TSロボ娘は何周してでもハッピーエンドを目指したい 作:第616特別情報大隊
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──これからが本番
『敵
砲兵の
『わぉ。凄いことになったよぉ……』
クレアが私たちに共有してくれる情報には、炎上する8両の
「……勝った……?」
あっけないほどの結末。私が何度ループしても成し遂げられなかったことが、今回はほぼ一瞬で成し遂げられてしまったのです。
「まだだ、人形。終わっていない」
そこでバッカスが鋭く警告する。
所詮は戦闘用アルゴリズムを外付けされただけアンドロイドと自分の一度きりの命をかけて戦ってきた戦士の違いなのでしょう。バッカスはこの殺戮の中からすでに脅威になるものを見つけ出していました。
「敵の自爆ドローンだ。突っ込んでくるぞ……! 隠れろ!」
敵の指揮官は間抜けではなく、さらには先ほどの攻撃で死んでいなかったのか、旧政府軍は自爆ドローンを展開。
それは自律AIで制御されるもので、ジャミングはあまり有効ではなく敵兵を見つけて爆殺するまで徘徊するという厄介なもの。それでいながら値段は従来のドローンのように安価というものでした。
ドローン本体は一昔前のクアッドロータードローンのそれと大差なく、低速で大通りを進み徘徊し始めました。搭載しているのは手榴弾1、2発分の爆薬であり、小さくありながら広域に殺傷能力を有します。
私たちは建物の中で息を潜め、自爆ドローンをやり過ごすことを試みました。
自爆ドローンは主に画像と赤外線センサーで目標を捉えます。バッカスはそこでドローン対策のカモフラージュジャケットを纏いました。ジャケットという名に反して全身を覆うそれは熱を外に逃がさないことでドローンからの検知を避けるものです。
私とベルにはそういうものはないのでひたすら伏せておきました。幸い私たちのような高性能の戦闘用アンドロイドの熱源は最初から偽装されるようになっています。
しかし、自爆ドローンがいつまでもこうして徘徊していては旧政府軍の残存戦力が迫るのに行動できません。ここは突破され、学校では再び虐殺が繰り広げられてしまう。私が生き残っただけでは意味がないのです。
ここはもう一度私が
「アリア」
そこで私の手をベルが握った。
「大丈夫。あたしたちもいるから」
ベルはそう言ってにっと笑った。
「ベル。そうですね。みんながいます」
私はその笑みに励まされ、もう少しこの周回を頑張れる気がしました。少なくとも折れるにはまだ早いとそう思えます。
すると自爆ドローンが徘徊する中、それが突然吹き飛びました。何事かと思うと別の自爆ドローンも突然爆発。次々に爆発していきます。
「ダイアウルフとそっちの狙撃手が仕事したな」
この爆発はクレアとダイアウルフの狙撃によるものらしく、自爆ドローンは次々と撃ち落とされていく。
「クレアとダイアウルフはドローンの攻撃は大丈夫なのでしょうか?」
「狙撃手の連中は俺たちよりずっと質のいいカモフラージュ装備を持っている。まずドローンに検知されることはない。特にこんな安物にはな」
私が心配するのにバッカスはそう返す。
「それよりこっちも仕事を再開だ。生き残りどもが進んで来ている」
バッカスはそう言ってビルから大通りを見下ろす。
そこには先ほどの砲撃を生き延びた兵士たちと彼らの後方から進んで来ていた後詰の部隊が合流し、私たちを探していました。
後詰の部隊は荷台にZPU-4対空機関砲を据え付けたピックアップトラック──俗称としてテクニカルと呼ばれる車両を先頭に立てており、後方からは非武装のトラックが続いています。
彼らからすればドローンの目を掻い潜ったはずなのにいきなり砲撃されて虎の子の
「敵ながら天晴れ。だが、不味い状態だ。
バッカスはそう言いながら指揮官のアズールと通信。
「アズール。敵はまだまだ下がる気はなさそうだが、どうするかね?」
『砲兵は陣地転換中だ。だが、こっちにはまだハンターキラードローンがいる』
「オーケー。鳥どもに上空からクソを垂れてもらおうぜ、リーダー」
『ああ。デカいクソを落としてもらおう』
兵隊さんらしい口の悪さでバッカスとアズールは通信し、バッカスは降ろしていた軍用リュックサックからレーザー照準器を取り出す。
「俺が照準している間、援護してくれるか?」
「了解です」
バッカスがドローンの爆撃を誘導する中で、無防備な彼を私とベルが守る。まだ敵はこちらに気づいていませんが、建物をひとつずつ捜索しているのでいずれ見つかってしまいます。そうなればいよいよ銃撃戦です。
「目標マーク」
『アズールよりテンペスト。爆撃を要請。ありったけの爆弾を叩き込んでくれ』
バッカスによって爆撃目標が指示され、アズールが爆撃を要請。
『了解、アズール。テンペストは全機爆撃を開始する』
上空から私たちを見守っていたハンターキラードローンがバッカスさんが指示した目標に向けて対戦車ミサイルを発射。
対戦車ミサイルはレーザーで照準された目標に向かう。
AICのハンターキラードローンが運用している対戦車ミサイルは任務に応じて変更されるが、この際に搭載されていたのは確実な敵戦車の撃破や敵の通る橋や道路などを狙ったもので、弾頭重量57キロの
航空爆弾にしてはやや小さな威力だが、対戦車ミサイルとしては大型のそれが地上に急接近して──炸裂。
歩兵が一瞬で消し飛び、テクニカルが爆発炎上する。
「ひゅー。どんぴしゃりだ。これでかなり楽になったな……」
バッカスが爆撃の様子を見てそう呟く。爆撃のあとで残った敵戦力は僅か2個小隊とちょっとの70名程度。テクニカルは全滅しており、迫撃砲などの重装備も全ても失った様子でした。
とはいえ、未だに8名だけの私たちにとっては脅威です。
「さて、
「はい」
私たちは遮蔽物としてビルの壁を使い、今はまだ身を乗り出さずにクレアと共有している視界で敵の動きを把握する。AR上に大通りを進んでいる敵残存戦力の位置が表示されており、それによって私たちは迂闊に頭を出さずともよかったのです。
「このままなら、このままなら……」
やっと抜け出せる。この何週ものループから、みんなの酷すぎる死から、繰り返される惨劇からやっと抜け出せる。
しかし、私はまだそれでも不安だった。ちゃんと与えられた目的を達し、誰も死なせずに済むのかと……。
「アリア」
ベルが再び私の震える手を握る。心配で、不安で、怖くて、震えてしまう手を包み込むようにアラミド繊維でできた軍用グローヴに包まれた手で握ってくれる。
「一緒に切り抜けよう。大丈夫から」
「……はい」
ベルの言葉に私は再び励まされた。
何度でも、何度だろうとも、私の身体がばらばらになったとしても、絶対にみんなが無事なハッピーエンドを目指して見せると。そう決意させてくれた。
「さあて、人形諸君。お客さんが来るぞ。構えろ」
バッカスが命じるのに私たちは一斉に身を乗り出した。
「やれ!」
バッカスはチェストリグから抜いた手榴弾を投擲し、私たちはビルの斜め下を通り、ビルに入ろうしていた歩兵を銃撃する。
私たちの攻撃はほぼ完全な奇襲だった。敵は反撃する暇もなく射殺され、流血をまき散らしながら地面に崩れ落ちる。バッカスが投げた手榴弾も炸裂し、爆発を浴びた兵士たちがなぎ倒される。
「向かいでも始めたな」
デイジーとアズール、サイファーがいる方のビルでもビルに入ろうとする敵歩兵との戦闘が始まっていた。味方の銃声やマズルフラッシュはサプレッサーで見えないが、デイジーがアズールたちの様子をモニターして送ってきています。
それにしても流石は久慈さんがすぐに送り込んだ戦力です。私もバッカスのバイタルをモニターしていますが、彼も僅かに心拍数と血圧が上昇しただけでほぼ正常なバイタルでした。それでいて戦闘は適切に行っています。
「どうした? アンドロイドでも人間に惚れるのか?」
「いえ。そういうわけでは」
「俺は妻子がいるから勘弁してくれよ。だが、サイファーなら彼女募集中って言ってたな。あとで構ってやったらどうだ?」
「だから、そういうわけでは……」
私とバッカスはそんなラブコメみたいな会話をしながら敵と交戦している。私の戦闘アルゴリズムは素早く空になったマガジンを捨て新しいものと交換して、ビルの入り口に迫る敵を再び銃撃していく。
「ビルに入られたよ!」
「エントランスで迎え撃つ! ついてこい、人形諸君!」
ベルが叫び、バッカスが素早く移動を始める。
私たちが大急ぎでエントランスに向けて移動した。完全にビル内に入られると複数の階段が存在するこのビルでは迎撃できるルートが絞れなくなります。だから、何としてもエントランスで迎え撃つ必要があるのです。
「急げ、急げ!」
このビルのエントランスは2階までが吹き抜けになっており、そこに大きな階段が存在する。1階は受付カウンターや待合椅子などがあり、2階には客を接待するための応接室などが並んでいます。
もちろん私たちもここを守る重要性は理解していたので無策ではありません。
私たちは3階から2階に急行して、吹き抜けの上からエントランスの敵を狙う。
「いたぞ、撃て!」
敵はエントランスを進んでいる敵を銃撃し、敵は受付カウンターを遮蔽物にして飛び込もうとする。
「ドカン、だ」
ベルがにっと笑ってそう言うと受付カウンターに仕掛けておいた爆薬を炸裂させた。それによって複数の敵が吹き飛び、すぐさまブービートラップに警戒しろとの敵の兵士たちが叫ぶ声が響く。
「ベル。片っ端から爆薬を起爆してやれ。俺の仕掛けたブービートラップもある。構わずやっちまえ!」
「了解、バッカス!」
爆薬が次々点火されては爆発し、エントランスの敵は怯えて一部が逃げ始めた。
でも、それでも向かってくる敵がいる。10名程度がエントランスの階段を駆け上って、私たちの方に迫ってくるのです。
「くっ……!」
そこでバッカスが被弾してしまいました。彼の傷は敵の銃弾が跳弾したことで生じたもので、左太腿から血が滴り始めました。
すぐに体内を循環しているナノマシンと迷彩服の下に身に着けている黒いナノスーツが傷口を圧迫して止血して痛みも止める。だけれど、それでは傷が回復したことを意味せず、彼は足とついて倒れてしまった。
「バッカス!」
「アリア! 援護するからバッカスを下げて!」
私は彼を身を引いて敵の射線から遠ざけ、それをベルが射撃で援護してくれる。
「どうしますか、バッカス!」
「
「了解です!」
私はバッカスを2階にある応接室まで退避させ、その入り口でベルとともにソファーや机でバリケードを作って敵を待ち受ける。
「
そうやって私のとても長い3分が始まりました。
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