TSロボ娘は何周してでもハッピーエンドを目指したい 作:第616特別情報大隊
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──この状況は変えられない
「──アリア」
私は再び目覚めた。
またベルが私を呼び起こし、私は目をゆっくりと開ける。
「ベル……」
「アリア? 大丈夫なの? 何か凄く調子が悪そうだけど……」
私は深い絶望の中にあった。
どれだけ装備を充実させても射程外から攻撃されてはどうしようもない。どうすればこの状況を突破できるのか、私には全然分からなくなってしまった。
「どうすれば……どうすれば……」
私はベルの死を3回も見た。もう彼女を死なせたくない。それなのにその方法は全く思い浮かばないのです。何も、何も全く。
「何か悩んでいるなら、聞くよ? どうしたの?」
「ベル。私は……」
私はベルに相談すべきかを迷った。彼女は私の親友とも呼べるし、彼女に打ち明けることは何かのメリットになるかもしれない。
だが、話が荒唐無稽すぎる。何度もループしているなんて話は、私がエラーを起こしていると思われるだけかもしれない。そうなれば私は作戦から外され、私は正真正銘の役立たずになってしまいます。
そうしてベルに拒絶されたら、私の心は本当に折れてしまう。
「大丈夫です、なんともありません……」
だから、ベルが心配するのにそう返すしかなかった。
ループ4週目──。
今度は迫撃砲の砲撃を避けるために校舎内に立てこもる。しかし、敵戦車を抑えられずにやはり全滅した。
ループ5週目──。
迫撃砲を叩くために自爆ドローンを使用するも敵のカウンタードローンに迎撃され、あとは4週目と同じように戦車によって蹂躙されて全滅した。
ループ6週目──。
対戦車ミサイルによるアウトレンジ攻撃を仕掛けるもやはり全滅した。
ループ7週目──。
自爆ドローン、対戦車ミサイル、迫撃砲。使えるものは全て使ったが全滅した。
ループ8週目──。
全滅した。
ループ9週目──。
全滅した。
ループ10週目──。
全滅した。
ループ11週目──。
全滅した。
ループ12週目──。
ループ13週目──。
ループ14週目──。
ループ15週目──。
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ループ79週目──。
「ああああああっ!」
私は気が狂いそうだった。
何度、何度、何度、何度やり直しても最後には全滅してしまう!
もう本当にどうしていいのか分からない! どうしたらこのループから抜けられるのか分からない! みんなが生き残れる方法が分からない! この地獄が終わる方法が分からない……!
もう何回戦車に吹き飛ばされた? もう何回戦車の履帯で踏みにじられた? もう何回アサルトライフルで頭を消し飛ばされた? もう何回迫撃砲で殺された? もう何回自爆ドローンにやられた?
もう何回ベルを殺された?
それすらももう分からない。
「ア、アリア?」
私が叫びながら髪を掻きむしるのにベルが狼狽えた様子で私の方を見る。
「もう分からないんです。私はどうしたらいいのか。どうするのが正解で、どうすれば生き延びられて、どうすればみんなを助けられるのか……」
「それはどういう……?」
やはりベルに理解してもらえるはずがない。私ですら理解できていないのですから。私たちが何度も何度も死んでいて、その度にこの教室に戻ってきてるのだということがどういうことなのか。
「もう駄目なんです。何をしても私たちは全滅するんです。助からないんです!」
「落ち着いて、アリア。何かのエラーが出ているの? 一度有線で接続していい?」
「はい……」
私は後ろ髪を上げて首を後ろの接続ポートをベルに見せる。ベルはそこにケーブルを伸ばして接続し、私の内部構造を解析していく。
「ふむ……。おかしなエラーは出ていないけど、不明なログが蓄積している。これは何だろう? 私には解析できないデータだね……」
ベルはそう言い、私の方を見た。
「けど、戦闘に影響があるなら輸送ドローンで基地に後送するよ。どうする?」
「後送……?」
私はベルのその言葉に疑問を抱いた。これまで何度も同じような展開を繰り返してきたけれど、こんな選択肢が出たのは初めてだ。
「うん。今からAIC司令部に必要な装備を要請するんだけど、そのときに輸送用ドローンが来るからそれに乗せて基地まで送る。エラーが出ていて戦えないなら、ここにいてもしょうがないしね」
「そう……かもしれません……」
私は本当に基地に戻ってもいいのか? それは許されるのか?
いや。私がいなくなるという選択肢はこれまでなかった。私がいなくなることで何かしらの変化が訪れるかもしれない。
そんなありえない希望に縋らなければならないほど、このときの私は追い詰められていたのです。思えば私がこの場から逃げて、何が変わるというのでしょうか……。
「では、そうします……」
しかし、私は逃げることを選んでしまった。
それから輸送用ドローンが学校の運動場に着陸した。
輸送用ドローンは4枚のローターのついた箱のような航空機だ。小型ヘリほどの大きさがあり、1、2名の負傷者を搬送するためのオプションも搭載されている。
「じゃあ、早く直してもらってね。この作戦が終わったらまた一緒に行動しよう」
「はい……」
私は負傷者搬送用の簡易ベッドに寝かされ、ドローンから落ちないようにベルトで固定されると微笑んで手を振っているベルを見た。
本当にこれでよかったのだろうか。これで何かが変わるのだろうか。
私は変わると信じた。
そして輸送用ドローンが離陸し、私は学校からAIC基地へと戻っていく。
みんなを置いて私だけが……。
AIC基地に到着すると久慈さんがやってきた。
「エラーが起きていると聞いたが、大丈夫か、アリア?」
久慈さんはベルからある程度の状況を聞かされていたのか、基地のヘリポートについた私にすぐにそう尋ねる。
「久慈さん……」
私はどう説明すべきか迷った。
エラーの原因は私にアンドロイドにはないはずの前世があるからなのか、それともループを繰り返しているからなのか。
いずれにせよ久慈さんにこれまで打ち明ける機会はなかったが、ベルと同じで私の言うことを理解してくれるとは限らない。
「アリア?」
簡易ベッドから起き上がった私は久慈さんの方を見つめる。
「久慈さん。私は……これから何が起きるのかを知っています……」
「何?」
私の言葉に久慈さんはやはり理解できないという顔をした。
「本当なんです。私は知っているんです。これから学校が旧政府軍に襲われるということを。戦車がクレアとベルを殺し、デイジーが処刑され、子供たちは連れ去られ、マルシアさんたちも殺されるんです」
「それは……最悪を想定すればそうだろうが……」
「その最悪は確実に起きるんです」
私はそう打ち明けたのだった。
信じてもらえるかは分からない。けど、言っておかなければならない。そうでなければ私がここに逃げてきた意味がないのですから。
私は具体的にこれから起きることを伝えた。戦車と機械化された歩兵という大規模な敵部隊が学校を襲うというのを。敵は自爆ドローンや
「具体的だな。そんな情報をどうやって手に入れたんだ?」
久慈さんはそう疑問を呈する。当然の疑問だ。
「信じてもらえるかは分かりませんが、私はループし続けているんです。何度も、何度も、何度も全滅しては全滅する前にループしているんです。どうしてかは分かりません。けど、もう私は数えきれないくらいみんなと自分の死を体験していて……」
私は泣きそうだったが、私に泣くという機能はない。ただ頭を抱えて、俯くことしかできなかった。
「……信じよう」
久慈さんはそう言い、私は思わず耳を疑う。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。私は信じる。お前の様子はただ事ではなさそうだ。それにお前はこのような場面で嘘をつくような子ではないと、私は信じている」
私が戸惑うのに久慈さんは私の肩に手を置いて微笑んだ。
「その上で問おう。どうすればお前を助けられる?」
「それは……」
私はあらゆる手を尽くしてきたが、その全ては失敗しているのです。
「援軍が必要です。あるいは先手を打つかです。相手の規模は私たち4名ではどうやっても止められないものでしたから……」
私はそうもしかしたら状況を打破できるかもしれない手段を告げた。
「ふむ。今はカラルグラード国際空港が攻撃を受けている。そちらに戦力を回していたが、お前の報告が正しければ空港への攻撃は陽動かもしれない。空港への攻撃は今のところ砲撃が行われているだけだからな」
「では、援軍は……?」
「派遣できるかもしれない」
ここで私は光明を見た。これまでは得られなかったAIC基地からの支援が受けれる可能性が出てきたのですから。
「今からでも増援を学校に派遣しよう。間に合うといいのだが……」
それから久慈さんはカラルグラード国際空港に回されるはずだった戦力を学校に派遣する準備を始めた。
しかし、私が不調を訴え、久慈さんと相談して輸送用ドローンが派遣され、その輸送用ドローンで私がAIC基地に帰還してと時間が経ちすぎていた。
「クソ。学校との連絡が取れない。アルファベット・チームのいずも応答しない」
ああ。間に合わなかった……。
ベルもクレアもデイジーも、恐らくは学校のみんなも殺されてしまった。私だけが逃げて生き延びてしまった。私は卑怯者だ。こうなることに薄々気づていたのに私は逃げ出したのだ。
「……アリア。まだお前がループする可能性はあるのか?」
そこで久慈さんがとても悔しそうな表情で私にそう尋ねた。
「……あると思います」
私はループする方法をまだ確信がないものの、把握している。
それは私の疑似ニューラルネット・プロセッサを破壊することだ。
「その場合は当然私はお前がループしているという事実を知らないだろう。そこで私がそのことに気づけるようにするためにあることを伝えておく」
「あること……?」
「私が手足を失った理由だ。これはAICの誰にも話していないし、データベースにも残っていない。その意味が分かるな?」
久慈さんが言うことを私は理解した。
「合言葉みたいなものですか?」
「そうだ。私の秘密はこの手足を失ったのは、東南アジアでの作戦中に拘束され、拷問を受けたからだ。そのせいで手足が腐り、切断することになった。何かあればこのことを私に告げろ。そうすれば私はお前を信頼する」
私が尋ねるのに久慈さんはそう自分の血なまぐさい過去を語った。
「分かりました。では、少し待っていてください」
私はそう言うとアンドロイドの充電ルームに向かった。
そこで私はサイドアームの口径9ミリの自動拳銃を手にする。
これで頭を撃ち抜けば、恐らくはまたループが始まる。だが、そのことに確信はない。私が頭を撃ち抜いてもループは始まらず、私はただ無意味に自殺するだけに終わるのかもしれない。これで正真正銘、私の人生は終わるのかもしれない。
だけど、だけれど!
「私はベルもクレアもデイジーも、そして学校のみんなも見捨てたくない……!」
私は震える手で自動拳銃の銃口を自分の頭に向けた。
そして、ぎゅっと左手を握りって目をつぶり、覚悟を決めると──。
引き金が絞られ、銃声が爆ぜた。
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