異世界で私だけが、カードをドローする   作:三葉乾酪

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二枚目

 

 

 

 秦谷サクマは召喚師である。

 ある日、異世界へと召喚された何人かの学生の一人だった。そんな彼には、召喚師の才があった。

 多くの魔物と契約を交わし、世界に秩序と安寧をもたらす一助となるほどの才が彼にはあった。

 だが、それも露と消えることになった。

 

 彼らに与えられた魔道具(アーティファクト)、魔物との契約の補助具としての機能しかなかったはずのソレを手にした時、全ての歯車が狂ったのだ。

 日本で暮らしていた時に触れたことのあるようなカードで組まれたデッキ。この異世界にあるわけもないようなデッキへと変貌してしまった魔道具(アーティファクト)を手放すことも出来なくなってしまったことで彼の召喚師としての人生は大きくその歯車を狂うことになってしまった。

 

 この世界の召喚師は、自身の魔力で契約している魔物を好きなタイミングで召喚できる。

 だが、サクマは自身の魔力から錬成されるマナというモノをコストにして手札から魔物を召喚する。

 マナは、その使用してから再錬成までに猶予が必要で、時と場合に必要な魔物ではなく手札に握っている魔物だけという制限があった。

 召喚師としての強みの半分を彼は最初に失ってしまった。

 

 ただ、それだけだった。

 

 

 

─────◇

 

 

 

 森を抜けるために歩き始めて、そろそろ一時間は経った頃でしょう。

 だというのに、私たちは未だにフェレモッドの森から出ることができていない。出口を見つけるどころか、それ以前に行きの際の見覚えがある地形すら見当たらない!

 

「……ドロー」

 

 意図的に歩調を落としながらの三回目になるドロー。そうして引いた『苗木』をセットすることで、腕甲に新たな若枝が伸びては淡々と私の魔力を組み上げてマナを生成していく。

 群生する甲虫(カハルオス)が【増殖】を誘発させて、四体目になる増殖体(コピー)が生まれてすぐに羽音を残して飛び立っていく。

 そんな背を、いつの間にかにたちこめ始めた霧の中へと解けるように消えていくのを見送りながら私は歩を進めていく───

 

「生まれてから巣立ちが早すぎませんか?」

「Ggg」

 

 そんな思ったよりも疲れてるのか、こぼれてしまった妄言を傍らのカハルオスが反応する。

 正直、反応されても困るので何も言いませんが……。

 森を歩きながらドローしては『苗木』をセットしていく中、気がつけばカハルオスは私の傍らで歩くのが常になっていました。

 まあ、恐らくは索敵や斥候は増殖体(コピー)だけで問題ないと判断したのでしょうね。もしくはこの段々と濃くなっていく霧の濃さに本能的な警戒でも抱いている、のかもしれませんが。

  

「……それにしても、ここまでカハルオスを【増殖】させるのは初めてですね」

 

 普段の斥候は確かにカハルオスを使うこともありましたが、主だってやっていたのは私ではなく他の仲間。

 さっきも言ったように、カハルオスは受けが悪い。だからでしょう、斥候代わりに使ってもこう長くは使わず、【増殖】もせいぜいが一、二体出して終わりでしたね。

 

「……何体まで【増殖】できるのでしょうか?」

 

 【増殖】の誘発条件は、『苗木』のセット。

 今のところは最初のを含めて四回『苗木』をセットしているので四体増えていますが……そもそも私のデッキに何枚『苗木』があるのかが分からないので、限界も分からないわけで……こういったことを考えられるようになったのもある意味、一人になって良かったことなのかもしれませんね。

 

「できる限り、良いように捉えていくべきですね。後ろ向きに考えていても良いことはあるはずもないでしょうから」

 

 となると、私の召喚もどこまで持続するのかも後々で確かめましょうか。

 ローカヴ、私の使役する彼らは総じて見た目の評判がよろしいものではなかった。カハルオスなんかはまだマシな方で、ローカヴは全体的に植物・動物・虫の生物的なパーツに無機質めいたモノが絡み合った造形。

 女性陣は言わずもがな、男連中ですらあまり良い顔をしていませんでしたね。後はカハルオスにはありませんでしたが、毒性持ちもちらほらいたというのもあったのでしょう。

 

「その辺の機微を放置したのは私の落ち度ですね」

 

 ですが、私がどうこうできることでもなかったのは事実。

 この世界に来て、召喚師の才能があるからと渡された魔道具(アーティファクト)もどういうわけか、こうしてカードデッキに変質した挙句に召喚できる魔物は明らかにこの世界の魔物とは思えないようなモノ(ローカヴ)ばかり。

 デッキ自体も、中身を確認すらできず、当然枚数も分からない。

 デッキの組み換え?そもそもカードをどうやって手に入れろと?

 仮に合ったとして、デッキレシピとかカード情報もあるわけもないですから……不親切極まりない仕様で、何も改善すれば良いんでしょうか?

 

「せめて、デッキの中身を見させて欲しいものですね。今まで『苗木』とローカヴぐらいしか見たこともないですし、せめてドローソースの一枚でも欲しいのですが」

 

 カードを扱う以上は、自分のデッキを貶すようなことは決して本意ではありませんが、必要な時に必要なモノを用意できない不自由さは、召喚師として致命的でしょうね。本当に。

 

「……今もそうですね」

 

 今まで呪文の呪の字も引いたことがありませんし、そもそも呪文に相当するカード入っているんですかね?

 この世界には当然、魔術があるので召喚師の私も使ってみたいんですが……

 

「まあ、あくまで召喚のためのシステムなので、魔術なんてコレでは使えませんと言われたら諦める以外ないですね」

 

 にしても、システム面に若干の既視感はあるのですが……。

 と、そこまで考えたところで私は足を止めました。

 

「Gygy」

「ええ」

 

 傍らのカハルオスが鳴くと共に、私はすぐさまに近くの藪の中へと身を投じる。出来る限り音をたてないように気配を押し殺すように。

 そうして、二、三拍ほどおいて僅かに枝葉が揺れ動くような音が聴こえてくる。

 霧がかっていますがそれでもまだ見晴らしはマシな中で数十メートルほど先に大柄な影が見える。

 身の丈は四メートル前後、身体に比べて手足は短い。のっそりとした動きで森を歩いていく人型はここ数日で嫌という程見た姿だ。

 

「トロール」

 

 動きは鈍重、頭もそこまで良くはない。

 しかし、力はある。

 この数日間でも、前衛が殴り飛ばされるのは何度も見てきました。

 

「一体なら、問題はありませんね……それに熊を出せば……いえ、消耗するのはマズイですね」

 

 【増殖】したカハルオスの数で仕掛ける分には問題はないでしょう。耐久面に関しては一抹の不安はあるものの、極論、私と本体であるカハルオスさえ無事であるなら追加を用意することができます。

 それに私のデッキには一対一でトロールに勝てるローカヴがいます。引ければ、ですが。

 …………そのうえで、戦うべきではないんでしょうね。

 

「あくまでフェレモッドの森から出るのが目的。ここで、わざわざ消耗するのは避けるべきですね」

 

 思った以上に森の奥深くへと入っていたようです。仲間内には自動でマッピングが出来る人間がいたため、行きも帰りも問題はありませんでした。

 ですが、私にはその手段はなく、代わりにカハルオスとその増殖体(コピー)による人海戦術を取るしかない。

 

「それも、この霧のせいで難しくなってきていますが」

 

 先程までは数十メートルほど先のトロールの姿が見れていた程度の霧だった、というのに今は霧中の影。

 いえ、もっと数を増やせば問題はないのかもしれませんが、それだと情報が錯綜しすぎることになります。何より、それらの情報を一度カハルオス本体へと集めなくてはいけない。

 

「情報の集中過多でカハルオスがパンクしてしまいますね」

「Gg?」

「……気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 私の言葉を拾ったのか、疑問に感じたような鳴き声を出したのを窘める。

 兎にも角にも、この場をできる限り早めに離れた方が良さそうですね。数十メートル先なんて、この森の中とはいえすぐ近く。

 

「私みたいな後衛がこんな視界の悪い場所でやり合うような相手ではありませんよ」

 

 そうして、私は耳を澄ます。

 トロールは見た目通り鈍重ですが、どういうわけかその足音は驚くほどに無い。それに加え、動きものっそりとしていて出す音など、動いた時に巻き込まれた枝葉や草木の音ばかり。

 そうして、自分から音を出さぬように、トロールが出す音を聞き逃さないようにしばらく。

 

「…………」

 

 草木が揺れる音、枝葉が動く音、自分自身の呼吸する音、何もかもがゆったりとしかし騒がしく感じていき───

 気配と音が遠のいていったのを感じ取ったと同時に私は薮を飛び出す。

 既にカハルオスの増殖体(コピー)は文字通り四方八方へと飛んでいっている以上、トロールと距離を取りながら森を抜け出た報告を待つしかないでしょう。

 

「トロールが住む森の中で、こんなにも濃い霧が出ているというのに本当にトロールに鉢合わせしない、なんてどの程度の確率かは分かりませんが」

 

 その時は、腹を括るしかないのでしょう。

 

 

 

 

 

─────◆◇◆

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