「マジかよっ! それで新型神機使いみてえに銃も使えるようになったのか!?」
早朝、支部長に呼ばれた経緯をみんなに話すと、アレックスが目を丸くしてそう言った。
「……ホントお前、なんかスゲーよな。あの神機といい、スゲー奴だよ」
しみじみとそんな事を言うもんだから、僕は慌てて「たまたまだよ」と否定した。
……ああ、こういうリアクションも臆病って見られるんだろうか。支部長から直々に改めろって指摘されてるんだけど、どうしても期待されたり評価されると自ら否定しにかかってしまう……
「銃型神機が使える……ってことは、AP(アポトーシス)弾も使える……?」
イリアが小首を
――うん、OA(オラクルアモー)を渡されれば撃てるようになるらしい。実際撃てるかどうかはまだ確かめてはいないんだけどね。
カンナのような銃型神機使いと同じく、射出されたOAを捕食することで、取り込んだ
であれば、僕が神機でアラガミを捕食して、そこから直接AP弾を精製できるんじゃないかと思ったけど、それは神機の構造上できないらしい。剣形態時と銃形態時は別々の神機であると割り切ったほうが良いらしい。
……とまあ、これらはAIのフギンから聞いた情報なんだけど。剣や銃形態に自在に変形できると聞いていたから、新型神機使いは一人でなんでもできるのかと思ったけど、自分でAP弾を精製できない以上、やっぱり仲間の存在は必要らしい。
正直、新型神機使いと聞くと僕なんかは雲の上の存在のように思っていたから、今の僕達のように戦っていると知って少しだけ親近感のようなものを感じていた。
と、僕は一人だけ沈黙している子の存在に気が付く。カンナだ。
なぜか顔を
――カンナ? どうし――
「す、捨てないでくださあああい!!」
はい?
両目からダクダク
「あ、あたしは確かにチームに入って日は浅いっスけど! それでもちゃんと活躍できたって自負はあるんスよ!! い、いいじゃないっスか! 1チームに銃が使えるゴッドイーターが二人いても!? 全然いいっスよね!? 逆に!? むしろ!?」
あの……カンナ?
「ああ、なるほど。カイがAP弾を撃てるとなると、AP弾が使えるっつーコイツの長所が無くなるな。だからリストラされるかもって必死になってんだよ、そいつ」
り、リストラって……
しかしアレックスの指摘は正しかったようで、カンナは“スナイパーの存在がいかに部隊に有益であるか”をここぞとばかりに身振り手振りに力説をかましてきた。
……うん、なんていうか……こうグイグイ“自分は有能です”アピールをされると……逆に評価を落としたくなるというか……
「フー……と、いうわけで――捨てないでええっ!!」
やっぱり涙ながらにしがみついてきた。有能だと思われたいのか
――あのさ、カンナ。
「は、はいっ!!」
――今回の件で別に君のことをどうこうするって話は出てないから。君の強みはAP弾を撃てるって事だけじゃない。第一部隊にとって必要なのは君の能力の全てだ。
そう言うと――涙に暮れていたカンナの表情が、夏のヒマワリの
「んふふっ! そうっスか? やっぱりそうっスか!? 天才スナイパーのカンナちゃんの腕が必要なんスよね!? もぉ~しょうがないっスねえー!? そこまで言われたら……むふふ、残ってあげてもいいっスよ~?!」
フォローしたら鬼のようにつけあがってきた。ハア……
「リーダーさん達が追っているニャルラテップ? とかいうヴァジュラもこっちに向かってるって話っスよね? でもまあ、あたし達4人
あとヴァジュラって、極東じゃ単独でも狩れる大型アラガミって扱いっスから! どんだけ強い個体だろうとヨユーっスよ!!」
――ああ、うん、そうだね……
ニャルラテップはヴァジュラの一個体。以前ついた嘘が、彼女に余計な自信をつけてしまっていた。
……奴と戦う場合、カンナを参加させるつもりは、ない……
(あと20日か。カンナの奴は置いていくことになるが――)
(――戦うのはわたし達3人。カイがAP弾を使えるなら……うん、きっとやれる。わたし達3人だけで)
ぼそりと、アレックスとイリアからそんな
僕は嬉しそうにするカンナの顔をまともに直視できず、わずかに顔を逸らした。
「よーし、全員揃ってるな、これより講義を始める」
扉を開け、この小さな会議室の中へ入ってきたのは、フリードさんだった。
そう、僕たちは再びフリードさんから呼び出しを受けていたのだ。
「まーた補習かよ? いつまでやるんだよ全くよ……」
「補習? お勉強っスかぁ? また今度でよくないっスかねー。せっかくのお休みだからゆっくりしたいっスよ~」
これはまたキレたフリードさんから雷でも落ちるかと身構えるが、以外にもフリードさんは
――あの、どうしました? 今回呼び出したのは補習が目的ではないんですか?
「……ああ、うん。なんというかな……勉強といえば勉強なんだが……気が進まなくてな……」
「んだよハッキリしねーなー。大事な話じゃねえなら帰ってもいいか?」
「……いや、大事な話だ。特に若いお前らにはな」
「は?」
一つ咳ばらいをし、フリードさんはシリアスな面持ちでこう語った。
「今回お前達に話すのは……ゴッドイーター同士の恋愛についての注意事項を――」
「よーし解散解散ーっ」
秒で部屋を出ようとするアレックスとカンナを、フリードさんは先回りして押し返した。
「本当に重要なんだよ! だが内容が内容なんで、隊長から直接伝える決まりになってんだ! 席に戻れ!!」
「アホくさ。俺たちがんな事してる状況じゃねえってわかってんだろが」
「そうっスよー。大体……プッ、レンアイ? とか? プフフっ! 笑っちゃうっスよ本当~。恋ってなんスか? 胸キュンっスか!? プホホっ!!」
なんか、うらぶれたバーで若い男女の恋愛話を鼻で
「お前らがどう思おうと勝手だが、違反すると懲罰房送りにもなる重要事項だ! 話すのは義務で聞くのは絶対だ! 席に座って聞け二人とも!!」
ぶつくさ文句を垂れながらしぶしぶ座るアレックスとカンナ。フリードさんは深くため息を吐いたのち、本題に入った。
「お前達ゴッドイーターは遺伝子から改良された新たな人類といっていい。初期はGE同士で子供は作れないとされたが、偏食因子の改良が進んだ結果か、GE同士の結婚・出産も可能とされている」
……うーん、確かに座学で大勢のGE達と聞くような内容でもなさそうだな……
隣を見ると、アレックスは頭の後ろに腕を組んで退屈そうにしており、カンナは
イリアだけは以前と変わらず生真面目にノートへ内容を記していた。
「問題は生まれてくる子供だ。GE同士の子供は、生まれながらに体内で偏食物質を生成できる能力があるらしくてな」
――それは、生まれながらにGE、ってことですか?
「そう考えていいだろう。だが色々と不安定らしくてな、何かのきっかけで偏食物質が生成できなくなり、その場でアラガミ化してしまった事例もあるそうだ」
アレックスとカンナの顔色が変わる。カリカリと、イリアがペンを走らせる音が静寂を埋めていた。
「……GE同士の恋愛や結婚まで禁じてはいないが、そういう事情もあるんでな。だからここ第二支部のGEは、恋人ができたらそのことを報告し、すみやかに届け出を出す決まりになっている。違反をすれば懲罰房行きだから、もし今相手がいるならすぐに報告しろよ?」
……もしも生まれた子供がアラガミ化すれば、センタースワン内にアラガミが放たれるのと同じだ。甚大な被害を受けるだろう……プライバシーなど甘い事を言ってられない、厳重に管理しなければならない事柄なのだ。
「以上だ。質問はあるか?」
すると――スッ、とイリアが静かに挙手。
「その届け出は、どこに出せばいいんですか?」
――えっ!?
その場が一気にざわついた。
「お、お前……まさか、出すあてがあるのかっ!?」
アレックスの問いに、イリアは首を傾げながら一言。
「? 別に出すつもりはないけど?」
「ただ聞いてみただけかいっ!!」
アレックスが机の上でずっこけるように脱力する。僕はホッと胸を
……なぜ安心したのかは考えないようにしよう……意識してしまうと今夜眠れなくなりそうだから……
すると、今度はカンナがやれやれと言わんばかりに肩を落とす。
「ハァ~あ。お話はこれで終わりっスか? 結局あたしには何の関係もない話でしたね~」
「なんだ? 最初からそういうの諦めてるクチかお前?」
「万年ソロプレーヤーのアレックスさんと一緒にしないで欲しいっスね? あたしは子供とかいらない派なんで。
あたしは多くを望まないんスよ。ただただ、一生を賭してカンナちゃんを全力で甘やかし続ける人であれば正直誰でもいいんスよ……!」
うわあ……
「そんな欲望まみれでよく無欲ヅラできるなお前……つうかそんなお前にとって都合の良すぎる奴、この世に存在しねえだろ」
「そんな事ないっスね! 周囲を見回せばどこにでも――!」
ぴたり、とカンナの視線が僕へと注がれる。
…………え?
「……部隊のリーダーで、支部長にも期待されてて、将来有望……面倒見もいいし優しい……大体のワガママは聞いてくれそう……」
え!? えっ!? ちょっとっ!?
「……ンフ、ンフフフっ! えっと、えっと~、リーダーさんって~、グフフっ! ご趣味とかあるんスかぁ~っ!?」
――ノーコメントで!
や、やばい! なぜかロックオンされている!! 女の子から好意を寄せられるなんて素敵なことのはずなのに! 全身から冷や汗が止まらないっ!!
「……カンナ、届け出はいるか?」
「あ、是非お願いするっスよ隊長さん~」
――全く必要ありませんっ!! 冗談はそのくらいでいいから!
「え? 冗談? カンナちゃんのような美少女に言い寄られるのが夢のようって意味っスかね? 可愛いっスね~んじゃあ現実的に挙式の日取りとか決めるっスか~?」
冗談じゃない……だと……!?
「えっと……カイ、おめでとう……?」
「いや、この場合ご
遠巻きからイリアとアレックスがそんな事を言う。やめてくれ! 本当にやめてくれ!!
「グフっ! グフフフっ!! リーダーさ~ん? なんでそんな逃げるんスか~?」
邪悪な笑顔でこちらへにじり寄るカンナに対し、僕は全力で距離を取り続ける。一応補足するけど、彼女はルックスだけ見ればかなり優れている方だ。可愛らしく微笑みかけられれば、大概の男性が好意を抱くだろう。
だが――こういうおぞましいアプローチを掛けられれば大概の男性が逃げ出すはずだ。だから僕も逃げる。全力で。
「冗談なのかは知らんが、ほどほどにしろよお前ら……ああそうだ、もう通知は来ているだろうが、今日は“FC還元デー”だ。街に出て大いに楽しんでこいよ?」
僕はカンナから逃れながら、端末に届いたメールを開く。フリードさんの言う通り、一通のメールが届いていた。
FC還元デー……それは支部内の経済政策の一環らしく、ゴッドイーターや一部の高給を得ている官僚や将校を対象に、街で収入に合わせた一定金額を消費させるという取り組みだ。
メールには僕が今日浪費しなければならない金額も記載されており、この金額以上を街で使用しなければ罰則まで与えられるとの文言もある、下の方には、エル支部長の簡略化されたイラストと共に、「散財しろ!!」というトンデモセリフまで付けられていた。
強制的に浪費させるとはずいぶん大胆な政策だなあ……
「へー……んじゃあ昼飯がてら、みんなで街に繰り出すか?」
アレックスの気軽な提案に、なぜかショックを受けたようにイリアが目を見開いた。
「みんなで……買い物……! うん! わかった! 絶対行く!!」
「いやそんな気合入れるようなもんじゃねえだろ……カイ、カンナ、お前らはどうだ?」
「行くに決まってるじゃないっスか~! おいしいもの目いっぱい食べたいんで! お店の案内ヨロシクっスよ~!!」
カンナが目を輝かせながらアレックスへと向き直った。これでしばらくは食べ物へ意識を向けてくれるかな。ハア……
僕もアレックスの提案を了承し、僕たちは1時間後、第二層へ続く扉の前に集合する約束を交わしたのだった。