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先生は、ひとまず胸を撫で下ろしていた。
道中ではぐれてしまった上条当麻と無事に再会でき、そして、アビドスの生徒たちとも打ち解けることができたからだ。
「おぉ〜、本当にヘイローが消えてます⭐︎」
「反応するのは……右の手のひらだけのようですね」
「触れると少し力が抜けちゃうし、変な感じね」
「この右手を解剖すれば一攫千金……」
「何言ってんのこの狼っ子は!?」
「ん、冗談」
「冗談に聞こえねぇよ!!」
軽口と笑い声が、乾いた教室に広がる。
上条もまた、アビドスの生徒たちと打ち解けることに成功していた。
十六夜ノノミ、奥空アヤネ、黒見セリカは実際に彼の右手の幻想殺しに触れ、その特異性を確かめている。
砂狼シロコは少し離れた位置からじっとその手を見つめ、静かな瞳の奥で何かを計算しているようだった。
多少の不穏さは漂っている。だがそれでも、上条を中心にした輪は、今のところ賑やかで、穏やかだった。
———たった一人の少女を除いて。
“ユメは、混ざらないの?”
「えっ!?」
先生は、輪から一歩引いた場所で彼らを見守っていた梔子ユメに声をかけた。
不意を突かれたユメは、小さく肩を揺らし、慌てて背筋を正す。彼女は一度ゆっくりと息を整えてから、視線を上条へ向けた。
「わ、私は大丈夫です。さっき保健室で、たくさん話しましたから……」
“……そっか”
先生は、その言葉の裏に滲む違和感を見逃さなかった。
だが同時に、それが今、踏み込むべき領域ではないことも理解していた。
だからそれ以上は追及せず、ただ静かに頷いた。
その時だった。
がらり、と教室の扉が開く音が響き、ピンク色の髪を揺らした少女が姿を現す。
「うへぇ〜、ただいまぁ〜」
「お帰りなさい、ホシノ先輩⭐︎」
欠伸を噛み殺しながら、のんびりとした足取りで教室に入ってきたのは、小鳥遊ホシノ。
ユメを除けば、アビドス高校の中で最年長にあたる生徒だ。
街のパトロールを終え、少し遅れての帰還だったのだろう。
彼女の纏う、どこか気の抜けた空気が、さらに教室の空気を和らげた。
もっとも、本来の最年長はユメである。
既に卒業しながらも、アビドスのOBとして学園を支え続ける彼女は、生徒と大人の狭間に立つ存在だった。
そのため、『アビドス生徒』としての最年長はホシノ、という扱いになっている。
「シャーレの先生が来たって聞いたけど〜、もしかして貴女がそうなの?」
“そうだよ。私が『シャーレ』の先生。よろしくね”
「にゃにゃ〜、小鳥遊ホシノだよ。よろしく〜」
先生が手を差し出すと、ホシノは一瞬だけ警戒の色を浮かべた。
だがすぐにその手を取り、軽く握り返す。
先生はその変化に気づきながらも、あえて触れず、穏やかな笑顔を向けた。
「ホシノ先輩、こちらが先生と一緒に、アビドスの支援に来てくださった方です」
「おや〜?先生以外にも、物好きな優しい人が来てくれたの〜?」
ホシノは内心で苦笑しつつ、アヤネの示す先へと視線を向ける。
「ホ、ホシノちゃん……」
ユメの、どこか硬い声。
ホシノは一瞬だけ眉をひそめたが、まずは挨拶が先だと判断し、そのまま前に出た。
「わざわざこんな砂漠までありがとね〜。———え?」
右手を差し出し、紹介された人物を見た瞬間、ホシノの表情から、いつもの緩さが音もなく消え失せた。
目の前に立っていたのは、上条当麻。
信じられないものを見るような視線が、彼に突き刺さる。
その視線に上条は気づかず、差し出された手を右手で握り返した。
甲高い音と共に、ホシノのヘイローが消失する。だが、上条はそれを気にも留めず、明るく声を上げた。
「俺は上条当麻だ、よろしく! ……ってあれ? どうしてそんな、信じられないものを見る目で上条さんを見てるんでせうか……?」
返事はなかった。
ホシノは、ただ立ち尽くし、言葉を失ったまま上条を見つめている。
「……なんで……」
「あ、あれ? もしかして何か壊しちゃいました……?」
冷や汗が、上条の背を伝う。
また“何か”を壊してしまったのではないか、そんな嫌な予感が、胸を締め付けた。
ホシノは、上条からゆっくりと視線を逸らし、ユメを見る。
だがユメは、何も答えられず、ただ困ったように目を伏せるだけだった。
「ホシノ先輩?」
「どうしたの?」
ノノミとシロコの呼びかけにも、ホシノは反応しない。
重苦しい沈黙が、教室を支配する。
先生は、この空気をどうにかしようと口を開きかけた。だが、その役目を果たしたのは、先生ではなかった。
次の瞬間、校舎の外から、無数の銃声が乾いた砂漠の空気を引き裂いた。