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「ぐあああぁ……! つ、疲れた……」
上条は、この世の終わりのような呻き声を出しながらベンチに背を預けて天を仰いだ。
不良集団からの鬼ごっこ(上条の過失100)から1時間。ようやく不良集団から逃げることに成功した。
気がつけば不良集団は30人近くなっていた。
このままではジリ貧だ。そう判断した先生は、二手に分かれることで人数を分散できる上条に提案した。
そして、ついにチャンスは訪れる。上条と先生の目の前に分かれ道が現れたのだ。
***
“当麻、ここで別れよう。そして、必ず五体満足で再会しようね。それじゃあ……幸運を祈るよ!! ———うおおおお!!
『先生っ!! クソっ、俺のせいで……けど、先生が作ったこのチャンス、決して無駄にはしないっ……!! ってあれぇ!? どうして全員上条さんに着いてくるんでせうか!?』
“うおおおおおっ!!”
『せ、先生!! 作戦失敗だ先生!! だから止まってくれ!! カムバックせんせーーーいっ!! 駄目だ、先生も不良たちも全然見向きしねぇ!! クソっ!! 不幸だああああああああああ!!』
***
そうして上条は走り続けた。
路地裏を抜け、ゴミ箱の中に隠れ、野良猫に襲われ、マネキンのフリをし、店員に怒られ、バスに乗った。
その頃には不良たちを完全に振り切っており、上条はなけなしのお金を支払ってバスを降りた。
上条は、砂漠でオアシスを求める遭難者のように歩き続けた。
そして、オアシスの水源に飛び込むように、上条は公園のベンチへともたれかかったのだ。
大きなため息が出た。
続けて腹の音が唸り声を上げる。
上条は朝から何も食べていなかった。
朝は寝坊して食べる時間がなかった。
昼は放課後の特売セールのためにお金を少しでも多く残しておく必要があったため抜いたのだ。
ため息は止まった。
だが、その代わりに腹の音が活発化してきた。
「おい、腹が減ったぞ! 何か食わせろ!」と腹の音が主張を増していく。
瞼を閉じると、目の前には大量のお菓子が現れる。
口の中で涎が溢れ始め、ついにはふわふわとした良い香りが嗅覚を刺激し始める。
空腹でついに嗅覚までおかしくなってしまっただろうか。
「おーい、起きてよー」
さらには幻聴まで聞こえ始めた。
あぁ、上条当麻の人生はここまでかもしれない。もう、疲れたよ、パトラッシュ……。
意識は遠のいていくのに、良い香りは増していく謎の現象に狂いながら、ゆっくりと意識を手放していくのであった。
「かみじょーくーん、起きてよー」
誰かが自分を呼んでいる。
そして、良い香りは強くなり、はらりと質の良い筆のようなものが顔面をなぞった。
あぁ、ついに女神が僕を迎えにきてくれたのか。
できれば、年上の寮の管理人のお姉さんみたいな女神様だったらいいなぁ〜。
上条はそう妄想しながら気持ち悪い笑みを浮かべ、ゆっくりと瞼を開いた。
「あ、起きた。やっほーかみじょーくん! 今日も相変わらず不幸そうだねー⭐︎」
視界いっぱいに広がっていたのは、ピンク色の綺麗な髪のカーテン。
そして、カーテンの奥からこちらを面白そうに見つめる少女の顔だった。
女神なんかじゃなかった。
上条はめんどくさい奴に出会ってしまったと心の中でため息を吐いた。
「なんだ……ピンクゴリラか……」
「乙女の顔を見てピンクゴリラ発言は失礼じゃんね⭐︎」
メキャッ!!
「不幸だああああ」というお決まりのセリフを吐く間も無く、上条の顔面はトリニティ産ピンクゴリラに握りつぶされるのであった。
ガツガツガツガツ!!
キヴォトスの中でも随一のオシャレな雰囲気のトリニティ地区の飲食店で、上条は“マナー”や“清楚”とはかけ離れた様子で食事を口の中にかき込んでいた。
周りのお嬢様生徒からは汚物を見るような目で見られているが、上条にとってはどうでも良いことだった。
威厳や尊厳など生き残るためには必要なし。
今この瞬間、今後一生訪れないであろう至福の時を味わうことが先決である。
そう言い放つように、上条は食事の手を止めなかった。
「わーお、かみじょーくん相当お腹が空いてたんだね」
「ふごふごふごごごごこっ!!」
「いいよいいよ、無理して喋らなくて。お腹いっぱいになるまで食べちゃって⭐︎」
「ふごごごーっ!!」
ミカの許しを得た上条の手は勢いを増していく。
ミカは飛び散った食べカスを紙ナプキンで拭き、紅茶を口に含みながら面白いものを見るかのように上条を見つめる。
それから20分程が経過した。
一生分を食い尽くしたと言えるほどの食事を平らげた上条は、水を掻き込むように飲みながらプハーと息を吐いた。
「いや、本当に助かったよ聖園! あのままだと俺、確実に天に召されてたよ」
「ふふーん、感謝してよね⭐︎」
「ありがとうございます大天使ミカ様!! まぁ、一度召されたような気がしたけど……」
「何か言った?」
「いえ!! 何でもないですイエッサー!!」
ミカの鋭い視線に背筋がブルリと震えた。
すぐさま上条は立ち上がり、ミカに対して敬礼を行った。
その様子を見たミカは、クスクスと笑いながら上条に座るように伝えた。
上条が椅子に座った瞬間、ミカはテーブルを乗り出して上条の右手を引っ張った。
そして、上条の右手にミカの手が触れた瞬間、キュイーン!!とガラスが割れたような、何かを打ち消し無へと返すような、甲高い音が鳴った。
それと同時に、
だが、ミカの様子に特に変化はなかった。
右手から手を離すとヘイローは再び光を取り戻し、また右手に触れると甲高い音と共にヘイローが消滅する。
ミカはその行為を面白そうに繰り返した。
上条も止めようと思ったが、食事を奢ってもらった手前、ミカの好きなようにさせることしかできなかった。
右手を触っては離すを何度も繰り返し、ようやくミカは満足した。
そして、上条の右手を手放し、ふぅ、と息を吐きながら椅子に背を預けた。
「触っている間はヘイローが消えちゃうし、なんか思うように力が入んなくなっちゃうしで、やっぱりかみじょーくんの右手は本当に不思議だね⭐︎」
「こんな力があっても何の得もないけどな。ミレニアムの機械とかに触れたら機能が停止しちまう時もあるし、この前なんか『最新の武器を手に入れたー』って喜んでる奴の武器に触れたらバラバラになっちまうしで良いことなんて一つもねぇよ」
「あー、弾丸じゃなくて持ち主の力?か何かを利用して撃つ武器のことかな?」
「多分それのことだと思う。先生は“神秘”とか言ってたけど、俺頭悪いからよくわかんねぇや」
「かみじょーくんおバカだもんねー」
「んだとぅ!?」
「事実じゃんね⭐︎」
「くそぅ……どうせ上条さんはどうせ馬鹿ですよーだ」
「ふふっ、おバカなかみじょーくーん⭐︎」
ミカのおでこツンツン攻撃に反撃できず、上条はミカにやりたい放題されるのであった。
すると、ミカはつまらなさそうにぽつりと不満を上条に漏らした。
「かみじょーくんはおバカなんだから、ゲヘナになんか行っちゃダメだよ。いくら“
「前から思ってたけど、どうして聖園はそんなにゲヘナが嫌いなんだ?」
「えぇー?だってゲヘナって野蛮だし、マナー悪いし、なんか気持ち悪いじゃん」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなことあるもん。だって見てよあの角や翼。黒くて邪悪でまさに悪魔って感じ。やな感じー」
「でも、ゲヘナにも良い奴はたくさんいるぞ?空崎とか愛清とか鬼方とか……」
「それ、ただ餌付けされてるだけじゃないの?」
「うぐっ……」
「それに、かみじょーくんがどんなにその子たちを良い子だと思っても、所詮はゲヘナなんだからね。忘れちゃダメだよ。ゲヘナは野蛮なんだから」
「心配してくれるのか?」
「当然だよ! だってかみじょーくんは私の大切な“おもちゃ”なんだもん!」
「人をおもちゃ扱いとは……ゲヘナより野蛮じゃないかこの女……」
「んー?何か言ったー?」
「何でもないですよ、お姫様ー」
右手をヒラヒラと振りながら適当にあしらう上条に少しムッとするミカだが、お姫様呼びをされたことに機嫌が良くなり、ニコッと笑みを浮かべた。
「よーし、じゃあ行こっか!」
「行くってどこに?」
「お買い物!」
「えぇー……一人で行けよ……」
「だって、買いたいものたくさんあるんだもん! そのためには荷物持ちが必要でしょ?」
「だからって俺じゃなくても良いだろ。桐藤とか百合園がいるじゃねぇか」
「ナギちゃんとセイアちゃんは今色々と忙しいから、邪魔しちゃ悪いじゃん」
「あぁ、“エデン条約”だっけか?」
「そう。別にゲヘナと仲良くする必要なんてないのに。どうしてあんなにゲヘナにこだわるのか私にはさっぱりわからないや」
「まぁ、上に立つ人間には色々とあるんだろうさ」
「そうなのかなぁ」
「聖園だって上に立つ人間だろう?だったら、下の人間をもっと優しく接さなきゃダメだぞ?上条さんは今日色々とあって疲れてんだから」
そう言い放ち、上条はこの場から立ち去ろうとする。
だが……
「———さっきのご飯」
「えっ?」
「さっきのご飯、とっても美味しかったでしょ?」
「あ、あぁ……」
「このお店ね、トリニティの中でもトップクラスに人気なんだー」
「ど、道理で美味しかったわけだぁ……あはは……」
「……聞きたい?」
「な、何がでしょうか?」
「さっきのお食事代」
「い、いやぁー、あまり聞きたくないようなぁー」
うすら笑いを浮かべながら伝票を手に取るミカに、上条は身体中の穴という穴から嫌な液体を噴出させる。
聞きたくない。
もし聞いてしまったら、上条は食事という行為に一生トラウマを抱え続けること間違いなしだからだ。
「えーっと、いち、じゅう、ひゃく、せん……」
「だああああああああああ!?!? さ、さぁ、行きましょうか聖園お嬢様!! この上条当麻、貴女様の行くところならば火の中水の中でもお付き合いしますとも!!」
「うん、それでよし⭐︎」
ミカは満面の笑みを浮かべながら立ち上がり会計を済ませた。
その時、上条の視界に入ったレジの機械には、0が5個程見えた気がしたのだが、上条はそれは“幻想”だと言い聞かせながら自身の頭を右手で何度も叩いた。
「ほら、早く行こうよー」
店の外でこちらに手を振るうミカにある種の恐怖を覚えながら、上条はその店を立ち去る。
流石に今回ばかりは「不幸だ」とは言えず、上条は楽しそうなミカの後ろをついていくことしかできないのであった。