ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

63 / 63
【支部長の過去】

 深夜。執務室にて。

 

 1人パソコンに向かい仕事をこなすエル支部長のデスクへ、スミスが近づく。

 

 手に持っていたのは紅茶のポッドではない。一枚の写真だ。

 

「職員から届けられました。落とし物です」

 

 エル支部長が視線だけを向ける。

 

 写真には、快活な笑顔でバーベキューを焼く壮年の男性と、その傍らにて肉が盛り付けられた皿を持つスミス。写真の端には男性の子供と思しき二人が写っていた。

 

 9歳くらいの女の子の隣にいる、5歳くらいの男の子――まぎれもなく、かつてのエル支部長であった。

 

「……わざわざお前の手で届けてくるとはな。挑発のつもりか?」

 

「滅相(めっそう)もございません。大切なお写真ですから。手ずからお届けに参ったまで」

 

「……なぜ、僕がこの写真を持ち歩いていると思う?」

 

「さて。あなたの心を推し量るは無礼と心得ておりますゆえ」

 

 エル支部長はキーボードを打つ手を止め、静かに写真を見下ろした。

 

「写真を見返すというのは、過去の思いを振り返るということだ。僕はこの写真を見るたびに初心に立ち返ることができる」

 

「……」

 

「あの日の。理不尽と絶望。そして怒りを」

 

 燃えるような憎しみを秘めた瞳が、スミスを射すくめた。

 

「第54代、最後の大統領。幾度(いくど)もアラガミに襲われたが生還し、“不死身の大統領”と呼ばれた父が、身内のSPに射殺されるとは皮肉だな?」

 

 スミスは無言を貫き、ただ、エル支部長の憎悪の視線を一身に受け止め続けていた。

 

「フェンリルに最後まで抵抗していたアメリカという国も、父の死を契機に終わりを告げた。指揮系統は乱れ市民は混乱のるつぼに陥り、そこでまるで救世主のごとく現れたフェンリル本部に人々は縋(すが)りつき、あっけないほど簡単に連中の軍門に下ったわけだ」

 

「…………」

 

「決して忘れることはない。断じて許すことはできない。手段を選ばず父を母を姉を奪った連中のことを。連中の傀儡(かいらい)となり家族に銃口を向けたお前を」

 

 スミスの顔には一切の感情はない。ただ、死者への哀悼(あいたく)か、己の罪を噛みしめたのか、二度ほど重くまばたきを行うのみだった。

 

「簡単に死ねると思うなよ。お前は生きたまますりつぶすように殺す」

 

「……心より、お待ち申し上げます」

 

 深海のごとく重く冷たい沈黙が下りる。

 

 それを破ったのは――慌てた様子で執務室の中へ転がり込む一人の職員だった。

 

「き、緊急のご報告です! インスマスより巨大な地上フロート型戦艦のようなものがこちらへ向かっております!!」

 

 エル支部長は素早くパソコンへ向かい情報を確認する。

 

「これは……移動要塞、なのか? インスマス支部のものか? あの支部でこのようなものが作られているとは聞いていないが」

 

「あちらから事前の連絡はございますか?」

 

 スミスの発言にエル支部長は首を横に振る。

 

「事前の通告もなしで、このような仰々しいものをこの支部へ向かわせている……この状況はまさしく……」

 

「支部同士の、“共食い”……ですか」

 

 デスクの向こうにいた職員の顔が一気に青ざめた。

 

 エル支部長は眉間(みけん)に一層深いシワを刻み、決意したかのように両目を開く。

 

「明日の10時、尉官(いかん)以上のゴッドイーターを全員招集しろ。緊急事態だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。