TSロボ娘は何周してでもハッピーエンドを目指したい   作:第616特別情報大隊

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平和ってこういうもの?

……………………

 

 ──平和ってこういうもの?

 

 

 私たちの任務は続いている。

 

 4名でパトロールに出て、先ほど起きたような襲撃に怯えながら決められたルートを巡回をして、戻って報告と補給を行う。

 

 そして、また出撃する。

 

 その繰り返しがずっと、ずっと続いている。

 

 バルカラフ共和国を巡る情勢に変化はなく内戦は今も続いていて、首都カラルグラードではテロと小規模な戦闘が今も頻発しています。パトロールに出ても銃声はいつものように聞こえ、ときおり爆発音や砲声がそれに加わる。

 

 けど、私たちのパトロールが襲撃されることは滅多になく、ある意味では私たちは内戦の真っ只中にあって平和を享受していた。

 

『──ってことはカラルグラードはこれでも平和になったということですか?』

 

 そして、私は他の3名のアンドロイドとの繋がりを深めていました。

 

 私たちは退屈なパトロール任務中にこっそりお喋りする方法を見つけたのです。それはデイジーが準備してくれた秘匿回線とAICが準備はしたけど使っていないサーバーを使ったチャットルームのようなものでした。

 

 そこで私たちは他愛のない雑談などをして情報を共有しています。

 

『そういうにはちょっと早いぜ。情報部門はこれを嵐の前の静けさだと考えている』

 

 私の問いにデイジーがそう答える。

 

『嵐の前の静けさぁ?』

 

『そう、AIC情報部門は旧政府軍の活動が他の地域で低調なものになっているのを確認している。つまり、旧政府軍はどこかに戦力を終結させつつあるということだ。情報部の読みじゃあ、カラルグラードがそのターゲットのひとつに含まれてると見ている』

 

『へえ。当然、それに警戒はしてるんだよねぇ? 偵察したりとかさぁ?』

 

『それが面倒なことになっててな。新政府が旧政府軍に停戦を呼び掛けていて、AICにも相手を刺激するような行動は取るなって命令が出てるんだ。そのせいで旧政府軍を突くような行動は厳禁になってる』

 

『うへぇ』

 

 話題を提供するのは噂好きのデイジーで、彼女はいつもどこからか都市伝説染みた情報を持ってきてはここで話題にしています。

 

『でも、偵察が相手を刺激するってことになるの? ドローンを飛ばして偵察するぐらいは別にいいんじゃないかな?』

 

『旧政府軍は新政府が提案している停戦協定にケチをつけるためならば何でもやるって話だからな。ドローンを撃墜して『このドローンが自分たちを攻撃しようとしていた!』とか主張するのかも』

 

『滅茶苦茶だね……』

 

『そりゃあそうさ。旧政府軍にあるのは武器と兵士だけ。民意は新政府を依然として支持している。なのに、停戦によってその武器と兵士が生かせない環境を作られたら、旧政府軍はじわじわと衰退していくだけだからな』

 

 旧政府軍を国民のほとんどは支持していないが、彼らはたっぷりの武器と大勢の兵士を抱え込んでいる。

 

 だから、彼らは戦うことでしか自分たちの優位を保てないのです。

 

 もし、停戦が結ばれてしまうと彼らは追い詰められる。だけど、停戦の求めを無視し続ければ国際的な立場が危うくなるし国民はますます彼らを支持しなくなる。

 

『……どうしても新政府がこの内戦を引き起こしたという状況が、彼らには必要なわけですね……』

 

『そういうことだ、アリア。連中はこの大義なき戦争で大義を作ろうとしている』

 

 西側にそそのかされた新政府が国を割った。我々はその犠牲者であり、それを正す正義の軍隊だ。だから、我々の戦いは正しい。

 

『旧政府軍を構築している将軍たちは、この内戦で民主派相手に派手な虐殺をやらかしている手合いだぜ。もし、この内戦に負けたら国際刑事裁判所(ICC)にしょっ引かれて、牢屋に叩き込まれること間違いなしだ。そんなことをこれまでこの国の特権階級として過ごしていた連中が納得するわけない』

 

 薄暗い噂話をデイジーは楽しげに語る。彼女にとっては自分が掴んだ秘密を披露するのが、一番の楽しみなのかもしれない。

 

『そういう事情なら仕方ないね。大人しくしておくしかない。あたしたちが上手くやれば旧政府軍も不利になっていく。そして、最終的には戦争が終わる()()()()()()

 

『そうだな。かもしれない』

 

 ベルがそう言い、デイジーは諦観気味にそう言った。

 

 このそう簡単には戦争は終わらないだろうと、誰もが思っていた。少なくとも数年のうちにこのバルカラフ共和国に突如として平和が訪れることはない。それは間違いありませんでした。

 

 なぜなら内戦が長期化する条件を見事に満たしているから。

 

『まあ、旧政府軍は依然としてかつての宗主国である統一ロシアと中国から秘密裏に支援を受け取っている。そして、新政府軍の背後には中央アジアに足場を作りたい西側がいる。ある意味これは連中の代理戦争でもあるわけだ。だから、その親分たちが妥協しない限り終わりはないね』

 

 デイジーが語るように新政府も旧政府も支援国があって、その支援国を聖域にして戦っているのです。これは新政府と旧政府の問題のようであって、実は中央アジアを舞台にした大国によるグレートゲームなのだ。

 

『私たちにとってはこの国の戦争が終わろうと次の戦争に駆り出されるだけだしねぇ』

 

 クレアが言うように戦うことを目的として作られた戦闘用アンドロイドであり、AICの所有物である私たちはバルカラフ共和国での仕事が終わっても、また別の場所で起きている戦争に投入されるだけなのです。

 

 そういう意味では私たちの存在は旧政府軍に似ている。どちらも戦うことでしか、その存在意義を示すことができないのですから。

 

『仮に戦争以外のことをするように命じられたら、みんなは何がしたいですか?』

 

 私は少し興味を持ってそう尋ねてみた。

 

『ボクはどこかゆっくりできる場所で本でも読みながら日光浴したいぜ~』

 

 デイジーさんはそんな願望を口にした。

 

『私はいろんな銃を撃ってみたいよぉ。昔のボルトアクションライフルから最新の電磁ライフルまでいろいろぉ! でも、これって射撃モジュールが強化されてるせいかなぁ』

 

 クレアは少し自分の抱く願望を疑問に思いながらもそういう。

 

『あたしは……特に何もない……。アリアにはあるの?』

 

 ベルはそう首を横に振ったのち私に尋ねる。

 

『ええ。ありますよ。みんな揃って地中海の長閑な島を貸し切ってバカンスするんです。そこはテロはなく砂埃もない太陽が温かい場所。そこでは読書をしてもいいし、銃をいじってもいいし、ただのんびりしてもいいんです』

 

『……楽しそうだね、それ』

 

 私がそう語るのに少しだけベルの声が喜びを感じさせた。

 

『でしょう?』

 

 私は少し自慢げにそう言ったのでした。

 

 

 

 私たちがACI基地周辺のパトロールから別の任務を言い渡されたのは、私が起動してからすでに2か月程度が過ぎたときです。

 

「今回の依頼主は国連だ」

 

 久慈さんはまずそう前置きした。

 

「現在、複数の国連機関がこのバルカラフ共和国で活動中だ。知っての通り、それらは国連バルカラフ活動(UNOBAL)が統括している。これはそのUNOBALからの依頼であり、その傘下で働く国連機関のための仕事だ」

 

 久慈さんがそう言うと私たちのメモリ領域にデータが送信されてくる。

 

「シンプルな仕事と言っていいだろう。我々はこれより国連保護下にあるカラルグラードの学校の警備任務に当たる」

 

 そこには首都カラルグラードの地図とそこにある学校の位置が記されていた。添付されている画像には初期の戦闘で破壊された校舎で国連職員から授業を受ける生徒の様子や、その周辺に展開している国連平和維持軍(UNPKF)の白い塗装の装甲車とブルーヘルメットを被った兵士たちの写真があった。

 

「お前たちはまだ知らないだろうが、旧政府軍は子供を徴兵し、子供たちを子供兵として運用している。国連はそのような不幸な子供がこれ以上生まれることがないように、子供の保護を強化している最中だ」

 

 久慈さんは少し忌々しげに子供兵について語っていた。

 

 私としても子供兵というのは気分のいい話ではありません。子供が兵士になるのはアニメやゲームというフィクションの中だけで十分です。現実の戦闘は子供に耐えられるものではないと私も思い知りましたから……。

 

「これまでいくつもの学校が旧政府軍の攻撃を受け、そこから子供たちが攫われた。国連はまた同じような悲劇が起きるのを阻止したがっている。そこで今回の任務だ」

 

 なるほど。この依頼が来た経緯は理解できました。

 

「……表向きの話はここら辺しておこう。この作戦だが本来はPKF部隊が引き受けるはずだ。国連の連中もPKF部隊を少なくなくカラルグラードに展開させているからな。それが動かない理由だが……」

 

 久慈さんは慎重に続ける。

 

「AIC情報部門は旧政府軍が大規模な攻勢準備を始めていると睨んでいる。恐らくはPKF部隊もそれを察知したらしい。PKF部隊の半数は我々の同業だからな」

 

 PKF部隊が同業というのは、国連がPKF任務を民間軍事会社(PMSC)外注(アウトソーシング)しているということです。

 

 これはデイジーから以前聞かされていました。国連はその活動の方針と目標を定める段階から包括的に民間軍事会社(PMSC)にPKF任務を委託しているのだと。この2040年ではそれが普通なのだと。

 

「……つまり、だ。PKF部隊は安全な場所に逃げたということだ」

 

 大きく溜め息でもつきたいという顔で久慈さんは告げた。

 

 なんてことでしょうか……。この内戦中の国にわざわざ()()という文字を掲げてやってきた国連が真っ先に逃げ出すなんて……。

 

「もちろん新政府はカラルグラードを守り抜くつもりだし、国連もカラルグラードを放棄するつもりはない。だが、市街地が一時的に占領される可能性には備えている。問題の学校を含めてな」

 

「避難は……」

 

「当然、進言した。PKF部隊が逃げ出すなら国連職員と子供もつれていけ、と。だが、新政府の教育大臣とやらが我々に『教育は武力に屈してはならない』と言い出してな。それに現実問題として避難させるにもカラルグラードで大勢が避難可能かつ絶対安全な場所などない」

 

 私が思わず漏らすのに久慈さんはやはり苦々しげにそう語った。

 

「……そして、さらに悪いニュースだが上の意向でAICのほとんどの部隊も基地警備に専念することになった。必要に応じて援軍は出すが、最初に学校の警備に出せるのはお前たちだけだ」

 

 それから申し訳なさそうに久慈さんはそう言いました。

 

「攻撃の情報がデマである可能性もある。これまで旧政府軍によるカラルグラード攻撃の話は何度も出ていたが、半分は不発だった。今回もそうなるかもしれない。だが、楽観的に準備はするな。常に悲観的に準備しろ」

 

 久慈さんは親が子に言い聞かせるように、そんな風に私たちに語った。

 

「では、任務は明日からだ。くれぐれも油断はするな」

 

 

 

 私たちが向かった国連保護下の学校はカラルグラード市立第11中等学校と呼ばれている場所でした。その建物はなかなかに大きいもので、運動場も備えています。今は運動場には国連職員が寝泊まりするコンテナハウスが設置されてはいますが。

 

 私たちはいつものように2台の軍用四輪駆動車で学校の正門に向かう。正門には生体認証スキャナーが設置され、国連職員でも民間軍事会社(PMSC)のコントラクターでもあに非武装の警備員が立っているだけでした。

 

「AICの人?」

 

 警備員のおじさんは怪訝そうに私たち見る。

 

「はい。AICから派遣された部隊です。ID認証を」

 

「ええっと……」

 

 警備員のおじさんは私たちをスキャナーでスキャンしAICの所属であることを認識。しかし、私たちがアンドロイドであることを知ったのか少し驚ている。

 

「来たのは君たちだけ? 他の、その、人間のスタッフは?」

 

「ええ。我々だけですが司令部には人間のスタッフがいて、そこから管制されていますからご安心を」

 

「そ、そうか。では、国連の人が待ってるから、そっちに向かって」

 

 私がにこりと微笑んでいうのに警備員のおじさんはそう言い、位置情報を私たちに送信してきた。私たちはそれをZEUSを経由して情報を受け取る。ZEUSはマルウェアなどの脅威を自動的にスキャンし、安全と判断された情報をメモリ領域に展開してくれる。

 

「車両は駐車場に止めてね」

 

「はい」

 

 それから私たちは2台の軍用四輪駆動車を学校の駐車場に止めて、位置情報に従って学校の中を進む。

 

 学校は何度か砲爆撃を受けたようであり、校舎の一部はひどく損壊しています。しかし、建物としての造りが頑丈だったおかげか、全体としては綺麗な方です。

 

「学校ってこんな感じなんだねぇ」

 

 クレアは長い廊下があっていくつもの似たレイアウトの部屋が並ぶ学校を見て、そんな風に呟いていた。

 

 私たちアンドロイドに学校は必要ない。与えるべき情報はユーザーが叩き込む。だから、ベルにもクレアにもデイジーにも学校に行ったという経験はないのです。必要であれば10か国語だって一夜で学習できるのですから。

 

 ただ、私には確かにその記憶が存在する。人間として学校に通った記憶が。

 

「そろそろだよ」

 

「あ。す、すいません」

 

 私がぼんやりとどこか懐かしそうに学校の中を眺めているのに気づいたのか、ベルがそう声をかけてきた。私は気を取り直して国連職員との合流を目指す。

 

 そして、運動場に設置されたコンテナハウスで私たちは国連の担当者と面会。

 

「あなたたちがAICの方々ね。私はマルシア。ユニセフの職員よ」

 

 私たちを迎えたのはマルシアというラテン系のちょっとぽっちゃりとした女性だった。その表情には少しばかり疲労の色が見える。

 

 そんな彼女は私たち4名と握手を交わすと、仕事の話に移った。

 

「知ってるかもしれないけれど、PKF部隊は撤退している。PKF部隊は防衛線を大統領官邸と国民議会議事堂周辺まで後退させたから」

 

「ええ。把握しています」

 

「それでもこの学校を放棄するわけにはいかないの。この学校で学んでいる生徒とその家族のほとんどは防衛線の外だから」

 

 久慈さんと同じくらい忌々しげにマルシアさんはそう言う。

 

「だから、お願い。どうかこの学校に攻撃が加えられないようにして。この仕事を受けてくれた民間軍事会社(PMSC)はあなたたちAICだけだったから……」

 

 マルシアさんはそう私たちに求めたのだった。

 

「最善を尽くします」

 

 私たちはそう答えるしかなかった。

 

 それから私たちは警備のために都合のいい場所を探すべく動き出した。ベルは通信の感度が高い場所を、クレアは狙撃に適した位置を、デイジーは敵が待ち伏せに使うかもしれない場所を、私はそれらを支援できる場所を。

 

 そんな中、ちょうど私たちは授業が開かれてる教室の前を通ることに。

 

「へえ。これが学校ってやつなんだね」

 

「そうですね」

 

 子供たちは自分たちの国の言葉を国連職員から学んでいるようだった。子供たちが国連職員が質問するのに我先にと手を上げて授業を楽しんでいる。

 

「ふうん」

 

 デイジーは写真を撮影するように両手で四角を作り、その中に子供たちと国連職員を収める図を作った。

 

「平和ってこういうものかね?」

 

「どうでしょう……」

 

 デイジーの言葉に私はそう答えるのみだった。

 

 これが平和だとすれば、その平和はあまりにも儚い気がするのです。

 

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