TSロボ娘は何周してでもハッピーエンドを目指したい 作:第616特別情報大隊
……………………
──状況把握
「──アリア」
私はベルに呼ばれて目を覚ます。
「ベル……!? ここは……」
私は一瞬自分がどこにいるのか分かりませんでした。確かに自分は撃たれたはずで、破壊されてしまったはずで、でも私にはこうして意識がある。
「学校だよ。他にどこに行くの?」
ベルは怪訝そうに私にそう言った。
見渡せば、私がいるのは確かにカラルグラード市立第11中等学校の教室だった。黒板に貼られた、子供たちが描いてくれた私たちの絵がそのままです。
「で、でも、私は……」
「大丈夫? 混乱しているみたいだけど、何かあったの?」
ベルはそう心配そうに私の顔を見つめる。
夢だったのだろうか。破壊されたはずのベルもそのままです。学校の周りはまだカラルグラードらしい銃声の音はしても、戦車の無限軌道の音や砲声は聞こえません。
何がどうなったのだろうか……?
「AIC司令部と連絡している。必要な装備があればドローンで送ってくれることになったよ。みんなに必要な装備を確認したいから、アリアも来て」
「は、はい」
私は起き上がるとベルに続いて学校を進む。
以前の砲爆撃で破壊された場所を除けば、学校に戦闘の痕跡はない。まるで私が体験したことなんて存在しなかったとでもいうかのようだ。
そして、司令部になっている教室にはデイジーたちがいた。
「アリア。今の状況を共有するからZEUSで受け取ってくれ」
デイジーから受け取った情報は以前と同じで、私は強烈な
「今のところ、依然として旧政府軍がどの規模で攻撃を仕掛けてくるは不明。連中、ドローンや偵察衛星の目から隠れて移動しているみたいだ」
デイジーのその説明にも強力な
「もしかしてドローンは撃墜された……?」
「ああ。AICのドローンはカラルグラードの上空を飛行していたけれど、これも15分前から応答がない。司令部は撃墜されたとみている」
私が恐る恐る尋ねる言葉にデイジーは予想していた通りの言葉を返す。
「不幸中の幸いは、旧政府軍の空軍戦力は大したことがないということ。連中はロシア製の旧式機を僅かに保有しているだけだ」
以前聞いた情報と同じものが私に伝えられていく。
「空軍力は西側が援助している新政府軍の方が規模が大きい。だけど、練度はそこまで高くないからいざ航空優勢を取り合った場合、どうなるかは分からない」
「こっちの航空支援が動けるかも分からないってことだねぇ」
そして、デイジーが言い、クレアが頷く。
全く同じ戦況で、全く同じ状況。
「で、それでもボクたちはこの学校を守らないといけない。そこで配置を決めたぞ。アリアとベルは車両で遊撃し、クレアはこの学校の屋上から狙撃で援護。ボクはドローンの代わりに地上を進んで偵察と警戒を行う」
デイジーが言い出したことも以前と全く同じだった。
「……はい」
ここで反論しても意味がないことを私は知っているので何も言わなかったが、この強烈な
「ん、通信だ。AIC司令部から久慈さんがみんなに」
そこでベルがそう言って久慈さんからの通信を全員につなぐ。
『ハンドラーよりアルファベット・チーム。状況は切迫しているので手短に済ませる』
久慈さんはそう前置きして話し始めた。全く同じに聞こえる前置きです。
『先ほど旧政府軍がカラルグラード国際空港への砲撃を始めた。新政府軍も応戦を開始して大規模な戦闘が始まっている。PKF部隊や契約している
久慈さんがそう言う前に私は彼の言うことが分かってしまった。
『AICも空港への援軍を頼まれている。よって空港の戦局が安定するまでは、そちらに援軍は出せそうにない。すまない』
久慈さんはそう本当に申し訳なさそうにそう言ったが、それも知っていた。
『しかし、ドローンによる支援などであれば出せる限りは出す。武器弾薬の補給も今のうちならば可能だ』
「了解です。必要な装備を現在検討しているところでした」
『そうか。では、なるべく早く知らせてくれ。カラルグラードの状況は不味い方向に進んでいる。AIC基地とそちらをいつまで繋いでいられるかも分からない』
久慈さんはそう言って通信を終えた。
「とりあえず、学校周辺にセントリーガンを展開させよう。正門と裏口、そして校舎のふたつの出入口にキルゾーンを設置する。これで少しは人数の不利がどうにかなる」
「
「他には?」
デイジーが簡易なドローンを要求し、ベルがセントリーガンの要請をしながら私たちに確認する。全く同じだ。これは全く同じだ。
「…………」
「私は大きな銃が欲しいねぇ。いざってときは
私が呆然とする中、クレアは狙撃に適した装備をそれぞれ要求。
「アリア? アリアは必要なものは?」
「あ、いえ。その、何も……」
「そう? 久慈さんも言ったけど今のうちに要請しておいた方がいいよ?」
「だ、大丈夫です……」
私の様子がおかしいのはベルには伝わっていたらしく、彼女は本当に心配そうに私の方を見ていた。何か私のプロセッサにエラーが生じているのではないかと、そう心配しているようでした。
ですが、そんな私とおいて事態は進んでいく。
セントリーガンが運び込まれ、セントリーガンが設置され、デイジーが偵察に出る。
全てが、本当に全てが私がどこかで経験した記憶のあるもので、私の知っているように展開していく。
それでも私の中にはどこか楽観的な憶測があった。
もしかしたら、今回は運よく旧政府軍がここを攻撃しなかったり、もし攻撃されても凌げるのではないかという楽観的な考えです。
ですが、考えが甘かった。何もかも同じになるのならば、結末もまた同じなのです。
「ベル、ベル!」
クレアが戦車砲で吹き飛ばされ、ベルも死んだ。
そして、デイジーが引きずってこられて処刑される。
私は逃げようとして逃げられず、髪を捕まれ上半身を持ち上げられる。
「このような人形しか送り込むことのできない卑劣で臆病な西側の傀儡に我々が敗北することはありえない! 我々に勝利を!」
「勝利を!」
銃口が私の頭に向けられ、銃声が響く。
「──アリア」
そして、また私はベルに呼び起こされた。
「ベル……」
「AIC司令部と連絡している。必要な装備があればドローンで送ってくれることになったよ。みんなに必要な装備を確認したいから、アリアも──」
ベルがそう呼びかけるのに私はベルの手を掴んだ。
「ん。どうしたの、アリア? なんだか気分が悪そうだけど、何かのエラー?」
「ベル……私は……」
私はもう確信していた。私はループしているのだと。
また司令部の設置されている教室にやってきて、以前と全く同じ流れで話が進んでいく。ドローンが撃墜されており、役割分担が決めていかれる中でデイジーが単独で偵察に出ることになり、久慈さんから連絡がある。
そして、AIC基地に要請する物資を決めることになった。
「他には?」
デイジーはドローンを求め、ベルはセントリーガンを。
そして、私は──。
「私にも電磁ライフルをください」
私はそう求めた。
このループを抜け出すには生き残るしかない。何としてでも生き残るのだ。
それから誰も死なせないこと。ベルもクレアもデイジーも、そして学校の子供たちも死なせない。私がみんなを守り抜くんです。
「電磁ライフルを……?」
「はい。お願いします」
「分かった。要請しておくよ」
ベルは怪訝そうにしながらも私の求める電磁ライフルを要請してくれた。
そして、私たちは待つ。要求した装備が届くのを。
3度目となれば敵の動きは覚えていられます。
「デイジー。正門に方を警戒しましょう」
「ん。了解」
私たちは当初運動場方面に展開していたが、敵が攻めてくるのは正門からだ。私たちは事前に正門の陣取り、敵を待ち伏せることにしました。
私は軍用四輪駆動車から降り、校舎の中から電磁ライフルを構える。
敵か来たらすぐさま電磁ライフルの口径25x137ミリ弾を叩き込み、セントリーガンが破壊されないように支援を行うのです。
時間は刻々と過ぎていき、そして──。
「敵です!」
何度ものループで経験したのと同じように正門から敵が押し寄せてくる。
電磁ライフルの銃口を素早く照準し、引き金を引く。僅かな反動と電気の弾ける音とともに大口径ライフル弾が発射された。
電磁ライフルの威力は凄まじかった。
前列を進んでいた人間に命中すると一瞬でそれを
さらにセントリーガンが発砲を始め、敵を撃退していった。
私は再度、電磁ライフルの銃口を敵に向けて引き金を絞る。感情を込めず、淡々と引き金を引く。このままならば正門の敵を蹴散らして、そのまま勝利できるかもしれない。みんなで生き残ることができるかもしれない。
「クレア! 戦車が来ます! 戦車を狙ってください!」
『了解だよぉ!』
次は学校を運動場方面から襲う戦車から学校を守るのです。電磁ライフルなら第2世代主力戦車の装甲を抜くことができるはず……。
そう考えていたとき戦車の砲声が響いた。
だけど、狙われたのは私たちでもクレアでもなく、学校の校舎だった。今回はクレアが正門から攻めてきた敵の相手をしていないので、まだ狙撃手である彼女の場所がばれていないのだ。
「急いで戦車を……!」
私も戦車が攻め込んできている大通りに面した運動場方面に急ぐ。
そこでさらに砲声が響いた。学校のコンクリート塀に叩き込まれた砲撃です。コンクリート塀が破壊され、そこから戦車がゆっくりと姿を見せた。随伴歩兵もしっかりとついてきています。
私は電磁ライフルを戦車の側面を狙って発砲。大口径ライフル弾は見事に相手戦車の脆弱な側面装甲を貫き、内部を破壊していきます。戦車は動かなくなり、辛うじて生き残った戦車兵たちが脱出していく。
さらにもう1台の戦車の上部装甲めがけてクレアが発砲。やはり脆弱な上部装甲を撃ち抜かれた戦車が破壊され、炎上し始める。
「あと2両……!」
私は思っていた。これならば勝てると。
しかし、それは私が知っている戦力が攻めてくる限りのことであり──。
『次の戦車を──』
突然、クレアがいたはずの屋上が吹き飛ぶ。
「今のは!?」
「自爆ドローンか迫撃砲だよ!」
「迫撃砲の
「恐らく
そう、私が知らないものが使われたらどうしようもなく。
次の瞬間、私たちはクレアと同じように
「あ……う……」
私の手足もすでに千切れており、あらゆる場所からエラーが出ていた。しかし、まだ疑似ニューラルネット・プロセッサが稼働しているのか意識があり、壊れかかったセンサーが周囲の情報を把握する。
ベルはもうだめそうだ。彼女の上半身と下半身は引きちぎられており、ぬらぬらしたナノマシンまみれの人工筋肉が露になっている。動く様子もない。
それからデイジーが連れてこられて射殺されるのが視界の隅で見え、旧政府軍の兵士たちが学校を占領していく。子供たちが学校から連れ出されてトラックに乗せられ、マルシアさんたち国連職員がデイジーのように処刑されていった。
ひとりひとり跪かされて頭に銃弾が叩き込まれていく。
「ああ? このガラクタ、まだ動くみたいだぞ」
そこで敵の兵士がマルシアさんたちの亡骸に手を伸ばそうとしている私に気づいた。
「気味が悪い。壊しとけ」
「了解」
銃口が私の頭に向けられ、銃声が響いた。
……………………