センタースワン内へ
結果、アレックスの神機の強化に使うことが決まった。
「……ホントにいいのか? 俺が使っちまってもよ」
――奴の右腕を切り落として、
「えーカンナちゃんの
「いやお前、それ言ったら磁石使わせたカイのアイディアの方が評価されるべきだろが」
「でもでも、そのリーダーさんがピンチな時に
「お前がピンチの時助けたのもカイだけどな。つか、支援したのはイリアもだろうが」
言い争いをするカンナとアレックスに対し、イリアが静かに口を開いた。
「カンナが使ったAP弾はアレックスが渡したものだから……やっぱり、アレックスの活躍が大きいと思う」
「うぐぐ、それを言われると……仕方ないっスね……」
アレックスは改めて自分の手に乗るツァトゥグァのコアを見て、グッと決意を固めるように強く
「ありがとな……ニャルラテップを倒し、俺たちは全員生き残る……そのためにもこいつの力、ありがたく使わせてもらうぜ……!」
アレックスは口元に笑みを浮かべ、コアを手に意気
……そして、神機
「おい、なんでみんなして付いてくるんだよ……」
――いやー、なんていうか、大型のコアを使ったらどんな風になるんだろう、っていう興味が……
「知ってるっスか? 大型アラガミのコアを使うと、神機の見た目もかなり変わるって話っスよ!? ワックワク~!」
「……あのアラガミのコアだし、かっこいいの出来そう……」
「見送ってくれるのかと思ったらガッツリついて来やがって、まったく……」
「なんじゃなんじゃ! 大勢で見学か!? こんの忙しいのにお気楽じゃのう!」
ヘンリーさんはてきぱきと手慣れた様子で神機周辺に銀色のソケットが付いた太いケーブル類を用意。手に持っていたタブレットと神機の一部を細いコードでつなぎ、何らかの情報を入力する。
すると――バチン、と音を立て神機の
戦闘時は生きた剣のように
と、保管庫の扉から白衣を着た男性が中に入ってくる。どうやらオラクル
「因子
何か黒っぽい薬液が入った小さなビンをヘンリーさんに手渡した。あれは一体……?
「ああこれか? こん中にはベクター、つまり神機のオラクル細胞の遺伝子を組み替えるウイルスが詰まっとる。兵装研究室の連中は倒したアラガミのコアから得られた遺伝情報と、強化する神機の遺伝子を組み合わせてさらに強化できるような遺伝モデルを作る。そいつをウイルスを介して神機に注入するっつー仕組みよ」
遺伝子の組み換え……それが神機の強化。詳しい強化方法までは知らなかったけど、コアを使って強化するってそういう使い方だったのか……
「はえー、強化って刃の部分や銃身の部分とっ変えるだけかと思ってたんスけど、神機自体もバージョンアップしてたんスねー」
「当たりめえだろう。神機の刀身や銃身部分はこいつらにとって爪や髪みたいなもんだ。神機自体がバージョンアップすることで、より強力な刀身に生え変わるっつーことよ。
ああ、リーダーのお前とそっちの嬢ちゃん、お前らの溶かされた神機の刃もちゃんと再生してっから、今からでも問題なく出撃できるぞ?」
……うん、流石に今から出撃とか過労で倒れるからパスかな。
「……いよいよか、ジイさん?」
「おう見とけ。お前らも見とけよ? 大型だと大分変わるからな」
ワクワクを抑えきれない様子のアレックスに、ヘンリーさんはニヤリと笑い、装置に薬液をセット。
点滴のような細いチューブを通り、薬液が神機に注ぎ込まれた。
瞬間――ゴトリ! と台車で大きな音が鳴る。
アレックスの神機の刀身部分が
――だ、大丈夫なんですか……?
配属初日の、適合試験の時を思い出して不安になった。けれど僕の懸念をよそに、ヘンリーさんは
「心配すんな! こいつはいわゆる
すると、その言葉をきっかけに、肉の塊の膨張がゆるやかに止まる。脈動を続けながら、徐々に、徐々に縮小を続けた。
と、黒い肉の間から白い骨のようなものがのぞく。あれは――装甲板だ。
骨のような素材で
瞬間。
ジャコン! と黒い肉部分から飛び出すように巨大な刀身が姿を現した!
その刀身は全体が黒く、先端部分に従って燃えるような赤色に染まっていた。まるで
新たな大剣は全体として四角く
「これが……俺の新しい神機……!」
喜びで声色をわずかに揺らし、アレックスが小さく息を吐く。
「すんごーい! めっちゃめちゃ変わったーっ!!」
「……意外と、ホネ要素少なめ……」
カンナとイリアもそれぞれ独特な感想を述べる。ていうかなぜイリアはちょっと残念そうなんだか。
「ウチの支部のしきたりじゃが、大型で強化できた一人前の神機には
「え……俺が名付けちゃダメなのか……?」
「…………」
ヘンリーさんが腕組をし、ジロリとアレックスを
「……じゃあ名付けてみろ。お前ならなんて名をつける?」
「えっ!? お、俺だったら……そうだなー、地獄みてえなとんでもねえアラガミだったし……そう、“ヘル・ディザスター”……とか!?」
「うわダッッサ!!」
「……ドン引きかも」
「な、なんだよ! カッコいいじゃねーか!? ダメなのかよっ!?」
うーんこれは
「ホレ見ろ。お前ら神機使いに名付けさせると、勝ったテンションでやたらキラキラした名前つけるからのー。ワシの銘の方が100倍マシじゃろ?」
「ヘル・ディザスター(笑)に比べたらかなり全然良いっスねー」
「命名、決定」
うーん異論なし。
「ちっくしょうお前ら……そんなダメかよ……」
がっくりと肩を落とすアレックス。しかし、彼の名前をそのまま通したら数年後に後悔するのはきっと彼自身だ。いずれヘンリーさんに感謝するときがくるだろう。たぶん。
「よしよし、数値も安定しとる。
ケーブルでつないだ各種計器の数値をにらみながら、ヘンリーさんは満足そうにうなずいた。
「な、なあジイさん、これちょっと握ってみてもいいか……?」
「…………」
ヘンリーさんは一瞬すごく嫌そうな顔をしたが、やがて諦めるように肩を落とした。
「まあ……問題ないじゃろう。もうしばらく経過観察せんといかんから、1分だけじゃぞ?」
「恩に着るぜ! ……これが、生まれ変わった俺の神機か……!」
しばらくうっとりとした様子で自分の神機を
「……軽い……! しかも今まで以上に手にしっくり来やがる! これが大型を
「おい! 振り回していいなんて言ってねえぞ!? そのへんの物壊したら承知しねえぞ!! 聞いてんのかオイっ!!」
ヘンリーさんの怒声にも耳をかさず、アレックスは大剣型神機を
……しかし、彼の言った通り、確かにその動きは今までとは全く違う。力強い動きの中にも、どこか軽やかさがあるというか……
これまでのように、
パワフルだが敵の動きに
「おー! なんかいままでよりも余裕ある感じの立ち回りじゃないっスかー!?」
「確かに……動きに精密さがある……」
カンナとイリアに
「へへへ、今ならどんなのが来ても負ける気がしねえ! いいか、オウガテイルなんか来たら、こうだっ!!」
刃の
……勢いのまま壁の一部を熱で溶解させ、保管庫の壁を
――あっ。
「あっ」
「あ……」
「――や、やべ……」
BEEEEP!!
けたたましい警報音が、保管庫全体へ響き渡った!!
「こんクソガキがああっ!! 何さらしとんじゃーっ!!」
「わ、わざとじゃねえっ!! ホントにわざとじゃねえんだああっ!!」
赤く明滅する警告ランプの光が、どやし立てるブチ切れたヘンリーさんの顔と、血の気が引いているアレックスの青い顔を交互に照らした。
すると、保安部の
「わざとじゃねえって……うっかり手が滑っただけなんだって……」
普段の彼とは同一人物とは思えない、もう可哀想なくらいに
「第一部隊。お前たちも来るんだ。たっぷり事情を聞かせてもらう」
ですよね……連帯責任ですよね……
僕とイリア、カンナは観念し、おとなしく保安部の人に従って移動する。
着いた先は――支部長の執務室だった。
「うむ……そうか。事情は大体わかった」
エル支部長はこちらを見ず、PCを手慣れた様子で操作しながらそう言った。
「いかがいたしますか? 彼らの
保安部の人の鋭い声に、僕達4人は直立姿勢で一斉にびくりと肩を動かしてしまった。
「いかがすると言われてもな……勢い余って壁を壊した。それだけだろう? ……ちなみに、保管庫の壁の材質はどういう
「偏食物質を練りこんだ80mmの複合装甲壁ですな。適合試験の部屋にも適用されている
「なるほど、凄まじい威力だ……カメラの映像を見ても、彼の単なる不注意であることは明白だ。内乱によるものではない。よって処分は不問とする」
「はっ! 承知いたしました!!」
保安部の人たちはエル支部長の言葉へ敬礼で返し、口を真一文字に結んだままぞろぞろと部屋を後にしていった。
「よ、よかった……助かった……!」
ほっと胸をなでおろすアレックス。
「破損した壁の修復費は君の給料から天引きさせてもらおう。あれを直すとなるといくらになるか……」
「綺麗に焼き切っているので安く済むでしょう。ざっと10,000FCといったところですな」
「助かってなかった……!!」
再び絶望に頭を抱えるアレックス。ちなみに10,000FCはかつての極東の円に例えると、100万円の高額
「……まさか新種の大型アラガミを、他の部隊の
がっくりとしょげているアレックスをよそに、僕たちはエル支部長へ敬礼し、支部長に
「い、10,000FCって……マジかよ……」
「プッ、ヘル・ディザスターの二つ名は
「うっせえ! その名前を二度と口にすんじゃねー!!」
――よすんだ支部長の前で! そ、それでは失礼します!!
いつもの
◆◆◆
騒がしい第一部隊の面々が退室すると、執務室にはいつも通りの
一定のリズムでキーボードをタイプする音だけが響く。その
ゴトリ、と
キーを打つ手を止め、エル支部長が
「……アラガミの一部か?」
「
「…………」
スミスの指の下にある物体に、鋭いエル支部長の瞳がさらに細まった。
「角の先端の一部が
「どうも何も……ラッパのように見えるが……」
そう口にした後、
「ニャルラテップもそうだったな……楽器。金管楽器、ラッパ……
スミスは