……正直に言えば、拒否できるならそうしたい。ゴッドイーター同士で戦うなんて間違っている。僕もカンナの意見に賛成だった。戦わないに越したことはない。
本音で言えばそうだった。
けれど……参加を拒否するというのは、当事者という責任から逃げることと同じ。僕が、僕達が逃げても、誰かが僕達の代わりに負担を背負い戦うことになる。
……何も変わらない。戦うことを拒否しても、誰かが傷つき誰かが血を流し誰かが倒れる。結末は変わらない。ただ、誰かを身代わりに立てたという後ろめたさしか残らない……
「第一部隊。人生の
声は、第五部隊――ベラ隊長からだった。
「人生にはな、誰しも決して逃げてはならない瞬間というものが訪れるんだ。そこで
ベラ隊長の
「逃げるというなら追いはすまい。だが。誓え。己の意思で、己の責任で、
戦うのが嫌だから逃げた、決断することができないから逃げたなどと、ガキの理屈で逃げるんじゃない。逃げるという行動に責任を持て。ここで、この場で、責任のない言葉を吐くことは断じて許さん」
…………
僕の覚悟を問うたベラ隊長の発言は恐ろしかったが……正直、少しだけ嬉しかった。
少なくとも同じゴッドイーターとして、同じ部隊の長として、僕を対等に扱っていることがわかった。そのうえで、
僕の心の奥底にある、戦う意思を……!
――僕は……
一度息を吸う。そのわずかな間に、この第二支部で出会った人々のことを思い起こした。
アレックスやイリア、カンナ——部隊の仲間たちだけじゃない。
フリードさんやレインさん、ヘンリーさん、エル支部長。ドクターQ.O。第二層の人たち――孤児院の子供たち。ザックス。押し売りのおばちゃん。デカ盛りピザ屋の店員さん、第三層で見かけたシャール……僕の周りの人たち。僕を支えてくれる人。僕と顔見知りの人。ほんのわずかに関わった人……この第二支部に生きる、日常に、あたりまえのように居てくれる人々。
それが。
他所からの勝手な都合で。他所からの勝手な物言いで。他所からの勝手な殺意で、不条理に殺され奪われ
戦時下においてなんでもない日常がどれほど貴重だったのかを知った。
だからこそ、それを知らない誰かに勝手に奪われ、いとも簡単に破壊されることは堪えられない。
知らない誰かに勝手に奪われ、いとも簡単に殺される。それを知りながら逃げて、逃げて、遠くで聞こえる悲鳴に耳を目を閉じて自分一人だけ震えながら安全圏に閉じこもる……
……できない! それだけは! そんな決断を下したなら、僕は死んだも同じだ……!
歯を食いしばり、両手を血が
僕は、ベラ隊長の視線を正面から受け止め、言った。
――逃げません。僕は……たとえ僕一人でも、この作戦に参加します。
「リーダーさん……!」
「一人じゃねえよ! 当然俺も付き合うぜ! 街の連中誰一人として手出しさせねえ!!」
「わたしは……」
イリア。不安げに足元を見つめていた両目が、次の瞬間、決意したように前を、僕の方へと向けられた。
「わたしの戦場はあなたのいる戦場だから……うん、わたしも行く」
心強い。二人の発言が、僕の心臓を熱い液体で満たしてくれた。
「…………あたしだって、守りたいのは同じっスよ。でも……」
カンナ。こんな状況下でも戦いを避けたがっている。
それは、自分の手で同じゴッドイーターに手を掛けたくないという自分都合の感情ではない。他者の命を奪ってしまうことの重大性。他者の人生をこちらの都合で勝手に奪ってしまうことへの、責任感ゆえの感情だった。
僕達の命を勝手に奪おうとしている。だが、だからといって彼らの命を勝手に奪っていい理由にはならない――彼女は、本当は誰よりも優しい心を持っているのかもしれない。
……カンナの気持ちを汲んだわけじゃないが、僕はベラ隊長に“ただし”と付けくわえた。
――無暗な殺生はしない。鎮圧し無力化できたなら、僕は相手の命まで取りません。
「リーダーさん……! そういうことなら! あたしも全力を尽くしますっ!!」
アレックスとイリアの方を見る。二人とも、僕の提案に異論はないようで、力強く頷いてくれた。
その場にいた数人のゴッドイーターも、僕の言葉を聞いて安堵の息を吐く。
これは、
「いいだろう。君の決意、聞かせてもらった。支部長もそれでよろしいですか?」
「ダメだといっても聞かないだろう? 少佐。任せよう……そもそも、どのような理屈も現実はたった一つの答えしか用意しないだろうが」
皮肉めいた言葉を残すエル支部長。
「心得ております。誰よりも」
ベラ隊長は敬礼し、下ろすと同時に冷たい瞳で僕達を見据える。
「無暗に命はとらないか……その決意は疑わない。ならば最後に、
――優先、順位……?
「敵と
…………!
「極限状況とはそういうものだ。殺らねば殺られる。殺れば誰かは助かり殺らねば誰かが死ぬ。仲間が死ぬ。お前が死ぬ。そんな極限状態での優先順位を知りたい。
お前と共にかけがえのない日常を育んだ大切な仲間と、お前の仲間を一方的に殺傷せんとする敵……命は平等か? 仲間の命と敵の命は平等なのか? 君の本心を聞かせろ。
一方的に命を裁く覚悟はあるか? それとも、他人事のように仲間と敵の命を平等に公平に
…………
僕は。
この言葉を発した時――自分自身の身勝手さを、邪悪さを、心底思い知った――
――仲間の……命を……最優先と、します……
沈黙。
アレックスも、イリアも、カンナも息を飲み。何も、何も発することはなかった。
そんな中。ベラ隊長だけは……満足そうな笑みを浮かべた。
「いいだろう。第一部隊……君たちと同じ戦場へ向かえること、誇りに思う」
…………
何か言い返したかった。けれど、僕にはそんな資格すらないと思い知り、沈黙しか残すことはできなかった……
「……最後に。酷な命令を下していることは承知している。君たちはゴッドイーター。本来ならばアラガミから人を護ることが君たちの使命だった……人類の守護者たる君たちを人類同士の血生臭い闘争に巻き込んでしまった。
だが、それを承知でそれでも君たちの力を借りたい。頼む。ゴッドイーター。人々を……何も知らない彼らを、どうか守ってくれ……」
僕たちは。
誰に言われたわけでもなく。
静かに、一斉に、支部長へと敬礼を返した。
「作戦は二日後の早朝だ。各員、それまでに準備を進めるように。以上」
敬礼の腕を下ろし、僕たちはブリーフィングルームを後にした。
「例の移動要塞について報告いたします! 学会にて提出された、ラケル・クラウディウス博士の論文に、かの戦艦に類似する記述を確認いたしました!」
「でかした。オラクル
「はっ! 承知いたしました!!」
扉を閉める寸前、支部長と研究者と思しき人の会話を聞いた。
必死だ。みんな必死なのだ。守るべき命のために、必死に動いている。
……生半可な覚悟など無に等しい。覚悟を決めなければならない。冷徹に、引き金を引く覚悟を……
僕が非情な決意を固めようとした、その時だった。
「優先順位とか言ってましたけど、でも基本的には必ず相手の命を奪うまでしなくていいんスよね? だったらあたし、相手を無力化することに全力を
階段を下りる途中で、カンナがそんな風に決意を固めて見せた。
すると、
「……ああ、異論はねえよ。ぶっ殺すとは言ったが、ガチで人間を神機でぶった斬るなんてゴッドイーターのすることじゃねえよな……俺らは俺らの道を行こうぜ」
アレックスもまた肩を落としながらそう言う。
「責任をもって行動をする……命を一方的に奪うことを避ける。これも責任ある行動だと思う……これがわたし達の戦い……」
イリアもそう口にし、決意を新たにした。
ここで、僕は勝手に悲観的になっていた自分自身を恥じた。
なんだ。
みんな、誰一人として、諦めてなんかいないじゃないか……!
――そうだね。僕たちは、僕達なりの全力を尽くそう……!
「うっス!」
「おう!」
「……うん、了解」
3人とも気持ちのいい返事を返してくれた。
……そして二日後、作戦は決行される。