どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
突如脳内に溢れ出して出来た作品でしたが、ここまで反響があるとは思いませんでした。
今回の話の構成考えるのに時間掛かってました。ちなみに前回の話も割と苦戦してたりします、糖分マシマシの甘い作品書いてるラノベ作家すげえ……と思いました。
体育祭のほとぼりも少しずつ冷めていき、話題もだんだんと静まっていた。
だが、だからといって安心出来るものでもない。
雄英は忙しいのだ。
「そろそろ期末試験が迫ってるからね。赤点の人は林間合宿が補習になるからしっかり勉強すること!」
そう、一学期の終わり。
それを締めるのはどこの世界でも一緒。期末試験だ。
雄英では実技演習と座学があり、そもそも国内最難関最高峰とされるだけあって平均点が高い。
筆記試験は3日間。それが終わると演習試験を行う。2年ではインターンに向けて本格的なヒーローらしい演習で来るかもしれない。
まあ筆記は問題ない。いつも通り満点取る気しかないからな。
去年はロボだったんだが、雄英なら割と変則的なことをしてきたっておかしくはないというか、今更ロボって役に立つのか? とも思う。
なぜなら今年の体育祭。俺は何もしてないのにあっさりと全て破壊しまくってたやつらだ。狙った訳でもなくただ巻き添えを食らっただけで。
ロボなのに同情してしまう。せめて俺にやらせろ。
1年はいいとして、2年でロボは力不足なんじゃないかと思う。
俺は0Pのロボだけは許すつもりは無いので出てくるならまたスクラップにするけどな。*1
しかし林間合宿ね。林間合宿は死んだ。行きたくない。夏休みは出久と過ごすんだ。そうだ、サボろう! くっ!! それは誇れるお兄ちゃんではないっ!!
だがまたしても1週間も我慢は――いや待てよ。予め座標とルート作っておいて度々帰って来ればいいだけの話では?
これは間違いなく頭脳派。
「緑谷ー!! 助けてくれ!」
「やばいって、私赤点取る自信しかない!」
「頼む、一生のお願いだ!!」
「去年も聞いたことあるんだけどお前ら学ぶ気ないな? おい目を逸らすな」
お世辞にも頭が良いとはいえない同級生たちが囲ってきた。
まぁ学年1位の俺に頼むのは確かに合理的だ。
問題は。
「俺、分身できないから無理だぞ。出来ても机の位置から考えて3人が限界だ」
「みんなで勉強会すればいいんじゃない? 緑谷だけじゃ難しいでしょ。赤点回避くらいならまあ、なんとかなると思うし」
「みんなでか……」
甲矢の提案も尤もだ。
俺以外にも頭は良い奴はいる。
ねじれとか普段の言動からバカそうに見えて勉強出来るしな。
じゃなきゃ実践的な戦闘能力や状況判断力はもっと低い。ねじれの“波動”は強いがかなり癖があって使いこなすのが難しいタイプだ。
技に限っては俺より圧倒的に多いし。
というかオート化する前とはいえ万全だったら俺に届き得る火力を出してたのが意味わからない。
ごりごり聴こえたことから恐らくあれが許容範囲に近かった。正確には個性じゃなくてマニュアルで動かし続けた結果の俺の脳みその限界……と思いたい。火力だけでゴリ押しして突破だとは思いたくない。
オールマイトの攻撃とかは見えたら単体だから防げるけど、波動は連続的なエネルギーというのもあったのだろう。
まぁ個性が身体能力の一部という扱いである以上、許容範囲が存在する。俺の場合は発動する状態にしたら意識せず害になる攻撃だけを防げるようにしてある。
脳の負荷は生物である以上はどうしようもないからな。オート化にしてもそれは変わってない。ただあの時の火力でもオート化の影響で今は防げる。
が、オート化のデメリットは常時無敵になれる代わりに脳の負荷がより大きくなること。
他には空間ごと削るとか、次元ごとやるとか世界に干渉とか。そういったもんに作用されると俺に攻撃が届くだろうし……。
あの火力がいずれポンポン飛んできたら流石に怖いぞ。
もっとオート化を極めなければ。脳の回復回数も。治してる力を知覚さえ出来たら消費を減らしたり出来るだろうしな。
感覚でやってるし全く理解してないから出来るかは知らないけど。
「転間くん、今私の事バカだと思ったでしょ」
――なんで思考読んできてるんだこいつ。
俺は何も言ってないのだが。
「環はどうする?」
「俺は転間がやるなら付き合うよ」
「仕方ないな……じゃあそれでやるか」
環も頭の回転が速い。
個性が“再現”である以上、生物のことをよく知っておかなければならない。
ミリオやねじれと違って鍛えるよりも理解度を高めた方がいいから1年の頃はよく図書室で一緒に生物に関して調べていたからな。
――というか、あのクラーケン食わせたら良いのでは? あいつ再生するしちょうど良くない? 保安庁に連絡してみるか?
シーサーペントの毒も俺が死ぬと思うレベルでやばいし。
ミリオはまあ、 予測さえ出来たらほぼ無敵になるだろう。あくまで防御は、だが。攻撃力はもう武術と筋肉で何とかしてくれ。時代はいつだってゴリラだぞ。オールマイトがそうなんだし。
ねじれは……うん、放っておいても勝手に強くなる。
「いやーこれでテストはなんとかなるな!」
「クラスメイトに主席がいて助かるわー」
「持つべきは頭の良いクラスメイトね」
「こういう時だけは緑谷がいてくれてよかったよな」
「ほんと、流石ブラコンすぎるところ以外は完璧なだけある」
「ねー」
「ブラコンじゃなければなー」
「そんな褒めるなって」
「誰もブラコンで褒めてないんだよなぁ……」
「嘘だろ……?」
「ショック受けるところおかしいよ!」
「えー? 私は今の転間くんの方がいいよ? 弟くんのこと考えてる時とかニコニコしてて見てて楽しいし」
「ほら、ねじれはそう言ってるぞ」
「波動さんは別なの」
「なんでだよ」
いい感じに利用されてる感はあるが、勉強会が決まった。
まぁあとは何とかなるだろうし、実技の方だろう。
本当にロボで行くつもりなのだろうか。いや対人の可能性はあるが。
それはそれでいいんだけど、なんか
だってこうも立て続けに何かが起きてるんだぞ?
いやいや、まさか。
流石に例年通りだろ。*2
――全く公安直属というのも楽な仕事ではないと改めて感じる。
緑谷転間、ヒーロー名『オリジン』。個性は“収束”。
物体、人、空間。そういったものを引き寄せ、力を1点に集めることが可能。
家族構成は両親共にいるが、父は海外。母は主婦。弟が一人おり、弟を溺愛してる、重度のブラコン。
幼少期の頃、ヴィランが遊園地で暴れた際に個性を使用。人々を救うということを成し遂げたが、直後に大量出血で倒れて復活。
血こそ流れていたが病院の調べによれば特に異常なし。ただし秘匿された公安の資料に依ると、
恐らく“覚醒”と呼ばれる現象を引き起こしていると思われる……とされているが、ただそうなると
あまりに異質。正確には、不明。
実際に会ったのは去年。
自身より年上に囲まれる中、萎縮した様子もなく試験に望んでいる姿は印象的だった。
他校に集中的に狙われようとも寄せ付けず、冷静に戦況を見極める目。慌てることなくその時その時適した判断をする頭脳。
2次試験の際に対峙したが、あれは間違いなく
1年で既にトップヒーロー相手に有利に立てる戦闘力に判断能力。救助も対応も完璧ときた。
公安が次のNo.1にしたいと言いたいのも頷ける実力。
俺の速度に反応、というかまず攻撃が届かない。目を向けてたことから個性による防御ということまでは分かっていたが、音波すら届かないのは他に原理があるのか。
何よりも予測や個性の扱いが上手い。油断もあったとはいえ逃げた先で吸い込まれたのは予想外だった。まるでブラックホールのように抜け出せやしない。
フィジカルも抜群。肉体の扱いがちゃんと出来ていて力をどう動かせば最大限のパワーや速度を引き出せるのか理解してる。それから技と技への繋ぎ。
本当に高校1年生か? とすら思ってしまった。
――すごい怒ってたけど。
――とはいえ。子供を平和の象徴の後釜に、だなんてどーなんすかねぇ。
俺個人としては反対。若人から青春を取り上げるだなんて何人たりとも許されないでしょうに。
そりゃギャングオルカさんと俺を相手にしても戦える1年生なんて全国探してもほぼいないでしょうよ。それも
俺も公安から急に仮免の審査員やれって言われた時は『マジか』と思ったし。
蓋を開けてみたら、そりゃあとんでもない逸材だったわけだけど。
しかしまぁ、俺がやらなくっちゃ今度は余計にややこしい話になるわけで。
他の誰かに依頼されるよかは俺が管理した方がいい。自分が楽観的とはいえ胃が痛くなりそうだ。
公安が彼に目をつけたのは1年の体育祭だ。
他を圧倒するほどの実力。特に最終トーナメントにおいて
そこから世間を揺るがすような大きな事件は特になかったとはいえ、職場体験で数々の活躍。さらに職場体験明けすぐに仮免取得。
2年の体育祭で公安は本格的に彼を平和の象徴の後釜として選び、海の怪物事件でついに動き始めた。
――ま、何かと言わないようなバレない程度に時間稼ぎますかね。あの子、敵に回したくないし。ぶっちゃけ体育祭見た限り俺じゃ既に勝てん。
上層部は何を考えてるのか。彼は
もしヴィランになれば? はっきり言ってヒーローが集結しなくちゃ誰も止められない、正真正銘の怪物の出来上がり。
攻撃無効化のオールマイト級なんて誰が相手したいと思う?
上のお偉いさんがたは手段を選ばない方法も考えとるみたいだが、まだ実行に移すような状態には陥っていない。
彼の実力と、オールマイトさんの存在が抑止力となっている。
問題は……オールマイトさんが引退するようなことがあったとき。
そうなれば必ず動く。なにか後ろ盾を得ねばならない。
上層部はどれだけ強い力があろうとも子供だからと無礼てる節がある。俺はあれが
流石に弟や家族を人質に取るような卑劣な行為はしないと願いたいところだが……。逆鱗に触れればどうなるか。
俺の私見だが彼の中に存在する優先度はこうだ。
市民<知り合い<クラスメイト<親しい友人<家族<弟=自分。
そういった感じだと思われる。*3
つまり親しい友人を含め、家族の誰かに何かあれば間違いなく敵に回るだろう。*4
俺自身、ヒーローが暇を持て余す世の中にしたいとは思ってるけど、子供の未来を奪ってまでそんな世の中は欲しくない。
そういうのは大人がやる役目だ。というかふざけんなって話。流石の俺もドン引き。
君は気づいてるのだろうか。それとも気づいててなお、問題ないと思っているのか。
ま、緑谷くんの実力なら問題ないでしょ。俺、なんか彼に嫌われてるみたいだけど。
俺個人としては面白くて好きなんだけどね。いつもトラブルばかりで人生楽しそうだ。周りも釣られて笑顔で、まさしく理想の未来図といったところ。
さ〜て……そろそろ現実を直視しなきゃなんないかなぁ。
期末試験。これは別件の極秘のことなんだけど。
頼むから
――いやいや、流石にそこまでやらないと思うけどね。
……雄英大丈夫かなぁ。
――期末試験当日。
筆記試験は問題ないだろう。まず間違いなく満点。
元々脳を鍛えてた人間だから見て正確な答えを導き出すまでが早いのだ。
凡ミスは絶対にない。
成績も誇れるお兄ちゃんで居なくちゃならないのだ。
クラスメイトは勉強会をしたが、終了後何人かヤバいと言っていた。
教えた以上は赤点回避しなければ俺は許さんぞ。
人がわざわざ大事な時間を作ってやったんだ。
「実技は何になると思う?」
「さぁ、先輩たちに聞いたら行ったら分かると言ってたしな。まぁロボを単純に倒すだけの簡単な試験にはならないだろう」
「大丈夫だろうか……」
「環なら大丈夫だろ。お前は強い、誇れ。ファイト」
「転間……」
本当にこいつは自信さえあればいいのに。
応援するように背中を軽く叩いてやると、少し顔が引き締まったようだ。
「ねー天喰くんはもっと自信持った方がいいと思うな。転間くんみたいに」
「それは無理よ、ねじれ」
「転間みたいにはちょっと……」
「なんで俺の悪口になってんだ」
「じゃああんた、実技落ちんの?」
「は? 突破するに決まってんだろ俺はお兄ちゃんだぞ」
「でしょうね」
「うんうん、転間くんだね」
「転間だ」
慣れた様子で微笑ましげな視線を向けられる。
当たり前だろう。俺が試験を落ちるなんてあってはならない。常に最高の記録を叩き出すのが俺。そうすることで弟は俺の活躍を目にできる。
つまり誇れる兄!!
「また何かやったのかーお兄ちゃん」
「ええー。もう勘弁してよ。やっとテスト終わったのにぃ」
「流石だぜお兄ちゃん」
「ことある事に俺をお兄ちゃん呼びするんじゃねえっ!」
「いやーずっとお兄ちゃんお兄ちゃん言ってるじゃん」
「もう渾名でいいんじゃない?」
「緑谷お兄ちゃん?」
「緑谷にーにとか?」
「へい兄貴」
「おにいたまー」
「ちくわ大明神」
「お前らみたいな出来の悪い弟や妹なんていらん。――待て、誰だ今の」
「ひでぇっ!」
「容赦なさすぎぃ、ウケる」
「バッサリいかれたー」
「じゃあテスト自信ないやつ手挙げろ」
「さーて実技何かな!」
「よーし頑張るぞー!」
人をお兄ちゃん呼びしてたヤツら全員脱落かよ。
赤点取ったら本当に覚えとけよ、難問課題作ってセメ先に渡して配るからなお前ら。
というか結局ちくわ大明神言ったの誰だよ。
「転間お兄ちゃん?」
「お前も真似すんな」
「凄く違和感あるなー。それに……やっぱりやだ」
「俺も嫌だから安心しろ。そのままで居てくれ、頼むから」
お陰でねじれまで真似してきたし。
前も別の呼び方話しあったことあったが、こいつがお兄ちゃん呼びに参加してくることは今までなかったというのもあって慣れてないせいで他の奴らより違和感半端なかった。
やはり俺の弟はひとりだ、うん。
そんなたわいもない話をしながら全員コスチューム姿で移動していたら着いたのは良いのだが――
――先生多くない?
セメ先はまだしもイレ先やマイク先生、校長にミッドナイト先生、13号先生、ブラド先生、エクトプラズム先生、スナイプ先生、パワーローダー先生。
あー……予想出来た。
2年はロボじゃなくて教師と戦闘ってわけだ。
そりゃそうか、1年に比べてレベルが違うしロボなんて用意されたところで、ただでさえ体育祭で余裕だったのに今更出してきてもな。
「今回の試験内容は
それぞれの対戦相手と組み合わせが書かれているが、俺の名前が足りない。
というか1組だけ3人のところがある。
いや、俺だけじゃなくって。
「波動ねじれさん」
「私?」
「天喰環くん」
「お、俺……!?」
「そして緑谷転間くん」
「ん?」
校長が呼んだ3人、つまり俺たちなのだが。
名前を呼ばれたことに首を傾げる。二人とも同じ反応。
ちょうど書かれてないのが俺たち3名だからだ。
「この3人には
その言葉に俺は驚くことなく、何となく納得出来た。
ねじれは気合いを入れて、環は絶望してる。
っておい。
そりゃ体育祭でトップの成績なんだからこうなるだろう。恐らくだが、ミリオも単体だろう。頑張れ。
「ちなみに天喰、お前は俺とブラドだ」
「全力で行かしてもらうぞ」
「イレイザーヘッドとブラドキング……!? 転間、俺ダメかもしれない……」
「待て待て、諦めるのが早すぎる。大丈夫だって、イレ先なんて殴っちまえ。ボコボコにしろ! あとブラド先生に復讐のチャンスだ! 俺の分まで頼んだぞ!!」
「何が復讐だ、緑谷」
「お前、後で職員室来いよ。ブラドと共に説教するからな」
「理不尽」
「私は私はー!?」
「波動さんは俺とですね」
「ソシテ俺ダ」
「セメントス先生とエクトプラズム先生かー! 担任の教師だからって加減しないよ!」
割と考えられてる相手だな。
環は再現の個性は強いから封じられたらどう戦うのか。で、近接戦闘してくるブラド先生。掻い潜るしかないだろう。
ねじれは量と数で攻めてくるセメ先とエクトプラズム先生は厄介だろうな。
……あれ。この人選だと俺はどうなる? ぶっちゃけ残ってる面々だと俺の個性と相性良いと言えるの13号先生では?
火力で押し切れる自信しかないけどな。
「緑谷くんには特別な相手がいるのさ」
顔に出ていたか分からないが校長の一言で、ふと上空から赤い羽根のようなものが落ちてくるのが見えた。
――うわぁ。
「や、久しぶり。緑谷くん」
「本気で消し飛ばしていいですか?」
「待って待って。俺そんな君に何かした!?」
「仮免で2年を相手せず俺相手にひたすらリンチしたくせによくそんな口が叩けるな……ホークス……!!」
そう、去年の仮免。
ギャングオルカと共に俺を狙ってきたNo.3のヒーロー。
『速すぎる男』なんて呼ばれていて、ちょこまかと攻撃してくるせいで個性の制御をするのがかなり面倒だった。
攻撃避けるの苦労するし反撃しようとしたら避けてきて、その後ろからは音波は飛んでくるし。
ただでさえ他校の相手をするために1次試験でかなり脳にダメージが入ってたから、そこからトップヒーロー二人は俺でも半ばキレる。
流石に“最初は”加減してたみたいだが。
「いやぁ〜だって君、普通に対処してきたじゃん。攻撃全然当たんないし、とんだクソゲーをやらされた気分だったよ。あんなん一人とか無理無理」
「俺の方こそ無理だったが!? お陰であの後、こちとら頭痛に苛まれてたんだからな!! 音波のせいでただでさえ負荷のかかってた脳に更に負荷が掛かって吐きそうになったし!」
「マジ? そりゃトップヒーローとして頑張った甲斐があるね」
「この野郎、そのイカしたサングラス絶対に破壊してやる」
「褒めながら怖いこと言わないでくれる? おかしいな? 緑谷くんって、こんな子だっけ? 真面目で完璧と言うくらい優秀な生徒って情報だったんだけど」
「そいつはそんなやつです」
「イレイザーヘッドさん程の人が言うならそうか……もっと真面目なイメージがあったよ」
「どういう納得してんだ、あんた」
最近、俺の評価がおかしい気がする。*5
というかイレ先が言うならってどういうことだよ。
この人、もしかして俺の事をめちゃくちゃ調べてたりする?
――キッショ。*6
「ちなみに試験内容は鬼ごっこ、制限時間内に俺を捕まえることが出来れば君の勝ち。簡単だろ?」
「じゃあ羽もぐか」
「こわっ! 流石にそれは勘弁!」
割とマジで言ったが、羽を抱くようにホークスが数歩下がっていた。
……てか、1人?
おかしい。俺の相手が1人でいいのか?
正直瞬間移動と高速移動だけでこの人を捕まえるくらい簡単なのだが。
……いや。嘘だな、この人。何か隠してる。
そもそも俺の個性を知ってる人がわざわざ独りでここにいるってことは必ず何かあるってことだ。
それも俺に対抗し得る実力者が間違いなくいる。
「本当は? 試験内容も違うだろ?」
「へえ……やっぱり気づくか。ま、ついてきなよ。先に行ってる。君には
そう言って先に飛んでいくホークス。
俺に適任……まさかオールマイト?
ついにこの時が来たのか。長年の復讐、そして俺の必殺技を与える時……!!
覚悟しろ、オールマイトォ!! その命、俺が貰い受ける!!*7
「転間くんっ! 天喰くん! お互いがんばろー!」
「ああ、そっちも頑張れ。環もな。勝って思い知らせてやれ、お前の実力。恐らくミリオも俺たちと同じ条件で戦うことになる。負けられないだろ?」
「ミリオも、か……そうだな。俺、頑張ってみる……! 転間にも必ず追いつく」
「ああ、その意気だ。どうせなら勝って祝勝会がいい。海が俺たちを待ってるだろ? 環、あとねじれもな」
「むう、ついでみたいなのは不満」
「――心配してないだけだっての。お前なら勝てるだろ」
頬を膨らませるねじれに後頭部を掻きながら告げる。
俺とあそこまで戦えるやつを心配したって意味がないだろう。
その意味が通じたのか。
「そっか……うんっ! その期待に応えるよ、ううん超えるから。転間くんに並び立てるように!」
「じゃあ、勝って見せろ。次会うときは勝って再会だ」
そう言って拳を突き出すと、意図を読んでくれたのだろう。環もねじれも同じように拳を突き合わせていた。
いわゆるグータッチ。*8
それから俺たちは、それぞれ別の会場へと向かう。
その前に。
「緑谷、今回は本気で言うぞ。必ず無事に帰ってこい、死ぬなよ」
「……確かに本気みたいですね。でもまあ、死にませんって。俺が誰か分かってるでしょう?」
「……相手が相手なんだ。今回ばかりは
そんな意味深な発言をするイレ先の言葉はやけに耳に焼き付いて、気になったが。
そんなイレ先を安心させるならひとつしかない。
「イレ先って本当に心配性ですよね。それとも俺のことそんな好きなんですか。申し訳ないんですけどそっちの気はなくて」
「俺は真面目だと言っただろう。こういうときまでからかうのは――」
分かっている。
イレ先がこういう時に冗談を言うような人物ではないことを。つまり相手は、俺の命が危うくなるレベルの敵。
やはりオールマイト。
ただそれでも普段通り、イレ先を安心させるべく言ってみせる。
「誰が相手かは知りませんが……大丈夫ですよ。イレ先。俺は
お兄ちゃんは
ただ笑顔でそう告げた。
自信満々に。
俺という存在の全てを表す言葉と共に。
俺が辿り着いたのは俺が原因で生み出されたグラウンドΣ
ここに来るのも懐かしいな。
新1年を相手にした時くらいだろうか。
ここでオールマイトを殺せる*9とはな。必殺を開発した場所で息の根を止められる*10とは、因果なものだ。
先に辿り着いていたホークスが手を挙げて場所を示していたため、ポキポキと関節の骨を鳴らしながら近づく。
ホークス以外には人は居ない。絶対羽を全部捥ぐ。
てっきりここにオールマイトが来てるのかと思ったが――
「ルールは根津校長が言ってた通り、捕縛か戦闘不能。相手、もしくは自分が降参すること。ごめんね、今回は内密なことだから」
「だろうな。相手が相手だ。で、俺の対戦相手は――」
「
ホークスがそう言った途端、影が差す。
俺たちを覆うような巨体。この触角!! 忘れるわけが無い!! 出久に会いに行ったら怪しまれるしガリガリしか会えないとわかってた。
だからこそ、長年待ち望んだんだ!!
俺の相手はやはりオールマイト――!!
「
「――は?」
思考が固まる。情報が理解を拒んだ。
目の前に降り立った人は
長いオールバックの金髪をオールマイトを連想させる八本の触覚状にセットされ、その身に包むのはオールマイトを彷彿とさせるスーツで、肩には星条旗のストライプ柄のマントを羽織っている。
その姿は、そのヒーローは、聞いたことがあった。
――アメリカという大国におけるNo.1ヒーロー。
「スターアンドストライプ――アメリカのNo.1ヒーローと言えば分かるだろう? あんたがテンマミドリヤ、オリジンだね?」
「は、ハハ……マジ、か……」
個性は知らない。No.1だということもあって、彼女の個性は隠されている。名前は確か知られていたはずだが。
だが分かる。この人はまた
冷や汗が流れる。圧倒的な圧力。強者が放つ闘志。
心臓が昂りを覚えたかのように鼓動する。だが何より、高揚感。
きた。ここまで。
長い日々だった。
――俺が最強へと至れる、またと無いチャンス……!
「すぅ……はぁ……。一つ質問しますが、よく来ましたね。貴女ほどの人が簡単に国内から出られるとは思わなかったですよ。正直予想外でした」
深呼吸をして心を落ち着かせると気になったことを聞く。
アメリカのNo.1ヒーロー。彼女がここに居るのがどれほどの意味をするのか分からないわけがない。
今、アメリカには最強のヒーローが居なくなっているという状況だ。
簡単に言えば、オールマイトが海外へ行って日本から消えている状態。
ヴィランにとってそれがどれだけ有利な状態なのか。
「職場体験で私の指名を蹴るような人物。そして
「感謝、ですか?」
「海の怪物事件。あれは私の国でも影響があってね。こちらの国でもヒーローを派遣する検討をしていたところ、アンタが解決したってわけだ。海の上となると戦えるヒーローは限られる。お陰でこうして来ることが出来た」
――シリウスさんに“運命”と言われたことを思い出した。
例の事件。彼女が来訪出来たのはこれが理由か。
確かに海の上で戦うとなると俺みたいに落ちない人か飛行出来るヒーローしかいない。
実際あのままあの三体が存在していたら多大な被害が出ていただろう。
余計なことしかしないな、AFO。
いやこの人が来るきっかけになったことだけは、感謝したっていい。
あの事件のお陰で俺が成長し、この人が来ることになった。*11
「
「なるほど、つまりは大人の我が儘ですか」
「そう、我が儘。何、私が少し離れる程度問題ないさ。向こうには頼れる仲間たちがいる。ランカーのヒーローたち、
まさしく行動力の化身だ。
自由の国と言われるだけある。この人もかなり自由人だな。
職場体験蹴ったのはまあ、結果的に来ることが出来たんだから許してくれ。
海外が面倒だった。
「……俺は胃が痛いですよ。公安に連絡がきた時は開いた口が塞がりませんでしたし、時間を作ったからお忍びで日本に来る時、オリジンと戦える舞台を整えてくれって……いや、もう本当に心臓が止まるかと……!」
「HAHAHA! それはすまないね! だけどまあ……確かに
雰囲気が一気に変わる。
笑顔から変化し、険しい顔だ。俺を本気で警戒している。
スターアンドストライプ――実力は未知数。
分かるのは頂点に位置する存在。
オールマイトに並ぶ存在。
いや場合によっては超える。
「私も
「ま、マジですか……貴女ほどの人にそこまで言わせるなんて……やっぱり人間じゃないでしょ緑谷くん」
「そういうことだ。悪いけど私は
「……!!」
「俺に向けられたわけでもないのに……この、圧……!? 間違いなく本気……! 本当に大丈夫だよな、緑谷くん……! 俺個人として君には死んで欲しくないぞ……!」
明確な殺意。本気の殺気。
近くにいるホークスが汗を掻きながら距離を大きく取るだけある。
日本のNo.3ですら後退らせる圧倒的な威圧感。
アメリカのNo.1ヒーローに本気で来ると言われれば、怖気付くだろう。そうなるのは当然だ。
ホークスが弱いわけではない。それほどまでに、
エンデヴァーでも勝てない。間違いなく。
「死ぬ、か……スターアンドストライプ。面白い冗談を言うな」
「ん? 冗談……ね。どういうことだい?」
だがそれを受けてもなお、俺は笑みを浮かべるだけだ。
むしろ加減しようものなら俺が最初から必殺技で殺しに行ってただろう。
この人を倒し、勝ち、俺は辿り着く。
最強へと。
出久、お兄ちゃんはここまで来た。あの時の約束を果たせる世界まで。トップまで。
この人を倒し、いずれはオールマイトも倒す! だが
その後はただひたすらに成長を続け、弟が、出久が最高のヒーローになれる瞬間を見届けるのみ。
アメリカを背負ってる? それがどうした。そんな
だからこそ、これだけは言わないといけない。
これだけは告げねばならない――
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど――」
「そっちが
「ハッ、面白いバカだ。いいね、私好みだ!!」
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい