ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【侵略の代償】

 荷電粒子砲の赤い閃光が空を駆け抜けた時。先遣隊(せんけんたい)であるインスマス支部のゴッドイーター達にも動揺が広がった。

 

「な、なんだ今の光は!? 光線兵器!? ありえんっ!! インスマス支部は無事か!?」

 

「動力炉が破壊……!? まずいぞ、どうする!?」

 

「すぐに司令部へ繋(つな)げ! 支部の直接接触と本部隊揚陸(ようりく)が今回の作戦のキモだぞ!? お、俺たちはどうする、どうなる……!?」

 

 進軍を止め、その場で司令部へ連絡し下される命令を待つ。

 

 だが――しばらくして司令部に繋がった時、彼らは再び驚愕(きょうがく)する。

 

「ラスベガス第二支部からの侵入者と交戦――ほ、本隊の前衛部隊、壊滅……!? 馬鹿な、たった二人の侵入者にっ!? 侵入されてから間を置かずに、こんな……!?」

 

「……帰還命令だ。狙いは司令室、および支部長か! 全速力で戻るぞ!!」

 

 先遣隊のゴッドイーター達がインスマス支部に戻ると、そこには惨憺(さんたん)たる光景が広がっていた。

 

 開け放たれていた支部中央棟(ちゅうおうとう)。その周辺におびただしい数の死体が転がっている。

 

 非ゴッドイーターの軍人だけじゃない、本隊のゴッドイーター達も残らず血の海に沈んでいる。ある死骸は大口径の銃火器のようなもので頭部を撃ち抜かれ、ある死骸は神機によるものか、鋭い大きな刃物で胴体を一撃で斬り落とされているようだった。

 

「一体……何があった……こんな……何が起きて……」

 

 愕然(がくぜん)としながらも、ふらつく足取りで先遣隊のゴッドイーター達は奥へ進む。

 

 戦闘の音は聞こえない。敵が身を隠した? いいや、ならばこの異常な静けさはなんだというのか。

 

 まるで中央棟内の全員が皆殺しにされたかのような……馬鹿な、ありえない……

 

 白昼夢でも見せられているようなぼやけた現実感の中、先遣隊は今しがた残されたような真新しい弾痕(だんこん)と、まだぬくもりが宿る新鮮な死体を手掛かりに、さらに奥へと進んでいった。

 

 血と死体の道は――棟の三階、司令室の中へと続いていた。

 

 分厚い鉄扉へとたどり着くと、中で何者かの話し声が聞こえる。

 

「……」

 

「……」

 

 先遣隊のゴッドイーター達は頷(うなづ)き合い、銃型神機使い達を全面に展開させた後、一気に扉を開け放った!

 

 すると。室内には男が二人佇(たたず)んでいた。

 

 情報管理員やオペレーターは残らず無残な死体と化し、血しぶきに染まる大型モニターの光が、血だまりの満ちる中央の司令官のデスクの上を明るく照らす。黒い制服を羽織った男の一人が、デスクの上であぐらをかいた状態で陽気に話しかける。

 

「いようお帰り! 待ってる間一杯やらせてもらってたぜー。 いや~いい酒だねこれ? インスマスの特産かい? しかもこんな美人さんと一緒に飲めるなんてよ~、へへへへ」

 

 先遣隊のGE(ゴッドイーター)達は驚愕に目を見開く。

 

 男の膝の上に乗っているのは――このインスマス支部の最高責任者、パメラ支部長の生首だったのだ。

 

 GE達の驚愕はすぐさま燃えるような怒りに変わった。前方に展開するガトリング型の神機使い達。グレネード型の神機使い達が誰に命令されるでもなく一斉に引き金を引いた!

 

 BLLAAAAAAAAAAMM!!

 

 銃口の先にいたのが一般人なら一瞬でミンチと化す。アラガミですら小型なら即座に絶命するであろう、圧倒的な弾幕。

 

 一瞬で片がつく。誰もがそう思っていた。

 

 彼らの予感は的中した。

 

 ――倒されるのは自分たちであるという一点を除けば。

 

 

◆◆◆

 

 

「あの行動の意味は?」

 

 両足を切断され、床を這(は)いずり懸命に逃走を図ろうとするゴッドイーターの少年へヘッドショットを見舞いつつ、スミスはディノへ質問をする。

 

「あの行動? どの行動? 俺なんかしたっけ?」

 

 柱の陰(かげ)から奇襲の機会をうかがう非ゴッドイーターの部隊員。柱ごと隊員を両断し、残りの隊員も無惨(むざん)に微塵(みじん)に切り捨てつつ、ディノは気楽に応じた。

 

「指令室で始末したゴッドイーター達の首を切断し、支部長の首を中心に同心円(どうしんえん)状に配置した。あれの意味を聞きたい」

 

 廊下を進むスミスが|突如ロッカーへ向けて発砲。彼が立ち去ると同時に、ロッカーに隠れ潜んでいた女性職員が倒れ、絨毯(じゅうたん)に涙と大量の血を存分に吸わせていた。

 

「ああ、アレ? あれはなんつーか、あれだよ。ケーキさ!」

 

 唐突にディノが己の持つ長剣型神機を天井へ向かって投げ放つ。同時に遠くから絶命の声が届き、天井から神機へ伝って血の滴(しずく)が垂れる。ディノは神機を引き抜きつつ平然と笑った

 

「バースデーケーキさ。見てわかんなかった? てか、そんな深い意味とか特にねえんだけど?」

 

「バースデー? 全員死んだが?」

 

「違うね。生まれ変わったのさ! バースデーケーキに? そのものに? へへへへ」

 

「……全く理解ができん」

 

「つか、支部長ほっぽってこんなところに来てアンタ大丈夫すか? 今連(・)中(・)が攻めてきたらー、とか考えない?」

 

「問題ない。戦い方は一通り教えている」

 

 廊下の左右から、挟(はさ)み撃ちとばかりに銃を向ける生き残りの部隊員。スミスは先んじて両手の拳銃型神機の引き金を引き、防弾チョッキごと腹に大穴を開けられた隊員達は驚愕の表情のまま血の池の一部となり果てた。

 

 二人がそのまま中央棟の出口をくぐると――彼らを囲むように、インスマス支部の住人たちが押し寄せてきた。

 

「助けて! 助けてください!!」

 

「あなたたちゴッドイーターでしょう!? アラガミが! アラガミがこの支部内に入り込んでいるんです!!」

 

「頼む! 助けてくれ!! アラガミを倒してくれ!!」

 

「お、おいおい、ちょっと待ってくれよ~、俺たちに頼むのはお門違いっつーかさあ」

 

 縋(すが)りつかれたディノは困惑するようにポリポリ後頭部を搔(か)きながら眉根(まゆね)を寄せる。

 

 一方でスミスは、ただ無言で拳銃型神機の照準を定め、発砲した。

 

「…………え?」

 

 武器もなにも持たず、彼らに助けをもとめて縋りついた、一般市民の女性へ。

 

「我々の支部長からの言葉を伝えよう。

 無謀にも我らへ牙を剥(む)いた侵略者の諸君。その安易(あんい)な行動の代償(だいしょう)を払ってもらう。侵略者にはことごとく血の対価(たいか)を支払ってもらう。

 戦場へ赴(おもむ)かぬ一般市民だから関係ないと思うか? 己は牙を持たぬ憐(あわ)れな羊だと嘯(うそぶ)くか? 否。狼が襲い手に入れた肉を己も食らった時点でそれは羊(・)と(・)は(・)呼(・)べ(・)な(・)い(・)。

 侵略のための軍を支援し行動を肯定しその恩恵にあずかろうとした時点で、お前たちも当事者だ。お前たちも侵略者の手先である。ゆえに報復の対象である。

 女も子供も老人も関係ない。もとより慈悲も赦(ゆる)しもない。

 ゆえに命を乞(こ)うな。赦しを期待するな。同情を引こうとするな。

 ただ口を閉ざし、ただ速(すみ)やかに――死ね」

 

「う、う、うわあああーっ!!」

 

 撃たれた女性が絶命し倒れると、それを皮切りに、市民たちは一斉にクモの子を散らすが如く逃走した。

 

 スミスは人々を追うことはせず、二丁拳銃を携えゆっくりと進む。

 

「うう……ああ、あああ~っ! おかあさあああぁぁん!!」

 

 たった一人そこに残る市民がいた。撃たれた女性の子供だった。

 

 まだ8歳か9歳くらいだろうか。エル支部長と同じくらいの背格好に思える。

 

 スミスは無言で、その子供の後ろを通り過ぎ――そのままノールックで背後を撃った。

 

 ヒキガエルを絞(し)め殺したようなか細い声と共に、背後の泣き声は静かになった。

 

「……へえ?」

 

 先行していたディノが、興味深そうにスミスを見た。

 

「何か?」

 

「いやあ……へへへへ、なんつ~か、顔に似合わずお優しいっすね?」

 

「……」

 

「あれにくらべりゃあ、遥かに人道的な死に方さ」

 

 ディノが背後へ親指を向ける。彼の背後では――まさしく阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図が繰り広げられている最中だった。

 

「アラガミが!! 助けて! アラガミがーっ!!」

 

 停止した移動要塞の内部へ、市民の住まう街路へ、数十匹の小型アラガミが侵入したのだ。

 

 無論これは偶然ではない。あらかじめ荷電偏食粒子砲で移動要塞を停止させるポイントに、アラガミをおびき寄せる誘因フェロモンを仕掛けていたのだ。

 

その理由は――先ほどスミスが述べた通り。市民たちへの代償である。

 

「やめろ! 来るな! やめろおおぉぉ!!」

 

「いやああぁぁ!! 痛い! 痛い!! 食べないでえぇぇぇ!!」

 

「いいやだあああああぁぁぁ!!」

 

 絶叫。いたるところで人々の悲鳴と絶叫が吹き上がる。

 

 生きたままオウガテイルに足を喰いつかれ、はらわたを喰い裂かれ、悲鳴ごとその頭部を喰い潰(つぶ)される。

 

 ザイゴートに腕を喰われた女は絶叫しながら天高く吊り下げられ、他の無数のザイゴート達に次々にその体を喰い千切られ、周囲に血と臓物(ぞうもつ)の雨を降らせた。

 

 次々と現れるアラガミから逃げられず、若者達は食いつくされる。

 

 その若者たちに押しのけられ地面を這(は)う老人たちは、それから間もなく餌食となる。

 

 戸棚の奥や備蓄倉庫の奥に隠された子供たちは、オウガテイル達にその居所を察知され、泣き叫びながら引きずり出されて貪(むさぼ)り食われる。

 

 恐怖の極みに発せられる絶叫。血反吐と共に吐かれるくぐもった苦鳴(くめい)。絶命の淵の慟哭(どうこく)と断末魔。

 

 血も凍るような酸鼻(さんび)極まる阿鼻叫喚の絶叫を、ディノはまるで混声合唱でも楽しむように、両耳をそばだてるような仕草で鑑賞している。

 

 その顔は――うっとりとした恍惚の表情であった。

 

「ああー、いいねえ。いい。すごくいい。

 まさか自分がこんな目に遭うとは思わなかったんだろうなあ。きっと安全な街の中で何事もなく平穏に一生を終えられるっつー、確証もない自信に満ち満ちていたんだ。

 まさかアラガミに生きたまま食い尽くされるなんて惨(むご)い死に様、想定してなかったんだろうなあ。街に住む自分が、まさか野山で繰り広げられてるような食物連鎖の下に置かれて食われる対象になるなんて夢にも思ってなかったんだろうなぁ。

 ああ、わかるぜ。その恐怖。痛み。死と共に降りかかる絶望の暗さ……いい。すごくいい。たまらねえ……!

 ……って、やべ、勃(た)ってきた。へへへへ、こっち見ないでくれよ? へへへへへへ」

 

「……全く理解ができん」

 

 スミスは冷然と、人々が逃げ去る方角を見晴(みは)るかした。

 

 外部からの侵入を警戒しすぎた結果か、この移動要塞から外へ出る道はたった一つしか用意されていない。

 

 アラガミ達の襲来によりパニックに陥った人々は、そのたった一つの出口へ向けて我先にと殺到する。結果、押し合い、倒れ、踏みつけ続け、自分たちの手で自分たちの同胞を大勢殺す結果ととなる。

 

 たとえ外へ出られたとしても、先んじて展開していた“伏(ふ)せ”の部隊――支部長直属の、第一から第三層へ潜伏し情報収集を担当していたゴッドイーター部隊によって駆逐されることだろう。

 特に、エル支部長へ心酔する隊長のキースは喜び勇んで市民を銃型神機で撃ち倒す。その様をスミスは瞼の裏でありありと思い描けた。

 

 これは感情的な指示ではない。ラスベガス第二支部にはこの者たちの生活を保障する余裕はない。生かしておいても利益はない。ゆえに殲滅(せんめつ)する。合理的に。

 

 ……本当にそうだろうか。

 

 かつて、一方的に己の身内を奪われた憎しみが、この作戦に反映されてはいないだろうか……

 

 スミスは脳裏に浮かぶその疑念を、即座に打ち払った。

 

 あの方が何を考えていようが関係ない。

 

 彼の憎悪を死するその時まで受け止め続ける。それが己に課せられた罪科(ざいか)であり罰なのだ。

 

 スミスが小さくため息を吐いた、その時。

 

 無線を通じて、エル支部長からディノへ向けて連絡が入る。

 

『首尾は順調だな? ディノ、そこにいるか?』

 

「アイアイ、斬首作戦は滞りなく完遂。現在アラガミのブレックファースト祭りを鑑賞中でございます? へへへへ、仔細(しさい)ないっすわ」

 

『それは重畳(ちょうじょう)、といいたいところだがな……少しまずいことになった。例の第一部隊が先遣隊の生き残りと戦闘を始めてしまった……今の彼らでは手に余るかもしれん。

 ディノ。敵は4人だ。行って速やかに始末しろ』

 

「へえ? いいんすか? 本当に? 俺がやっても?」

 

『彼らでは命は奪えない。そこを敵につけこまれる恐れがある……ああ。これは個人的なオーダーだ。彼らが惜しい。故(ゆえ)に、速やかに始末をつけろ』

 

「へへへへへ、アイ・サー。んでは次の作戦に移らせていただきます。へへへへへへ」

 

 通信が切れると、ディノはまるでクリスマスプレゼントの包みを発見した子供のような顔でスミスへと向き直る。

 

「ポケットの中に、どうやらビ(・)ス(・)ケ(・)ッ(・)ト(・)が(・)4(・)つ(・)入ってたらしい……叩いて割ってのお楽しみだ! へへへへへへ、俺は行くけど、スミスの旦那はお一人で帰れるかい?」

 

「問題ない。むしろお前と離れられるならせいせいする」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ~! そんな言いぐさ、流石の俺でも傷つくぜ~? へへへへへへ……んじゃまた」

 

 そう言った刹那(せつな)、ディノはスミスの前で即座にその姿を消した。

 

 残像すら、跡形残さず姿を消してみせるその敏捷性(びんしょうせい)。ゴッドイーターを、並みのアラガミすら凌駕する冠絶(かんぜつ)たる身体能力の高さ。

 

「……ブラックハウンド。とんでもない連中を生み出してくれたものだ……」

 

 誰に聞かせるでもなく、スミスはひとり、虚空(こくう)に呟(つぶや)いた。

 

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