どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
ミルコの件ですが。
ヒロアカ世界の動物の特徴を人体に宿すタイプの個性ってですね、ヒロアカを二次創作以外あまり知らない人がいるかもなので説明すると、習性も入っちゃうわけなんですよ。
でね、ウサギって非常に繁殖力が強く、年中いつでも繁殖可能なわけでして。
ミルコは本人も気質もあって(自分の土俵に立った上で自分より強いか同等相手しか恋愛感情持たなさそうなので)転間くんと会ったらそりゃ……ね?
普通に転間くんがお持ち帰りされる未来しか私には浮かびませんでした。まぁ全部が入るわけでは無いと思いますが。
R-18ルートになる未来しか見えません。えっちなのが悪いと思う。
話が思いついたら絡みがあると思います、絡みが見たければ私の妄想力を応援してやってください。
職場体験。
――のはずなのだが、俺だけインターンとして扱われるらしい。
実は提出の際、俺は校長に呼ばれたのだ。
その時に何処にするか聞かれたのだが、セルキーのところだと証拠と共に伝えたら、お願いする手間が省けて良かったと言われた。
なんでも他と違い、俺を
どうやら今セルキーが追ってる事件がかなり厄介なものらしく、もし別の職場体験先を選んでいたならお願いするところだったとのこと。
無理強いこそしないため、断られたら断られたらで別のヒーローを派遣させるつもりだったらしいけど、そこまで言われて断られるかと言われたら無理だ。
何より俺は校長に借りを作ってある。
別の職場体験先を選んでいたとしても、校長から直々にお願いされたら迷いなく変えていただろう。
俺の選択を完全に奪ったことに謝罪してきたため、まぁこれで貸し借りなしということで、と伝えたらそれでいいと言ってくれたので恩返しになるだろう。
どっちにしても向かう先だったので俺にとってはメリットしかないしな。
だが……雄英がインターンとして許可するってことはもしかして俺、相当面倒な時に選んでしまったのだろうか。
詳しくは職場体験先で聞くように言われてしまったが。
考えるまでもなく、その意味は俺を動きやすくして事件の解決を早めたいということ。つまりサイドキックとして俺の力が欲しいということだ。
まあなんだっていい。将来のためにお兄ちゃんは頑張る。
コスチュームを持って港に辿り着くと、船があった。
巡視船沖マリナー。
規模としては中型くらいだな。懐かしい。船は沖縄出張で強制的に遠出に行くことになった時に乗った時以来か。
あの時は上司が予約しておくとかほざいたくせに予約してなくて地獄を見かけたのは本当にキレそうだった。
出張前に確認して俺が取ったからいいものの、流石に部下とはいえ女性と一緒なのだから同じ宿はダメに決まってるだろう。
ちゃんと二部屋取った。そもそも当日の現地で取れるわけねえだろうが。
――部下は優しさからか、別に一部屋でもよかったですよ、と言ってくれたが部下に気を遣わせたことに俺の心は痛んだ。
ええい、相変わらず俺の記憶を埋めるなクソ上司!! 嫌な記憶ばかり残ってるのはどうにもならないのか!?*1
やはり出久。
出久で癒されるんだ俺。脳内ストレージから画像を引っ張り出せ!
オールマイトパーカーを着て俺が獲ったオールマイト人形を持って嬉しそうに笑っている姿。
よし、可愛い。むしろ天使すぎて鼻血が出てきそうだ。
俺の中でも上位に食い込む可愛さのフォルダーを出してしまったな。
――クソッ! クソッ!! また貴様かオールマイト!! やはり許せん!! 絶対に超えてやるぞオールマイトォ!!!!
おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ――!!
「よく来てくれたな!」
「貴方が緑谷転間くん……よね?」
俺が出久に癒されて最悪の記憶を消し去ったあとオールマイトに対する嫉妬を溢れさせてたら、声を掛けてきた二人が居た。
そのうちの一人はゴマフアザラシの様な姿が特徴な男性。
個性から考えるにこの人が俺に指名を送った人か。
そして隣にいる女性、水兵のようなコスチュームを着ている水色の髪に側頭部から鰭のようなものが出ているのが
とりあえず頷いておく。
「分かってはいると思うが、俺はセルキーってもんだ。それでこっちが」
「シリウスよ。よろしくね」
「よろしくお願いします。セルキーさん。シリウスさん」
セルキーさんから出された手を握って握手するとギュッと強めに握られたので力を入れ返したら目を見開いた後に好戦的な笑みを浮かべていた。
それからセルキーさんが俺を見つめてくる。
まずい、さっきの挙動不審を怪しまれただろうか。
頭を抱えてしまっていたし。
「しかしまあ……ダメ元だったんだがな。まさか来てくれるとは。他にもっといいところから来てただろ?」
「まぁ。海難って経験ないので……ない経験を積むのが職場体験でしょう。何より……」
「何より?」
「船に乗りたかったので」
「……ハハハッ! そりゃあ確かに大事な理由だ! んじゃ、改めて――よろしくね!」
唐突に裏声で、いわゆる“可愛らしいポーズ”を取られて困惑した。
「船長〜それやめましょうよ。可愛いくないですって。困ってますよ。ごめんね、気にしないで」
「何ぃ!? 子供にやったらウケるんだぞ!」
「それバカにされてるだけです」
――出久の方が数千倍、いや数万倍は可愛いなぁ。
と俺はふたりの会話を聞いて思った。
というか、この人。首から下がムキムキだからな。
感性は人それぞれだが、俺も可愛くないと思う。
ねじれなら可愛いって言ってたかもしれない。
船に乗船すると出港する。
ちょっと興奮してしまって、思わず海を眺めてしまった。
船から見る海も綺麗なものだ。*2
俺が年甲斐もなく*3はしゃいでしまい、相手が全員大人なのもあって恥ずかしくなってしまったが、船を案内してもらったあとは事情を聞いた。
なぜ俺をインターン生として受け入れたいと言ったのか。そして今追っている事件があるのかを。
「クラーケン、ですか」
クラーケン。
“海の怪物”と称される存在だ。元ネタはなんだったか。北欧神話の船を襲って沈めるやつだっけ。
ゲームとかでよくいるやつ。
どうやらそれを自称しているヴィランが居るらしく、異形型と発動型が融合したような巨大なイカのようなタコのような、合わさった怪物に変化する個性らしい。
だが個性にしてはあまりに“妙”らしいので、俺を職場体験の学生ではなく、サイドキックと同じ扱いになるインターン生として受け入れたのはそれが理由のようだ。
クラーケンという輩は、これまで何隻もの旅客船や貿易船などを沈め、現場に居合わせた実力のあるヒーローを何人もあっさりと返り討ちにしたと。
物的にも人的にもかなりの被害を出しているほどのヴィランのようだ。しかも生態系に悪影響を及ぼしているとのこと。
確かに話を聞く限り“変異体”っぽい強さを持っているらしい。
自称とは言ってるものの、果たしてそれが本当に人間なのかも分からないが……うちの校長だって動物だし。
海の生物が突然個性を得て変異した可能性だってある。
なぜなら個性ってのは遺伝子のひとつだ。親から子へと受け継がれ、より強固になっていくもの。
クラーケンが実在し、子を残した可能性があるのは捨てきれない。神話の生物なら長く生きたことで会話出来たっておかしくはない。
先入観は捨てるべきだろう。
まぁ1年の頃ならまだしも既に去年に経験は積んである。それほど問題はないはずだ。
とにかく総括してしまえば、このままでは海の治安を守るにも支障をきたすうえ、被害が増える一方。
故に少しでも早く終わらせたいのだと。
無論警察もヒーローも動いたものの、捜査も難航しているとのこと。
仕方ないといえば仕方ないだろう。
地球ってのは海の惑星と言われるだけあり、海は広い。あまりに広大だ。
そしてクラーケンがそもそも、まだ日本の領海にいるかすら定かでない。もしかしたら、既に国外へ逃亡しているかもしれない。海を渡れば日本内から出ることなど容易だからな。
「そこで俺たちの出番ってわけだ」
セルキーさんとシリウスさん。それに他の船員たちは戦闘能力よりも探索向きの個性を持っているらしい。逆に言えば戦闘能力において不足しているとも言える。
だからこそ体育祭の活躍を見た時に俺を呼ぼうとなったのだと。
はっきり言って俺には探索能力は皆無なのでそれはそれで助かるのだが、もし俺が意地でも断ってたらどうしてたのだろうかと思った。今回は俺が元々選んでたから気にしなかったとはいえ。
まあ雄英のことだ。
別のヒーローを派遣するとは言ってたから生徒の自主性を優先しつつも事情だけは説明しただろう。その場合、校長のお願いがなくとも俺は間違いなくここに来た。
なぜなら海に被害! 出久が魚料理を食えなくなる可能性がある! そんなの許せるか!! ぶちのめす!!!!
だが難点がひとつだけある。
クラーケンって……絶対大きいよな。俺、引き上げられる自信ないぞ。俺の個性は大きすぎる反応は無理なのだ。
簡単に言えば某光の巨人とか、その辺のサイズとなると厳しい。
フィジカルでやるしかないかもな。
いざとなれば水中戦も視野に入れなければならないか。
「私たちの目的はクラーケンだけど、今回は海洋調査というよりは救助と海上犯罪の取締りを並行してやっていくわ。分かりやすく言うと密輸、密航、密漁とか、その辺ね」
「なるほど。クラーケンに関しては他のチームも動いてるんですよね」
「ああ。だが情けない話ではあるんだが全然見つからんくてな……だからといって俺たちヒーローが他の仕事を放棄する訳にはいかん。二手に分かれる場合もあるが、クラーケンの捜索は主に俺がメインでやる。今回はオリジンがいるってことで対人戦闘は問題ないだろう。そっちの方の仕事は頼りにはしているぜ。何かあったらシリウスに聞くようにな。俺が居ない時は船長代理と思ってくれていい」
「それはいいんですけど、指導役はセルキーさん……いえセルキー船長じゃないんですね。つまりこちらは船のレーダーと個性で。
セルキー船長は個性が故に潜って探すってことですか。船で捜索するより単独の方が広い範囲を探せるってことですかね?」
「そういうことだ。話が早くて助かる。以上が説明だ。俺は早速潜るからそっちは任せたぞ、シリウス! オリジン!」
海に飛び込んでいく姿を見送る。
流石ゴマフアザラシ。中々のスピードだ。
お兄ちゃんも負けてられないな。
個性を使えば余裕だが、ひとまずフィジカルだけでクロカジキ以上の速度を目指さねば。*4
「さて。それじゃあ改めて。インターン生として扱うことになってるとはいえ、1週間の間は私が教育係として面倒を見ることになってるの。よろしくね」
「承りました。よろしくお願いします、シリウスさん」
「ええ、といってもオリジンに教えられるのって海や船のことしかなさそうだけれどね」
「その辺は全くの素人なので勉強させていただきます」
手を出されたので握手する。
ちなみにだが、“オリジン”ってのは俺のヒーロー名。お兄ちゃんが却下された以上何も思いつかなかった。だが俺がこの世界で生きると決めたのは、弟を見たからだ。
出久が居なければ今の俺はここには居らず、雄英にすら居なかっただろう。
そして流れは原作のまんま行ってたと思う。今はもう知らん。出久を守るために生きるだけだ。
だからこそ“オリジン”。『始まり』や『根源』、『発端』、『起源』を意味した名前にした。*5
俺の人生を振り返れば俺ほど合っている人物もなかなか居ないと思う。
終わったはずの人生をもう一度ってことで楽に生きて死ぬつもりだったんだからな。
手を離すとシリウスさんは俺の顔を見つめてきた。
なにかついてるのだろうか。
「どうしました?」
「あ、ごめんね。なんというか、案外大人っぽいところもあるんだなあと思っちゃって」
これでも社畜だったんです。なんて言えるはずもなく、返答に困った顔を浮かべるだけしか出来ない。
俺は真面目にやる時はちゃんと真面目なんだぞ。*6
だがまあ、船に乗ってはしゃいだ姿を見られてしまった以上はそう思われても仕方あるまい。
「じゃあひとまずは周囲の観察からしていきましょうか。ただの海と思っちゃダメだからね。自然現象。海洋生物。人為的要因。色んなことが起きるような、常に変化するのが海なの。それだけは頭に入れてちょうだい」
「わかりました」
空から観察してもいいが、ここは大人しく船の上から望遠鏡で見るとしよう。
シリウスさんも隣に着いてくれるし何かあれば報告すればいいだろう。
せっかくインターン生として扱われるんだ。給料も出ることだし職場体験以上にしっかりせねば。
それにこの間に事件は解決したいところである。
俺としても人に被害があるって聞いてしまえばそのままにしたいとは思わないからな。
暫く観察していたら怪しい船を見つけたのでシリウスさんに報告した。
望遠鏡を渡し、覗き込んだシリウスさんが船員たちに指示を出し、俺はただ待っているといつから大海賊時代にでもなったのだろうか。
主砲を放ってきた。
瞬時に落ちてきた大砲を弾き飛ばした俺は船に着地する。空砲もなし。威嚇じゃなくて開幕狙ってくるって躾がなってないな。
小学生からやり直せ。
「シリウスさん。あれは間違いなくヴィランですよね」
「停船命令も無視。なおかつ警告も無視で一方的な砲撃。なにか後ろめたいことがあるのは確実でしょうね。船を寄せて捕縛して保安庁に引き渡しましょう」
「先に行きましょうか?」
「オリジンは居てもらった方がいいかもしれないわ。ちょっと待って……うん、あれくらいなら船員たちでなんとかなると思う」
「じゃあ援護します」
「え? 出来るの?」
「俺、別に近接攻撃だけじゃないので。同級生とかには怪我させたくないですし危ないのでヴィランにしか使えませんけどね」*7
オールマイトを超えるために身につけた技は一つだけじゃない。
やつは拳圧を遠距離攻撃として使ってくる。
ならば俺も同様のことをしなければならない。*8
圧縮した空気を弾として生み出し、押し出すように空気を殴る。
そうすることで破壊力を持たせた一撃は主砲を破壊するほどの威力を齎す。
まぁこんなもんだろう。
威力上げすぎたら船員を巻き込みかねない。
とりあえず兵器全部破壊しとくか。
「す、凄い光景……体育祭で見てて思ってたけど、プロでも既に通用するレベルね」
「オールマイトだってこれくらいやるでしょう」
「う、うーん。まあ……それはそうでしょうけど……うん、制圧したって報告があったわ。もう大丈夫」
久しぶりに同時発動したなと思いながら言われて攻撃をやめた。“応用”の力は威力が本来より上がってしまう。怪我させたくないし体育祭とかじゃ使えなかったからな。だいたいは引き寄せと高速移動で何とかなるし、長距離は使える場面が限られるが短距離なら瞬間移動も使える。
何よりパンチやキックの威力を上げるだけで十分だ。
しかし沈まない程度には考えてやってたが、悲惨な状態だ。
時間が経てば完全に沈むだろう。
果たして今の自分はどれだけの強さなのか。
……そういえばアメリカのNo.1から指名が来てたな。候補の1つだった。
その人と戦って勝てばオールマイトと同じレベルと思っていいのだろうか。*9
どんな個性だったかは忘れたが。
2年にはあんまりいないけど概念系には弱いんだよな。どうやっても。
1年には幻覚見せてくるやついたけど、ああいう系統は俺には効く。
船で合流した海上保安庁にヴィランを引き渡したあと、セルキー船長は戻ってきた。
「ハッハッハ! 本当か! やっぱり呼んでいて正解だったな!!」
「痛いです」
シリウスさんが事情を説明してくれたが、セルキー船長に背中をバシバシと叩かれる。
筋肉考えてくれ。誰だってこんな筋肉に殴られたら痛い。
「ええ、もうそれは凄かったです」
「本当ですよ、正直制圧楽でした」
「本当に学生か!? って思いましたからね」
「1年時で仮免取ったって聞いた時はどんなやつかと思ってたが、こんなとんでもないやつだったとはな!」
「まだまだですよ、俺が目指す場所は遠い」
目標は全盛期オールマイト。
それを超えるのだから二人分くらいの力を持たなければならない。
俺はあと2年もすれば卒業してしまう。
来年には出久が入学してくる。
――時間が足りない。
もっともっと強くならねば。弟を守れるのはお兄ちゃんだけだ。弟がヒーローになって、ヒーローである弟は誰かを助ける。ならばその弟を助けるのは誰だ?
決まっている。
――お兄ちゃんだ。
「それより見つかりそうにないですかね?」
「ああ、この付近には反応はなかったな。っぱ、相当手強いようだ。ひとまずは船はこのまま目撃されたポイントに向かうぞ!」
『『『アイアイサー!』』』
「オリジンはこっちね」
「分かりました」
シリウスさんに手招きされたので大人しく着いていき、針路を変えて船行するのを見ていた。
運転も少しやってみたい気持ちはある。免許持ってないから出来ないが。
しばらくパトロールとなったが特に何も無い。
平和なのはいいことではあるが、何も無いというのも困ったものだ。
何も無いということは進捗がないとも見える。
しかしまあ、暇だったので俺は掃除をしていた。
ヒーローなら奉仕活動もやるべきで、掃除もまた同じようなものだ。
結局割と直ぐに終わってしまい、船員が十分いる以上は俺がやれる仕事はない。あとは書類整理くらいか。情報も集めておきたい。もしかしたら俺の知恵で見つけられるかも。
他に警戒くらいなら出来るが、単独行動をする訳にはいかないだろう。
「オリジン。時間ある?」
「大丈夫ですよ。掃除は終わったので。何か困り事ですか?」
「そろそろ時間だからね、手伝ってもらいたいことがあって」
「?」
立場上はインターン生ではあるが、あくまで俺は学生。
プロヒーローのシリウスさんに従うのが道理だしこの人が俺の担当だ。
付いていくと、案内されたのは調理場だった。
なるほど、もうそんな時間か。
今から料理していくらしい。
この人数を考えたらかなり時間が掛かるだろう。
サイドキックをやってると考えたらこれも仕事のうちか。
料理か。
ついに魅せる時が来てしまったらしい。
俺は――
「料理は出来る?」
「切ることしか出来ません」
そう、料理が出来ない。いやお菓子は作れる。去年……いや今年か。クラスメイトや他の学科、ねじれといった女子から貰ったバレンタインのお返しにどうしても作る必要があって練習したし。その後、暫くチョコレートは食べたくなくなった。友チョコをそんなに贈らんでも。甘いのは嫌いじゃないが多すぎると体が受け付けない。善意でもらったから食べたけど。*10
だが社畜やってた人間が料理をやる時間があるとでも? この世界に生まれて優先したのは個性と肉体と出久のことだ。
生活関連は優先度が一番低く、最悪弁当とか買ってれば何とかなる。栄養ドリンクとエナジードリンクとカロリーメイトには大変お世話になった。
こっちの世界では母も居ることだし、料理をやる理由が全くなかったというわけである。
それにこういうのってレシピ見てたら出来るもんだろう。アレンジさえしなければだいたい失敗しない。
……圏外で見れないけど。
「じゃあ簡単なことだけ任せようかな。基本的には私がやるね」
「申し訳ございません」
「ふふ、気にしないで。不得意は誰にだってあるし、出来ないのに出来るって言われるよりかは最初から出来ないって言われてた方がいいでしょ?」
微笑みながらそう言ってくれるのは本当に有難いものだ。
でも確かに出来ないのに変に威張って失敗する方が最悪だからな。食材を無駄にしてしまう。
「オリジンが料理まで完璧って言ったら同じ人間か疑っちゃいそうだし」
「サラッと酷いこと言ってません? 俺も出来ないことの方が多いですよ。掃除は人並みですし裁縫は全然出来ません。洗濯も適当ですし。俺が得意なのはせいぜい書類と戦闘くらいです」
「ヒーローには必要なものばかりじゃない。十分すごいわ。その歳で書類まで得意なんて、よく頑張ってると思う」
ぽん、と頭に手を置かれ、動かされると自分の目が見開かれるのを感じる。
……妙に照れ臭くなるな。お世辞でもなんでもなく本音で、善意で言ってるんだと分かるから。
この世界でも褒められることが少ないのもあるかもしれない。*11
「……切るくらいは出来るので」
「照れてる?」
「照れてないです」
「ふふふ、可愛いところもあるんだ」
「照れてないです」
しつこいなこの人。と思いつつも割り当てられた仕事をやるため、手を動かす。
魚を切ったり捌いたり野菜を切ったり肉を切ったり潰したりとそういったものなら得意だ。
なぜなら包丁もまた武器。
俺は平均的には扱える。
――兄が職場体験に行って3日目。
船に乗るって言ってたから連絡は繋がらないけれど僕は僕で特訓をしていた。
心配だけど必ず帰ってくると僕はわかってる。転間兄ちゃんは強い。僕たち家族を置いていくような人じゃないのは僕が一番知ってるから。
だから僕は僕のやるべきことをやらなくちゃならない。
体育祭を観た。
去年同様、ううん去年以上に転間兄ちゃんを受け入れてくれる世界。雄英に入る前はずっと一人だった転間兄ちゃんがあそこまで振り回されてるのは中々見ない光景だ。
遠慮なく本気でぶつかってくれる人たち――テレビの向こう側だというのにそのことが何よりも嬉しかった。
だからなのかな。
転間兄ちゃんは前よりも遥かにレベルアップしている。
それどころか雄英の2年生はみんな強くなっていた。
追いつくまでの背中が遥か遠くに感じるほど。
ネットの評価を見たら普通最後というのもあって話題は3年生の方になると言うのに、2年生と1年生の話題ばかりになっていた。
ちょっと同情はしちゃうけど、兄の活躍が大々的になってる方が家族としては誇らしくて嬉しい。
1年生はちょっとしか見てないから分からないけど、なんでも体育祭で優勝した女の人が対人向けの個性ではなく、サポート向きだというのにトーナメントを勝ち抜いて優勝し、1年とは思えないあまりにも高い練度から評価されていたみたい。*12
それも全ての種目が1位で。
その人がヒーロー家系ではなく、一般家庭からの輩出というのも大きいんだと思う。
僕の兄もそうだけど、やっぱりその方が話題性は高い。
一方で2年生は転間兄ちゃんの活躍は当然のこと、波動ねじれさんと天喰環さんって人が他に注目を集めていた。
確かにあの二人は転間兄ちゃんにダメージを与えるということを成し遂げている。
僕自身も幼い頃、昔に、思い出したくもないくらい酷い状態の、
でも……その日は厄日だったんだと思う。
暫く遊んでいたら遊園地にヴィランが現れて、アトラクションに乗っていた僕たちは巻き込まれてしまった。
その時、僕や他の客を守るために転間兄ちゃんが個性を全開で使ったんだ。
お陰で僕たちは無事だったけど、突然目や口や鼻、耳――ありとあらゆる顔面の穴から血を流して倒れた。
あの時の僕は急に倒れた兄を見て何度も呼びかけて大泣きすることしか出来なかった。少なくとも
だから、どれだけの時間だったのかは分からない。
だけど僕が泣いていたら兄が急に起き上がって無事だということに更に泣き喚く僕を見て物凄く慌ててたっけ。
自分は血だらけなのに、ひたすら僕の心配だけをしてくれた。
後に聞いた話だと脳が焼き切れる寸前の、本当にギリギリだったらしい。
本当に大丈夫なのか、何があったのか聞いたら。
――俺が出久を置いて死ぬわけないだろ? なんたって俺はお兄ちゃんだからな。悲しむ弟をそのままにして死んでたまるかって話だ。ただ……そうだな、俺も死にかけたって自覚しかなくてよく分からないんだけど。
――ひゅーっとやってひょいっって感じかな?*13
って言ってた。
正直、これだけは今も意味はよく分からない。*14
それ以降は
今年の雄英は去年の1年であった2年生が一番注目を集め、3年生より強いだの来年はどうなるんだだの書かれているほど。
主に僕の兄が。
――負けてられない。
8%のコントロールを上手くやってるけど、これじゃダメな気がしてならない。
もっと個性を、扱い方を変えなくちゃ。
だけどそうなるとどうしたらいいんだろう。
持っていたものをトラックに積むと腕で汗を拭う。
OFAを腕全体だけに通しても僕自身の身体能力に変化はない。
腕を強化して駆け込んだところでヴィランと戦うことを想定したら攻撃が当たるのか?
当たらない。警戒されて終わりだ。
コントロールは良くなってきた。だけどなにかが違う。
オールマイトだって常に100%で動いてるわけじゃない。
一方で転間兄ちゃんは防御は発動の瞬間だけ認識した部分を守っている。
そしてあの桁外れた身体能力は素の部分もあるけど、個性を利用したものでもある。
どちらかといえばオールマイトに似た使い方。攻撃の瞬間に力を込める感じ。
雄英入試前辺りの時、転間兄ちゃんに聞いたことがあるような気がする。
無敵で最強としか言いようがない力に成長させたのは、どうやったのか。本来はそれほどまでの力はなかったはずだから。
本来は今のような力の10分の3くらいしかない力だったから。
――お兄ちゃんは発現した当初は手でしか発動出来なかっただろ? 個性ってのは結局は先入観なんだ。それがある限りいくら鍛えたって個性は永遠に進化しない。“これしかやれない”って考えるのと“こうすることができる”って考えるだけでだいぶ違う。“できる”と“できない”も意味が真反対だろ?
――だから“全身から発動”するという意識に切り替えた。手だけじゃ守れる範囲は限られる。届かない世界がある。なら
届く範囲をって。一つ一つが必殺ではなく、
だから破れないし破られない。俺には決して届かない。それこそ俺の限界量を上回るような一撃や不意を突いた一撃でもない限り。
「緑谷少年! 手が止まってるぞ!
「……そうか!」
ハッ、となった僕はようやく理解した。
ずっと答えは僕の中にあったんだ!
増やす。範囲を。腕や脚じゃなくて全身!
僕はOFAを必殺技と判断してしまっていた。
だから腕だけに発動してそれを保とうとしてたんだ。それから脚に移行させて、と力の無駄が幾度もあった。その移行する時間が戦闘においても特訓においても何に対しても無駄でしかなかったんだ。
使い方が、間違っていた……!
腕や脚に伝わる熱を変えていけばいい。一部ではなく、もっと広く!!
移動させるんだ、OFAを必殺技という意識をしているなら!!
それを“常時必殺技”として発動してればいい!
OFAの、腕に集まる熱を分散させて――全身に集めていくイメージ!!
名付けるなら。
『ワン・フォー・オール――フルカウル!!』
全身にOFAの力が行き渡り、稲妻のような緑色の光がスパークする。
さっきとは比べ物ならないような、全身に力が漲る。
「これは……!! なるほど、個性を全身に纏うことにしたのか! 考えたね、緑谷少年! もしや体育祭がいい刺激になったのかな!?」
「は、はい……! だけど、これ、動くのが難しい、です……!」
「ならば運ぶのはやめにしよう。体を動かす方に集中した方がいいね。ひとまずは――私が相手になろう!」
マッスルフォームに変化したオールマイトが僕の前に立つ。
相手となると、敵意がなくても威圧感が半端ない……!
何よりコントロールが今までよりもさらに難しい。油断したらブレてしまいそうだ。けれど今まで制御に集中させてたお陰か問題ないかも。
転間兄ちゃんはこれを、この状態を可能にしてるのか。
肉体のOFAと違って脳に“強い負荷”があるから常に全身ってわけではないと思うけれど。
防御の瞬間も。攻撃や移動の瞬間も。
解除と発動を一瞬で必要な出力に調整して。
言うは易く行うは難し……。
あまりに高度な使い方だ。だけどこれを使えるようになったら僕は劇的にパワーアップする!!
「――出久? もしかしてフルカウルを身につけた?」*15
ふとお兄ちゃんセンサーが反応を示した。
どうかは分からないが、なんだかそんな気がする。
オールマイトは期待できない*16が俺は出久にフルカウルを教えていない。
一番出久に合う戦い方だが、自力で身につけないと土壇場などで困ることになるからだ。
発想力は個性より大切な武器。どれだけ個性が強かろうと発想力次第では弱個性へと成り代わる。
俺の個性を別の人が持ってたとしたら扱う人の解釈次第で弱いし。
「オリジン、どうしたの?」
「ああいえ、お兄ちゃんにとって嬉しいことがあっただけです。それよりいつの間にB級サメ映画みたいな展開になりつつあるんでしょうね。世界観がもはや特撮なんですけど、あれ絶滅したメガロドンか? デカすぎるだろ……」
泳いでこっちに来るのは50mほどはあるメガロドン。もう普通に意味がわからない。サメが改造でもされたか?*17
「クラーケンの件もそうだけど海で何かが起きてるのは間違いないわね……」
「シリウスは船を頼む。オリジンは俺と一緒にあいつを倒すぞ!」
「分かりました。じゃあセルキー船長、飛ばしますね」
「ん? 飛ばす? 待て待て。何を……!」
「目の前に飛ばすので殴ってください」
「言ってる意味がよく分からんが……よし分かった!」
さすがに俺も本気を出す必要がありそうだ。
合図と共に俺はセルキー船長を頭上に飛ばしたあと、海面を何度も跳びながら接近した。
喰らえ! オールマイト絶対ぶちのめすパンチ!!*18