とある青春の物語の幻想殺し   作:ぽこちー

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運命

 

 

 アビドス地区の住宅街で、先生は遭難していた。

 見知らぬ土地でスマホの電波は繋がらず、辺りには人の気配すら感じない。

 目的地へ辿り着くこともできず、かといって来た道を引き返すことも難しい。

 

 幸いなことがあるとすれば、砂に塗れ、物音ひとつしない住宅街の隅で奇跡的に稼働している自動販売機があったことだろう。

 それを見た瞬間、人一倍生きてきた(キヴォトス比)先生の直感が「水を買え」と警鐘を鳴らしてくれたおかげで、一時的に喉を潤すことができた。

 

 とはいえ、潤すことができたのは1時間前の話だ。

 乾燥しきった砂漠の気候と都会育ちの組み合わせは、先生の水分補給感覚を完全に狂わせていた。

 

 ギンギンに照りつける太陽を背に、先生はペットボトルからこぼれ落ちる最後の一滴を口に含む。

 しかしその一滴は、喉を潤すどころか、かえって渇きを助長させるだけだった。

 

 

“一体、どこで間違ったんだろう……”

 

 

 先生がぽつりと声を漏らした。

 

 

 “ユウカに内緒で高級プラモを買った時? 深夜テンションでソシャゲに天井まで課金した時? それとも、総決算をアオイとユウカに全投げして、自分はビールを飲みながら野球観戦しつつ電子麻雀をしていた時?”

 

 まるでゾンビのようにふらふらと歩きながら、先生は己の犯した罪を懺悔するかのように、ぶつぶつと呟いている。

 先生がここ、アビドス地区を訪れたのは、一通の手紙を受け取ったのがきっかけだった。

 

 手紙の差出人は、アビドス高等学校の生徒、奥空アヤネ。そしてその内容には、先生への救助要請が記されていた。

 現在、アビドス高校は地域の暴力組織に狙われているらしい。

 詳しい事情までは書かれていなかったが、弾薬などの補給が底を尽きるのも時間の問題だという。

 

 だからこそ、暴力組織に学校が占拠される前に助けてほしい。

 そう切実に訴えられていた。

 どんな状況であろうと、困っている子供を見過ごせないのが先生という人物だ。

 先生は、すぐさまアビドスへの救助に向かった。

 

 そしてその道中、先生は上条当麻と遭遇する。

 彼もまた、先生と同じ精神を持ったヒーローだった。事情を知った上条も、アビドスの生徒を救うため、救助への参加を決める。

 

 こうして二人は、アビドス地区へとやって来たのだ。

 しかし、アビドスでも上条の不幸体質が二人を襲った。

 

 アビドス地区に足を踏み入れた瞬間、二人を歓迎するかのように突風が吹いた。

 思わずたじろいだ二人が後退りをしたその時、上条の足の下にあったのは、呑気に昼寝を決め込んでいた猫の尻尾だった。

 

 

 『ニギャーッ!』

 

 

 猫が悲鳴を上げ、その声に反応した仲間たちが、ぞろぞろと集まり出し、二人を囲んだ。

 敵意むき出しの視線が四方八方から突き刺さる。

 毛を逆立てた猫たちは低く唸り声を上げ、じりじりと包囲網を狭めてくる。

 

 

『もしかしなくても……これって……』

 

 

“いつものお決まりってやつ……?”

 

 

 次の瞬間、まるで合図があったかのように、猫たちが一斉に飛びかかった。

 

 

『“うわあああああっ!?!? 不幸だああああああ!!!!”』

 

 

 こうして、二人はバラバラになった。

 

 そして、なんとか猫たちを退けた先生が辿り着いたのが、この住宅街だ。

 上条のことも心配ではあるが、まずは自分の身の安全を確保するのが先決だった。

 そうして歩き続けて、すでに三時間。飲み水も尽き、体力も限界が近い。

 その時、ハッと何かを気が付いたかのように先生は目を見開き、ぽつりと漏らした。

 

 

“しまった……当麻の不幸を、甘く見てた……”ガクッ

 

 

 ついに、砂に塗れた住宅街のど真ん中で倒れ込んでしまう。

 

 だが、神様は先生を見捨てなかった。

 

 

「ん……何かいる。……あ、人だ。ねぇ、何してるの? 日向ぼっこ? 行き倒れ?」

 

 

“……み”

 

 

「み?」

 

 

“…………水”

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 上条当麻も、先生と同じく遭難していた。

 

 ———砂漠のど真ん中で。

 

 

「なぁ、神様。俺がアンタにしたっていうんだよ……」

 

 

 上条は、救いを求める子羊のように神に嘆いた。

 

 

『いや、知らんけど……』

 

 

 だが、上条が砂漠のど真ん中で遭難していることは、神にも分からなかった。

 神を超える謎の力が上条を引き寄せたのか、それとも、上条がここに来なければならないという()()だったのか。

 

 

「ああああああもうっ!! 辺り一面砂砂砂砂砂砂ァ!! 焼けるほど暑い太陽ッ!! そして、リュックには水と勘違いして入れた料理酒ッ!! 不幸にも程がありますよっ!!」

 

 

 上条の心の奥からの叫びも、砂漠では全く響かない。

 そしてついに、上条の体力にも限界が訪れる。

 

 ぐらりと視界が揺れ、視線が真っ白になりながら、上条敗北砂の床へ倒れ込む。

 そして、最期の力を振り絞るようにか細い声で呟いた。

 

 

「あぁ……上条さんの不幸と、先生の無鉄砲さを甘く……みて……た……」

 

 

 神は上条に微笑まない。

 

 だが、こんな砂漠の真ん中でも()()()()()()は咲く。

 

 彼女がなぜ砂漠に訪れたのか。

 

 彼女がなぜ上条を見つけることができたのか。

 

 それは誰にも分からなかった。

 

 だが、彼女は何かに引き寄せられるように、砂漠へと足を運んだのだ。

 

 

「………え? なんで……貴方が……」

 

 

 壊れていた時計の針が、

 

 自ら切り捨てたはずの()が、

 

 再び息を吹き返し、ゆっくりと動き出すのであった。

 

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