TSロボ娘は何周してでもハッピーエンドを目指したい   作:第616特別情報大隊

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とりあえず今は……

……………………

 

 ──とりあえず今は……

 

 

 私とベルは負傷したバッカスを守って応接室に立てこもっています。

 

 緊急即応部隊(QRF)到着まで3分。それだけ持てば私たちの勝ち。

 

 やっと見えてきたループの出口です。やっと救えそうな仲間たちです。やっと果たせそうな任務です。逃したくはありません……!

 

「来たよ! 敵歩兵、6名!」

 

 ベルが声を上げると6名の兵士たちがアサルトライフルを腰だめに構えて突っ込んできました。彼らはろくに狙いも定めずに銃を乱射しながら突撃してきており、銃弾の大半はアサルトライフルそのものの反動で明後日の方向に飛んでいます。

 

 私とベルは彼らより上等な狙いを定める。光学照準器を覗き、的確に敵のバイタルパートに向けて二連射(ダブルタップ)を決める。焦っても相手を仕留められないし、限りある銃弾だって消耗してしまいます。

 

 冷静に、冷静に、冷静に──そして確実に相手を殺すんです。

 

「さらに敵歩兵、10名!」

 

 第一波をしのげば次が押し寄せてくる。まさに波状攻撃です。

 

 しかも、今度の敵はさっきの敵よりも冷静なのか、それともそもそも練度が違うのか、遮蔽物などを利用しながら接近してきます。

 

「手榴弾!」

 

 ベルが素早く最後の手榴弾を投擲し、手榴弾が敵歩兵の頭上で炸裂。遮蔽物に隠れていた敵もこれによってやられました。しかし、敵は全滅したわけではなく、これ以上私たちに攻撃させまいと機関銃での制圧射撃を開始しました。

 

 けたたましい銃声が響き、中国製の機関銃が私たちのこもる応接室にでたらめに銃弾を浴びせてくる。この制圧射撃のせいで私たちは顔を出せず、銃口だけを遮蔽物から出して敵に射撃を叩き込んだ。

 

「不味いよ。完全に押し込まれている……!」

 

 ベルがこの戦況を見てそう口にする。

 

 機関銃の射撃によって私たちは応接室に完全に押し込まれてしまった。ここに手榴弾などの爆発物が投げ込まれたら──私たちは全滅です。

 

「ここまで来たのに負けるわけには……!」

 

 まだ3分経たないのだろうか。3分あれば、たった3分持ちこたえれば緊急即応部隊(QRF)が到着して、みんなが助かるのに……!

 

「人形、これを使え!」

 

 ここでバッカスが私のところまできて、手榴弾を手渡す。彼はかなりの爆薬を抱えてきたらしく、エントランスにブービートラップと設置して回ったのにまだ爆薬を隠し持っていました。

 

「了解です!」

 

 私はピンを抜いて入口の向こうに手榴弾を放り投げた。バッカスの手榴弾もベルのものとおなじ空中炸裂弾(エアバースト弾)で、空中で炸裂して加害範囲を拡大させるものでした。

 

 これによって機関銃が沈黙し、私たちは何とか攻撃に打って出れるように。

 

「新手が来るよ! 数は8名!」

 

 ベルはすぐさま外を見て敵の数を把握し、私たちに知らせる。

 

 第三波です。3分が長すぎます。まだ3分経っていないのでしょうか……?

 

 そこで不意にエンジン音が響いてきました。パワード・リフト機のエンジン音です。

 

「来たぞ、緊急即応部隊(QRF)だ」

 

 パワード・リフト機のエンジン音は強くなり、私たちのいる応接間に押し寄せていた敵が後退していくのが見えました。彼らは焦った様子で撤退しています。

 

 それから響いていた激しい銃声がひとつひとつ消えていき、不意に不思議な静けさが訪れました。銃声も爆発音もしない、そんな静寂が戦場であるこの場所に訪れたのです。

 

 それから人の歩いていく足音がゆっくりと聞こえ始め、私たちが応接室から外を見ると旧政府軍とは明らかに違う西側の装備をした集団がやってきました。私のARの表示には彼らがAICの友軍識別タグを有しているとあります。

 

 そして、その中から私は見知った顔を見つけました。

 

「アリア、ベル。無事か?」

 

「久慈さん……」

 

 久慈さんです。彼はわざわざここまで来てくれたようです。

 

「今、カラルグラード国際空港の砲撃戦も終わった。ドローンと偵察衛星が確認したが旧政府軍はカラルグラード周辺から撤退しつつある。我々は勝ったんだ」

 

 久慈さんは私にそう言った。

 

「……勝った……」

 

 私は嬉しくて泣きたかったけど泣くという機能はなく、ただようやくループし続けた惨劇が終わったことに呆然としていた。何度も、何度も、何度も繰り返された私の戦いはようやく終わったのだということを理解するまで時間がかかった。

 

「デ、デイジーたちは?」

 

 私はそこで慌ててデイジーたちの無事をネットワークで確認しようとする。

 

「無事だ。全員無事だ。学校もな」

 

 久慈さんはそんな私にそう言う。

 

『アリア? そっちは大丈夫かぁい?』

 

『こちらデイジー。緊急即応部隊(QRF)がこっちにもやっときたぞー』

 

 そんな久慈さんの発言を肯定するようにクレアとデイジーから通信が入る。いつもの彼女たちの声を聞くことができました。

 

「よかった……」

 

「さあ、負傷者を運ぼう。戦闘は終わったから」

 

 私は改めて安堵の息をつき、ベルがそう言ってバッカスの方に向かう。

 

「すまんな。肩を借りるぞ」

 

「いいえ。私こそ手を狩りましたから」

 

 私はベルと一緒にバッカスに肩を貸して彼を建物の外に運び出していく。エントランスのブービートラップは全て爆発しており、残ったものはなかった。

 

 ただ私は見てしまったのです。

 

「子供……」

 

 そう、エントランスに積み重なる死体の中には旧政府軍の軍服やアサルトライフルが大きすぎる兵士が何名も多く混じっていたことに。

 

「子供兵だな。ここではよくあることだ」

 

 私が肩を貸しているバッカスが忌々しげにそういう。

 

 まだカラルグラード市立第11中等学校にいた子供たちと同じくらいの年齢の子供たちが死んでいる。腹を撃ち抜かれて(はらわた)をこぼして、あどけない顔に大きな銃創を作って、爆発によって手足がもげて、たくさん死んでいる。

 

「アリア。やらなければあたしたちがやられてた」

 

「そうですね……」

 

 ベルがいつもの諦観の混じった瞳で割り切ったようにそう言い、私は力なく頷く。

 

 この旧政府軍の攻撃を止めなければ、学校の子供たちが犠牲になっていた。だから、仕方がないのだと私は自分にそう言い聞かせた。

 

 それから私たちはバッカスを大通りに着陸していたAICのパワード・リフト機に乗せ、私たちもそれに乗り込みAICの基地を目指す。

 

 AICの基地についたとき、ベルがぼんやりと虚空を見つめていることに気づく。

 

「夕日だ。日が沈んでいく」

 

「そうですね……」

 

「今日も終わりか」

 

 そうです。私の長い長い一日は──やっと終わったのです。

 

 

 

 のちに聞くところによると旧政府軍は当初の攻撃で一時的に首都カラルグラードを制圧し、そのことによって新政府の正当性を揺さぶろうとしていたようです。

 

 しかし、知っての通り、その攻撃は頓挫。旧政府軍は大損害を出しました。

 

 ただ旧政府軍にとってはあまり大きな打撃になっていないことも事実です。今回の戦闘に参加していた敵の装甲戦闘車両(AFV)は戦車4両、装甲兵員輸送車(APC)4両ですが、国軍の大半を掌握している旧政府軍にとっては僅かな損害です。

 

 それに旧政府軍はお金になるレアメタル鉱山や天然ガス田を未だ多く握っており、資金面でも潤沢。

 

 つまり、このバルカラフ共和国での戦争はまだ終わっていないということ。

 

 内戦は今なお続いている。

 

 

 

 私たちが学校を警備するという任務は、PKF部隊が戻ってきたことで終了した。

 

 これまで隠れていたPKF部隊は旧政府軍が撤退したのを確認すると戻ってきて、また白く塗装され国連(UN)と黒字で描かれた装甲車とブルーヘルメットの兵士たちを展開させたのだった。

 

「あなたたちのおかげで助かったと聞いているわ。ありがとう」

 

 マルシアさんは私たちの最後の警備の日にそう言って感謝を示してくれました。

 

 首都が旧政府軍によって蹂躙されそうになったことは、ニュースで報じられており、すぐ近くで戦闘が起きていたことはマルシアさんたちにも聞こえていたようです。

 

「皆さんが無事で本当に良かったです」

 

 学校で生じた死傷者はゼロ。私は誰も死なせなかった。任務に成功したのです。

 

「子供たちからもお礼を言いたいって言われているから教室に行ってあげて」

 

「はい」

 

 私とベル、クレア、デイジーは学校の中を国連のコンテナハウスから教室に向かう。

 

「人形のお姉ちゃんたち、ありがとう!」

 

 私たちが教室に入ると子供たちがわあっと歓声を上げてそう言ってくれる。

 

「これ、防空壕の中で作ったの! メダル!」

 

 そう言って子供たちが渡してくれたのは、折り紙で作ったメダルでした。私たちにひとつずつ子供たちが手渡してくれます。

 

 私たちは人間ではない。あくまで()でありAICの所有する備品に過ぎない。私たちがどんなに勇敢に戦っても、国や組織が評価してくれることはなく、戦いから抜け出すこともできない。

 

 だけれど、子供たちはそんな私たちにわざわざ贈り物をくれました。

 

 これはとても嬉しいことで。

 

「ありがとうございます、みんな。では、マルシアさんたちのいうことをよく聞いて、勉強に励んでください」

 

「はい!」

 

 私たちは子供たちに別れを告げて、学校を去った。

 

「終わったね」

 

「次は何だろうねぇ。内戦は続いてるみたいだけどぉ」

 

 帰りに軍用四輪駆動車の中で運転席のベルが言い、後部座席でクレアがそうぼやく。

 

「まだ分かりません。けど……」

 

「けど?」

 

 私の言葉にデイジーが首をひねる。

 

「みんなならばどんな困難でも乗り越えられそうです」

 

 私はみんなを助けようとしたが、私だけでは誰も助けられなかった。

 

 みんながいたから、みんな助けられた。

 

 私が()で、備品で、兵器で、ロボットだとしても戦友と呼べる存在は確かにいる。そう思うとこれからの任務や戦いも乗り越えられそうな気がしてきたのでした。

 

……………………




切りのいいところで終わりです。
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