ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【大型種を用いた神機強化】

 センタースワン内へ帰還(きかん)後、僕たちはあの大型アラガミ“ツァトゥグァ”のコアで誰の神機を強化するか話し合った。

 

 結果、アレックスの神機の強化に使うことが決まった。

 

「……ホントにいいのか? 俺が使っちまってもよ」

 

 ――奴の右腕を切り落として、喰潰(しょくつい)で追い()めたのは君だし、トドメを刺したのも君だ。一番貢献(こうけん)したのは君だと思う。

 

「えーカンナちゃんのAP(アポトーシス)弾も大活躍だったじゃないっスかー?」

 

「いやお前、それ言ったら磁石使わせたカイのアイディアの方が評価されるべきだろが」

 

「でもでも、そのリーダーさんがピンチな時に颯爽(さっそう)と支援したのもカンナちゃんっスよ?」

 

「お前がピンチの時助けたのもカイだけどな。つか、支援したのはイリアもだろうが」

 

 言い争いをするカンナとアレックスに対し、イリアが静かに口を開いた。

 

「カンナが使ったAP弾はアレックスが渡したものだから……やっぱり、アレックスの活躍が大きいと思う」

 

「うぐぐ、それを言われると……仕方ないっスね……」

 

 アレックスは改めて自分の手に乗るツァトゥグァのコアを見て、グッと決意を固めるように強く(にぎ)りしめた。

 

「ありがとな……ニャルラテップを倒し、俺たちは全員生き残る……そのためにもこいつの力、ありがたく使わせてもらうぜ……!」

 

 アレックスは口元に笑みを浮かべ、コアを手に意気揚々(ようよう)と神機格納庫へと向かって行く。その背中を僕たち3人は見送った。

 

 ……そして、神機格納庫(かくのうこ)の中。

 

「おい、なんでみんなして付いてくるんだよ……」

 

 ――いやー、なんていうか、大型のコアを使ったらどんな風になるんだろう、っていう興味が……

 

「知ってるっスか? 大型アラガミのコアを使うと、神機の見た目もかなり変わるって話っスよ!? ワックワク~!」

 

「……あのアラガミのコアだし、かっこいいの出来そう……」

 

「見送ってくれるのかと思ったらガッツリついて来やがって、まったく……」

 

 (あき)れ顔で肩を落とすアレックス。すると、保管庫の奥からあわただしくヘンリーさんが姿を現す。

 

「なんじゃなんじゃ! 大勢で見学か!? こんの忙しいのにお気楽じゃのう!」

 

 語気(ごき)荒くそう言い、ゴロゴロと音を立てて神機の乗る大きな台車を運び出す。台車に安置されているのは、当然アレックスの大剣型神機だ。

 

 ヘンリーさんはてきぱきと手慣れた様子で神機周辺に銀色のソケットが付いた太いケーブル類を用意。手に持っていたタブレットと神機の一部を細いコードでつなぎ、何らかの情報を入力する。

 

 すると――バチン、と音を立て神機の(つか)(つば)の一部分が開き、中からソケットを差し込めそうな穴が現れる。ヘンリーさんは偏食(へんしょく)物質を練りこんだ手袋をはめたまま、丁寧(ていねい)に一つ一つのケーブルをはめ込んでいった。

 

 戦闘時は生きた剣のように振舞(ふるま)うが、こうして管理される場合は機械のように扱われる。こうして見てもやっぱり神機は不思議な武器だ。

 

 と、保管庫の扉から白衣を着た男性が中に入ってくる。どうやらオラクル兵装(へいそう)研究室に所属する研究者のようだった。

 

「因子抽出(ちゅうしゅつ)、および改良モデルの作成が完了しました。ベクターをここに」

 

 何か黒っぽい薬液が入った小さなビンをヘンリーさんに手渡した。あれは一体……?

 

「ああこれか? こん中にはベクター、つまり神機のオラクル細胞の遺伝子を組み替えるウイルスが詰まっとる。兵装研究室の連中は倒したアラガミのコアから得られた遺伝情報と、強化する神機の遺伝子を組み合わせてさらに強化できるような遺伝モデルを作る。そいつをウイルスを介して神機に注入するっつー仕組みよ」

 

 遺伝子の組み換え……それが神機の強化。詳しい強化方法までは知らなかったけど、コアを使って強化するってそういう使い方だったのか……

 

「はえー、強化って刃の部分や銃身の部分とっ変えるだけかと思ってたんスけど、神機自体もバージョンアップしてたんスねー」

 

「当たりめえだろう。神機の刀身や銃身部分はこいつらにとって爪や髪みたいなもんだ。神機自体がバージョンアップすることで、より強力な刀身に生え変わるっつーことよ。

 ああ、リーダーのお前とそっちの嬢ちゃん、お前らの溶かされた神機の刃もちゃんと再生してっから、今からでも問題なく出撃できるぞ?」

 

 ……うん、流石に今から出撃とか過労で倒れるからパスかな。

 

「……いよいよか、ジイさん?」

 

「おう見とけ。お前らも見とけよ? 大型だと大分変わるからな」

 

 ワクワクを抑えきれない様子のアレックスに、ヘンリーさんはニヤリと笑い、装置に薬液をセット。

 

 点滴のような細いチューブを通り、薬液が神機に注ぎ込まれた。

 

 瞬間――ゴトリ! と台車で大きな音が鳴る。

 

 アレックスの神機の刀身部分が着脱(ちゃくだつ)したのだ。同時に、神機の黒い肉のようなものが脈動(みゃくどう)し、徐々に膨れ上がる。装甲部分は黒い肉の中へとゆっくりと沈み込んでいった。

 

 ――だ、大丈夫なんですか……?

 

 配属初日の、適合試験の時を思い出して不安になった。けれど僕の懸念をよそに、ヘンリーさんは豪快(ごうかい)に笑う。

 

「心配すんな! こいつはいわゆる(まゆ)の状態だ――見ろ、そろそろ“羽化(うか)”するぞ」

 

 すると、その言葉をきっかけに、肉の塊の膨張がゆるやかに止まる。脈動を続けながら、徐々に、徐々に縮小を続けた。

 

 と、黒い肉の間から白い骨のようなものがのぞく。あれは――装甲板だ。

 

 骨のような素材で(ふち)取られ、装飾された黒い装甲板。元々のアレックスの盾はくすんだ灰色だったから、あのツァトゥグァのコアで盾まで強化されたのだろう。

 

 瞬間。

 

 ジャコン! と黒い肉部分から飛び出すように巨大な刀身が姿を現した!

 

 その刀身は全体が黒く、先端部分に従って燃えるような赤色に染まっていた。まるで(いま)だ静かに燃え続ける木炭のように。

 

 新たな大剣は全体として四角く武骨(ぶこつ)なフォルムで、片刃で刃のついていない背の部分に、まるで排熱孔(はいねつこう)のような穴がアクセントのように開けられているのが印象的だった。

 

「これが……俺の新しい神機……!」

 

 喜びで声色をわずかに揺らし、アレックスが小さく息を吐く。

 

「すんごーい! めっちゃめちゃ変わったーっ!!」

 

「……意外と、ホネ要素少なめ……」

 

 カンナとイリアもそれぞれ独特な感想を述べる。ていうかなぜイリアはちょっと残念そうなんだか。

 

「ウチの支部のしきたりじゃが、大型で強化できた一人前の神機には(めい)を与えることにしておる。こいつの銘は――残火(エンバークリーバー)ってのはどうじゃ?」

 

「え……俺が名付けちゃダメなのか……?」

 

「…………」

 

 ヘンリーさんが腕組をし、ジロリとアレックスを見据(みす)える。

 

「……じゃあ名付けてみろ。お前ならなんて名をつける?」

 

「えっ!? お、俺だったら……そうだなー、地獄みてえなとんでもねえアラガミだったし……そう、“ヘル・ディザスター”……とか!?」

 

「うわダッッサ!!」

 

「……ドン引きかも」

 

「な、なんだよ! カッコいいじゃねーか!? ダメなのかよっ!?」

 

 うーんこれは擁護(ようご)不可。

 

「ホレ見ろ。お前ら神機使いに名付けさせると、勝ったテンションでやたらキラキラした名前つけるからのー。ワシの銘の方が100倍マシじゃろ?」

 

「ヘル・ディザスター(笑)に比べたらかなり全然良いっスねー」

 

「命名、決定」

 

 うーん異論なし。

 

「ちっくしょうお前ら……そんなダメかよ……」

 

 がっくりと肩を落とすアレックス。しかし、彼の名前をそのまま通したら数年後に後悔するのはきっと彼自身だ。いずれヘンリーさんに感謝するときがくるだろう。たぶん。

 

「よしよし、数値も安定しとる。予後(よご)は順調そうだの」

 

 ケーブルでつないだ各種計器の数値をにらみながら、ヘンリーさんは満足そうにうなずいた。

 

「な、なあジイさん、これちょっと握ってみてもいいか……?」

 

「…………」

 

 ヘンリーさんは一瞬すごく嫌そうな顔をしたが、やがて諦めるように肩を落とした。

 

「まあ……問題ないじゃろう。もうしばらく経過観察せんといかんから、1分だけじゃぞ?」

 

「恩に着るぜ! ……これが、生まれ変わった俺の神機か……!」

 

 しばらくうっとりとした様子で自分の神機を(なが)めまわしていたアレックスだったが、突然手に持った神機を振り回し始めた。

 

「……軽い……! しかも今まで以上に手にしっくり来やがる! これが大型を()った神機……!」

 

「おい! 振り回していいなんて言ってねえぞ!? そのへんの物壊したら承知しねえぞ!! 聞いてんのかオイっ!!」

 

 ヘンリーさんの怒声にも耳をかさず、アレックスは大剣型神機を縦横無尽(じゅうおうむじん)に振り回し続けた。

 

 ……しかし、彼の言った通り、確かにその動きは今までとは全く違う。力強い動きの中にも、どこか軽やかさがあるというか……

 これまでのように、大質量(だいしつりょう)の武器を遠心力に任せて振り回しているだけじゃない。武器の重さを利用しつつも、その足運(あしはこ)びや剣先の向き、剣の握り方にいたるまで、どこか精細(せいさい)さが宿っている。

 

 パワフルだが敵の動きに順応(じゅんのう)しうる緻密(ちっみつ)さもある。そんな感じの動きだった。

 

「おー! なんかいままでよりも余裕ある感じの立ち回りじゃないっスかー!?」

 

「確かに……動きに精密さがある……」

 

 カンナとイリアに()められ、気を良くしたアレックスがさらに大胆な行動に出る。

 

「へへへ、今ならどんなのが来ても負ける気がしねえ! いいか、オウガテイルなんか来たら、こうだっ!!」

 

 得意絶頂(とくいぜっちょう)でアレックスが壁に向かって神機を振り下ろす。

 

 刃の軌跡(きせき)に炎の筋を迸らせ、赤い刃が分厚い装甲壁にぶつかり。

 

 ……勢いのまま壁の一部を熱で溶解させ、保管庫の壁を易々(やすやす)と斬り裂いて見せた!

 

 ――あっ。

 

「あっ」

 

「あ……」

 

「――や、やべ……」

 

 BEEEEP!!

 

 けたたましい警報音が、保管庫全体へ響き渡った!!

 

「こんクソガキがああっ!! 何さらしとんじゃーっ!!」

 

「わ、わざとじゃねえっ!! ホントにわざとじゃねえんだああっ!!」

 

 赤く明滅する警告ランプの光が、どやし立てるブチ切れたヘンリーさんの顔と、血の気が引いているアレックスの青い顔を交互に照らした。

 

 すると、保安部のGE(ゴッドイーター)達があわただしく僕達の周りを囲み、神機を持ったアレックスに向けて一斉にティザー銃を構え、神機を捨てて壁に両手を付くように警告する。

 

「わざとじゃねえって……うっかり手が滑っただけなんだって……」

 

 普段の彼とは同一人物とは思えない、もう可哀想なくらいに委縮(いしゅく)するアレックスを、保安部は数人がかりでこれでもかこの野郎と言わんばかりに組み伏せ、両腕を太いワイヤーでぐるぐる巻きにして、いずこかへ連行していく。

 

「第一部隊。お前たちも来るんだ。たっぷり事情を聞かせてもらう」

 

 ですよね……連帯責任ですよね……

 

 僕とイリア、カンナは観念し、おとなしく保安部の人に従って移動する。

 

 着いた先は――支部長の執務室だった。

 

「うむ……そうか。事情は大体わかった」

 

 エル支部長はこちらを見ず、PCを手慣れた様子で操作しながらそう言った。

 

「いかがいたしますか? 彼らの処遇(しょぐう)を?」

 

 保安部の人の鋭い声に、僕達4人は直立姿勢で一斉にびくりと肩を動かしてしまった。

 

「いかがすると言われてもな……勢い余って壁を壊した。それだけだろう? ……ちなみに、保管庫の壁の材質はどういう代物(しろもの)だ?」

 

「偏食物質を練りこんだ80mmの複合装甲壁ですな。適合試験の部屋にも適用されている規格(きかく)です。小型のアラガミでは傷ひとつ付かない代物ですが、彼は易々(やすやす)と斬り裂き中の断熱材すら焼き切って見せたと」

 

 (かたわ)らに(ひか)えるスミスさんが、自身の端末を操りながらよどみなくそう答えた。

 

「なるほど、凄まじい威力だ……カメラの映像を見ても、彼の単なる不注意であることは明白だ。内乱によるものではない。よって処分は不問とする」

 

「はっ! 承知いたしました!!」

 

 保安部の人たちはエル支部長の言葉へ敬礼で返し、口を真一文字に結んだままぞろぞろと部屋を後にしていった。

 

「よ、よかった……助かった……!」

 

 ほっと胸をなでおろすアレックス。

 

「破損した壁の修復費は君の給料から天引きさせてもらおう。あれを直すとなるといくらになるか……」

 

「綺麗に焼き切っているので安く済むでしょう。ざっと10,000FCといったところですな」

 

「助かってなかった……!!」

 

 再び絶望に頭を抱えるアレックス。ちなみに10,000FCはかつての極東の円に例えると、100万円の高額負債(ふさい)である。

 

「……まさか新種の大型アラガミを、他の部隊の援護(えんご)なしに撃破してみせるとはな。君たちの成長速度には目をみはるものがある。我々はこれからも君たちへ惜しみないサポートを行おう。第一部隊、これからも益々(ますます)の戦果を期待させてもらう」

 

 がっくりとしょげているアレックスをよそに、僕たちはエル支部長へ敬礼し、支部長に(うなが)されるまま部屋を後にした。

 

「い、10,000FCって……マジかよ……」

 

「プッ、ヘル・ディザスターの二つ名は伊達(だて)じゃないっスね? 財政的な意味で? ププっ」

 

「うっせえ! その名前を二度と口にすんじゃねー!!」

 

 ――よすんだ支部長の前で! そ、それでは失礼します!!

 

 いつもの小競(こぜ)り合いを繰り広げる二人をなだめつつ、僕は支部長へ一礼し今度こそ部屋を退室した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 騒がしい第一部隊の面々が退室すると、執務室にはいつも通りの静寂(せいじゃく)が戻る

 

 一定のリズムでキーボードをタイプする音だけが響く。その只中(ただなか)に。

 

 ゴトリ、と不協和音(ふきょうわおん)が支部長の机の上に置かれる。

 

 キーを打つ手を止め、エル支部長が(いぶか)しげに机の上のものを見た。

 

「……アラガミの一部か?」

 

(おっしゃ)る通り、固化(こか)細胞にございます。例の地下研究所から回収されたものです。ツァトゥグァの一部と見て間違いないでしょう」

 

「…………」

 

 スミスの指の下にある物体に、鋭いエル支部長の瞳がさらに細まった。

 

「角の先端の一部が剥落(はくらく)したものでしょう。どう見ますか?」

 

「どうも何も……ラッパのように見えるが……」

 

 そう口にした後、理知(りち)に富むエル支部長の瞳が、呆れたように頭上を(あお)いだ。

 

「ニャルラテップもそうだったな……楽器。金管楽器、ラッパ……()()め、終末の天使を気取るつもりか……?」

 

 スミスは(こた)えず、冷え切った表情を、机の上の骨でできたラッパのような物体に向け続けていた。

 

 

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