異世界で私だけが、カードをドローする   作:三葉乾酪

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八枚目

 

 

 

「───アナタ方が、私をどう扱おうが構いません。私もアナタ方を好きに扱うので」

 

 目の前の霧を掻き分けながら、ネツァクによる案内通りに歩を進めていくサクマは呆れたようにネツァクへ吐き捨てるように告げる。

 これにはネツァクも思わず笑みを浮かべる。

 確かに、ネツァクは自分たちローカヴが新たな世界へと進出するための足掛かりとしてサクマを利用し、結果こうなるように仕向けたことを否定するつもりもない。

 そして、傷心中の彼に付け入ろうと考えていたが、蓋を開けてみればこちらを利用してやると豪語する彼ににネツァクは喜んだ。

 やはり、彼に決めて良かった、と。

 

「そうだね。一緒に面白い旅にしていこう」

 

 心からの同意を口にしながら、ネツァクはサクマの首筋に手を這わせ───

 

「だからといって、足にしていいとは一言も言っていないんですよ、私は」

「うん、それに関しては本当にごめん」

 

 サクマに背負われているというのに、余裕たっぷりな態度のネツァクもその言葉には素直に謝罪を返すしかなかった。

 どうして、先導し案内していたネツァクがサクマに背負われているのか。

 それには決して無視できない理由が

 

「人間どころか、トロールだろうが簡単に殴り殺せる怪物(ローカヴ)でしょう、アナタは!どうして足なんぞを挫いているんですか!」

「普段の私はシャチの骨格だよ!?普段からキミたちみたいに二足歩行なんてしてると思ってるのかい!?それ以前に歩いたことすらないんだからね!?」

「だからといって、私のような文弱に背負わせるのは違いませんか!?」

 

 なんて、深い理由はどこにもなかった。

 ことはつい数分前、遡るまでもなく人間の姿を取るなどという経験したこともないモノをした上でこうして舗装もされていないような森の中を歩いていたことで、あろうことかネツァクは足を挫いた。

 そう、足を挫いた。

 サクマに背負われている理由はそれだけ。

 

「そもそも、もう別に人間の姿でいる必要はないはずでは?」

「それだと、キミと一緒にいれないだろう?それにあっちは大きすぎてこういう場所だと不便だからね」

 

 木々をなぎ倒しながら進んでも良いなら、話は別だけども。

 などと付け加えるネツァクに、サクマは顔を顰め僅かに逡巡したかと思えばため息を一つ吐く。

 こうして、言葉そのものを交わしたのは彼女が人間の姿をとってからの僅かな時間でしかないが、召喚師と召喚される魔物としての関係は数ヶ月。

 これ(ネツァク)にこれ以上言ったところで、無駄だ。

 先程ネツァク本人が言ったようにこちらの意見など諸共轢き倒して行くのは目に見えている。

 

「分かりました。私が折れます」

「ふふっ、ありがとう」

「……せめて、小さくなれませんか?」

「おや。ごめんね、私の契約者だというのにキミの性癖を分かってあげられなくて……」

「違います」

 

 既に顔合わせ当初の警戒など周囲に満ちる霧よりも容易く掻き消え、互いに軽口を叩き合っていく。

 顔を顰めていたサクマも、その口角を釣り上げていた。

 

「契約者であるキミの性癖を満たせないというのは、私の沽券に関わることだけれども……それはコクマーに任せるから」

「私の話を聞いていますか?というよりも、もしかして他にもいるんですか?」

「ほら、私はお姉さんだから。勝利を掲げるエメラルドの金星(アドナイ・ツァバアト)、流石に小さい女の子にはなれないなぁ」

 

 朗々と歌うように語るネツァクに、サクマは思わず背中から落としてしまおうか、と考えつつも首を横に振る。

 

「そもそもアナタ、自分で雄のシャチって言いましたよね……いえ、いいです。あと、私にはそういう趣味はありませんので」

「大きいのが好き、ってことだね」

「…………」

 

 ネツァクの揶揄いを聞かなかった振りをしながら、サクマは霧の中を目的地へ向けて歩を進めていく。その背から延々と戯言を垂れ流され、何度か落とそうか悩むことになったが……。

 

 

 

─────◆

 

 

 

「『苗木』セット、これで四マナですね」

 

 ネツァク(荷物)を背負ってかれこれ十数分ほど歩いてようやく目的の場所へとたどり着きましたが……魔物の姿形はありませんでした。

 いえ、いたら良かったわけではないのですがね。

 とにもかくにも、ネツァクを降ろしてまず行ったのは改めてデッキを、召喚術を起動させること。

 私以外(ネツァク)がいることで、手札の数に変化が起きるかと思いましたが手札は五枚。

 彼女が仲間の数に含まれない(仲間ではない)のか、一人では影響しない(数が足りない)のか、彼女がなにかした(彼女が原因である)のか。考えればキリがありませんね。

 

「そのあたり、どうなんですか?」

「うーん、確かにデッキ(召喚術)に干渉はしていたけども、あくまで引き(ドロー)だけだからね。数が原因かな?」

「今、聞き捨てにならない言葉が聞こえましたが、後で聞きます」

 

 さてはこのシャチ、害獣ですね?背びれが左右どちらかに倒れてたりしませんよね?

 いえ、それだともう一匹いることになるのでは気の所為ですね、はい。

 

「……数は、三人。見間違え、数え間違えではなさそうですね」

 

 改めて、ネツァクに周囲の警戒をさせながら私は彼らの確認をしましょう。

 三人。

 恐らくウェアトードの持っていた棍棒で殴り殺されたのでしょう。頭部が陥没している……女性ですね。

 

「近くの杖と法衣からして僧侶ですか。背後からの奇襲を受けたみたいですね……次は」

 

 そうして、次に見るのは大柄の男性。

 軽装、とは言いませんがそれでも身につけている鎧は何処か足りていない。身軽さ優先というわけでもなく、かといって頑丈さを優先したわけでもない中途半端な装備。

 

「これでは、反撃に対処するのも難しいでしょうね。となれば、剣を奪われてはお終いですか」

 

 次。

 手足があらぬ方向に曲がっている遺体。先の二人に比べて損壊が激しいのを見るに抵抗をしたのでしょう。

 

「不意打ち、強奪。先に仲間を殺されて、抵抗したところ袋叩き。と、見るべきですね」

「……だろうね。近くに折れた槍があったよ」

「そうですか」

 

 結果として見れば、()()()()話。

 残酷な話ではありますが、この世界は別にゲームでもなければアニメ漫画の世界でもない。えてして、こういった不運(ファンブル)からのパーティー全滅は起きうることです。

 実際、元の世界でも不意に熊に襲われる、なんてのが数年前に比べてよく聞くようになってしまいましたし、それを思えばこの世界では熊以外にも人間を襲ってくる生物(魔物)がいるのですから……よくある話になってしまうのですね。

 

「なにより、私とてトロールに襲われて一歩間違えれば彼らの仲間入りでした」

「私たちがいて、良かったね」

「アナタ方がいなければ、そもそも一人でトロールに鉢合わせるなんてことも起きませんでしたが」

 

 所詮、たらればでしかないのでもう追及するつもりはありませんが。と言っても、隠してることは他にもありそうなのでその辺りの追及はしていきますがね。

 ともかく、こうして遺体を見つけてしまった以上は彼らを街へ連れ帰らなければ。

 約束もしていましたから。

 

「森の出口は……把握していますか?」

「もちろん」

「そうですか。では」

 

 ならば、やることは変わりますね

 手札を確認すれば、群生する甲虫(カハルオス)が一枚、ですが今必要なのは彼らではなく────

 

「マナ四点、コストに(支払います)

 

 万が一トロールと鉢合わせた時に戦うことの出来る、とまでは言いませんがそれでもネツァクが対処するまで耐えられるだろう怪物(ローカヴ)

 

裂き喰らう蜥竜(カドモス=レサセフ)

 

 緑黒のマナが走り、彼方から呼び寄せるのは恐竜だった。

 

「グルルル……」

 

 唸り声が響く。

 トロールとそう変わらない体高、植物と黒曜石めいた身体が入り交じった形で作られた肉体。

 実にオーソドックスな肉食恐竜らしい外見の怪物(ローカヴ)

 

「久しぶりですね……あまり、召喚出来ずすいません」

「クァーッ……」

 

 蜥竜(カドモス)の一体であり、追い立てる蔦鹿(カルドレフ)よりも頑強である彼の顎を撫でれば、その外見からは想像できない鳴き声が聞こえてきますね。

 群生する甲虫(カハルオス)同様に誘発能力を持っていますが、今回は発動することはないでしょう。

 

「ネツァク、用意はできていますか?」

「言われた通り、荷車は用意したよ……可笑しいな?私、生命樹の第七顕現のはず……どうして荷車なんか作ってるんだろう。ねぇ、蜥竜(カドモス)のキミはどう思う?」

「レサセフにだる絡みをしないでください」

 

 道中、出来ると聞いたので頼んだ遺体運搬用の荷車の用意。

 まるで3Dプリンターみたいに作っているのを視界の端に入れて見ていましたが、どういう理屈でやっているんでしょうね。私のマナの錬成に近いのでしょうか?

 まあ、いまはどうでもいいので。

 

「それにしても……蜥竜(カドモス)で引くには荷車は少し小さい気もするけど」

「威嚇には十分でしょう?」

「それは……そうだね」

 

 流石のウェアトードもトロールと同サイズの怪物相手に喧嘩を売るなんてこともしないでしょうし、大は小を兼ねるとも言いますので。

 

「ほら、遺体を載せるのを手伝ってください」

「まったく、私たち(ローカヴ)使いが荒いなぁ、キミは」

 

 何が琴線に触れたのかは分かりませんが、言葉に反してニコニコと笑みを浮かべているネツァクに思わず顔を顰めそうになりながら、彼らを私は荷車へと載せるためにその身体へと手を伸ばしていきました。

 

 

 

 

 

─────◆◇◆





年内の更新は今回が最後となります。
次回更新は1月5日を予定しています。
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