【第一世代から第二世代へ・疑似ブレイクスルー】
早朝。僕はエル支部長に呼ばれ、神機の適合試験を受けた部屋を訪れた。
四方を囲む病室のような真っ白な壁に、クレーン式の巨大な
真ん中には金属製の台の上に僕の神機が置かれ、その周りのエル支部長・スミスさん・ドクターQ・Oの三人が待ち構えていた。
「朝からすまない。食事は用事が済んだ後に
僕は気づかいに感謝しつつ、なぜここに僕を呼び、神機まで持ってきたのかを
「……例の大型討伐の映像を見させてもらった。正直、他の部隊なら全滅していてもおかしくない相手だった。他部隊の援護もなく、たった4人で挑み、誰一人欠けることなく
エル支部長の、幼い少年とは思えない鋭い視線が真っすぐに僕に向けられる。
「奇跡ではないな。全て君の采配の賜物だろう。あの戦いにおいて、僕が最も評価しているのは君だ」
――え、いや、僕はそんな……! 今思い返しても無茶なことばっかりしてましたし……
「大尉のいう通り、その自信のなさは大きな欠点だな。そこまで行くと
――は、はあ……
エル支部長は小さくため息を吐き、話を続ける。
「君をここに呼んだ理由だが、僕が見た限り、君は戦闘時に取りうる手段のなかで最良を選び取れる才能がある。ゆえに、これより君が取りうる手段をさらに増やす」
エル支部長がドクターへ視線を送ると、ドクターはニヤリと口角を上げ、背後からもう一台の台車を運び込んできた。
上に載っていたのは大きな銃型の神機……いや、この深海のような
……
――ど、どうして瀬名さんの神機を……?
「未だ適合者が現れない神機なのでな。実験に使わせてもらう」
――実験……?
エル支部長は深くうなずき、次にとんでもないことを口にする。
「君の神機と融合させようと思う。これで新型神機使い同様、近接から中距離までをカバーできるようになるだろう」
新型神機使い――それは、近接タイプと銃型タイプの両方に変形できる、特別な神機を扱う神機使い達のことだ。
あらゆる状況に応じられるオールマイティな能力は、さまざまな部隊に
――ぼ、僕の神機に別の神機を融合!? そんなことできるんですか!?
「ああ。普通は無理だ。ありえない。普通の神機だったなら」
含みのある言い方をするエル支部長。彼に代わり、隣のドクターが口を開いた。
「君のポチ君ならあるいは、といったところだ! なにしろ君の神機はコアを捕食することでアラガミの能力を獲得できる特殊なシロモノだからねえ! 神機もまたアラガミの一種ならば? ……ありうるっ! 十二分にあり得る話だよ君っ!!」
――あれはアラガミの話でしょう!? だいいち、成功する保証はあるんですか?
「ドクターが培養した、君の神機の細胞を使った実験では成功した。失敗しても失うのは使い手のいない神機だ。何も問題はない」
「まあ、吾輩に言わせればこれも実験の一つなんですがね! わははっ!!」
失敗しても問題はない、というのであればまあ……ていうかどうすればいいんだろうか? ポチに食べさせればいいのか? 神機を? しかも瀬名さんの遺品を……
「早速始めよう。君の神機でコアを捕食するんだ」
エル支部長は、瀬名さんの神機のグリップ上部にあるオレンジ色のコアを指さしてそう指示した。
遺品を捕食。つまり破壊する……あまり気は進まないが、やるしかないようだ……
けれど、本当にこんなことで他の神機の能力まで得ることができるのか? 半信半疑ながら、僕は自分の神機を手に取り、ポチへと呼びかけた。
ポチ。
すると。
グオオオァッ!!
ポチが大きな顎を開き、コアどころが台車ごと豪快に遺品の神機を噛み砕いた!!
――ぽ、ポチっ!!
スミスさんが即座に支部長をかばうように前に出て、僕とポチの様子を冷静に見下ろしている。その横でドクターは好奇心に満ち満ちた表情のまま高速でメモを記していた。
僕が制止させる間もなく、ポチはあっという間に瀬名さんの神機を全て平らげてしまった。
――ポチ……
神機形態に戻ったまま、何の反応も動きも見せない。
これは、実験失敗か?
そんな思いがよぎった、その瞬間。
ジャカッ!!
神機の刀身部分が
藍色の銃身……間違いなく、瀬名さんの神機のものだった。
「成功のようだ」
「いいえ違います! これは大成功だっ!! エクセレント!! これまでの常識を
両拳を固く握りしめ、狂気的に血走った眼で全力ガッツポーズを決めるドクター。感動というには余りにも凶悪な顔つきなんですが。
「剣の形態に戻したまえ。自在に切り替え可能か確かめて欲しい」
支部長に指示されるまま、ポチに剣形態に戻るよう呼び掛ける。すると先ほどとは逆に、大きな銃身が奥に引っ込み、代わりに見慣れた銀の刀身が姿を現した。
「……形態切り替えにいちいち口で指示するのは非効率だな。ドクター、改善は可能か?」
「ふーむ、何か手元にスイッチのようなものを設ければ……そう、銃形態時にあった引き金を常に露出させておくというのは? 剣形態時に引き金を引くと、銃形態に移行できる仕組みにできれば……?」
ドクターが期待を込めた目で僕を見た。ああ、それも僕がやるんですね……
お手を教え込んだ要領で、何度か反復練習させた所、要望通りのギミックを与えることに成功した。
これは……いいかもしれない。
近づいてくる敵を銃型で迎撃し、さらに接近したら剣型に切り替えて斬り付ける……このギミックがあればそんな行動もスムーズにできるだろう。これは今後大きな力になるかもしれないな……!
「これで君も新型神機使いと同等……といいたいところだが、実際には君に投与された
君たち第一世代に投与されたP53偏食因子を改良し、肉体への適合率をさらに高めた新たなP53偏食因子。それを投与されたのが第二世代、つまり新型神機使い達だ。適合率を上げたことでその身体能力は第一世代よりも高く、神機の出力も向上していると聞く。
……神機の出力だけで言えば、新型神機使い達は君たち第一世代の約1.5倍。極東で名を
さ、三倍……それがどれくらい強いのかはいまいちピンとこないけど、そんなに差があるのか……
すると、僕が気落ちしているように見えたのか、スミスさんが声を掛けてくれた。
「気にする必要はない。所詮はカタログスペックだ。条件を全て整えた実験室と戦場はまるで違う。スペックをフルに活用できるとは限らない。
君も実感しているだろう? 表面上のスペックでいえば、我々はアラガミ共には一切歯が立たないことになる」
確かに戦場では何が起きるかわからない。一つのきっかけが大きなリスクを生むこともあれば、逆に大きなチャンスを呼び込むこともある。
第一世代のイリアを圧倒した旧型神機使いのスミスさんが言うと説得力があるな……
「カイ・サクラダ・アウベス。君の長所は神機の強さでも肉体の
生き残る……それは、その相手は……
「ニャルラテップ……つい昨日のことだ。君たちの身代わりとして放ったダミーの鳩だが、その最後の一羽のビーコンが消失した。いずれこちらへ戻ってくるだろう」
エル支部長の発言に、僕は我知らず両手の拳を握りしめていた。
……ついに奴がここに現れるのか。覚悟を決めなければならない……
「まあ、といっても明日すぐに来るというわけでもないのだがねえ! 吾輩の見立てではおそらくあと20日程度の猶予はあると思われるよ!」
あと3週間程度か……それまでに、他の大型アラガミを倒しチームの戦力を底上げしなければ……!
「先の戦いから君たち第一部隊の評価を改めさせてもらった。今後は大型アラガミの討伐任務を主に行ってもらう」
――ありがとうございます!!
僕はそう言ってエル支部長へ頭を下げた。
「……ここの神機使いの多くは、大型討伐と聞くと顔を青くさせるのだがな……第一部隊、今後の活躍にも期待をさせてもらおう」
背を伸ばし、エル支部長へ敬礼をする。
支部長は満足そうに一つうなづき、肩に掛けた上着の袖を揺らしながら悠然と立ち去っていった。
「おう! 実験終了か!? んじゃあ細かい検査はこっちでやらせてもらおうか!!」
エル支部長たちが去った後、入れ替わりにヘンリーさん達神機整備班が続々と姿を現し、僕の神機を運び出してしまった。
「リーダーの坊主! お前今日は休みだったか? あとはワシ達がやるから、のんびり飯でも食ってこい!」
そうしてヘンリーさんに雑に追い払われ、僕は仕方なく食堂へと向かった。
新たに得た力と、じきに現れる脅威。希望と不安がないまぜになった感情を抱えたまま……