プレデタースタイル。それは第二世代の神機使いのみが使用できる特殊な捕食形態だ。
神機への適合率が高まったことでより細やかな制御が可能となり、暴走させることなく細胞組織の増殖と
その結果――神機の
超広範囲改式・カガチは、
本来ならばすぐに後退するべきだろうが、ヴェントの剣に押さえつけられたことで逃げるチャンスを失った。今後退しても左右に逃げようとしても、この巨大な捕食口に食われて一飲みにされるだけだろう。
「……力ない者は食われる。第一世代のロートルは、せめて俺の神機の
巨大な神機の口が閉じる。
けれど僕は、抵抗せず、その場を決して動かなかった。
諦めたわけではない――盤面が動く、その後に敵を制圧する手はずを考えていた。
彼女が、この盤面を動かす!!
パアアアン!
遠方からの
ヴェントの神機が顎を閉ざそうとた瞬間、カンナが奴の神機のコアを正確に狙い撃った!
ギピアアアアアッ!!
「ぐああっ!? 何だとおおっ!?」
神機からのけたたましい絶叫が
「くそっ! 暴れるな!! クソっクソっ!! どこからだ!? どこから攻撃されたっ!?」
『リーダーさん! やりましたよ!! 盤面をひっくり返しちゃってください!!』
カンナから弾むような声が届く。敵の
「狙撃兵……! あと一人隠れてやがったな!?」
「ヴェント! 向こうの建物だ!! 撃った方角からいってあそこしかねえっ!!」
「付いてこいユージーン! 邪魔なスナイパー野郎をまず殺すっ!!」
『ひえええっ!? こっち来るーっ!?』
おびえるカンナに対して、僕は「大丈夫」とだけ伝える。
突然の狙撃に血が上り、完全に冷静さを失っている――今ならば制圧は
神機の引き金を一度引き、グレネード型にチェンジ。
僕へ背中を見せて走る隙だらけのヴェントとユージーンへ、グレネードの
「があああっ!?」
榴弾は二人の間をすり抜け、彼らの前方で炸裂! 後方へ吹っ飛び地面に転がるヴェントの首元に、僕は長剣型にチェンジさせた神機の切っ先を向ける。
「……くっ!」
「ヴェント! クソロートルのザコが舐めやがって……!?」
ユージーンの怒声が途中で止まる。
いつの間にか背後に回り込んでいたアレックスが、その首元に大きなコンバットナイフを突きつけていたからだ。
「ヴェント! ユージーン!!」
遠くでクラウディアが叫ぶ。向こうの意識がこちらに向いた――ならば一気に畳みかけるチャンスだ!
――イリア! あれを使え!
「……あれってもしかして……でも……」
――大丈夫だ! 今の君なら怒りをコントロールできる! やるんだ!
「……わかった!」
イリアは自分の首元にOCアンプルを打ち込み、
「……アジン、ドゥバ……!」
「な、なに? 盾から煙……? 目くらましで逃げるつもりか!?」
クラウディアがハンマー型神機を点火。神機の推進力を生かし猛烈な勢いで突進する!
瞬間。
クラウディアの一撃は空を切り――
「なに……それ……なんなのアンタ……速すぎ……!」
言うや否や、クラウディアの両手両足から血が噴き出し、彼女は糸が切れた人形のようにその場にくずおれた。
一瞬の内に両手足の
「お姉ちゃん! ううああああぁぁああっ!!」
ロメロが絶叫しながらガトリングの弾丸を乱射する!!
しかし射線上にはすでにイリアの姿はなかった。
彼女はとん、と一足飛びでロメロの頭上を跳び越え、逆さになったままその背後へ回り込み――神機の盾を展開!
展開される衝撃でロメロは背中を強かに打ち、前方へと転がった。強烈なシールドバッシュだ。
そしてイリアは地面に落ちる寸前に体をひねって足から着地。たった一瞬の内に、鮮やかに二人のゴッドイーターを行動不能にして見せたのだった。
「クソ……役立たずどもが……!!」
ヴェントが地面に転がったまま、倒された二人へ
『勝負は決しました。おとなしく武器を捨て投降なさい。これ以上の抵抗は無駄です』
僕の端末からレインさんの宣告が届く。
ヴェントは怒りと
「暴れんじゃねえよ。首元にあるのが見えねえのか?」
「……やれよ! そのままこの汚ねえナイフで首
「…………」
アレックスは挑発に乗らず、沈黙を貫く。しかしそんな彼を、ユージーンは鼻でせせら笑った。
「……できねえのか甘ちゃん共がよ!! 俺たちは大勢殺した! 生きるためだ! 殺される危険を承知でここまで殺しに来たんだよ!! テメエ等とは覚悟も何もかも違う!! そうだろロメロっ!!」
ロメロは小さく
「いつまで寝てんだ! テメエ! 命がけで姉ちゃん守るっつってたよなあ!? 姉ちゃんズタボロにされてるじゃねえか!! 何やってんだボケェ!! 死ぬ気で守ってみせろや!!
死んででも守れ。
その言葉にロメロは反応し、小さな肩を震わせながら、ゆっくりと上半身だけを起こす。
何かするつもりなのか? 一体、この状況でなにを……?
「……どんな……手を、使ってでも……お姉ちゃんは、守る……!!」
ロメロは、右腕を高く、高く
まるで天へと抗議するかの
バギイイィン!!
硬質な音と共に、ロメロの腕輪が破壊される。同時に腕輪内部にある偏食物質の詰まった無数の極小アンプルがその腕に突き刺さり、大量の偏食物質が彼の体内へ流れ込んだ。
――まずい。
彼の意図を完全に理解した。腕輪の破壊。偏食物質の過剰投与。それは僕も一度経験したことがある。
あの時、僕はオーバーフローにより意識を失う程度で済んだ。それは本当に幸運の一言に尽きることだ。
偏食物質のオーバーフローのリスク。それは
過剰な偏食物質による体内オラクル細胞の暴走――その末の、ゴッドイーターのアラガミ化である。
「く、ひゅ、こひゅ、こひゅ、こひゅ、」
ロメロの体が
『いけません!! 誰か、止めて――!』
レインさんの叫びもむなしく、膨れ上がったロメロの背中の制服が裂け、まるで
僕たちが
六本の脚が地面に立つと、同時にロメロの体が宙へと高く持ち上げられる。白目を
六本脚の黒い肉の塊にさらなる動きを見せる。足の付け根付近が蠢き、さらなる肉の塊が
グネグネと左右に揺れながら体を構成させていく。まるでTシャツを頭から
その腕は一見してハサミのようであったが、よく見るとそれは、あまりにも見慣れた姿をしている――神機の、捕食口そのものだったのだ。
次に胴体。まるで黒いプレートアーマーのごとく硬質な外殻が形成され、腹部にはまるで昆虫のように左右に開く大きな口が形成された。
胴体の上から、まるで円環のような部位が音を立てて開かれ、その中心部からゆっくりと頭部が生える。
その顔面は激しい憤怒に駆られた表情をかたどり、頭頂から後頭部にかけて、妖しい紫色に輝く長いたてがみのようなものを生やした。
襟元のスピーカーから、レインさんの絶望の声が届く。
「第一種、
シャアアアアオオァァッ!!
スサノオが腹部の口と、両腕の捕食口からけたたましい声を上げる!!
僕はその
『り、リーダーさん! インスマス支部の二人が逃げたっスよ!!』
カンナの声に振り返る。しかし時すでに遅し。ヴェントとユージーンは己の神機を手に猛スピードで戦場を離れつつあった。
「ははははっ! ちゃんと役に立つじゃねえかロメロ! あいつらはこれでお終いだ! つまり生き残るのは俺たちだ! 俺たちがラスベガス第二支部のゴッドイーターだ!!」
「ようは使いようだ! ゴミに過ぎない第一世代とはいえ、うまく使えばああいう爆弾に仕立てられる! 日頃から姉を盾に程よく追い詰めたのが功を
「流石だぜ隊長! あんたと一緒ならどんな戦場でも生き残れる!! はははははっ!!」
最悪だ……このために、初めからロメロを犠牲にするために、隊に編入していたのか?
生きるためなら何をしてもいいのか!? あいつら……!
心の底から嫌悪と怒りが湧き上がる。だが、連中を追うことはできなかった。
『リーダー! 敵が動きます!!』
とっさに振りむくと、スサノオの背後から何かが猛スピードで放たれる!
間一髪、後方へ逃れると、地面に突き刺さったものの正体がわかった。
刃。まるで巨大な神機の刃先のようなものが突き刺さっている。見るとそれはスサノオの長大な尾の先であった。
そこでこのアラガミの
ハサミは凶悪な神機の
神機使いの成れの果て――これがこの、スサノオというアラガミ……!
シャウオオオ!!
邪悪な叫声と共に、スサノオが尾部による高速
「うおおおっ!?」
「くうっ!!」
僕とイリアは回避を、アレックスはタワーシールドでガードしてその攻撃をやり過ごした。
強い……! 恐るべき速度と精確さ。これが接触禁忌種の力なのか……!
『そこっ!』
カンナからの援護射撃だ。彼女の狙撃弾はヤツの腹部の口内に命中!
すると。
ジャウゥオオオオ……!
ダメージを与えられたのか、スサノオは攻撃を止め、腹部を守るように両腕のハサミでブロックしながら後退。
「やるじゃねーかカンナ! その調子でガンガン口の中にブチ込め!!」
『だ、ダメっス!! 警戒して口をずっとブロックしてる! 他の部位はどこ撃っても全然ダメージ通ってなさそうっスよー!!』
カンナの射撃が止むのを待っているのか、口をガードしたまま動きを止めるスサノオ。
その時――スサノオの足元で動くものがあった。
クラウディア。両手両足をイリアに斬られた彼女が、両腕を震わせてゆっくりと体を起こす。
あまりに危険だ。もしもスサノオに気づかれたら……!
しかし。
僕の
「は、はは、ははははは……ロメロ、なんでしょ? そうなのよね?」
その瞳は恐怖に染まっていたが、口元は、期待を込めた笑みを浮かべている。
「お姉ちゃんを……守るために変身してくれたんでしょ? そうなのよね……?」
『……オ、オオ、オネイ、チャン……』
クラウディアは、その声を聞いた瞬間に、瞳から大粒の涙を流す。
「ロメロ……! やっぱりあなたなのね!! ロメロ……!!」
「……やって。あいつらを殺して!! みんなみんな喰い殺して!! ロメロ!!」
背筋が寒くなるような憎悪の声。その声に連動するように、スサノオが動く。
くっ……!
僕達は身構える、が、その時思いもよらないことが起こる。
「……え?」
スサノオの尾が、ヘビのように素早くクラウディアの体に巻き付き、彼女を空中高く放り投げた
――あれは――ダメだ! このままじゃ……!!
この後の結末が脳裏をよぎり、僕はポチを呼びスラストを使おうとした。すぐに飛翔し、その結末を回避するべく動こうと思った。
だが、何者かが肩を
振り返ると――それはアレックスだった。
「…………」
彼は、
――アレックス……!
だから。
間に合わなかった。助けられなかった。
落下するクラウディアの体を、スサノオが右腕の捕食口で喰らい
グジュアッッ!!
骨が粉砕され肉が
残されたのは、ケチャップの容器を踏みつけた後のごとく周囲へぶちまけられた大量の血のりと、腹圧により飛び出た腸の一部。
『ア、アア、オオオ……』
ロメロが愛した姉の
『アアア! アアアアァァアアア!! オネエチャアアアアアアアアン!!
ウ、ウウゥウウ!!
!!』
大好きな姉を殺してしまい泣き叫ぶ一方で、その肉の美味さに喜び打ち震える目の前の怪物に。
しかし、
次に奴の殺意と食欲が向かうのは――間違いなく僕達だ。
『オオオオオ、オ、オマエラ! オマエラガ、ワルインダ!! オマエラガ、イナケレバ! イナクナレバ!! オゴ、コココロス!! ゴロス!! 喰ウ!! 喰ッテヤル!!
喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤル喰ッテヤルウウウウゥゥッ!!』
身の毛もよだつ
敵のこの攻撃速度。逃げられない――いや、逃げてもこいつは執念深く追ってくるだろう。下手をすればラスベガス第二支部まで追ってくる!
後方で待機するフリードさんたちの非ゴッドイーター部隊や、配属されて間もない新兵のゴッドイーターが犠牲になる。下手をすれば支部内に侵入され支部の市民が食い尽くされる。
……このバケモノは、ここで、僕達の手で始末しなければならない!!
ムチのようにしなり振り下ろされるスサノオの尾の一撃をかわしながら、僕達はスサノオ討伐のための行動を開始した。