デカ盛りピザ店から出てしばらくしてから、回復したカンナが興奮気味にとあるマシンを指さした。
「ぷ、プリペタじゃないっスか!? なんでこんなところにこんなレアマシンがっ!?」
――プリペタ……?
カンナに聞くと、どうやらその昔極東に存在していた、写真を撮るとそれを指先大のシールにしてくれるマシンらしい。
――ていうか、極東にすら残ってないマシンがなんでラスベガス第二支部に……?
「あたしが聞きたいっスよ! ……てかこの店、レトロなマシン色々置いてるっスね。こんな時代によく集められましたよね?」
「写真を……シールに? そんなことして何が楽しいんだ?」
「あー非モテのアレックスさんの人生には全く関係ないマシンっスからね。写真を可愛く加工したり、他の友達とシェアしたりして楽しむもんなんスよー」
「お前も大してモテてねーだろ
瞬間、カンナの顔から一切の感情が消えうせる。
「……言ってしまいましたね。カンナちゃんのNGワードを……」
深い怒りで一切の光を放たない虚無の瞳。懐から――何か大型車両用なのか、馬鹿みたいにデカイペンチをおもむろに取り出した。
「大馬鹿女……子供のころそんなあだ名をつけてからかった男子たちはもういない……ネジ切らなきゃ。あたしの事を大馬鹿女とかウシ女とかほざく奴は
カンナはうつろな表情で、「ぶらっでぃすくりゅう」と銘打たれた巨大ペンチを手にアレックスへにじり寄る。ていうかネジ切るってどこを!?
「こえーよお前!! 急になんなんだよ!! 悪かった! 悪かったからその顔でこっち来るな! あとそのペンチを俺の股間に向けようとするな!!」
「……みんなで、記念撮影するってこと……?」
今まさに命の危機に陥っているアレックスをよそに、イリアが機械の前に立ってそう尋ねた。
――いいかもしれないね。なんの記念ってわけじゃないけど、いい思い出になるかも。
僕がそう言うと、イリアの瞳がわずかに大きく開かれる。
「えっと、ここにお金入れるんだよね? それからスイッチを……?」
「あーっ! ちょっと待ってくださいっスよ~! あたしも入れて欲しいっス~!!」
「はー……助かった……」
大慌てでこちらへ走り寄るカンナと、恐怖で
「おい、さっきので写真撮れたんじゃねえの? まだ撮るのかよ?」
「当然じゃないっスか! あんな卒業写真みたいな横並びで何が面白いんスか!? こんな風にいろんなポーズ取るんスよ!!」
――え、僕もやるの?
「当然っス!! こういうのは全員でやるから映えるんスよねー。そこのアレックソさんも突っ立ってないでホラホラ!」
「誰がクソだこらっ!!」
「イリアさんもホラホラ! こうやってピースして! うぇ~い!!」
「……うぇ、うぇ~い……」
画面のキャラの指示に従いつつ、満面の笑みのカンナ、口元に小さな照れ笑いを浮かべるイリア、うんざり顔のアレックス、そして苦笑いが香ばしい僕の4人で色々ポーズをしながら写真を撮り続けた。
「撮った写真はっスね~、こうやってペンで文字とか絵とか描いて加工できるんスよ~」
「おい何のためらいもなく俺の頭の上にデケエうんこ乗せんじゃねえ!!」
「右端に……猫の足跡……かわいい……」
そんなこんなでようやくプリントしたシールが出来上がった。
イリアは自分の分のシートを取ると、さっそく指先ほどの大きさのシールを自分の右腕の腕輪に
「……」
「そんなところに貼ったらすぐ
「えっ……?」
「あー、そうだな。俺ら腕輪
「そ、そんな……どうしようカイ。また剝がしたらボロボロになりそう……」
珍しくあわあわしながら僕を見つめるイリアに、僕は首を振る。
――いや、まだシートにいくつか同じシールあるし。その一枚は
「……そっか……」
イリアは残念そうに肩を落としながら、シールをできるだけ丁寧に剥がしてシートに戻していた。
……なんていうか、もしかするとこの中で一番ハシャいでいたのは、実は彼女だったのかもしれないな……
センタースワンに戻る道すがら、普段より足取り軽く歩むイリアの姿を
◆◆◆
夜8時。夕食を終え、消灯時間も近い。
そんな時間帯に――不意に僕の部屋をノックする音が聞こえた。
「リーダーさん! リーダーさーんっ!!」
カンナの声だった。僕は端末に日記をつける手を止め、ドアの前へと向かった。
――カンナ? どうしたの?
「いや~……んふふ、大した用事はないんスけど~……グフっ、リーダーさんと二人きりで? 色々お話したいな~って……ぐふふっ!」
嫌すぎる笑い声で何もかも察してしまった。ああ、適当なこと言って追い返さないと……
――ああ……ええっとごめん、これからお風呂入るからさ……また今度。
「へー、お風呂っスか~? そうっスかー……」
その時。
僕の目の前の
なっ……!?
そのわずかな隙間から……肉食獣の
「……それじゃあ……お背中……流させていただいても……いいっスかぁ~~っ?」
怖ぁっ!!
そしてカンナはドアの隙間から何かゴムのようなものを突っ込み、ゆっくりと内側のチェーンすら外そうとする……まずい。まずいまずいまずいっ!!
僕は
そして見定める。扉の近くに立てかけていた、金属製の靴べらを……!
な、
僕は素早く靴べらを手に取り――扉の隙間から見えていたカンナのスネへ、したたかに打ちつけた!!
「あ痛あああっ!! む、むこうズネの
チェーンを外そうとした手が止まり、カンナは扉の向こうでもんどり打って転がって行った。
自室の扉が閉まる寸前、小型の何かの装置が僕の部屋の中に転がり落ちた。
ペットボトルのフタくらいの大きさと形をしたそれは……まさかこれ、電子錠を開錠するための不正ツールなのか……?
「チィッ、意外にガードが固い……あ、何でもないっスよ~? じゃあー? またの機会ってことで? グフっ、グヒヒヒっ!!」
邪悪な笑い声を残し、カンナは僕の部屋から立ち去っていった……
『ストーカー規制法を理由に保安部へ通報いたしますか?』
端末からフギンの容赦ないアドバイスが届くが、僕はため息と同時に首を横に振った。
彼女も仲間だから。保安部に連れていかれたら戦力が欠けてしまうから……一応、彼女は仲間だから……
しかし、なんだろうな。
女子との混浴なんて素敵なイベントのはずなのに、何故だか肉親に化けたシリアルキラーの爆弾魔スタンド使いが一緒のお風呂に入ろうとしてきたみたいな謎の緊張感を覚えたのは……
僕は改めて扉を含めた戸締りを厳重にチェックし、風呂に入るついでにカンナが落としたと思わしき開錠ツールを水道水に沈めて完全に破壊したあと、
……ふと、ベッドで第二層で見たイリアの笑顔を思い出してしまい、しばらくは寝つくことができなかったけど……