どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
どうやら俺と他のみんなには情報の齟齬があるようだ。
身に覚えこそあるが、俺に何も言わずに強制的に除籍は流石になどない。権限あるのってイレ先だし。
言い渡されてないしな。
とにかくこの場を収めるのが大切か。
なんかA組の教室にめちゃくちゃ集まってきたし。
「とりあえずみんな落ち着け! まず、そんな話は聞いてない。居なくならないって」
「えっ!? そうなの!?」
「ほ、本当……?」
「嘘ついても仕方がないだろ。ミリオはどっから話を持ってきた?」
「俺も来た時に聞いたから分からないんだよね。でもそっかー! 俺たちの早とちりだったってことか!! みんな! 転間は学校から居なくならないってー!!!! 広めて!!」
そんな大声で言わんでも。仮に俺1人居なくなったってそこまで大きな変化はないだろうに。騒がしいのが居なくなるだけだぞ。
だが、こういう時はミリオは助かるな。
それより未だに不安げに見つめてくるねじれに苦笑いするしかない。
「転間くん居なくならないよね……?」
「さっき言った通りだ。そりゃクラスメイトが急に居なくなると思ったら辛くなるよな、なんか悪いな」
「そ、っか。そっかぁ……うう……よか……よかったーっ!!」
「ぐえっ……!?」
より強く抱きつかれ、普通に押し倒されたことで後頭部を強打した。
潰された蛙みたいな声が出たぞ。
普通に苦しい。全くこんな騒ぎを起こしたやつ誰だよ。騒ぎを起こすのは俺の十八番だろ。*1
「ほっ……安心した……」
「なんだ、噂に尾鰭がついたパターンだったか」
「いやぁ、普通に焦ったわ」
「流石にないよな。そりゃ」
「ね、緑谷くんが居なくなるなんて想像出来なかったもん」
「職場体験も凄いニュースになってるしね」
「ついに除籍されたかと思ったよな」
「いつかはやると思ってた」
「緑谷さぁ……」
「お前ほんと騒ぎ起こしすぎだろ」
「頼むから心臓に悪いことするなよな」
「話題に欠かないの才能でしょ」
こいつら話が事実では無いと分かったや否や調子づいて滅茶苦茶言いやがる……!!
なんで既に俺の責任に全部なってるんだ……。まぁどいつもこいつも本当に心配だったみたいだから今回は甘んじて受け入れてやるか。
――俺悪くないのに受け入れるっておかしくないか。
「とりあえず落ち着いたか?」
「うん……ごめんね。本当に居なくなるんじゃないかって……そう思ったら不安で……」
「それはいいけど退いてくれ」
「……もうちょっと居させて。ダメ?」
「……気が済んだら離れろよ」
上目遣いで、不安げに揺れる瞳を見れば断ることは出来なかった。
毎度の事ながら意外と自分は涙に弱いらしい。
だが押し倒されて跨られてる上に強く抱きつかれている。
流石にここまで密着されると女性特有の柔らかさを服越しとはいえ諸々感じてしまうわけで、同級生に低俗な感情を抱いてはならない。*2
意識しないように意識を別のところに割り当てる必要がありそうだ。
こういう時は出久のことを考えるかオールマイトに対して嫉妬を溢れさせてたら済む話なのだが、問題が残ってるのでそっちを解決しなければならない。
そのためにスマホを取り出すと、案の定色んなところからメッセージが飛んできている。
と言っても学年だけで済んでるから被害は少ないだろう。
1年グループや3年グループの方にそんな話は聞いてない。居なくならないとだけ送信しといた。
これでひとまずは安心するだろう。実際に次々とメッセージが来てる。うるさいので電源を切った。
雄英も雄英だ。いやセメ先生が来てない時点で誰か凸った可能性もあるのか。
騒ぎを収めた俺は立派な立役者では? いや騒ぎの原因俺だしマッチポンプ?*3
「とにかく解散! ここまで騒がしくなったなら詳しい話は担任から話があるだろ! 戻れ戻れ! バレたら怒られるぞ!」
「そうだね! 急にごめんな転間! また休み時間に来るから! それと、波動さんこの話を聞いて校舎を走り回ってたから安心させてあげて」
教室の外まで集まってるのだろう。
ミリオが避難誘導のように次々と解散させていくお陰で少しずつ人が離れていく。
しかし安心させてと言われてもな。この押し倒されてる状態で俺に出来ることはないぞ、ミリオ。
若干背中を起こすことだけで既に精一杯である。筋トレか?
「やーいイチャイチャしてんなー」
「かっぷるー」
「だまれぶっ飛ばすぞ」
「ガチトーンはこえーよ」
「お前それ普通に羨ましい状態だからな」
「ことがことでなければ殴ってたわ」
「波動さんがいなければみんな突撃してたしね」
「なんなら我慢中だよ」
「後で覚悟しとけよ。みんなで抱きつくからな」
「そんな殺意持たなくて良くないか……?」
「そういう意味じゃないからな!?」
てっきり押し潰しにくるかと思ったがそうじゃないらしい。じゃあどういう意味なのか。*4
「心配させた分は責任取る必要あると思わない?」
「俺は悪くないからないと思う」
「本当に……転間が居なくならないって分かってよかったよ、俺」
「環、お前だけはやっぱり俺の味方だ……!! 体育祭の時は悪かったな……!! お前は親友だ!!」
「それは嬉しいけど、急にどうしたんだ!?」
とにかく今は出久のことを考えるしかない。
うーん……かわいい!!*5
さて結局誤解と分かったわけで、冷静になったねじれが突然慌てて離れたかと思えば、全く顔を合わせてくれなくなった。
この短時間の間で理解出来ないことが多すぎる。
なおその後言ってた通り、ねじれ以外のクラスメイト全員に突撃されて後頭部どころか全身強打した上に重くて普通にダメージ受けた。*6
それどころか黒板壊れて2-Bまで吹っ飛んだので教室の隔たりが消えてしまった。*7
俺よりも俺の上に乗ってた奴らの方が下から順に死にかけてたが。
そして俺は今、校長室に呼び出されていた。
近くにはイレ先とマイク先生、セメ先がいる。
なんでこの人選?
ひとまずは、そうだな。
「マイク先生、日程いつにしますかね」
「YEAH! 次の休みとかいいんじゃねえか?」
「じゃあそれにしま――」
「お前らは空気読め」
「いたっ」
「いてっ」
普通に体罰ですよイレ先。
今日1日で俺の頭にダメージがありすぎる。バカになるだろ!!*8
せっかくマイク先生も空気を変えるために俺を手伝ってくれたのに。
伝わって助かったと目で伝えると。気にすんなとアイコンタクトが返ってきた。*9
「フフ、元気があっていいことだね。ガチガチになってなくてよかったよ。じゃあ早速本題に入ろうか」
その意図は気づかれていたのだろう。
流石個性がハイスペックなだけある。
この程度はお見通しってわけだ。
「緑谷転間くん。君の噂がここまで広がったのは申し訳ないと思う。偶然知った生徒が言いふらしちゃったみたいなんだ。本当は僕たちの中で留めるつもりだったんだけど……雄英中に拡散したせいで伝言ゲームみたいになったのさ。……君は凄いね」
「いや俺は何もしてませんけどね。別にいいです、その生徒も別に騒ぎを起こしたくて言いふらしたわけではないでしょう? お咎めはなしにしてやってください」
「うん。軽い注意はさせてもらうけどね。それでここまで噂が広がると君の耳にも当然届いたと思う」
「わかってます。ここまで騒ぎを起こしたんだ。俺だってもう高校2年生だ。それくらいの覚悟は決めてきてますよ――」
「責任取って除籍ですよね、うん仕方ない。来年また受験しますね」
「違うよ???」
――チッ。
「なんで君は残念そうにしてるのさ……というか君が参加したら新入生が可哀想だろう? 予想の斜め上すぎてびっくりしたのさ。正直、僕ですら君を理解出来ないよ」*10
「はは、してません」
いや、これなら俺は悪くないし合法的に出久と同じ学年になれるのでは? と邪な考えしかなかったわけだが。
留年すればいいだけの話と言われるかもしれないが、それとこれは別だ。俺は弟が誇れるお兄ちゃんでなければならない。
つまり留年はありえない。俺が成績を落とさないようにしてるのはそれが理由だ。むしろそれしかない。なければ勉強なんてせずに実力だけ伸ばしてる。
だが今回は冤罪とはいえ責任を取って、という形になる。
学年のために責任を負って退学するとなれば客観的に見たら“クラスメイトたちを守るために罪を全部背負って代わりに除籍された生徒”となるわけで、雄英側もそれを理解している。
つまり特例として再入学は可能だと思われる。
そして俺は居なくなったわけではない。また雄英に入ることで居なくならないという発言も嘘にはならないという、ちゃんとしたプランである。
もし無理だったら別のプランを実行すればいいだけの話だけど。
それはそうと俺の発言を聞いたとき、イレ先は顔を手で覆ってため息吐いてたしマイク先生はゲラゲラ笑ってたしセメ先は困ってたし反応がそれぞれ違ってたのは打ち合わせでもしたのか?
「話を戻すとね。緑谷転間くん。君は凄く優秀な生徒だ。問題こそあるが、君がしてきたことを考えれば帳消しどころかお釣りが来るほどにね」
「はあ、突然褒められると怖いんですけど」
「僕の紛れもない本音さ。だからこそ、なんだよ。いいかい、緑谷転間くん。君には今、2つの選択肢があるんだ」
「2つ?」
校長先生が“2”を意味するようにピースサインの形で指を立てる。
選択肢ってのが何を指してるのか分からないが、まずこれが騒ぎの原因だということは言われずとも分かる。
「僕たちが何を言おうと最終判断を下すのは君自身。どちらを選んでもいいけど、これからの将来にものすごーく直結する話でもある。だからちゃんと考えて答えて欲しい。
まず1つ。このまま雄英高校に通い続け、卒業後にプロヒーローになる道」
一度閉じた指をひとつ、人差し指を立て、そう言ってくる。
まぁプロヒーローになるかはともかくヒーロー科である以上大体はその道だろう。個性が使えなくなったりとかしない限り。
次に、中指を立てて“2”を示す形へ。
「そして
「嫌ですけど???」
即答したら時間が止まった。
どうやら俺は時を止める個性に芽生えてしまったらしいな……いやこれ空気が固まってるだけだ。
というか原因これかよ。確かにこの話があったら学校辞めるんじゃないかって話になるよな。噂の広がり方からして、聞いた人はプロヒーローになるという話ではなく、大方俺が学校を辞める必要があるみたいな発言を聞いたのだろう。
そこからパスしまくった結果、俺が雄英を辞めるとなったってことか。
伝言ゲームって実際その人がどう聞こえたかに依るから正確な情報が行き渡るのは難しいからな……。
「――あの、ね。緑谷くん。さっきも言ったけど」
「嫌です」
「……これは君自身の未来に深く関係することなのさ。確かに僕も反対だ、学生である以上」
「嫌です」
「君は僕たちの庇護下にある生徒。でもまさか即答で返事が来るなんて思わなくてね。もう少し考え」
「嫌です」
「る必要はなそうだね……あと話は聞こうね」
2年でプロヒーローになるってのは誰も成したことがない偉業ですらある。あのホークスですら18歳の時なんだっけ。
普通なら嬉しいだろう。
――だが断る。
「……本当にいいのか? 緑谷、贔屓目なしに言わせてもらうがお前の実力は既にプロヒーローでもやっていける実力はある。判断能力においても一線を画してるといっていい。今すぐ答える必要はないんだ」
「そうは言いますけどイレ先も反対でしょう。別に隠さなくていいですよ」
「……!」
前までの俺ならまだしも、職場体験を終えた今の俺の実力は自分でもかなりものだと思っている。
だがそもそもとしてイレ先がこんなことを許可するとは思えない。口でこそこう言っているが、本当は止めたいというのが本音。
確かに今からプロヒーローになれば間違いなく市民からの支持は大きくなり、俺の名は世界へと知れ渡るだろう。話題性から考えたらすぐにでもトップヒーローの枠に食い込める。というか下手したらNo.1。
そんな生徒の出世であり、名誉を奪うわけにもいかない。だから言えないのだ。本当に嫌なら私情だろうと挟んでもっと非合理的に動けばいいのに。
甘い、チョコレートより甘いぞイレ先。このツンデレイレ先め。
その程度の考えなら俺ですら読める。
「ちなみに、理由を聞いてもいいかな?」
「いいですよ、簡単な話です。まず俺は別にヒーローになってチヤホヤされたいとかお金が欲しいだとか地位が欲しいだとか俺は別に見返りが、何かが欲しくてヒーローになりたいわけじゃないんですよ。
対価のためにヒーローになりたいわけじゃない。俺は人を守る為だけにヒーローになりたいと思ってるんです。何より――」
ヴィランと戦うにはプロヒーローの資格が必要となる。
仮免でも緊急時のみ使えるとはいえ、プロヒーローの資格を持っていた方がいい。
“手段”としてヒーローになりたい人もきっと多いだろう。有名人になりたい。トップヒーローになりたい。お金が欲しい。恋人が欲しい。モテたい。
別にそれらを否定するつもりはないし、どういう目的でヒーローを目指そうとも意味さえ履き違えなければいいと思う。
だが俺にとって“人を救う”ということは“目的”でしかないのだ。名声も喝采も何もかも必要ない。
あくまで俺は出久のお兄ちゃんとして弟の命を守り、最高のヒーローとなった弟を後方お兄ちゃん面で腕を組んで眺めたいのである。
ヒーローになるのも
それが俺の行動原理であり、ヒーローになる理由でもある。
そしてこの話を蹴った1番の理由。
それはただひとつ――
「今すぐプロヒーローになったら!!」
「来年入学してくる弟を!! 弟の学生生活を!! 高校生やってる!!」*11
「出久を見れなくなるだろ!!!!」
「……です!!」
校長室全体に木霊するほどの声量。
これがアニメだったならば、エコーが掛かっていただろう。
しかしそうなのだ。
プロヒーローになってしまえば俺は高校を途中で辞めるしかない。いや、どちらかというと飛び卒か。
なった直後なんて忙しいに決まっている。
俺から高校デビューする出久の姿を見る権利を奪うなんてあっていいと思うか?
いいや、あっていいはずがない! 無理矢理ヒーローにさせてみろ、俺はそいつを殺すぞ。いや殺したらダメなので四肢を奪うくらいで済ませるが。
だがお兄ちゃんとして!! 弟の成長を見守るのは俺の使命。命に替えても果たさねばならないことだって人にはある。
入学式や卒業式、今まで俺は全て見てきたんだぞ?*12
俺の発言があまりに衝撃的だったのだろう。
目をぱちくりする面々を前に俺は満足気に頷いていた。*13
俺の出久愛が圧倒したらしい。さすが俺、これは間違いなくお兄ちゃん。
俺以上のお兄ちゃんがいるとは思えない。
むしろ俺並みのやつがいるならば、そいつとは仲良く出来そうだ。いや、やっぱりむりかも。俺の弟の方が可愛い。
「HAHAHA!! 緑谷らしくていい回答だな!!」
「ええ、そうですね。それにクラスメイトたちも安心させられます」
「……全くお前は……。弟が合格するとは決まってないだろう」
マイク先生もセメ先も笑みを浮かべていて、イレ先は分かりづらいがうっすらと浮かべてるのが分かる。
――それよりも聞き捨てならない発言が聞こえたな。
何を言っている? 決まってるが? 俺の弟だぞ、誰よりもヒーローらしいヒーローの出久ですが? 出久が落ちるなら全員落ちるに決まってるだろ! むしろ落ちろ!!
なんなら落とそうものなら雄英を俺が(物理的に)落とすが?*14
「そっか、ハハッ、そうだね。緑谷くんがそう決めたならば僕たちは全力で君を守ることにしよう! 君は雄英の生徒だからね! ただ君自身も気をつけるんだよ。この件に関しては
「その時は対処するんで大丈夫です。まあ弟に何かしたら許しませんけどね」
もし出久の身に何かあった時は、まず間違いなく俺は犯人どころか血縁者、一族郎党、全てにおいて容赦なく殺すが。
というかその“何か”によっては世界を滅ぼす。今の俺なら国家転覆すらいけるだろう、多分。
出久が天寿を全うした際は別だ。
仮に俺が長生きしたとしたら、看取った後に自ら死ぬ。
その後は魂のない霊となって力の残留だけが出久の子供たちを守るだろう、お兄ちゃんならそうする。
出来るかは知らない。
「流石にそこまではしないと思うよ。ただそうだね、近いうちにヒーロー活動認可資格免許――つまりプロヒーローの資格だけを取ってもらう……ってことにはなるかもしれないね」
「まぁ、それなら公安も納得する交渉材料にはなるでしょうね。それならいいですよ、ただデビューはしないのでそれが条件なら、ですが」
「それはもちろんだよ。いつヒーローとしてデビューするかは緑谷くんに決める権利がある。卒業後、独立してもいいし、サイドキックとして何処かにお世話になってもいい。あくまで交渉に使えるカードが欲しいだけさ」
一番手っ取り早く収めるのは相手に利益になることを差し出すことだ。
俺をプロヒーローにしたいってことはその戦力が欲しい。
だが俺はデビューはしたくない。なぜなら出久を見守るためだ。
しかし公安も俺を敵に回したくないだろう。
わざわざ公安が動いたってことは体育祭での俺の強さを目にしてるはず。それが抑止力となってるはずだ。
故に対等な条件で“プロヒーロー免許を取る”ことが折衷案として折り合いが付く。
なぜなら資格さえあれば俺はヴィランと戦えるし救助活動も行えるからだ。
俺の実力をそこまで買っているのであれば卒業後はまず間違いなく担ぎ上げられる可能性はあるが、逆に言えば残り期間は手を出されないメリットはある。俺を敵に回すか条件を呑むか、天秤に掛けずとも分かるだろう。
今はそれで十分だ。
そもそもヴィランがいる世界なんだから2年後どうなってるか分からないし巨悪が生まれて、公安が消されてる可能性もある。社会を混乱させるならそれが一番だしな。
結局出久を狙ったら俺が滅ぼすけど。*15
「君は本当に優秀な生徒だね。その顔はもう全部理解してるのだろう? 流石、未だに
「どうでしょう、もしかしたら大人かもしれないですよ?」
「ふふふ、ませるのはいいことだ。でも僕たちからすれば君はただ早熟なだけの子供なのさ」
不敵な笑みを浮かべて言ってみたのだが、本気にされずにあっさりと流されてしまった。
大人だな、この……人じゃなくてネズミ。さん? 校長でいいや。
もうちょっと何かしら飛んでくると思ったのだが。
別にレスバしたいわけじゃないしいいか。
「話はそれだけですか?」
「うん。ごめんね、急に呼んで。要件はこれだけさ。あとは今まで通りに過ごしてくれればいい。ここから先は僕の、僕たち大人の役目だからね」
「わかりました」
ここは素直に任せるとしよう。
前世と違い、子供なのは間違いないからな。何を言っても発言力は低い。
あとは大人しく下がるだけだろう。
戻ってくれていいと言われたが、俺はその場から動かない。
俺の要件がまだ済んでない。
「緑谷くん?」
「校長先生。一つ……大事な、重要なお願いがあるんですけど」
「……何かな? 君がそんな真剣な顔となると、本気なんだね。話してごらん」
「はい。かなり重大な話となります。それは――」
そう、ずっと考えていたことがある。
今までは大きすぎる借りというものがあったから自重していたが、お兄ちゃんとして確かめとかなければならない。
張り詰めたような空気が場を支配する中、俺は1拍置いて口を開く。
「――もふもふしていいですか?」
「いいよ!」
よし!!
「何言ってるんですか校長」
「大事な生徒の頼みを聞くのも僕の仕事だよ、相澤くん」
「それとこれとは別です。お前も行くぞ」
「待ってください! イレ先、俺には校長の毛並みがどんなものか確かめる必要があるんです、そうすることで弟が! 出久がもふもふする時に――」
「静かにしろ。ブラコンバカ」
「あの、そんな急に褒められると照れるんですけど」
「何をどう捉えたら褒め言葉だと思うんだお前は……ッ! 早く授業受けに行け!!」
「あっ、あっ、ちょ、布で急に引っ張るのはやめっ――」
捕縛布が首に絞まる!! 助けてくれマイク先生――目を逸らすな!! 口笛下手くそォ!
セメ先! 生徒がやられてます、やられてます!!
ガン無視……!!
『『『あっ』』』
「あ?」
「……は?」
――もう少しで扉を出るとなった途端、急に扉が前に倒れた。
許可しなかったため、俺のオート防御によって扉は粉砕されたが、俺とイレ先の前には人の山が出来上がる。
何してるんだこいつら。
この後、会話を聞いていたらしい2年諸共、イレ先から久しぶりの指導を受けた。
俺に関しては巻き込まれただけでは? 扉は確かに粉砕したが。
お前ら何してんだよ……。*16