと変異した、自分自身の肉体だけだ。

 

『リーダー? 一体なにを……?』

 

 怪訝(けげん)そうなレインさんの声に答えず、僕はポチを神機形態に戻し、切り離された足首の炭化(たんか)した部分だけを刃で切り落とした。

 

 焼けていない肉と骨の断面を確認したあと……覚悟を決め、自分の左足の炭化部分を切り落とす!!

 

 ぐ……っ!!

 

 これまで襲ってきた激痛を超え、さらなる鮮烈な痛みが足先を駆け(めぐ)る!

 

 おびただしい量の血があふれ、痛みと血で視界が明滅(めいめつ)するかのようだった。

 

『何を! なにをしているんですかリーダーっ!!』

 

 一瞬気が遠くなりかけたが、レインさんの声で再び意識がハッキリとする。震える指先で、血のりで(すべ)り落とさぬよう慎重に取り出したのは――OCアンプルだ。

 

『ま、まさか……足をくっつけるつもりですか!? OCアンプルの身体回復で!? 無茶です!! そんなことを行った事例はこれまで存在しません!!』

 

 ――無茶でもなんでも、やらなければ生き残れない……生きるためには、今戦わなければならないっ!!

 

 僕は自分の首筋の動脈へOCアンプルの針を突き立て、親指で薬液(やくえき)を押し込んだ!

 

 間髪(かんぱつ)いれずに切れた左足に(ひろ)った足首をあてがう。偏食(へんしょく)物質が血管を(めぐ)り回り、体の奥底から間欠泉(かんけつせん)(ごと)活力(かつりょく)()き上がる。

 

 同時に――再び激烈な痛みが足首を駆けあがる! 左足から伸びた血管が切れた足首へと接合(せつごう)され、断たれた骨が延長(えんちょう)接着(せっちゃく)する。しかし同時に(つな)ぎ合わされた神経が再生する肉と骨に引っ張られ、とてつもない痛みを喚起(かんき)しているのだ!

 

 …………っっ!!

 

 僕は(ひたい)から脂汗(あぶらあせ)をかきつつも、必死で歯を食いしばり(のど)の奥底から発せられる悲鳴を無理やり飲み込んだ。

 

 今も三人が必死に戦っている。みっともない声で彼らの集中を(さえぎ)るような真似(マネ)はできない!!

 

『……すごい。足が……再生していく……!』

 

 痛みを必死にこらえつつも、僕は敵のアラガミについて考えを(めぐ)らせた。

 

 アラガミは……常にエネルギーに飢え、炎や熱、電磁波などを発生させる機器を喰らおうとする存在。

 

 ならば奴はなんだ? なぜ自ら炎を(まと)いエネルギーを浪費するような真似を?

 

 意図(いと)せずエネルギーを放出している? 放出し続けるのは自身の体を(たも)つため?

 

 奴の身体は、体内は、神機の刃すら溶かすほどの高熱……

 

 体の内部に、ありえないほどの高熱を放つ何かを取り込んでいる、のか……?

 

 痛みの波が、徐々(じょじょ)(おさ)まる。

 

 おそるおそる手を離すと、足首に切断面はなく、焼けたブーツと制服の間から、やけど一つない肌が見て取れた。どうやら完全に()えたようだ。

 

『リーダー、足は問題なく動きますか?』

 

 僕は返答代わりに、ゆっくりと立ち上がってみせた。

 

 焼けたブーツの靴紐(くつひも)を改めて固く結び直し、左足で2、3度地面を蹴る。痛みやしびれもなく、普段通りに動かせる。これなら……!

 

 ――戦線(せんせん)に復帰します!!

 

『気をつけてください、リーダー!』

 

 僕は神機を(にぎ)りしめ、戦闘を続ける3人の元へ駆けた!

 

「リーダーっ!!」

 

『リーダーさん!!』

 

「へっ、お前には驚かされっぱなしだ。早速活躍してくれよ!!」

 

 三人からの喜びの声にすこしだけ(ほお)がゆるんだが、すぐに気を引き()め直す。

 

 グオオオォォオオオ!!

 

 炎のアラガミが()え、僕へと向かってその巨大な五指(ごし)を開く。

 

 すると――手のひらから光があふれ、次の瞬間、雪崩(なだれ)のごとく膨大(ぼうだい)な炎の波が吹き下ろされた!!

 

 僕はすばやく地面を転がり直撃を避け、さらに(たて)を構えて押し寄せる炎と熱からなんとか身を守った。

 

 さらにもう一方の手を広げ、アラガミは容赦(ようしゃ)なく周囲一帯を火の海に沈めて見せる。

 

 僕は必死に避けながら、敵の攻撃の意図(いと)を読み取ろうとした。

 

 この動き――大量の炎で焼き払おうとしているわけじゃない――これは、炎で退路(たいろ)(ふさ)ごうとしている――?

 

 目の前で炎が()ぜ、思わず逃げ続ける足が止まった。それがまずかった。

 

 グオオゥゥッ!!

 

 左右の炎を割って、燃える巨人の両腕が現れた!!

 

 ――クッ!!

 

 逃げる(ひま)すらなく、僕は盾を展開したまま白い骸骨のようなアラガミの腕に抱えこまれ、そのままゆっくりと持ち上げられる。

 

 同時に万力(まんりき)のような力で体全体を()め上げられる。だ、ダメだ! 指先ひとつ動かすことができない!! 敵の次の攻撃から逃れることができない……!!

 

 全身を押し付ける炎のアラガミの腕が、徐々(じょじょ)に熱を()び始める。このまま先ほどの炎で僕を焼き()くすつもりなのだ!

 

 くそ、諦めるな。ここから逃げ延びる方法を考え抜け。何か方法はあるはずだ。何か――!

 

 いよいよ体が耐えきれなくなるほどの熱に襲われた、その時だった。

 

 Booooom!!

 

 凄まじい衝撃波にアラガミの巨大な両腕が()れる。

 

 ぐらつく視界の中で見たのは――イリア。

 

 彼女がバースト時に使用できる大技、“斬響(ざんきょう)”を放ったのだ。

 

 しかし――神機(じんき)刀身(とうしん)は完全に焼け()けてしまった。神機の刀身部分は人間でいう(かみ)や爪のようなもの、しばらくすれば再生させることもできる。

 

 だが、あの状態ではしばらく戦うことはできない。

 

 そして、彼女の奥の手をもってしても、アラガミによるホールドを解くことはできなかった。

 

『そこっスねイリアさん! 集中してブチ込むっス!!』

 

 スピーカーから鋭いカンナの声が届き、音速を超えた無数の狙撃弾が燃えるアラガミの手首を幾度(いくど)(つらぬ)く!!

 

 グウウォォ!!

 

 痛みによるものか、アラガミがその巨体をゆらす。同時に僕を押さえつける力がわずかに弱まった――ここだ!!

 

 僕は盾の収納(しゅうのう)と同時に奴の手の小指を切り落とし、なんとか地面へと降り立つことができた。

 

 ……同時に僕の神機の刀身も、あのアラガミの内部の熱でドロドロに溶かされてしまった。頭上から(したた)り落ちる奴の溶岩(ようがん)のような体液から素早く身をかわし、戦場の全体を見渡した。

 

 僕と同じく地面へ降り立ち距離を取るイリア。

 

 彼女のすぐ後ろに――大剣を肩で(かつ)ぐような格好(かっこう)で静止するアレックスが見えた。

 

 あの様子。あれは――渦空断(かくうだん)か!? そうか、あの技なら刀身をアラガミへ直接当てずとも攻撃ができる!

 

『右手の手首っスよアレックスさん!』

 

「わかってる! 食らええっ!!」

 

 加熱した空気の(うず)が放出される偏食物質を巻きこみ、切り()めた神機の刀身(とうしん)の先からは、まるで巨大な剣を生やしたかのように。

 

 グボログボロによって強化された彼の神機からは、さらにあのアラガミの溶解液すら混じる。アラガミの細胞を殺しさらに溶かし()くす一撃が、イリアとカンナの攻撃で千切(ちぎ)れかけた右手首を、容赦(ようしゃ)なく切断してみせた!!

 

 ググゴオオゥゥッ……!

 

 切断された右手首を左手で押さえるような格好で、炎の巨人が(ひざ)を折った。同時に全身を(おお)っていた炎が()き消え、その体の全容(ぜんよう)を見て取ることができる。

 

 黒檀(こくたん)色の体表。その表面に無数に生えるフジツボのような突起。あそこから炎のガスを噴出し続けていたのかもしれない。

 

 灼熱の体液はやがて冷え、他のアラガミ同様に灰白(かいはく)色の死んだオラクル細胞を噴出(ふんしゅつ)しつづけていた。

 

 (すき)だらけだ。今なら――

 

「そこだっ!!」

 

 巨人のアラガミの右腕、その傷口へ向かい、アレックスが神機の顎口(がっこう)をねじ込み捕食(ほしょく)!

 

 グガオオオオウゥ!!

 

 喰潰(しょくつい)――!! 悲鳴を上げ、のけぞるように巨人のアラガミが倒れ、右腕からさらに右肩までが偏食(へんしょく)物質により細胞死を遂げて無残に消失した。

 

 一方アレックスは、神機が大量のオラクル細胞を捕食することで膨大(ぼうだい)な偏食物質を生み出し、まるで覚醒するかのごとく肉体のフィジカルを跳ね上げる!

 

『……すごい。勝てる! このままいけば勝てるっスよ!!』

 

 スピーカー越しにカンナの歓喜の声が届いた。

 

 だが。

 

「…………まだだ」

 

 体の底から()き上がる膨大な力の奔流(ほんりゅう)にさらされながら、アレックスが(つぶや)く。

 

 その時、あの巨人のアラガミの表皮に再び炎が(とも)された。

 

 以前よりもさらに高温の――青い炎が……!

 

『あ、あ……』

 

 愕然(がくぜん)とするレインさんの声。

 

 巨人のアラガミがゆらりと立つ。

 

 ……いや違う。

 

 両足が、立ち上がったと思った瞬間、ぐずりと胴体(どうたい)から切断された。

 

 同時に残っていた左腕すら切り落とされる。

 

 自切(じせつ)した……!? 切断した両腕、両足から放射(ほうしゃ)状に広がる器官を生やし、そこから高温の空気を放出して胴体だけを数十メートル上に浮かせて見せる。

 

 あの器官は――バーニア……!?

 

『て、敵、大型アラガミ……極大(きょくだい)活性化……!!』

 

 空中に浮かび青い炎を(まと)わせる巨大な骸骨(がいこつ)のアラガミ。

 

 その胸の中心部に白熱(はくねつ)した球体を浮かばせて、僕達をその穴しか開いていない眼窩(がんか)睥睨(へいげい)し、冷たく燃える青い炎の(ごと)く静かな殺意を向ける。

 

 胸の白熱球体が変形した。

 

 それは矢じりのごとく。

 

 それはまさにヴァイオリンの弓のごとく。

 

 音もなく、鹿の骸骨から伸びる鋼線(こうせん)の隙間から、劫熱(ごうねつ)の弓矢が僕達へ向けて放たれた。

 

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