どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
休みの日にヒーロー科全員で打ち上げした。
いや全員集まるとかお前ら仲良しかよ。俺も行ったけど、まさか全員来るとは思わなかった。
店はクラスメイトのお店を借りたので、俺は親御さんにお礼の品を持って行って頭を下げたが。*1
雄英に入る前は俺が思っているヒーロー科ってのは同じクラスはともかく、クラス同士でバチバチしてるイメージだった*2んだけどな。
音頭は俺が取らされて、俺は少ししてから普通に吐きそうになった。
俺がガチで体調を悪くしたからか全員に心配されて発作ということで誤魔化したけど、終始傍に居て介抱してくれたねじれには今回ばかりはめっちゃ感謝した。*3
パワハラやアルハラの温床。参加の強制に部下を守るべく偉い方の相手――“大人になったら”という発言を聞いた途端飲み会の席というのもあって、封印していた記憶が一気に蘇ったのだ。
そうか、環の胃が痛いというのはこういうことか……。*4
そんなことがあったりしたものの、残り1日の休みは寝たっきりになったが、無事に体調も戻って学校だ。やはり出久は全てを解決してくれる。
俺が体調を崩してたら看病してくれたんだぞ? そんなの天使だろ。
さて、本題に入ろう。
雄英体育祭というのは全国中継されるものである。
当然エゴサすればヒットするだろう。掲示板とかにも上がってるだろうし、俺はそういうの興味無いから見ないが。
ただ当然第1種目で活躍すれば評価され、第2種目で活躍すればさらに目立つ。
そしてファイナリスト、すなわちラストの第3種目に出場すればそれだけでプロや一般人の目により入るわけで注目されるわけだ。
そして俺は去年は全て1位で優勝し、今年は第1種目こそ理不尽にもリンチを受けた*5わけだが、第2種目、第3種目と勝利した。
ここで前提として言っておきたいのは“全国中継”という部分だ。
何が言いたいかって言うと、祝日明けの学校登校日。
俺が優勝したのもあって出久の身に何かあってはまずい。
安全に登校出来てるか遠くから見守っていた*6俺は無事に着いたのを見てから電車に乗って雄英に行くことになる。
なるのだが。
「今年もかましてくれたなお兄ちゃん!」
「やってくれると思ってたぜ!」
「期待してたぞ!」
「優勝おめでとうお兄ちゃん!」
「かっこよかったよお兄ちゃん!」
「今年も見たよ! やっぱり強いねぇお兄ちゃん!」
「本当にねぇ。まだ学生とは思えないわ」
「プロになったら支持するよ!」
「これからも頑張ってね!」
「あ、ゆうえいのおにいちゃんだー! ねーねー、さいんちょーだい!」
――何故か一般人までにお兄ちゃんが広まり、統一してしまってるわけである。出久の安全のために基本学校以外では名前は出さないようにしてたから出久のお兄ちゃんという発言はないと思うが、お兄ちゃんが広まってるのはなぜ。
おかしいな、俺のヒーロー名が全く呼ばれない件。俺のヒーロー名はお兄ちゃんだった……?
1年の頃ならまだしも一応俺、ニュースでもヒーロー名で記事になってた……らしいくらいには職場体験で活躍したんだが。火事とかヴィラン退治とか諸々で。1年で仮免取ってるから大々的に記事にされたし。
もしかして俺はこのままヒーロー名をお兄ちゃんに改名すべきなのだろうか。初めてヒーロー名を決める時にミッドナイト先生に却下されたとはいえ『出久のお兄ちゃん』や『出久だけのお兄ちゃん』、『出久のお兄ちゃんだぞ!!』にしたのに……?*7
サインに関しては用意してないので渡せないというか考えてない。そろそろ考えなければならないかもしれない。
ひとまずサインをせがむ女の子には名前を書いてあげて、頭を撫でて許してもらった。顔が赤くなってたのでお母さんに体調見てあげて欲しいとは伝えたが。*8
「あのー俺は皆さんのお兄ちゃんじゃないですしヒーロー名がありまして」
「え?」
「嘘でしょ?」
「本当?」
「兄ちゃんは兄ちゃんだろ?」
「お兄ちゃんじゃないの?」
「お兄ちゃんでしょ?」
「お兄ちゃんですよね?」
お兄ちゃん、混乱しそう。
誰だお兄ちゃんで広めたヤツ。ゲシュタルト崩壊起こしそうだ。*9
「――お兄ちゃんじゃないです!!」
俺は全力で否定することしか出来なかった。
中々の地獄だった。
というかヒーロー名の方が広がってないってどういうことだよ。ヒーロー名言ったら凄く驚かれたんだが。
何とかヒーロー名に修正は出来たが、このままでは『お兄ちゃんヒーロー』として名を馳せてしまう。
大変困った。一般人の意識を変えるのは至難の技だ。
とりあえずその場に居た人たちにはヒーロー名を広めてもらうようにお願いをしたらあっさり了承はしてくれたが、ヒーロー名を伝えた時は電車が驚愕の声でとんでもないことになっていた。
どれだけ俺の事をお兄ちゃんと思ってたんだ……。出久以外のお兄ちゃんになったつもりはないからヒーロー名の方を押しまくったぞ。そっちを広めてください! って。
通勤時に眠っていたサラリーマンには申し訳ないと思った。
そのまま社畜を頑張ってくれ、俺はもうそれは卒業した。応援だけはしてるぞ。気持ちは凄いわかるからな。相談くらいなら乗ってやるから気楽に相談してくれ、HPは作ってる。
しかしやはり2年も連続で優勝となると知名度が大変なことになってしまっている。
2日程度の休みがあっても体育祭を視聴した人々の興奮が収まらないのだ。ずっと騒ぐのは迷惑が掛かると理解してくれてるのか去年は体育祭終了後、2週間後くらいにはあまり騒がれなくなったがプロヒーローの方に注目が行くからだろうな。あと職場体験行ってる間はいつもの通学場所には居ないし。
とにかくあと数日は通行人に話しかけられたり握手をせがまれたりするだろう。去年より増えたせいで俺の肉体は対応してる間に押し潰された。
ダメージはないけど、一般人を吹き飛ばしたら事件になる。
停車してすぐに出たが、それは電車が通り過ぎたあと。
戻ってきたら乗り遅れた。
この時間帯となると人も少ないというかほぼいない。
普通もう遅刻だからな……。
目の前でつい数秒前に行ったし、余計に人がいない原因だ。
これほど悲しいことはない。社畜時代なら絶望しながらタクシー探してるレベル。
さて、どうしよう。このままでは遅刻待ったなしである。
既にグループのLIKEでクラスメイトたちからメッセージが届いてる。
『まだ来ないのか? 時間ないぞ?』
『転間くんまだ? もう遅刻になっちゃうよー? もしかしてまた体調悪くなった? 家行こっか?』
『何かあったのか……?』
『もう戻ったって言ってたから大丈夫じゃない?』
『な、外には出たってメッセージはあるし』
『多分だけど弟くん見送って電車で揉まれて遅れてるだけじゃない?』
『その説が濃厚』
『去年と同じことしてら』
『遅れちゃダメだぞー』
『だけどここまで遅いってあるか?』
『去年のことを考えたら話しかけられるって分かってるでしょうしね』
『事故にでもあったか?』
『それだと緑谷じゃなくて事故を起こした方がむしろ危険だよ』
『もしかしたら風邪かも。やっぱり私が迎えに』
『緑谷って風邪引くのか……?』
と書かれていた。
そもそも俺も風邪くらい引くのだが……いやよくよく考えたら風邪引いたのっていつだっけ。
今世では引いた記憶ない気がする。いや引いてた? ダメだ、出久のために頑張ろうとしか考えてなかった。やけに寒くて目眩がして怠い時もあったようなかったような。
まぁそもそも社畜時代なんて風邪だろうが熱だろうが仕事せねばならなかったし……あまり自覚はなかった気がする。
とにかく電車乗り遅れたと伝えておいた。
ねじれのメッセージだけ途中で途切れてたのは動こうとしたからだろうか。それは悪い事をした。
「ぱい」
ただ正直今年はイレ先じゃないから怒られないと思うんだよな。
セメ先なら事情を説明したら納得してくれるだろうなーと思い、諦めている。
――まぁ俺は去年普通に遅刻したんだが。俺の遅刻より出久の安全の方が大事だろう。登校を遠くから見守ってたら一般人にバレて人混みに流されたけど。
おのれ。
「せーんぱいっ。おはよーございます」
耳元で囁くような声が響き、若干肩が跳ねる。
視線を横に向けると雄英の指定服に身を包む真綿が居た。
俺との背にかなり差があるからか限界まで伸びしてる。
何故そこまでして耳元で声を掛けたんだ。ASMRだっけ、そんな感じでされても擽ったいだけだぞ。
半歩下がって息が掛かった右耳を押さえつつ体を向ける。
真綿は踵を地面に着いてた。
「急に近づかれるとびっくりするだろ」
「あ〜先輩もしかして耳よわ――いたっ!?」
いたずらっぽい小悪魔的な笑みを浮かべてきたのでデコピンした。
人の弱点を掴んでどうする気なのか。俺が弱い強いのではなく、まず耐性を持つことなんてなかっただけだ。
あと手加減はしてある。
「俺にやるってことはやられる覚悟もしとけよ、俺は真綿でも容赦なくやり返すぞ」
「え……せ、先輩なら……よかと? お、お手柔らかに……」
指先を幾度も合わせてどこか恥ずかしそうに上目遣いで見つめてくる。
――なんだこいつ……無敵か?
まぁ冗談はいいだろう。デコピンは罰だ。
「真綿も遅刻か?」
「う……そ、それは……。歩いとったらよーけ話しかけられて。やっとたどり着いたとこやとよ……。もうちょい早く準備しとけばよかったばい……」
俺が本題に入って聞けばバツが悪そうな表情を浮かべた。確かにちょっと息は切れてる――割には制服や髪は乱れてもなく綺麗だが、首筋には汗の雫が見えることから走ってきたのは分かる。
そんな綺麗な走り方をマスターしたのだろうか。
ただまあ、被害者仲間だったようだな。*10
真綿も優勝したもんな……そりゃこうなる。彼女に関しては去年まで中学生だったわけだし仕方ないだろう。これを想定しろって方が無茶だ。
中学生から高校生になり、雄英に入って体育祭で優勝した。その時点でここまで頭が回らない。それに彼女の場合は俺らと違って除籍と復籍も経験している。もう少しで2か月だが、それにしては濃い日々を過ごしたわけだ。
ちなみに去年の俺は出久の可愛さで頭が回ってなかった。頭の中が出久に染まってたから仕方ない。
真綿も優勝した喜びで頭が回ってなかったのだろう。雄英体育祭後の電車や通学路は無礼てはいけない。
完全に去年の俺と似たことをしている。
なんならこれ、雄英体育祭優勝した人達ほとんど全員がやることだろ。近場の人と人気が間違いなく出ない何処ぞのクソを下水で煮込んだような性格してるやつを除いて。
普通は優勝すれば声をたくさんかけられるからな。
しかしイレ先となると遅刻は面倒だ。
「あと何分だ?」
「10分……もう間に合わんっちゃねー……」
「遅刻は嫌か?」
「うん……優勝者が遅刻したらみんなに格好がつかんとばい。浮かれとーわけじゃなかとにそげん思わちゃうかもしれんし……」
真綿はスマホで時間を見てため息を吐く。
気持ちは分かる。
残り10分ならもう間に合わない。電車が次に来るのがその時間だ。
つまり、詰み。
「うう……これならメイクん時間ば減らしときゃあ……でも先輩に会うなんて思っとらんかったし、そう考えるとしとって正解やったっちゃけど、イレ先にはがられるかも……クラスん委員長やから余計に……どげんしたら……」
何やら小さな声でぼそぼそと言っている。聞き耳を立てたら聞こえそうだが、小さな声ということは知られたくないのだろう。
まぁだいたい察せられる。
1年A組の担任はイレ先だ。遅刻したら怒られると思ってるに違いない。実際俺は怒られた。
ヒーローならそれくらい考えて行動しろって。現場に急行する際にその言い訳は通じないと。
正論パンチやめて欲しかったな、あれは。
しかし俺は去年と違うのだ。いや電車内でお兄ちゃん呼びは予想外だったが。
とにかく出久を見守ってもなお、遅刻しない方法がある。これくらい去年の経験から対策済みである。
なおかつ真綿は実に運が良い。何故なら俺が電車を乗り遅れたからだ。
俺が去年と違うことはたったひとつ。
去年は俺は遅刻してしまったが、それは
遅刻。非常時。
つまりセーフ。*11
「じゃあ間に合わせるか」
「え? でもどげんすりゃよかと?」
「俺が抱えて行く。100%間に合うぞ」
「あーね! そげん方法が――え? 誰が? 誰ば抱えると!?」
「スカート押さえとけよ」
10分もいらない。
距離が離れてる分時間は掛かるが、余裕で辿り着く。
俺はその場でしゃがみ込むと慌てて真綿が大人しくスカートを押さえてるのを見てから片方の腕で真綿の背中に手を回し、もう片方の腕で膝裏に手を突っ込んで一気に抱える。
「せ、せせせせ先輩ッ!?」
突然の浮遊感に驚いているようだ。
下着は見てないので安心して欲しい。
女性らしさのあるカバンは片腕で咄嗟に抱いたようで落ちていない。
――にしてもこいつ軽いな。ねじれより軽いぞ、本当に食べてるか? 体は痩せ細ってるわけではなく健康的だが……。
「あ、あの……」
思わず見つめていると真綿がそわそわと挙動不審になっていた。
こんなことしてる場合じゃなかった。ここまでして遅刻したら最悪だ。
俺も巻き込まれてイレ先に〆られるというか真綿の分まで〆られる。
「そのままじっとしとけ。舌噛むからな」
「う……うん……」
急に叫んだかと思えば急に沈んで、真綿は俺に抱えられたまま縮こまっていた。
女子は色々と考えることが多いのだろうか。普段は距離感近いくせに大人しくなる時は大人しくなるし、未だに真綿を理解するのは無理そうである。
一番異性で長く居るねじれもぶっちゃけ理解出来てないけど。
俺には女性は理解出来ない可能性が出てきたな……?
ただイレ先に叱られた時の気持ちと優勝して遅刻する気持ちは分かるので、今回は無条件で力を貸してやろう。
俺は個性を使って一瞬で空に向かって飛翔し、空中の空気を集め、蹴ることで跳んで移動した。
たまに瞬間移動する。
余裕で間に合ったので人気のないところで降ろす。
うーん……この技便利すぎて多用してしまう。それこそ競技とか関係なしのガチ戦闘ならもっと使えるし。
俺が去年と同じく遅刻すると思ったか? 今年の俺は違うぞイレ先!!
……あまり褒められた移動じゃないから基本的には普通の交通手段使うけど。
今回だけは後輩が困ってたからサービスってことで。
結局バレて*12事情が事情というのもあり、俺だけ軽い注意を受けたが些細な問題だ。*13
去年はこのタイミングでヒーロー名を決めてたのだが、今年は決まっているのでそういうのはない。
それはそうと指名数。
俺は400件超えた。やめてくれ……そんな見れるわけないだろ。常識考えろ雄英。
1年の頃よりはマシだけど十分多いって。1年は5000件以上来てもう辞典かなんかじゃないかこれって思ってたからな……。
他を圧倒したせいで俺が集中的に目立ったのだ。叩きつけなかっただけ偉いと思う。
なんでも雄英創設以来最高記録なんだと。
全く嬉しくなかったので出久にあげた。独立したてのマイナーなヒーローからメジャーまで載ってたから喜んでた、可愛い。
しかしそれでもこの中から選べとか地獄だろ。去年だって俺ほぼ読んでなくて、出久の知識を借りてからその名前のヒーローを探して抜いただけだしな。
あっ、去年同様エンデヴァーは来てるらしいから問答無用で除外で。
自ら地雷と分かってるやつのところに踏み込むバカはいない。
どうせ体育祭で優勝した俺を利用しようだの考えているんだろう。
サイドキックも充実してるようなNo.2が学生を必要とする理由なんてそれくらいしかないと思う。
俺の実力を評価したとしたって、学生である以上はプロよりかは動けないと考えるのが自然だ。というかNo.2が解決出来ない事件に学生を呼ばないだろ。忙しい上に世話をする時間なんてないはずなのだ。
つまりなんらかの目的があって俺を呼んでいる。
じゃあ避けるだろ。俺が馬鹿ならNo.1に近い! ってそのまま行ってたと思うけどな。
もし強制されたらエンデヴァーぶちのめす。あいつ程度なら今の俺でも問題ないだろう。オールマイト未満だし。曇ってる目してるし。負ける気はしない。
無個性でやれって言われたら厳しいが。燃やされる未来しか見えない。
復活したセメ先から1週間以内に提出するようにと言われて休み時間。
去年より遥かにマシな束を見ながら思わずため息を吐く。
NINJAのところに行ったら去年と同じようになる。
あそこはインターンでお世話になるつもりだ。本人からもインターンの時はどうだ、と誘われてるからな。だから指名は来てないし。
音速以上の速度を超えるなら俺もあそこが一番良い。
となれば俺のこれからの強化案を考えるならやはり、実戦を重ねたい。
確か出久が事務所を構えてないトップヒーローが居てヴィランとの戦闘ばかりの人がいるって言ってたな。
えー名前は確か……指名来てる。
「ねーね。転間くんは決まった?」
「ああ、ミ」
「ダメ」
「ルコ」
「ダメ」
「に」
「ダメ」
「しよ」
「絶対だめ」
「う」
「ダメ……だよ?」
「やめときなさい」
「せめて最後まで喋らせろ」
ねじれには強く否定されたし甲矢には回収された。
理由もなく否定されたんだが、そんな問題起こすと思われてるのか俺は。
出久曰く事務所を構えずに転々としてるらしいから一番ヴィランと戦闘がありそうだと思ったんだけど……。
「悪い噂とかは聞かないけど、緑谷の性格から考えて相性最悪なのよ。他のヒーローならまだしもミルコはやめておきなさい。マジで」
確かに相性悪いとなるとやりづらいか。チームアップならまだしも職場体験でそんな思いはしたくない。
同じ女性の視点から考えてそうなら従うべきか。もしかしてあの実力もない自尊心の塊と似た性格か?*14じゃあ無理だ。俺はブチ切れてしまう。説明がなくてもキレるぞ。もう何も分からず放り出される、仮免のようなあんな思いはしたくないからな。*15
うーんとなるとどうするか。
デニムの人からも来てるけど、NINJAと会う確率の方が高いし。
ホークスはなぁ……会って思ったのがきな臭くてちょっと。本音を隠してるというか、考えが読めないというか。
俺の前世の部分も探って来そうで怖い。あと俺を見る目が完全に品定めするような目だった。
前世に関しては唯一触れたのって真綿くらいだし。
「……転間くんは年上の方がいいの?」
「何を言ってるか分からないが、戦闘経験を積めるならどこでもいいとは思ってる」
じゃあギャングオルカかセルキーのところでいいか。水中戦も学べるし。水難や海難救助もやれるだろう。
適当とも言える。ただ前者は知り合いだ。仮免の件許してねえからな。なんで
しかし真の最強のお兄ちゃんならマグマの中だろうと水の中だろうと氷の中だろうと雷雲の中だろうと真空空間だろうとどこでだって戦えなくてはダメなのだ。俺はまだその域に達していない。*16
なんか海外からもかなり来てるけど、海外は面倒だから無視で。海外のヒーロー全く知らないし流石に外国語は勉強してない。
英語ならまあ、授業にあるから問題ないが喋るのと問題を解くのは別なんだよな。
ただアメリカは本場なだけあっていざこざが多いんだっけ。そっちでもいいが……。
「環はどうするんだ?」
「ファットガムにしようかと……俺、好きなんだ」
「そうか、環がいいならいいんじゃないか。インターンに繋がるかもだしお前らは仮免近いだろうから経験は積んでおきたいしな。ねじれや甲矢は?」
「私は悩み中。とりあえず個性を学べるところかなとは思ってるけど」
「私はね〜リューキュウのところ!」
見事全員別々になったようだ。
指名出せるのは1人2名までだし、被ることがまず少ないのもあるだろう。
リューキュウは……俺のところに来てるな。ねじれと被ったら互いに学びになりそうにないしやめておこう。
「来てもいいよ? 一緒の方が楽しいもん」
「遠慮しとく」
「え〜! じゃあじゃあ、なんで選択肢が水難ばかりなの? 転間くん泳げるでしょ? 1年の頃プール一緒に行ったじゃん!」
「むしろ俺が泳げないとでも……? 俺はお兄ちゃんだぞ。いつ何時も――」
「はいはい。弟くんが溺れた時のために上達したんでしょ」
「キャンセルやめろ」
水泳の授業こそあるが、俺しかり出久しかり、人が人である限り水の中の事故は必ずある。
足が痺れたりつったり、はたまた流されたり。
懐かしいな、お兄ちゃんは足が痺れても人を助けたぞ。なぜなら出久が俺を頼ったからだ。なら動けるだろう。
むしろ動け。でなければ殺すぞ自分を。足を切断してでもやれ。
「ねえねえ! 今年は海行こうね!」
「話急にすり変わったな……」
「いいね、ぜひ行きましょ! ねじれがそう言ってるのだから行くわよ。行くわよね?」
「だってよ、環。どうする?」
「ミリオや転間が行くなら……」
「じゃ俺はいかn」
「決定ね」
「転間くん来てくれないの……?」
あからさまに表情を暗くされた。
俺が悪いみたいな視線がめちゃくちゃ突き刺さる。
なるほどな、元から選択肢なかったわけか……やるな。
「……行くけど」
「本当!?」
「ふ、そもそもの話として、どうせアンタは断れないでしょーが」
視線が消えた。
ねじれも明るくなった。
やはり俺に自由はなかった。
まぁ時間があるなら友人の誘いを断る理由にはならないしな。その通りで、断れないっちゃ断れない。
あとこいつに暗い顔はされたくない。違和感しかないし。
「仮免は職場体験終わってからの6月だろうから行く余裕ないだろ。だから夏休みになる。そのためにはまずは期末突破しないといけないけどな」
「じゃあ期末テストを問題なく合格したらってことで! いいよね」
「それならまあ……理由としては問題ないか……じゃ、落ちたやつは居残りで。どうせクラスメイトというかヒーロー科全員来るだろうしな」
「なにぃいい!? そんな殺生な!!」
「置いていかれる訳にはいかない! 緑谷の頭をスイカのように割るんだ!」
「まずお前の頭からかち割ってやろうか赤石。石を砕くようにな」
「ごめんなさいっ!!」
「変わり身はやっ」
「たくさんいた方が楽しいもんね〜」
「知ってる人ならいけるか……いけるのか……?」
「それはお前次第だ、頑張れ」
とりあえず職場体験はセルキーのところにしとくか。ねじれも甲矢も(決めるのは俺なのに)良いって言ってくれたし。
何より船乗りたい。
何気に会ったことがないな。
ギャングオルカは中々に強力な印象を残してきたから知ってるが、どうせ行くなら新鮮味があるところの方がいいし。
そうこう考えてたら、真綿から助けを求めるようなメッセージが。
――どうやら彼女も指名の山にやられてしまったらしい。3000件近くあるとか。
俺が少ない分1年にいったのだろう。まあ普通に考えて1年の方が経験が浅いし指名を出しやすいからな。俺みたいに1年で仮免を取った上で2年連続優勝となると誰もが指名する……というのは難しくなる。実力もそうだが、知名度も含まれる。
俺が大して名前も知れ渡ってない独立したヒーローのところに行って仕事を奪ってしまえば本末転倒である。*17
真綿の場合は体育祭で優勝したのもあって個性の使い方を見て戦闘や救助でも使えると広まったのだろう。
困ってる姿は簡単に目に浮かぶ。
と言っても俺に助けを求められても詳しくないのだから仕方ないのだが……あまり1年の教室は行きたくないが、行くだけ行くか。
1年はなんというか、色々凄い。勢いというか、俺が押し負けるレベルで。
ただもし真綿の方にエンデヴァーから来てたらそれだけは除外してやろう。俺はあいつが何故か嫌いなのだ。何かが……いやお兄ちゃんの勘が言っている。
やつはいずれ、出久に何かすると。お兄ちゃんセンサーが警戒を鳴らしている。
やっぱ今のうちにぶちのめしとくか? いや何もしてないのにやる訳にはいかないか……。