どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!!   作:俺もお兄ちゃんだぞ!!

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そうだ、猫カフェに行こう

全く雄英というのは忙しいものである。何処の高校もこんな話題性に溢れているのだろうか。

 

職場体験を終え、何故か変な噂が広まっていた事件も無事に解決し、ようやくの休み。

流石に体育祭終了後、職場体験決め、職場体験と行事が積み重なっていたのもあって中々行けてなかったが、俺は目的のために歩いていた。

まだ果たせてない約束があるのだが、それは明日だ。

ちなみに約束といえば俺の写真について。

それに関しては職場体験先を決める1週間の間にねじれに既に渡してある。

あの時は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の下校途中。

いつもは集団で帰ることは多いが、今日は環とミリオが無理だったのでねじれと二人だった。

甲矢は問題なかったはずなのだが、俺が二人が居ないことを告げたら突如用事があるとか言い出して二人で帰るように言われたのだ。

用事ならば仕方がない。俺も出久のために全力で帰る時もある。

それに今なら渡しやすいな、と思った俺はカバンを探って封筒を取り出す。

 

『ねじれ、忙しくて渡せてなかったが約束したやつだ。こんなので本当にいいのか?』

 

そのままアルバムをポンっと渡すわけには行かないため、母からアルバムを貰って適当に数枚取った俺はコピーした方の写真が入っている封筒を差し出した。

流石に元々のやつは母が残すために現像した思い出の写真だから渡せないしな。俺の物ではなく母の物だ。

 

『転間くんの昔の写真だよね。うん! 一緒に見よ!』

『いや、昔の自分とか興味無いんだが。というかせめて家で開封してみろよ……』

 

俺の話を聞かず受け取ったらすぐに封筒を開いたねじれは、俺の手を引いて邪魔にならない隅に移動して妙にワクワクした様子で写真を取り出していた。

探すのは苦労したものだ。

俺は自分のことはどうでもよかったため、出久ばかりを撮っていた。

出久と一緒に写ってるやつはあるが、俺単体はないと思っていたのだ。

ただ母がちゃんと俺を撮ってたみたいで、少ないがあったから適当に選んで持ってきたわけである。

数としては相談してなかったのでとりあえず多く少なずと言った感じで5枚。

 

『これが昔の転間くんかあ。あは、かわいいっ!』

『何処が?』

 

頬を赤らめて、何処か気持ちが昂ってるような様子で写真を見ている。

自分が可愛いと言われても全く理解出来ないし、何が楽しいのやら。

出久が可愛いのは認める。あれはこの世界が生み出した奇跡の存在である。

 

『ねえねえ、これって何歳くらい?』

『見た感じ4歳』

『こっちは?』

『6歳』

『これは入学式だよね』

『そうだな』

『これはこれは?』

『それは運動会の時のやつだな。そっちは家族で旅行行ったときのやつ』

『全部かわいいっ! 体操服の姿もなんだか新鮮。雄英の指定服しか知らないもん。ただかわいいんだけど……不思議。全部怪我してない?』

『お兄ちゃんだからな』

 

そう、俺の写真は見事体のどこかに絆創膏だったり包帯だったりと無傷な姿はないのである。

最初は今みたいに個性を完全に扱えたわけではないし回数も1回使えたら良かったとか、で少なかったからな。普通に脳へのダメージが大きいのだ。

バリア中に引き寄せる力を使うことは出来なかったし。とにかく数をこなして限界まで肉体と個性を酷使しまくってたわけだ。

完全に身につけたのは中学生くらいなので、小学生までは傷の絶えない子供だった。

自傷ばかりだけど。吸い込む反応とか練習しないと扱い切れるものじゃないしな。

 

『そ、か。ふふ……』

『なんだよ』

『ううん転間くんは昔から転間くんだったんだなーって。それがね、凄く嬉しいの!』

『全く意味が分からん』

『分かんなくていいの。ありがとうね、転間くん。全部大切にする。これには転間くんが生きてきた証があるもん』

 

宝物を抱えるかのように写真を両手で持ちながら胸に手をやるねじれを見て、まあ機嫌が悪くないならなんでもいいかと俺は諦めた。

別に燃やしてくれてもいいんだけどな。誰得だよ。*1

 

『ね、もし幼馴染だったらどうだったんだろ?』

 

しゃがみ込んだねじれが封筒を割れ物でも扱うように丁寧にカバンに収納している後ろ姿を見ながら“ありえたかもしれない可能性”を話題にしてきた。

せっかくなので、ふとイメージする。

昔のねじれも恐らく今と同じ性格だったのだろう。

そこから考えるなら……。

 

『お前が俺の手を引いてたんじゃないのか?』

『えー。私は転間くんの方だと思うなぁ。私、昔から気になったことは聞いちゃって……やっぱり離れていく人も多かったから。だけどもし転間くんがいてくれてたら転間くんだけは私の傍から離れずに居てくれる……その時から、今の、この時まで。そんな確信があるもん』

 

そうは言うが、どうだろうか。

昔の俺は鍛錬ばかりで全てを捨てる気しかなかった。果たしてわざわざ手を取りに行くかと言われたら怪しいところ。

ただまあ、もしそうだとして手を取ったとしたなら、こいつと幼馴染だったらここまで強くなることは出来なかっただろうな。良くて雄英で中堅に入れたか……程度だろう。そうなるとどれだけ頑張っても引き寄せる力しか身につかないと思うし。

まず間違いなく鍛える時間が減るのは間違いない。

それは困る。あの時の俺は強くもなんともなくて、まだ無力で非力なのだ。せいぜい幼い出久を庇える程度。

 

『結局はどっちでもきっと、こうして一緒にいる関係なのは変わらなかったよね』

『そうかもな』

『ね、だから』

 

ねじれが俺の右腕を掴んだかと思えば、俺の腕が伸ばされる。

彼女なら悪いことはしないと分かってるので抵抗はしないが、ねじれは俺の右手に自身の左手を合わせるようにくっつけてきた。

――ハイタッチしたかったのか?

 

『幼馴染じゃなくたって……こうしてこれからもずっと一緒に居ようね、転間くん』

 

なんて思ってたら互いの指の間に指を絡めるように握って繋いで、そう微笑んできた。

ほんの少し、ねじれの頬に赤みがある気がする。

 

『……まぁ退屈はしなさそうだな』

『ふふ、私がさせないよーっ。これからはたくさん時間もらうから!』

『は? 出久優先に決まってるだろ』

『ブレないなぁ〜……それでこそ転間くんだからいいけど』

 

面白かったのか笑いながらねじれはくるり、と回って俺の隣で肩をくっつけてきた。

手は離す気ないらしい。鍛えてるお陰で硬い俺の手と違い、柔らかい。

子供の頃の出久のような手だ。

女性ホルモンと男性ホルモンの違いだ。女性でも鍛えたら硬くなる。

改めて男女って差が意外とあるんだなと思ってしまった。

とりあえず変な感情を抱かないように、ポイッと脳内で投げ捨てた。

 

『幼馴染だったら呼び方はどうなってたかな?』

『……ねじ?』

『可愛くなーい!』

『ねじねじ』

『それっぽいお菓子あるよね!』

『ねじれ』

『今と変わんない!』

『じゃあお前が案出せよ』

『……転くん?』

『よく転んでそうだな』

『テーマくん!』

『ゆるキャラにはいそうだな』

『……転間くん』

『お前も同じじゃねえか! よくそれで人のこと言えたな!?』

『ううー……だって思いつかないもん! 私にとって転間くんは転間くんなんだから!』

『そこで開き直るか、普通!?』

 

そもそもの問題として、既に俺たちは互いの名前呼びで慣れてしまっている。

その状態で考える方がまずおかしいと思う。

いや、この感じからしても普通に名前呼びになってそうだけど。

 

『でもでもっ! やっぱり子供の頃の転間くんにも会ってみたい!』

『それは無理だ、諦めろ。そういった個性でもない限りな。そもそも小さい頃の俺に会ってどうするんだよ。何もやることないだろ』

『え〜いっぱいあるよ?』

『例えば?』

『えっとね、ぎゅーって抱き締めるでしょ? それで背中トントンって叩いてあげたり、頬をスリスリーってしたり。あとはねー膝枕してあげるでしょ? たくさんなでなでしたり、一緒に遊んだり。料理を教えてあげたり。それで夜にはご飯を一緒に食べて、食べさせてあげたりとか、口元拭ってあげたり! 歯磨きとかも手伝って、とにかく甘やかす感じかな〜。 あとは一緒のお布団で寝たり――あっ、お風呂に入ったりとかもありかも!』

『――もしそういう場面があったとしたって絶対会わせないからな、お前』

『なんでぇー!?』

 

人の幼少期にとんでもない爆弾という名の思い出を残して来る気満々のねじれに身の危険しか感じなかった俺は絶対に妨害しようと決めた。

普通に考えてスキンシップはともかく一緒に寝たり風呂はやりすぎだろ。俺も男だからな? しかも普通の子供じゃないんだぞ。

確かにあの頃の俺なら既に弟愛に目覚めているから感情を抑えられる自信はある。

ただ全体的な能力面では足元にも及ばないから普通に個性を使わないねじれにすら力づくで負けるくらいには非力だ。精神力もまあ、今よりかは劣るのは間違いない。俺はあくまで突如前世の記憶が戻っただけで今まで普通の子供をしてたわけなのだ。

――色々とマズイ。大人と子供の部分が合わさってしまっている状態なのだから。

 

しかしそうか、中には子供にしてくるような個性もあるかもしれないのか。*2

――絶対に食らわないようにしよう。雄英のやつらに会ったら絶対延々と擦られ続けるネタにされてしまう。

まぁマニュアルでやってるとはいえ当たらなければいい話。いずれ考えてある強化案を身につければ絶対に受けることはない。

問題ないだろう。*3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、そんな感じだったが、機嫌は滅茶苦茶良かったから人の弱みを掴めたことがよほど嬉しかったんだろう。*4

その程度じゃ屈しないぞ……!!

 

思い出しながら歩いていると目的地に着いた俺は駆け出す。

待ち合わせ場所には二人の男性がいる。

 

「イレ先! マイク先生!」

「来たみたいだぜ、イレ先!」

「誰がイレ先だ。山田」

 

そう、相手とはあい……やべ、なんだっけ。イレ先と山田……うんマイク先生だ。

先生の名前というかヒーロー全体に言えることなのだが、基本ヒーロー名で呼ぶせいで本名とか普通に忘れるんだよな。

イレ先はいつもとは違う服だが、黒色なのは変わらずラフな服装。マイク先生は赤色のメガネをかけてジャケットを羽織っている。なんというかチャラチャラしてそうな感じ。

俺は普通に灰色のフードの着いた服とスボン。The・NORMAL。*5

 

「やっぱりごねてました?」

「そうそう、聞いてくれよ緑谷。結構苦労したぜ。相澤が中々ついてきてくれなくてよー」

「うわー酷い。約束をすっぽ抜かすなんて大人がやっていいことじゃないですよね。普段合理的合理的言ってるくせに禍根を残すのはどうかと」

「だよなー!!」

「――おい。好き勝手言いやがって。お前らが勝手に決めたことだろうが……ッ!!」

「そーだそーだ! 反省してくださいマイク先生」

「ちょ、裏切りはえぇええ!」

「お前も悪いからな?」

 

イラッ! と額に怒りマークが浮かんでたから即切りしたがダメだったらしい。

流石に誤魔化すことは無理だったか……!!

 

「まあまあ落ち着いて」

「どの口が言ってるんだ」

「この口ですけど」

「人間には口は1つしかないぜ?」

「ですよねー」

「前々から思ってたことなんだが、緑谷。お前の口ってそろそろ縫った方がいいかもしれんな」

「イレ先、そうなったら力づくで外すので無意味だと思いますよ」

「――減らず口を叩くなって意味だよ」

「それはちょっと……」

 

仮に血だらけになっても今の俺なら自己治癒は可能だろう。

感覚は掴んであるし、他人にやれるかはやったことはないから知らない。

でもお兄ちゃんは出久のためなら不可能を可能にするぞ!!

 

「それよりもまあ行きましょうか」

 

今日集まったのは他でもない。

前々から行こうと決めていた猫カフェに向かうこと。また新しく開拓してしまったからだ。

担当でなくなっても先生を思いやる生徒、客観的に見たら良い生徒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基本は俺とマイク先生が中心的に会話する形にはなるが、イレ先を巻き込んで会話するパターンが多い。

まったく世話が焼ける先生だ。*6

 

人が少ない、知る人ぞ知る場所。

猫と戯れ、癒される場。

だが俺にとっては果たして癒されると言っていいものなのか何度来たって分からないものである。

 

「YEAH! 相変わらず緑谷の人気ハンパねえな!」

「フェロモンでも出てるんだろ」

「――!!」

 

他人事のように言う人達である。

何度か猫カフェには来たことあるが、何もしてないのに俺のところに来るのだ。

顔面猫まみれで息が苦しいので助けてくれませんかね……。猫吸いとはこの事か……。

とりあえず息が苦しくなったので1匹1匹持ち上げながら膝に乗せていく。

すると猫たちは俺の膝で丸くなっていた。

猫に詳しいわけではないからこれがどういう状態なのかは分からない。

手が2つしかないのでそっと撫でる。

もふもふ。ハマって猫カフェに入り浸る人の気持ちも少し分かるというか、特に動物はこれが好きとかなかったのに猫派になりそうである。

これがアニマルセラピーか。強い。

イレ先は人馴れしてないような、一人孤立してるようなタイプと仲良くなる傾向にある。

イレ先の雰囲気が原因か。それとも優しさを猫は見抜いているのか。

一方でマイク先生は活発的な猫だ。見事正反対なんだよな、この人たち。

 

「俺、そんな何か発せられてますかね……?」

 

気になって2人に聞いてみると、イレ先とマイク先生は顔を見合わせた。

そして俺を見たかと思えば、何処か顔を伏せがちになる。

 

「……まぁ」

「何とも言えねぇなぁ」

「なんですかその回答! 何かあるんですか!? あるんですよね!?」

「……なんだ、悪いことばかりじゃない。いつかトラブルはあるかもしれんがお前の周りにはよく人がいるだろ。似たようなもんだ」

「全く意味が分かりません」

 

というか俺が大声をあげたせいか猫がびっくりして離れていってしまった。

猫に罪は無い。申し訳なく感じた俺はゆっくりと近づきながらある程度の距離を詰め、大丈夫だということを伝えつつ煮干しや雉羽根を駆使して安心させようとする。

 

「そういうところだよ」

「なー」

「……は?」

 

どういうことだよ。

二人とも教師だと言うのに意味が分からないことを言ってきて、俺は困惑するしか無かった。

考えても仕方ない。

ちゅーるを手にした俺は、猫に轢殺され(埋められ)た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間の滞在を終えると時間になるので退出した。

 

「最後の足のひっつき様は半端なかったな!」

「また次来ないといけませんね」

「遊んでばかり居るなよ」

「そう言うイレ先もニヤニヤしてましたよね」

「してない」

「いやいや、俺から見てもしてたぜ。今度は香山先輩も連れてくるか?」

「絶対にやめろ」

「ミッドナイト先生、猫好きなんですか? いや好きそうだな、あの人……」

 

俺からしたらあの人ってやべー人だが優しい先生というのは知っている。

ただ青少年を相手にする以上、あの格好はどうかと思う。思春期には刺激が強すぎるのでは? 俺は訝しんだ。

俺はお兄ちゃんだから問題ないが、出久の貞操は守らねば。

 

「……昔な。あるやつが拾ってきた猫の世話を代わりに引き受けてくれたんだ」

「おすしって言うんだぜ。俺ァからあげでもよかったと思ったんだけどなァ!」

「絶対飯食った時に考えたでしょそれ。というかなんで食べ物縛り……? けど……へえ〜ミッドナイト先生にそんな一面が。その猫を拾った人って友達ですか? イレ先拾わなさそうだし。その人は今――いや。どんな人でした?」

 

何処にいるのか、と聞こうとしたが聞く前に察した俺は質問を変える。

イレ先やマイク先生を見ると分かる。

本当はここに、もう一人居たはずなのだと。

恐らく亡くなってしまったのだろう。有り得ることだ。

人が人である限り、いつ死ぬか分からない。

俺も同じだ。出久を残して死ぬつもりはないけど。

 

「それは――」

「……お前みたいなやつだな」

「なんだブラコンか」

「違ぇよ」

 

イレ先に拳骨された。

痛い。

酷くないか、俺みたいなやつってことはつまり弟が大好きな人間だろう。

むしろそれ以外にある? いや、ない。*7

 

「まぁなんだ。お前は()()()()()()()よ」

「イレイザー……」

 

何かを言おうとして、口を閉じたマイク先生。

その表情にはいつもみたいな明るさは鳴りを潜めている。

だから思った。

 

「――あの、バカですか?」

「……おい。俺は今真面目な話をだな――」

 

そこまで言われなくても分かっている。

俺が先に立ち止まったからか、普段と変わらない俺に対してイレ先は睨みつけるように振り返ってきた。

 

「俺が死ぬわけないでしょ、前も言いましたけど俺はお兄ちゃんだ。お兄ちゃんが弟を置いていったら誰が弟を導くと? むしろイレ先は俺より自分の心配をすべきですね」

「緑谷……」

 

大きく跳んで、イレ先たちより前に出る。

その1歩がどれだけ大きいのか。

 

「弟を守るのは俺の仕事だ。そしてイレ先も守れるようになると言ったでしょ。逆に()()()()()()()()()()()()()頑張って欲しいもんだ」

「――」

 

背中合わせになってるからイレ先の表情は見えない。

俺が辿り着くのは“最強”という酷く曖昧な領域。今の俺は踏み入れたという自覚しかない。だがその世界へと入門した確信はある。

故に、尊大な態度で告げる。

この方がこの人には良いだろうと思って。

 

「……生意気なこと言いやがって。お前はまだ子供だろうが。大人しく守られとけ」

「ハハッ! そーだぜ緑谷ァ! お前はまだまだ子供だからな! 子供は大人に守られて遊んどけっつーわけだ!」

 

そう言いながらぽん、とイレ先に手を置かれ、マイク先生には肩を叩かれる。

そうして俺を越えるように前に出て、先に歩く大人たちの姿を見た俺は笑みを浮かべ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー!? 人が気を遣ったのに子供扱いってどういうことだァ!!」

 

ブチギレた。

プチッ、と何かが切れた音がした。

この野郎ッ!! とイレ先に突進したら避けられ、ヘッドロックを掛けられてギブギブと叩いたりマイク先生のメガネを奪って装着しては取り返そうとしてくるマイク先生を避けて逃げたりしていると、自然と俺たちの中では笑いが溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――察する力がたまに良くなる時がある。

人の心に機敏というか、空気を読み取ってるとでも言うのだろうか。

マイクに連れられ、いつの間にか勝手に予定を入れられてた俺は休みの日に緑谷とマイクと共に遊ぶことになっていた。

白雲の話になったのは自然だった。

猫。

俺が拾えないとやりすごした子猫を、迷わず拾ってくるようなやつだった。

忘れることは無い。忘れるはずがない。

俺の未熟さがあいつを殺してしまった。

似ているんだ、こいつは。

緑谷を見ていると白雲と重なる時がある。

いつも明るくて前を向いている。自分の利になることを欲しておらず、ただ目の前の困っている誰かが居れば手を伸ばす。

みんなの隣に居られるようなやつで、みんなが引っ張られている。

みんなが受け入れ、輪となっている。

太陽みたいなやつだった。

こいつもまた、同じ。

 

――分かっている。

あの時と俺は違う。プロヒーローとしてやっていける力を身に付いている。

だがもし。

もしこいつまで同じようなことがあれば。

多くの人の心に存在する緑谷の身に何かあれば。

白雲の時とは比べ物にならない。俺だけじゃない。マイクだけじゃない。

どれほどの人間に、その心に闇を落とすことになるのか。

 

「――あの、バカですか?」

「……おい。俺は今真面目な話をだな――」

 

だからこそ、そうなって欲しくないと伝えたというのに。

立ち止まった緑谷はいつもと変わらなかった。

無意識に睨んでしまうが、緑谷は半目になって、呆れたような表情を浮かべている。

 

「俺が死ぬわけないでしょ、前も言いましたけど俺はお兄ちゃんだ。お兄ちゃんが弟を置いていったら誰が弟を導くと? むしろイレ先は俺より自分の心配をすべきですね」

「緑谷……」

 

しかしそう言う緑谷の目は優しいものだった。

たまにするような、人の心を見抜いているかのような翠の瞳。俺の不安に気づいてるかのような、そんな洞察力。

大きく跳んだ緑谷は俺たちより前に出る。

1度。たった1度の跳躍。

それはまるで、俺たちより前に進んでいるような。超えているんだと示してるかのように感じられた。

 

「弟を守るのは俺の仕事だ。そしてイレ先も守れるようになると言ったでしょ。逆に()()()()()()()()()()()()()頑張って欲しいもんだ」

「――」

 

酷く尊大な態度。自分こそが上だと、1番だと。

そう世界に告げている。

目を向けた時、口元が笑っているのが分かった。

――変わったな。根本的な部分は変わっていない。だが職場体験を得てか、一皮も二皮も剥けたかのように見える。

こいつは本当に……優秀なやつだ。弟が関われば全部台無しになるが、真面目な時ほど敵に回したくないほどに。

現に今もそうすれば良いのだと、こうすれば俺の不安を取り除けるのだと理解して最適な行動を取っている。

口には出してないが、俺たちの心に気づいているんだ。敢えてそうしないように態度に出してないだけで。

隣にいるマイクが酷く驚いたような顔で動揺をしている。目が揺らいでいる。

いや俺も同じだろう。

緑谷の行動の意図を俺たちは分かっていた。

その意味も、全部全部理解していた。

だから驚いたんだ。

まだ子供だというのに。

ああ、本当に――

 

「……生意気なこと言いやがって。お前はまだ子供だろうが。大人しく守られとけ」

「ハハッ! そーだぜ緑谷ァ! お前はまだまだ子供だからな! 子供は大人に守られて遊んどけっつーわけだ!」

 

そうだ。

俺たちが前を歩かなくちゃならない。こいつに置いていかれてはならないのだ。

マイクもまた同じ考えだったのだろう。

俺と同じタイミングで、同じように動いて緑谷の前に出た。

お前は守られるべき存在なのだと。暗にそう伝えて。

そうして。

 

「はー!? 人が気を遣ったのに子供扱いってどういうことだァ!!」

 

緑谷は、あっさりと()()()()

守られる立場ではない。

置いていく立場でもない。

あくまで自分は、共に歩んでいく存在なのだと、俺たちに示すように。

 

――白雲。

懐かしいよな。お前が居たらきっと、こいつとは気があったんだと思う。そんな、ないような光景を、有り得ない日常をたまに思い浮かべるよ。お前と緑谷が俺の両腕を引っ張って、マイクが背中を押して。

じゃれ合ってる姿が簡単に浮かんじまう。

()()()()()()()が流れる。

 

――今日はめいいっぱい遊ぼうな! ショータは引っ張ってきた!

 

――ナイスですラウ先。イレ先って合理的じゃないとか言って遊ばなそうですもんね。

 

―― YEEEEEEAH!! 言われてんぜイレイザー!

 

――マイク先生うるさっ。

 

――酷くねぇか緑谷ぁ!?

 

――ハハ、そりゃ言えてる!

 

――お前もかよ白雲ォ!?

 

――って、どうしたよショータ。

 

――引っ張って行った方が早いのでは?

 

――じゃ、そうしちまおうぜ!

 

――おい。お前ら……! そんな引っ張るな。転ぶだろ……!

 

――そん時は俺が助けてやるよ。俺の雲なら安全に助けられるからな!

 

――うわあ。これくらいで転ぶって普段から寝袋に居るからでは? 流石になさけ――ちょ! 何処でそのチョークスリーパーぁあああああ!?

 

――ぅおおおい! 流石に落ち着け相澤ァ!! 緑谷が落ちてんぞォ!?

 

――いやーやっぱお前面白ぇなぁ! 転間らしいぜ!

 

 

有り得たかもしれない、そんな記憶。

……分かっている。俺は前に進んでるよ、あの時のように。A()()()3()()鹿()だった頃のように。

だから俺は大丈夫だ。今度はもう、お前と同じようにはさせない。

マイクも俺も、お前の分を背負って優秀な生徒(緑谷)に置いていかれないよう頑張っていくさ。

だからさ……俺たちのことを見守っててくれよ、白雲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう人が思い耽りながら歩いて、次の目的地を決めてなかった俺たちはただ街中を歩いていると、向かう先で妙に騒がしくなってることに気づき、次の瞬間には騒ぎの声が大きくなった。

 

『ヴィランだぁああああ!!』

 

「マイク! オリジン!!」

「わーってる! 俺は避難誘導をしてくる!」

「イレ先、手を」

 

途端に意識が切り替わる。

それは俺だけでなく、マイクも緑谷も同じだった。

すぐに避難誘導しにいくマイクと俺に手を伸ばす緑谷。

ゴーグルを装着しながら迷うことなく掴むと、俺たちは上空に浮いていた。

俺自身は浮く力がない。これは緑谷の個性に依るもの。

 

「3人か!」

「あの感じ、窃盗ですかね。あの速いやつは俺が行きます。向こうに逃げた二人組は任せました」

 

状況判断能力が高い。

それも最低限必要なことだけを伝えるだけでなく、少ない情報からどっちが動けばいいか理解しての行動。

加速系の個性とまだ不明な個性を持つヴィランならば確実に追いつける緑谷が前者を担当するのは合理的だ。

本当に優秀な生徒だよ、お前。普段からそのままで居てくれたら何も文句はないんだがな。

 

「無理はするなよ、オリジン」

「誰に言ってるんですか、今の俺はイレ先の知ってる俺じゃないです。……行きますよ」

 

緑谷が両手を叩く。

すると俺の体はヴィランの上空に移動していた。

これも緑谷の個性の力だ。遠く離れた箇所には予め設定しておかなければならないらしいが、短距離ならば普通に問題ないらしい。手を叩いたのは俺が分かるように合図代わりにやったのだろう。

持ってきていた捕縛布を伸ばして街灯にかけ、振り子の要領でヴィランに接近する。

 

「ヒーローか! このまま燃やして――なっ!?」

 

俺の個性は“抹消”。

視ることで“個性因子”に干渉して一時的に封じることが出来る。

ドライアイなのもあって持続時間こそ短いが、チンピラ程度のヴィランならばそれで十分。

捕縛布を解き、落下しながら手を向けてきていたヴィランを踏みつけて気絶させると、もう一人が拳を振るってきた。

その姿はガウルのような見た目。

 

「死ねぇっ!!」

 

――異形型か!

 

俺の個性の欠点としては異形型に関しては消すことが出来ないという点がある。異形の肉体に付随した"個性"の発動や変形は封じることは可能だが、身体的特徴に表れた部分は不可能――つまり人間の形に戻すことはできない。だが、それでも対処出来るようにちゃんと対策はしてある。

 

突進してくるガウルヴィランを避けると、捕縛布で足に巻き付け、持ち上げるように引っ張る。

持ち上げて殴るのは無理でもかなりの速度を持つ相手ならば十分有効。

突然バランスが悪くなったために倒れ、すぐに両足と両腕を拘束することで身柄を封じる。

そのタイミングで緑谷が姿を現した。

その手には中年男性を軽々と一人持っていた。

 

「オリジン。そっちの方は……心配ないか」

「はい。無事終わりましたよイレ先」

 

ぽい、と雑に放り投げた影響で地面に落ちた際に男性は呻き声を発していた。

俺が気絶させた相手の上にちょうど乗せられる形になるため、二人分の声だったが。

 

「とりあえず警察に連絡ですかね」

「そうだな、受け渡しをする必要がある」

 

スマホを取り出した俺は警察に連絡しようとすると、何かが落ちるような音が聞こえた。

まさか、とスマホから離した瞬間、俺の視界ではさっきまでいたガウルヴィランの体が一回りも二回りも大きくなっていき、捕縛布を力づくで壊している姿があった。

 

あれはトリガーか!! 恐らくアジア製。効果時間は短いが、それでも十分強化剤としての役割は果たす。

これを持っていたからこその騒ぎか……!

まずい!

 

「緑谷――!」

 

不思議そうに俺を見てくる緑谷に対して咄嗟に手を伸ばすが、俺よりもヴィランの方が速い。

緑谷の個性は強いが、不意打ちには弱いことを知っている。そして異形型には俺の個性は効かない。

トリガーによってブーストされた異形型の脅威は俺も知っている。

間に合わない。

繰り返すな、間に合わせろ!

()()な展開を二度と起こす訳にはいかない。

頭が間に合わないと言っている。無視する。だからなんだ。

ここで諦めて見てるわけにはいかない。

限界を超えてでも、必ず。

そう思いながら動いて――

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

突進していたはずのガウルヴィランが緑谷に当たることなく停止していた。足を動かそうとしているが、一向に距離が縮まることはない。*8

予想外の光景に思考が停止した俺を見て、目をぱちくりとしてゆっくりと緑谷は振り向く。

 

「あっ。そういえばイレ先に言ってなかったっけ。俺、もう不意打ちでも問題ないんですよね。とりあえず邪魔」

 

それから緑谷が拳を叩きつけたかと思えば轟音を立てながら途方もない衝撃波がやってきた。

咄嗟に踏ん張りながらあまりの威力に思わず顔を覆う。

土煙が晴れた後には、地面に穴を開けながら拳を頬に突き刺した状態の緑谷と、一撃で気絶させられていた巨体。

こいつ、相変わらずどんなパワーしてやがる。

それどころか――

 

「前より威力が上がってるな……何をした?」

()()()()()()()()()()()()()殴っただけですよ」

 

あっけらかんと、とんでもない発言をしてきた。

殴られれば必ず衝撃が走る。生物であれば無意識にダメージを減らそうとするものだ。

例えば腹を殴られると腰を引いたり反ったりして衝撃を分散したり吸収しようとしたり。

もとより肉体が強固なやつならば効かない場合こそあるが、オールマイトですら攻撃をすれば衝撃で運動エネルギーが逃げるため、威力は低下する。あの人はそれでもバケモノと言えるが。

だから実戦ではほぼ使えないが、逃げ場をなくした状態で与えた一撃はその部分に衝撃が集中する。

そしてこいつはそれを100%可能とした状態というわけだ。

なおかつ相対速度の上昇と自身の加速。空間の圧縮すらされた一撃は被害を最小限にしつつ最大限の攻撃力を誇る。

他の人が苦労して出すクリティカルヒットをジャブ感覚で繰り出す、もっと身近でイメージしやすいのだと正面衝突で交通事故に遭った……ようなものだろう。

見ずとも防げる力。クレーターを生み出すパワーは元よりあったが。異形型の、トリガーによる強化があってもワンパンする力。

どれもこれも職場体験前とは遥かに違う領域、いや別次元。

だが緑谷の個性は誰が使っても強いわけではない。弛まぬ鍛錬、底知れない人の何倍もしてきた努力と年数。

ただひたすらに鍛えて鍛えてきたからこそ、目的のために全てを投げ出すほどの覚悟の果てに複雑極まる制御を可能とし、この結果がある。

はっきり言ってそれでなければ緑谷の個性は命に関わるだけの、自らを殺す個性。やれることだけを見れば強い個性だが、その反面デメリットが多すぎるせいで強いとは言えないんだ。

人が生きる上で必要な脳へのダメージが激しいと、本人も言っていた。

緑谷転間の個性は最強(強いわけ)ではない。“個性”が緑谷転間にしたのではなく、()()()()()()()強い(最強)なんだ。

 

 

――それにしてたってどこまでこいつは成長するんだって話ではあるんだが……。

俺は既にオールマイトでも、全盛期(弾丸より早く動いていた頃)のオールマイトでも勝てない領域に緑谷は居るんじゃないかと。

そんな気がした。

 

「それよりマイク先生と合流したら寿司でも食べに行きません? おすしって名前聞いたら食べたくなってしまって――」

「……その前に引き渡してからな」

「ですねー、せっかくの休みなのに。出久との時間だったらもっと加減せずに殴ってましたよ」

 

――これで加減してんのか、こいつ。

確かにこいつ自身の必殺技のようなものは使ってないとはいえ。

白雲、どうやら俺の生徒は優秀じゃないらしい。

()()()の間違いだったようだ。

だがまあ……。

 

「早く寿司食べに行きましょう、イレ先!」

 

ガウルヴィランを浮かせて、残りを引き摺っていく緑谷は一切何も変わらず、そう笑顔を向けてきた。

俺にとっては緑谷は緑谷のままなのだとそう思い、警察に連絡を入れながらその後を追う。

俺の想像を遥かに超えていく。この光は何処までも消えることは無いだろう。

俺の中に存在する黒い霧が、完全に晴れたような気がした。

うちの教訓であるPlus ultraとはこいつのために存在してるのかもな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい緑谷ァ! 寿司じゃねーのかよォ!」

「回転寿司のうどんというか、サイドメニューって美味しくない?」

「寿司食えよ……食いたいんじゃないのかお前」

 

――やっぱり俺にはこいつは理解することは永遠に出来ないかもしれん。

いや、何を言ってるんだ俺は。

元からそうだったな。

 

 

 

*1
イケメンのショタの写真は需要大ありだと思う。

*2
実際に巻き戻しがあることから、一時的に子供にさせるような感じのものはあると思われる。

*3
それフラグ……。

*4
違う、そうじゃない。

*5
人並みにはセンスがあるから文字Tじゃないよ。ただ出久が着てても褒めてる。

*6
それ言ったらブチギレるぞ。

*7
断言。

*8
死亡フラグさんは職場体験で死んだ。





いつも読んで頂きありがとうございます。
ちょっとお知らせがあるのでお時間ください。

全然原作入ってないわけですが、出久世代と年齢が違うから原作に入ると結構ハイペースで終わるかもしれないという部分があるんですよね。
同じ世代の小説ばかりが多いのも頷けます。原作という元の部分があるから書きやすいし。A組やB組のキャラを出したい気持ちもあるんですが。
出久視点も書くけど、既に出久が原作のかなり先にいるのとお兄ちゃん視点メインで進むため原作の各イベントほぼカットなので体育祭くらいかもしれない……ちょっと長いの。まだ書いてないので分かりませんけど。

ということで悩んだ結果、アンケート取ってみることにしました。
続けるならこんな感じの日常やら戦闘やら出久に対する愛を叫びまくるお兄ちゃんと、傍から見ればお兄ちゃんはどう見えてるのかという周りの視点を書きつつゆっくり原作。各ヒーローとお兄ちゃん書いたりとか。ねじれや真綿といったヒロインとの甘い話を書いたりとか。
ぱぱっと進めるなら必要な話をあと数話して原作に行きます。
端的に言えばこの小説を長く読みたいかどうかって話。
お兄ちゃん書くの楽しいし書きたいネタはあるので私としてはだらだらしててもいいんですけど原作早く読みたいって意見が多いんじゃないかなあと思ってしまったので。



原作

  • 入る
  • もっとお兄ちゃん読みたい
  • 作者の好きなようにやって欲しい
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