死んでも死にきれない怪異なワイら   作:砂糖の家

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――ねぇ、こんなうわさ、知ってる?


この前火事で焼けた病院あるでしょ?
ほら、料理場からの火災で、病棟が全部燃えちゃったあのH中央病院だよ。
今はもう完全に廃病院になっちゃったんだけどね、そういう場所に肝試しに行く人って必ずいるじゃん。
私の友人も、廃墟探索が趣味でね。それで、行ったらしいんだ。あの病院。
私も一緒に行こって誘われたんだけど、怖いの苦手だから断ったんだけどね。
でね、そのまま友人が病院に行くのを家で見送って……
しばらく経った後かな? 友達から電話が来たんだ。
「火事になった。早く消防車呼んで」って。
私ビックリしちゃって、慌てて消防署に連絡したんだよ。で、もちろん友達が心配だから私も病院に行っただけどね。
でも結局、病院は燃えてなかったんだ。消防署を呼んだ私はこっぴどく怒られて、あの病院に肝試しにいった友達も叱られたんだよね。
でも……確かに私にも病院が燃えてたように見えたんだけどね。遠目でも上る煙が見えたし。
結局、あれはなんだったんだろうね。
……そういえば、友達が電話する前に、誰かに会ったって言ってたっけ。
名前を教えてくれたらしいけど……森久保、だったっけ。
あの人も、病院に肝試しに来てたのかなぁ。




"八敷一男"編『404号室の森久保先生』&『???』中

 鋭い風切り音と同時に投げられたメスと注射器が俺の身体を掠めると、俺の体液が辺りに散らされ、飛んできた血濡れの凶器は病院の冷たいコンクリートの床や壁へと深々と突き刺さった。どれほどの剛力で、鋭ければあんなものがコンクリートに刺さるのか。全てが現実ではあり得ない現象で、目に見えても明らかな怪奇現象だった。

 「取り押さえろ」と誰かが掲示板と呻き声で喚いたと同時に、気配を殺して姿を隠していた俺たちが八敷先生達を害そうとした怪異――『悪魔看護婦』へ飛び掛かったのは記憶に新しい。だが、あれから数分の時間が経過したにも関わらず、依然として悪魔看護婦は手にしたメスと注射器で俺たちを、そして404号室の扉を針山のようにしていった。いまや壁と床には数十本のメスと注射器が無尽蔵に生えている。

 

 

けぇぇぇぇん!

 

 

 甲高く、脳を揺さぶるような鳥の雄叫びが廊下に響く。足元に違和感を感じ、視線を移せばいつの間にか廊下の床と壁には湿った髪の毛が所狭しと覆われていた。前触れもない。まるで最初からそこに存在していたかのように現れた髪の毛は、みるみる内に暴れていく悪魔看護婦の足を、体を、最後には頭さえも覆い、ギチギチと音を立てながら締め上げていった。

 それだけじゃない。

 床の髪を巻き込みながら植物のように生えてきた数十本の長腕が、髪で覆われた悪魔看護婦の足に纏わりついて身動きを封じている。突如、空中に現れた血塗られた氷で出来た銛が飛び、的確に悪魔看護婦の頭を二本、三本と貫いた。

 髪は長髪鳥、床の腕はヒキ子さん、銛は人魚が起こした怪奇現象だ。一つ一つが人間なら余裕で死なせる事の出来る力で悪魔看護婦を襲っている。しかし、悪魔看護婦は未だその剛力で激しく抵抗していた。

 

 俺たち怪異という存在は、死んでいる身である以上、それ以上死ぬことはない。

 だが、ただの幽霊とは違う怪異には、その魂を消滅させる方法がある。

 曰くにより現世に囚われた怪異は、その曰くに関わる特定の儀式を用いれば、曰くから解放されて成仏(キュア)することも、その曰くごと魂すらも破壊(デストロイ)することもできる。

 

 人を害し、物を持つ為の肉体は持つが、怪異の本質は『生前の曰くに絡みついた穢れた魂』が基になっていること。

 物理的な方法で肉体を傷つかれようが、霊的な処置を施して肉体を滅ぼされようが『曰くが解消されない限り、怪異は決して滅びない』。

 だからこそ、本来協力し合う俺たちであっても、目標達成の為に周囲への被害を考えずに全力で力を振るえるのだ。

 

 一体何が原因で悪魔看護婦がこんな暴挙に出たのかは分からない。様子から見て、髪を振り乱して暴れまわる姿からは、まるで正気を失ったかのように見える。覆われた髪の毛の間から覗き見えるぐずぐずに崩れた両目からは、まるでこの世の全てを呪いつくさんとするようにギョロギョロと動かして、暴れる悪魔看護婦を止めにかかる俺たちを視線だけで射殺すという気迫まで感じた。

 

「――一回正気にィ……戻れやぁっ!」

 

 俺は普段は出さないような怒号と共に、身動きの取れない悪魔看護婦へ向かって走り出した。そして、俺は自分が憑依している怪異の口を徐々に開き始めた。頭から縦に、まるでジャンバーのチャックを下ろすかのように、縦に割かれた割れ目にぎっしりと詰まった歯を外へと晒して、目の前の人型に集中する。

 開かれた縦口の端からどろりと液体が滴る。唾液か、血か、見た目や臭いでは判別できないような液体をまき散らしながら、俺は一心不乱に悪魔看護婦へ噛みつこうとする。あとで掲示板メンバーに液体が体に着いただの苦情を受けそうだ。

 

 『喰い口』と呼ばれている怪異の見た目は、憑依している俺から見ても非常に不愉快なものだった。

 遠目から見ればただの人型に見えるかもしれないが、近づいて露わになるその姿はまるで腐乱死体。ホラー映画に出てくるゾンビでさえ、そこまで酷くないと思わせるほどに腐り果てたその姿は、顔の判別も出来ないほどに腐り落ち、中に見える骨でさえどういうわけか()()()()()

 そして何より特徴的なのは、頭の先からお腹まで裂かれた傷だ。その傷はまるで口のように動き、更にはまるでサメのような歯が二重、三重、四重と数えるのも億劫な数が連なって生えている。そんな歯に噛まれてしまったものがどうなるか、噛まずとも想像に難くない。

 

 悪魔看護婦を開けた口に上から被せる様に入れて、力を込めて咀嚼する。ぶちぶちぶち、と髪の毛の切れる音と不快な感触が口の中を支配すると、次いで固い何かを噛んだような感触が歯を通して伝わってくる。まるで石のように固い。

 

 

 

 

――センセイ、待っててね――

 

 

 

 

 ゾッとするような声が口の中で響き、俺の鼓膜を振るわせる。その声が俺たちに向けられたわけではないはずなのに、俺たちは精神耐性を持っているはずなのに、その声から滲み出る恐ろしい愛憎の声がとても(おぞ)ましく感じ、それが咀嚼する俺の動きを一瞬止めた。

 

 ただ、それだけだった。

 

「――っ!?」

 

 口の内側で何か鋭利なものが無造作に打ち立てられる。そして、同時に俺の背中にも何かが深々と突き刺さった。

 何が起きたのか考える間もなく、想定してなかった口の中と外からの攻撃により口が緩んだのか、口の中の悪魔看護婦が俺の体を邪魔だと言わんばかりに体をひねらせ拘束から脱出し、メスを俺の顔に突き立てた。

 慌てて再び拘束しようとするが、また何かが背中に突き立てられる。それも一本や二本ではない。既に十本以上のものが背中に立てられている。

 周りにいたスレ民たちが驚いたような顔をしたり、身じろいだりしている。いつの間にか、床を覆っていた髪の毛が無くなり、これを出していた長髪鳥を横目で見ると、その体に無数のメスと注射器、窓ガラスの破片のようなものによって全身をズタボロにされていた。

 他のスレ民も先ほどまで突き刺さっていなかった多くの凶器で刺され、次々とその体を床へ落としている。

 俺も、体に力が入らず冷たい病院の床へ倒れた。そんな俺たちに一瞥もせずに悪魔看護婦は、体を左右に揺らし、酷く緩慢な動きで八敷先生たちが立てこもっている404号室の病室の扉へ近づく。さっきまでの扉には針山のようにメスと注射器が刺さっていたはずだが、今は深い傷が付けられているだけでそれらは何処にも見当たらない。もしかすると、俺たちに飛んできたメスは扉に刺していたそれらで、遠隔で操作したのかもしれない。

 

 共有された悪魔看護婦の能力はメスと注射器を出すだけの力だと認識していたはずだ。なのに、実際にはそれ以上に色々な能力で俺たちを確実に苦しめていった。様子がおかしくなったことで力が増したのか、もしくはわざと黙っていたのか。

 そんな事しか考えられず、ただ目の前で404号室の扉が開かれようとしている。このまま八敷先生が殺されれば、俺たちは成仏できない。あの人だけが、怪異を救ってくれるわけではないはずだが、どういう訳か、八敷先生なら、どうしようもない俺たちにも寄り添ってくれるような気がするから――だから守らなくちゃけないのに――

 

 メスを持った悪魔看護婦に扉に手を掛けられ、そのまま横にスライドさせられて、中の八敷先生が――

 

 

――――

 

――――――――

 

――――――――――――

 

 

 突然現れた看護婦の怪異から逃れる様に、俺は萌の肩を引き寄せて目の前の部屋――404号室へと体を押し込むように入った。同時に俺は扉の内鍵をかけると、部屋の中にあった棚などを扉の前へと移動させた。今や時間が惜しい。

 焦げ跡を残しているベッドに椅子。扉の開閉を防げそうなものを一つ二つと引っ張り、扉を固定する。襲われたショックからか暫く放心していた萌も慌てながら手伝ってくれたお陰で既に扉の前には多くの重い物が寄せ集められている。怪異相手にどれほど通じるか分からないが、少なくとも次の対策を考察するまでの時間は稼げると願いたい。

 

「……萌、今の怪異について何か知ってるか?」

「う、ううん。全然知らない。」

 

 萌は襲われた恐怖が今になってきたのか肩を震わせている。

 無理もない。先ほどまでこの世の理から逸脱した存在である怪異に襲われたのだ。ただ相手を呪い殺さんとする、限りなく純粋にどす黒く淀んだ殺意に当てられれば、震えないほうがおかしい。

 俺だってそうだ。呼吸を乱しているのそうだが、右腕がまるで寒さに耐えているかのように震えている。左手で腕を上から抑えても、依然と収まる気配がしない。

 

――落ち着け、冷静になるんだ

 

 一度、深呼吸を入れて気持ちを整える。怪異スポットで冷静さを失えば、怪異に太刀打つことが出来なくなる。怪異の行動を理解し、怪異の曰くを見つけなければ、怪異の事件は解決することも出来なくなる。

 だから、冷静になれと、俺は心の中で己を鼓舞する。

 

「……看護師。それに……あれは、注射器か……」

 

 命の危機に瀕し、乱された精神を少しずつ正す。そうしてから、先ほどの怪異に襲われた状況を恐怖で刻み込まれた記憶の中から一つずつ取り出す。情報は、怪異に対抗する上で何よりも頼りになる武器だ。その場しのぎのお札や経典なんかより、ずっと役に立つ。

 

「……扉」

「……扉?」

 

 未だ体を恐怖で震わせている萌が、ぽつりと言葉を漏らす。あの時の恐怖がまだ抜けきっていないにも関わらず、萌の表情は恐怖で歪みながらも、何かを必死で考えてるような難しい顔をしていた。

 

「うん……あの怪異、私たちが扉を開けようとした瞬間に現れた。それに……なんか、喋ってたような……」

「怪異の声を聞いたのか……?」

「……聞いた、のかな……耳に届いたって、言うより……なんていうか、頭に声を叩きつけられた、みたい、な……」

 

 そう喋る萌の顔が、徐々に苦痛に歪む。右手で頭を押さえ、立っているのも辛いのか病室の壁へ寄りかかっている。言葉が妙にたどたどしい。思い出そうとする度に頭痛が起きているのか。

 

「萌、無理するな。ひとまず今は、ここから逃げ出す方法を――」

 

 

 

 

 

ようやくいらしてくれたのですね、先生

 

 

 

 

「……っ」

 

 声が病室に響いた。男の、それも老齢の男性の声だ。俺の声とも、萌の声とも違う。

 突然怪異に襲われ、急いでこの部屋に逃げ込んだ俺には、完全に失念していたことがあった。

 俺たちがこの病院へ来る原因となった怪異の存在。この部屋がその怪異の住処であることを。

 部屋の空気が一瞬で張り詰める。咄嗟に壁に寄りかかる萌を背に病室を見渡す。

 放置されたベッド。割れた窓ガラス。黒く煤けた病室の隅。あちこちに目線を配り、次いで俺の目がある一点に意識を集中する。

 病室の中央、物が散乱した病室の中でも比較的綺麗な床の上に、何か濃い気配を感じる。

 姿が見えない。しかし、可笑しな違和感が俺の脳を絶えず襲っていた。

 やがて、その場所に色が浮かび始める。白色から始まり黒色、鼠色、青白い色と徐々に浮かび始めたそれは、やがて一つの輪郭を現実へ描き起こした。

 

 それは、白衣を着た老人のように見えた。見えたという曖昧な表現でしか、その怪異を現すことが出来ない。

 人の形をしている怪異。しかし、肌に該当する部分は全てが『黒』で塗りつぶされていた。

 目も、口も、鼻も黒い。来ている白衣が正面を向いているから、怪異もこちらを見ていると思うが、まるで人の影をそのまま立体的に映し出したものに服を着せたような怪異。それが、俺と萌の前に立っている。

 

「……」

 

 恐らく、目の前にいる怪異が噂の『404号室の森久保先生』なのだろう。森久保先生は、ただその場に立ち続けている。両手を白衣のポケットへ突っ込み、警戒している俺たちへ顔を向けている。

 この状況をどうするべきか。森久保先生に関する情報は萌から伝えられた噂の情報しかない。萌もこの病院へ向かう前から、怪異の情報と、そして病院に関する情報を雑誌記者の職権で各地から集めていたはずだ。しかし、萌の話ではどういう訳か病院に関する資料だけがどれもすっぽり消されていると萌は言っていた。分かっている情報は、火事が起きたということと、当時の新聞記事から得られた情報だけだった。

 病院の中を探索しても、火事で焼けてしまったこの場所では資料も道具も例外なく全て焼かれている。この病院に関わっていると思われる記録文書も、一階のナースステーションや院長室には無かった。得られた情報は一つもない。この状況で、この場を切り抜けることはできるのか。

 

 正直、俺も油断していた。怪異たちが活発に活動する時間帯からずれた夕方の探索ということもあって、警戒すべき怪異の住処へ足を踏み入れようとしていた。警戒の外から襲われたことでパニックになり、それで逃げだした先が怪異の住処というのは、いくらまだ陽が出ているとはいえ迂闊としか思えない。そうした自責の念に、俺は顔を歪ませた。

 

 

そう……警戒しないでください。先生。私は、待っていたのですから

 

 

「……なんだと?」

 

 不可解な怪異の言葉に、俺の強烈な違和感がまた濃くなる。

 そうだ、先ほどこの怪異は何と言っていた? ようやくいらしてくれた。確かそう言っていたはずだ。それに先ほどの待っていたという言葉。まるで俺たちがここへ来ることを初めから分かっていたかのような台詞だ。当然、怪異スポットを探索するからといって、そこの怪異へわざわざ今から探索に行きますとアポイントメントを取るようなふざけたことはしていない。

 それに、この怪異の喋り方は理性的だ。

 怪異は生前、強い恨みを抱えて亡くなった人のなれ果てだ。生者を死の恐怖に陥れ、淀み穢れてしまった感情のままに呪い殺すあの世の存在。以前、俺も何度か理性的な、人間のように思考し、自身に降りかかる負の感情を制御して語り掛けてきた怪異もいたことにはいた。

 記憶を失った俺を手助けしてくれた九条家の「黒兎」、生前には八敷一男の協力者であり、元オカルト雑誌の編集長をしていた「Dマン」。

 白衣の怪異からはどこか、俺を助けてくれた彼ら彼女らのような理性を感じられた。

 

「……あの……あなたが、森久保……先生、ですか?」

 

 俺の後ろで萌が声を上げる。まだ体調がすぐれないのか、どこか弱弱しい。

 萌の言葉に、怪異はゆっくりと頷く。やはり理性的だ。問答無用で俺たちを害そうする気配は感じられない。その場に立ち続け、ただ俺たちを見ている。

 

 

あぁ……そうだ。わたしは――俺は森久保先生と呼ばれていた

 

 

「……?」

 

 また、違和感を感じた。先ほどとは違う、どこか居心地の悪い違和感だ。

 何がおかしいのか、まるで要領を得ることが出来ない違和感。

 その違和感が解消されないまま、森久保先生は話を続けた。

 

 

俺は……この病院で、焼かれて死んだ。今でも思い出せる。あの……地獄を

 

 

 森久保先生が話す。俺たちは、森久保先生の話を聞くことしかできない。

 

全てが燃やされたあの日。何もかもが燃やされた。患者も、看護婦も、医師も

ただ、あの事件を隠蔽するために。この病院にあった命と引き換えに

が――放たれた

 

「……えっ」

 

 先に声を出したのは萌だ。驚きに満ちた声で、萌が森久保先生を凝視する。

 壁から離れ、森久保先生に近づく。勝負どころは……ここか。

 未だ萌の体調は戻っていない。ふらつく萌の肩を支えて、佇む森久保先生へとさらに近づく。

 近づくたびに、俺の鼻腔に何かを焼くような不快な臭いが突き抜け始める。肉を焦がせば、こんな臭いになるだろう。……森久保先生の姿が、どうしてここまで真っ黒なのか。なんとなく予想できたような気がした。

 

「火が……放たれたって……あれは、事故のはずじゃ……」

 

 

……違う。あれは、アイツらの仕業だ。人の命を救う聖職者でありながら

私欲に塗れたアイツらのせいで……俺は……俺たちは……ッ!

 

 

 森久保先生が初めて感情を露わにした。同時に、辺りに漂う焦げ臭さがますます強くなる。

 いくら理性的な怪異であっても、怪異が人を殺さない訳ではない。感情が強まり、自身を制御できなくなれば、森久保先生はすぐさま俺と萌に牙を剥くはずだ。

 だが、どうしてだろうか。森久保先生は、火事の記憶を思い出しているのか黒い頭を抱え始めた。苦痛に頭を振り回し、ついには嗚咽のような声を出し始める。感情が爆発し、いつ殺されてもおかしくないのに。

 苦しみで身もだえる森久保先生の姿に見て、俺は――その場から離れなかった。

 

 

センセイ。センセイ。探してくれるだろうか。俺たちの最期を。

 

 

 森久保先生がより強く頭を振り回す。焦げ臭さがどんどんと辺りに満ち始めている。

 窓から黒煙が見えた。扉の隙間から部屋に黒煙が入り込んできている。

 部屋が熱くなる。世界が歪み始める。

 森久保先生が、抱えていた頭を、俺の目と鼻の先に近づけた。

 

 

ソシテ――■■ヲ■エテクレナイダロウカ

 

 

 火の手が病室にまで回り始める。部屋が赤く照らされ、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 目の前の怪異によって歪み始めた病院。何が起きているのか、俺には何となく分かっていた。

 ……そうだ。手掛かりが全て燃えてしまったのであれば、燃えてしまう前に探せばいい。

 

 既に、先ほどまでそこに立っていた森久保先生は姿を消していた。そして、森久保先生が立っていた場所に何かが落ちている。

 支えていた萌を気遣いながら、落ちているそれを拾い上げる。服の胸ポケットに挟めるクリップの付いた薄いクリアケース。職員証だ。

 クリアケースには一人の男の顔写真と共に『H中央病院 医師 森久保誠二(もりくぼせいじ)』と書かれた職員証が、少し黒煤けながらも綺麗な状態で入っている。

 

 怪異に託されたこの情報。これを使って、また新たにこの病院を調べてみるか。

 

 

――――――――――――

 

――――――――

 

――――

 

 

【ホウ・レン・ソウ】怪異スポットH中央病院スレ2【スポット準備班】

 

324:名有りの掲示板怪異

暇じゃ~

 

325:名有りの掲示板怪異

暇ではないぞ

誰かしら肝試しに来た馬鹿を追い返す仕事はあるし

 

326:名有りの掲示板怪異

だからってここでぼーって突っ立てるのもね~

 

327:名有りの掲示板怪異

あとは現地組が何とかしてくれるとはいえ

何か不測の事態があった時のバックアップだし

 

328:名有りの掲示板怪異

備えあれば嬉しいな

 

329:名有りの掲示板怪異

俺も現地組入りたかったな~

組みわけの基準って結局何なん?

 

330:名有りの掲示板怪異

現地組は先生護衛の為に攻撃系の能力持ちが

スポット準備(バックアップ)組は主にサポート能力持ちが入れられてる

他の組もそれぞれ得意分野で固まってるらしいで

 

331:名有りの掲示板怪異

じゃぁ無理か

あぁ~暇じゃ~

 

332:名有りの掲示板怪異

しりとりも秋田

 

333:名有りの掲示板怪異

何人か帰ってもばれへんよな……?

 

334:童地蔵(スポット準備班リーダー)

勝手に帰ったら首もぎますのでそこのとこよろしくです。

 

335:名有りの掲示板怪異

ヒェッ

 

336:名有りの掲示板怪異

能力が能力だから笑えねぇ……

 

337:名有りの掲示板怪異

流石唯一怪異殺し未遂起こしたリーダー

 

338:童地蔵(スポット準備班リーダー)

>>337

(⌒∇⌒)

 

339:名有りの掲示板怪異

>>338

すんませんマジ勘弁してくださああぁぁぁあああ!!??

あたまっ!あたまもげちゃうっ!

 

340:名有りの掲示板怪異

分かってる地雷踏み抜くとか馬鹿なん?

 

341:名有りの掲示板怪異

惜しい馬鹿を亡くした……

 

342:名有りの掲示板怪異

……は?

 

343:名有りの掲示板怪異

もはや恒例行事

 

344:名有りの掲示板怪異

いや、まてまて

リーダー!リーダー!報告!

 

345:童地蔵(スポット準備班リーダー)

>>344

把握しました。えっと……君は確か探知能力が使える「目背負蜘蛛」くんだっけ?

どうしたの?

 

346:名有りの掲示板怪異

さっきまで病院内部の怪異と人間の探知をしていたのですが……

 

 

 

八敷先生、萌さん、森久保先生、ストーカー班全員の反応が消えましたっ!

 

347:名有りの掲示板怪異

……what?

 

348:名有りの掲示板怪異

……え……えっ?

 

349:名有りの掲示板怪異

ストーカー班の霊圧が……消えた……だとっ?

 

 




4か月も投稿遅れてしまい申しあわけありませんでしたーーーーー!!!!!!
いまからちょっとずつペース上げていこうと思いますっ!!!!!!
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