異世界で私だけが、カードをドローする 作:三葉乾酪
よくある話です。
飼い主に酷いことをされたから、捨てられたから、人間を嫌う動物がいるように。
信じていた相手に騙されたから、裏切られたから、他人を信じない人間がいるように。
私も、同じこの世界に呼びつけられ帰るという目標に進んでいた仲間たちに、何の言葉もなく追放されたから。人間ではなく、共に戦ってくれる
人間よりも動物を愛する、そういう心理と何も変わらない。
では、その動物がいきなり人間の姿で、人間の言葉を喋ったのなら……人はどう反応するのでしょうか?
「……アナタが本当にネツァクなのだとして、どうして
「うん?そりゃあもちろん、傷心中の大切な相棒の心を慰めるために決まっているじゃないか」
「……」
頭が痛くなってきましたね。
傷心中、なのは否定しませんがだからといってわざわざ人間の姿を取るのは間違っていると思うのですが……。
というよりも、私個人としては
ドラゴンはドラゴン、邪神は邪神で良いでしょう。
「でも、人間のことがなんも分からない怪物が人間の姿に擬態しているの好きだろう?」
「人の心内を読まないでもらえますか?それと、好きですが何か問題でも?」
「好きならそれで良いじゃないか」
人の心内を読んでるのか読んでないのか分からないことを言ってくれますね……。
はぁ、とりあえず彼女がネツァクではなかった時、どうして私のことをこうも知っているのか怖くなってきたので彼女は暫定ネツァクでいいでしょう。
「熟慮は大事なことだけれども、考え過ぎるのも悪いことだ。一度、落ち着いた方がいいと思うけれど」
「誰のせいだと思っているんですか?」
ですが、まあ。
事実ではあるので……これ以上、余計なことを考えるのはやめるべきですね。
それにこうして動けているのも、状況として彼女がネツァクだというのならトロールの群れをどうにかしたのも彼女でしょうし。傷は……痛みもなければ、身体を動かすにも支障はない。
「治療を、していただいたのですね……ありがとうございます」
「その礼は受け取っておくよ。キミはその辺、気にするだろうからね」
「よくわかっているようで」
そうして、私は一度深呼吸をしてからカハルオスたちを見る。
一度リセットするべきでしょう。
増殖体はともかく、本体は消耗しているようですし。
……そうなると、彼女はどうなるのでしょうか?リセットすればセットしていた『苗木』も召喚していた
となれば、当然召喚したネツァクも。
「……リセットしても、大丈夫ですか?」
「ん────あー、なるほど、構わないよ。裏技があるからね」
深くは聞かないでおきますか。
今の会話を聞いていたのか、カハルオスが小さい鳴き声をあげ、恐らく了承の意なのだろうそれに私は一度頷いて腰のデッキへと手を触れる。
ドローをするのではなく、場を片付けるためにデッキに触れる。そうして、電話を切るように、テレビを消すように、意思を込めれば手札も消え腕甲から生え伸びる白枝も消えていく。
当然カハルオスたちも例外ではなく、ネツァクも……
「消えませんね」
「裏技があるって、言っただろう?」
「……一召喚士としては、自らの制御を外れた魔物ほど警戒しなければならないモノはないと思いますが」
「ふふっ、気にしないで」
気にしますが。
なんて、ツッコミをいくらしたところで飄々と返してくるのは目に見えていますので、何も言いませんが。
「さて、一つ聞きますが。
霧がかっていることから分かる通り、フェレモッドの森から出れていないのは間違いない。ですが、意識を手放す前までのトロールとの戦闘を行った場所でないのは辺りの様子から読み取れます。
現に、今はあの時よりかは霧も薄く地面の様子や周囲の木々の状態も確認ができます。少なくとも戦闘の痕が見受けられないのなら、私はあの場から動いているのでしょう。
そんな理由からの質問でしたが、ネツァクは微笑を絶やさず
「少なくともあそこからはそう動いていないよ。あの場所と、キミが見つけたカエルに殺された人間たちの場所の間ぐらいの場所だね」
「……そうですか」
リセットする際の不安の一つだったモノも解消されたようで安心しました。それに今の言い方からしても
「方向はお分かりで?」
「もちろん。ほら、案内してあげるよ」
「そうですか、ならお願いします」
そう言ってネツァクが、立ち、上がり……
「……思ったよりも身長がありますね」
「キミは、もう少し乙女心を学んだ方がいいと思うよ」
「考えておきます」
本当に思ったよりも彼女の身長が高くて、驚きました。いえ、身長自体は私が勝ってはいますが。それでも女性の平均と比べればかなり大きいでしょうね。
と、案内を始める彼女の後ろを警戒しながらついて行きましょうか。
「それでは、そもそもローカヴとはなんなのですか?カードのフレーバーテキストがあるわけではないので、詳しくは知らないのですよ」
「ローカヴは一言で、所属だね。カテゴリーでも良いかな」
歩き始めてから、数十秒も経たないうちに私は彼女に質問を投げかけていました。
いえ、無言なのが嫌だったわけではなく、そもそも私の召喚できる
その内の一つが、ローカヴについて。
カードに記されている用語の一つなのですが、詳細までは分からないので
「所属、カテゴリー……なるほど、種族とはまた異なる括りだと?」
「そうなるね。虫や樹霊、動物の種族的括りではなく、
「少し危ないことを言うのは、やめていただいても?」
まあ、ニュアンスは分かりましたが。
「そもそも私たちがこの世界の
「召喚した彼らを見た時のこの世界の人々の反応から概ね」
「
「だいぶ、聞き捨てなりませんが」
いや、本当に何を言っているのですか?
どこまで本当なのかはまだ測りかねますが、少なくとも私の今の召喚術がカードなの、もしかしなくても彼女の仕業なのではないですか?
であるのならば
「私の召喚術が、この世界のモノと違うのもアナタ方が原因ですか?」
「そうだよ。だって、そっちの方が都合が良かったからね」
「────」
絶句した。
返答としては十分に有り得た、いえそれ以前にそう返ってくると受け止めるつもりもあったというのに……私は何も言えませんでした。
さも当たり前のように告げられた言葉に、私は何も返せず代わりにネツァクは言葉を続けていく。
「分かりやすく言えば、この世界の規格に合わせるとこの世界の魔物たちが召喚されるからね。私たちとしては、
「……そうですか」
「まあ、調整ミスでキミが人間の仲間と多くいるほど引きが弱くなったり制限されたりしてしまったけれど、安心して。もう、息苦しいことはないはずだよ」
そう、こちらへと振り向きながら微笑むネツァクの姿は、霧の中であろうとも多くの人の目を惹く姿で。
まるでこちらの心情を読み解くつもりもない、自分たちの都合ばかりの主張に、私はまた言葉を返すことができなかった。
だというのに、私は────
「ハハッ」
笑えた。
本当に馬鹿馬鹿しい。
覆水盆に返らず、例え私のせいではなくネツァクたちによるミスなのだとしても、もう私が仲間たちのもとへと戻ることはない。
そもそも仲間がいるほど、というのなら端から私は一人で旅をするべきで……なるほど、読めてきましたよ。
ネツァクがわざわざ人間の姿になって来たのも、先程も言っていたように傷心の私を操ろうとしたのでしょうね。召喚師が、自らの召喚する魔物に操られるなんて笑い話にもなりませんが。
「どうぞ、お好きに。私もそうしますので」
「……ふぅん、イイね。きっと、そっちの方が楽しいよ、サクマ」
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