異世界で私だけが、カードをドローする 作:三葉乾酪
口火を切ったのは
湿った地面を蹴り飛び出していったカルドレフはその手に握る長斧を大上段からウェアトードの頭蓋をかち割ろうと振るう。薄らとかかっている霧を断ち切りながら迫るそれを狙われたウェアトードはしかし、すんでのところでそれを回避してみせた。
「ォオオ!!」
「カハルオス」
「Gyy」
そうして、ウェアトードらの真っ只中へと躍り出たカルドレフ。深々と斧が地面に埋まるという隙に横合いからウェアトードがその手の棍棒を振り上げる。
しかし、それを増殖体が許さない。
弾丸のように飛び出していった増殖体がウェアトードの胴体へと突き刺さって、そのまま霧の中へと消えていった。
離れたところで鈍い音が響くと共に、ようやく他のウェアトードたちも動き出した。
「棍棒、二。徒手、二。ですか」
冷静にサクマがウェアトード側の戦力を確認する中、棍棒を持った二体がカルドレフへと飛びかかり───残りの二体がその横を悠々と抜けていく。
狙いはもちろん、武器を持っていない細身な人間。
「カルドレフ、こちらは気にしなくて結構」
僅かに目を細めながら、サクマはカルドレフに目の前の相手へ集中するように告げる。
そうしている内に目の前までやってきたウェアトードの内、一体がその拳をサクマへと振るう。空気を裂くような音を響かせて放たれたそれは格闘家の一撃と言っていいほどの速度で。
だが、ウェアトードの一撃はサクマを殴り飛ばすことはなかった。すんでに腕甲で逸らすように受け止めたからだ。
あちらも受け止められるとは思ってなかったのか、カエルらしいギョロリとした目を見開かせ驚くばかり。
そんな横っ面をサクマが蹴りつけ、ようとしたが今度は逆にサクマがすんでのところでそれを止められた。
後詰めのウェアトード、その口から伸びる舌がサクマの足首を捉えていた。
「だから、なんです?」
すんでで止められた足に、ウェアトードが思わず笑みを浮かべたが、すぐにその表情が歪むことになる。
「オォッ!?」
「ォアァッ!?」
舌を巻き付かせたまま、足は振り抜かれた。
勢いは確かにないが、その代わりにウェアトードというオマケを叩きつけてやれば、互いにもみくちゃになりながら面白いように体勢を崩していく。
もちろん、そんなことをすれば未だに舌が巻き付いたままのサクマも引っ張られ巻き込まれてしまうが、待機していたカハルオスの本体がそれを易々と切り落としてみせた。
「武器の一つでも用意するべきでしたね……お互いに」
そんなサクマの自嘲とも取れる言葉と共に、カハルオスの本体と霧の中から戻ってきた増殖体が頭上を旋回していく。
「まずは二体」
「Gi」
旋回していた二体が大きく飛び上がったかと思えば、そのまま悶絶しもみくちゃとなっているウェアトードらへと急降下。
ズンッ、大きな音と土煙が上がったのを見て、サクマは視線カルドレフらへと移していく。
「カハルオス」
サクマの声に、土煙からカハルオス二体が飛び出て彼の周りを飛び回っていく。そんな彼らにサクマは目を細めつつ、増殖体をカルドレフの元へと向かわせる。
棍棒持ちが二体。
それでも劣勢でもなんでもないが、数が多いに越したことはない。
「それに無駄に消耗させる必要もありませんし」
コレで残り二体。
増援が来る可能性は決して捨てきれないが、これで一旦は解決するだろう、とサクマは息を吐く。
痛みは引いてきた脇腹を労わるように触れて。
「オォッ」
カハルオスは
土煙に霧、視認性などろくにないようなこの場でトドメを刺したと勘違いしていた。
故にこのチャンスを逃さないと言わんばかりに、それは土煙の中からサクマ目掛けて飛び出していた。
今度こそ殴り殺そうとして───
「見逃しても、構わなかったのですが?」
白枝の腕甲が閃く。
それが、ウェアトードの最後に見た景色だった。
─────◆
カエルにしてはずいぶんと硬い感触でしたね。
わざわざこんなか弱い相手に隙を狙って不意打ちとは、何とも言い難いので忘れることにしましょう。
「『苗木』を……ああ、手札にはもうなかったですね。仕方ありません……カハルオス、あなたは周囲の警戒を」
残りの手札四枚、そこに現状のめぼしいカードはなくウェアトードの増援を警戒するのには大人しくカハルオス本体に頼らざるを得ませんでした。
こういう点を考えるとやはり魔術ないしそういうカードがあると良いのですが。
とまぁ、ないものねだりをしていても仕方ないので私は大人しく視線をカルドレフらへと向けます。
「劣勢どころ、ではなさそうですね」
予想通りと言うべきか。
棍棒という武器を持っているからか、武器の扱い方や武器を持つ相手との戦い方は理解しているのでしょうね。二体のウェアトードが受け手と攻め手を交互に変えながらも、長斧と身体から突き出てくる槍枝で攻めてくるカルドレフにジリ貧となっていたのがつい先程でしたが……
「カハルオスの
攻撃をしようとすれば、横合いから牽制が飛んでくる。
防御をしようとすれば、フェイントの一撃が飛んできてそちらに反応してしまいカルドレフの攻撃を受け止めきれない。
ならば、文字通りおじゃま虫である増殖体を先に倒そうにも目の前でそんな隙を晒せばカルドレフが見逃すはずもありません。
ほら、増殖体に殴りかかろうとしてカルドレフから気を逸らした結果、槍枝に足を貫かれたようです。
「一手、ミスをすれば途端に瓦解するのは何事にもあてはまりますね」
いずれ、カルドレフが本格的に攻め始めれば確実に倒されるのは目に見えてはいましたが、それでもギリギリまで隙ができるのを待ってから逃走でも良かったと思いますが、残念ですが……。
足を縫われたウェアトードの胴体へ増殖体がめり込み、長斧がその頭を叩き割りコレで一つ。片方が倒れた以上は、もう防御も攻撃も追いつくことはない。
「カルドレフで正解でした。他の手札は……まあ、甲乙つけ難いのは認めますが、ウェアトードを複数相手取るには難しそうではありましたから」
「ォ───」
「Ggyy」
最後のウェアトードが倒れたようですね。
背中から増殖体に体当たりされて体勢を崩した所を長斧で両断。
正直なことを言えば、あの場から離れなくても良かった気がしなくないですが、カルドレフの槍枝や長斧で損壊なんてこと起きないに越したことはないですからね。
「兎にも角にも、早めに彼らのもとへ戻りましょう。他にもウェアトードがこの辺りを彷徨っていない、なんてことはありえませんから」
「Gy」
警戒を行わせていたカハルオスとカルドレフを近くへ寄せ、増殖体に先導するよう指示を。
「カルドレフ、あなたは最悪私を無視して動いて構いません。私の身の安全よりも、外敵の排除を優先しなさい。ああ、カハルオスは基本的に私と行動を」
数で襲ってこなければ、私の身の安全などカハルオスと私自身で充分。それに私を守るよりもカルドレフに暴れてもらって数を減らす方がよっぽど楽になりますから。
しかし……
「一人は、思ったよりも大変ですね」
召喚師として後衛で、戦況を見てはいましたが結局仲間に守られながら召喚したローカヴたちへ指示を出す。
今思えば、おんぶにだっこ……は流石に言い過ぎですが、彼らに頼りきりだったのは間違いありません。これからは戦闘中の自分の安全も確保しながら指示を出していき、時には自分すらも策に使う覚悟もしなくてはいけないようです。
いえ、今まで覚悟がなかったという話ではないのですが。
「ただ、すべて自分で考えなくてはならない、というにはいきなり過ぎではありますが」
追放するのなら、せめて宿屋でやってもらいたかった。そうすれば、一日ぐらい覚悟を決める時間が取れたというのに。
彼らを恨むとしたらそれぐらいですね。
「Gig……」
と、カハルオスの様子が可笑しいですね。
私の周辺を警戒して飛び回っていたというのに……私の頭上ばかりに旋回して
「どうしました?何か───」
何かが切れた。
後頭部、から僅かに指一、二本分ほど浮いた何もないはずの虚空で、髪の毛を引き抜かれたかのようなプツリとした感覚。
私はそれを知っている。
「これは、増殖体の?ッ、カルドレフ、警戒を───」
増殖体、それも先行していた個体との繋がりが切れてしまった。召喚したモノとの繋がりが切れた感覚、これが言い表すことは一つ。
カルドレフへ指示を出そうとして、霧の向こうに大きな、影、が…………。
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