「嘘だろ!? 今日は訓練だけって言ってたじゃねえか!!」
アレックスの抗議に、隊長は眉も動かさず平然とこう言った。
「そうだ。これは訓練だ。お前達はいずれそのアラガミ以上に強大な相手と戦わなければならない。そいつはいい訓練相手になるだろう」
相手は討伐対象とすら言えない雑魚だと、そう言いたいのだろうか?
けれど……怖い。あんな牙で噛まれたらひとたまりもない……
僕とアレックスは盾を展開したまま、オウガテイルと一定の距離を
のし、のし、とオウガテイルが歩を進め、徐々に距離を詰めてくる。
正直逃げ出したい……けど、ここで逃げるわけにはいかない。
ゴッドイーターになったからには、アラガミを前に逃げ出すわけにはいかない!
グオッ!
オウガテイルが吠え、一度大きく身を沈めた――来る!
僕は素早く身を翻す。瞬間、飛び掛かったオウガテイルの牙が空を切った!
「そうだ。攻撃の
レオナルド隊長は
グルァ!
オウガテイルが巨大な尻尾を振り回す! 僕はすぐさま盾でガード。重い衝撃が盾から両腕へ波のように伝わっていく……!
「けっして倒れるなよ。姿勢を崩せばすぐに食いつかれる――アレックス! 盾を下ろせ! 視界がふさがっているぞ!」
アレックスは言われた通り大盾をわずかに下ろした。盾の上から、恐怖に抗う必死な形相が見て取れた。
そういえばイリアは? 一瞬だけ彼女の方を見ると――遠くで顔を青くし、ガタガタと震えて縮こまっている彼女と目が合った。
「よそ見をするな! 下から来るぞ!」
隊長の声で素早く視線をオウガテイルへ向ける。右足を
――くっ!
僕はすぐに後ずさり、攻撃を
……こうして防御に
いつまでも防ぎ続けられない、なら。
こちらから攻撃を――するしかない!
先ほどの攻撃でオウガテイルは大きく態勢を崩した。今だ!
僕はコアから手を離して盾の展開を解除。素早く神機の刃をオウガテイルの脇腹に突き刺した!!
ゴギュアッ!!
オウガテイルは悲鳴を上げて道路に倒れた。傷口からは血の代わりに、何かドロドロとした灰白色の体液のようなものが流れ出た。
効いている。ダメージを与えた。さらにもう一撃!
神機を振り上げようとした、その時。
ゴォアッ!
オウガテイルが大きな尻尾だけで体を持ち上げ、こちらへ突進!!
すんでの所で盾を展開! 大きく開けた顎が、盾の両端にガッチリと食らいつく……!
このままでは攻撃することも、引き離すこともできない……どうする?
焦る僕の耳に――勇ましい声が届く。アレックスだ!
「うおおおらぁぁっ!!」
突進の勢いに重量を乗せ、大剣型の巨大な神機を振り下ろす!!
ギュゴオ!!
直撃したオウガテイルは後方へ吹っ飛び、胴体が
先ほどのように立ち上がることもなく、その場でピクピクと痙攣するだけだった。
「ハア、ハア……か、勝った……!!」
アレックスは息を切らせながら喜びの声を上げる。
しかし……次の瞬間、
千切れかけたオウガテイルの胴体が……徐々に、徐々に再生していく……!
「これが、アラガミだ」
レオナルド隊長だった。悠然と僕達の横を通り過ぎ、オウガテイルへと近づいていく。
「こいつらは他の生物とは違う。体内のエネルギーが尽きない限り、どれだけ斬り刻んでもすぐに再生してしまう」
傷口をほとんど修復させたオウガテイルが、ゆっくりと立ち上がる。
「こいつらを倒す方法は一つだ」
オウガテイルは尻尾で地面を蹴り、隊長の頭上から躍りかかる!
レオナルド隊長は動じず、素早く、一閃。
灰白色の体液を散らしながら、オウガテイルが再び道路上へ倒れ
「体内にある“コア”を破壊する……こんな風にな」
その瞬間、僕達は
隊長の神機が変形した。ミシミシと神機の肉がつばの部分から上下に大きく盛り上がり、ぞろりと鋭い牙を備える。
それは。まさに巨大なオオカミの顎のように……!
「捕食しろ」
静かな隊長の声に
すると――同時にオウガテイルの体が灰のように崩れ、みるみる間に風に散って消えてしまった……
「コアは奴らの脳だ。捕食するか、破壊すればどんなアラガミもその場で消える。狙うべきはコアだ。それ以外はどれだけ斬ろうと無意味だ。それを忘れるな」
これが、ゴッドイーターの戦い方なのか……神機が生きた兵器だということの意味を、今はっきりと理解できた気がする……
「た、隊長よう……今のどうやるんだ? 神機で、アラガミを喰うやつ……」
「捕食のことか? まあ、こいつは色々と“リスク”があってな。近いうちに俺以外の奴からレッスンを受けることになる。その時まで待て」
なんだよそれ、とアレックスは不満げに呟いたが、それ以上食い下がることはなかった。あの隊長にゴネても無駄だと悟っているのだろう。
「なんにせよ、3人とも良くやった。これで訓練は終了だ。戻ってゆっくり休むといい」
「はあー……やっと終わりかよ……」
アレックスは大きく
その彼から遠く離れた場所で、イリアが気まずそうに、こちらを見上げていた。
「イリア。逃げ出さずによく耐えたな。次からその恐怖とどう立ち向かうかをよく考えておけ」
隊長の声にも彼女は応えず、地面へ視線を下ろしてしまう。
アラガミがよほど恐ろしかったのか……それとも、一歩も動けなかった自分に情けなさを感じているのか。
そのまま彼女を放っておくこともできない。僕は彼女の所へ近づいて……
……近づいて、どうしたらいいだろう。逆に、1人にして欲しい時もあるだろうし……?
とか思っていたら、イリアがこっちをじっと見つめてきた。と、とにかく何か言わないと。
――だ、大丈夫? 立てる?
……我ながら間抜けなことを言ってるな、と思った。何か元気を出せるような気の利いた事が言えたらよかったのに……
イリアは少し戸惑ったような顔をして、小さく
そして、立ち上がろうとする彼女を助けるため、
手を差し出しながら、わずかに腰をかがめた――
その、瞬間。
ゴウッ!!
僕の頭上を、背中を、何か大きな、巨大な影が、かすめていった。
次に、背後に響く大きな衝撃音。巨大な鉄骨でも落下したかのような
何だ? 一体何が……!?
振り返り、息を飲んだ。
体高は、ゆうに4メートル近い大きさ。大型トレーラーのように巨大で、トラのような体つき……
しかしその全容は既知の生物から完全に逸脱していた。
背には大きな1対の翼を生やし、背骨に沿うように金属のピストンのような物体がいくつも生えている。尻尾の先端も金色に輝く金属質の何かが
首元でたてがみのように蠢く無数の触手。その顔は――これは、はたして“顔”といえるのか……?
本来目玉がついているはずの場所に、ラッパやトランペットのような音を外へ広げる部位、ベルのようなものが、まるで無数に狂い咲くアサガオのようにいくつも生えているのだ。
金管楽器と生物を無理矢理融合させたような異常な姿。
そして、無数のベルの下には、針のように鋭い牙をおびただしいほど備えた、
顎の下から、大量の血を滴らせていた。
……え?
目の前の化け物の足下を見た。
燃えるような赤い夕日が、真っ赤な血だまりが静かに広がる様を見せる。
その血のプールの中に、何かが落ちているのを見た。
それは、
隊長の、右腕だった。