どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
――電気がハンマーのような形を作っていた。
まるで神話の神のようだ。
いくら体を治せても消費した血液的にまずいかと思っていた。
だが、もしかして俺のお兄ちゃんパワーって万能だったりするのだろうか。血液不足に陥っていない。
流石だお兄ちゃんパワー。
ただそのせいだろうか。それとも個性の使いすぎで脳に負荷を掛けすぎた影響だろうか。はたまた万能感の影響か。
気持ちだけが昂っていた。
――最強の全力! 本気ッ!! これを待っていた! こっちも切り札だッ!
蒼と赫。
全盛期オールマイトを見据えた俺の技。
これで全てが決まる。
2つの力を合わせる。
合わせて。
合わせて。
合わせ……。
アレ?
ま、ままままままマズイ!!
合わせられない!? 何故!? 出力が足りてない! 何が原因だ!? 俺の想定だと一発打てる計算!!
どこだ、何だ!? どのタイミングで計算が狂った!?
思い出せ! 今日の出来事ッ!*1
――ハッ!?
最初の防御→黒い光→自覚前→無意識の全身回復→滅茶苦茶消耗→脳の回復→個性を普段の倍以上使用→回復回数は増えてたけど脳の負荷ピンチ→体力ギリギリ→脳限界→お兄ちゃんパワー不足回復不可。
お前のせいかお兄ちゃんパワーッ!! 何してんだ! もっと気合い出せ!! その程度で俺の出久愛をカバー出来ると思ってるのか!? この役立たず! いつも脳の回復にはお世話になってるからありがとう! だが肝心なところで不足してどうする!?*2
限界? 知るかっ! もっと出せ! 出せるだろお前ッ!! 最後の一滴まで絞り出せッ! 甘えんなッ!!*3
完全に想定外! どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする――助けてくれ出久ゥ!!
ということで。*4
何処かの教室。
黒板の前に俺は立っていた。目の前には出久がいる。
これはイマジナリー出久だな。完成度の高さには我ながら惚れ惚れするが、俺の目は誤魔化すことは出来ない。お兄ちゃんなら弟が本物か偽者か分からなくてはな。
『改めて状況を整理した方がいいと思うんだ』
黒板に文字が浮かび上がる。
さっき俺が思い出したことと同じ。
やはり最初の回復が問題だ。
『転間兄ちゃんは今まで基本的には防御に力を注いでたよね』
『そうだな、正面からは脳の許容範囲内なら保ち続けることが出来るから破られることないし、オート化してからは回復さえしてれば問題なかった。当たりさえしなければフィジカルで何とかなるしな。あと蒼の反応を乗せたらよっぽど強いやつ相手以外なら今は火力十分足りるし』
『うん。だから今回はこれはいいとして、問題はやっぱりスターにやられた最初の一撃だね。その時の回復にたくさん使っちゃったみたいなんだ』
『そうなんだよな……』
『明確に自覚したのがこの後だもんね……』
ゲージが表示される。
普段の脳のフル回復が0.5割くらいの消費としたら今回は全体の3割ほど一気に削られている。これは無駄にお兄ちゃんパワーを注いだのが原因だろう。過剰すぎる回復だ。
しかし意識を失う前に消費されていた、つまりは防御に使っていた時のゲージは全回復している。恐らくゾーン状態になった時の影響か? でもそれは無駄に回復する前だ。
それから今に至るまでの消費量が表示される。
今は俺の残量的に0.3くらいだろう。そりゃ足りないわけだ。脳のキャパ限界寸前。お兄ちゃんパワーも足りないと来た。
『血液を補填出来たのはいいことだね。だから今こうして戦うことが出来てた。あの黒いやつも一定の出力が戻って扱いが上手くなるみたいだから負担も減るみたい。だから転間兄ちゃんが普段の限界分の個性を使っても全然問題なかった。そこで計算が狂っちゃったのかも』
『この量から考えるに、今転間兄ちゃんが出せる最大火力はどれくらい?』
『蒼がギリ最大出力を出せるかどうか。赫は……頑張っても60%くらいだな』
『あのスターの攻撃、蒼で防げると思う?』
『無理だな』
『だよね……でも赫となると……多分時間が足りないと思う』
『確かに今の俺の状態で出力を高めるのは少々時間が必要そうだ……あれ、つまり?』
『詰んだかも』
『詰んだな……』
うん、と互いに頷いた。
流石出久だな。
賢い。天才! ちゃんと戦況を整理出来て偉いぞ!!
本物はこれより優秀だ。流石俺の弟だ出久!!*5
『降参するしかないかも……』
『やっぱりそれしかないのか……』
『僕、転間兄ちゃんに無理して欲しくないな。また次に勝とう? このまま無理して戦って、何かあった方が大変だし……』
『出久……』
――現実に引き戻される。俺の中の出久も俺も、出した結論は同じだった。*6
どうやら降参するしかないらしい。あんなこと言っておいて自分が降参するとか情けないが、引き際くらい弁えている。
悔しいが、命あってこそだ。
死にはしないけど絶対痛いし。今のこの状態だと防げないしな。相殺も無理。その力はもうない。
整理し、息を吐くと頭は冷静になっていた。
俺、またハイになってたな……今回は念願の最強を相手にしたんだ、こうなるのも仕方がない。また黒歴史として封印しておこう。
決めた以上は降参するために足を一歩動かす。
崩れる。
意識が薄らいでいく。
――なん、だ……。急に、眠気が……。力が、抜けて……。
――死を間近に、敗北を感じたからなのだろうか。自分の肉体が限界を迎えたのか。それは自分でも分からなくて。
ただ視界が真っ黒に染まり、俺の意識が急激に“ナニカ”に持っていかれる。
――ここ、どこ?
青く晴れ渡り、どこまでも澄んだ空と景色。
まるで大空のような
体の痛みがない。なんなら頭痛も消えて万全の状態になっている。やはり夢、なのだろうか。
大空の中にポツンと召喚されればこんな感じなのだろう。死んだ訳では無いのは分かる。
待っていても仕方が無いので周りを見渡して歩いていると、人影が見えた。
一人、俺以外に誰かが居る。
椅子の背もたれに持たれるのではなく、背もたれを前にして座る、いわゆる逆座り。その状態でただ真っ直ぐにこちらを見ている。
おおよそ計算すると190くらいはあるだろうか。俺より、ミリオより遥かに長身の白髪の青年。
――いや、胡散臭っ。
『おっ? 君は……ああ、そういう……。術師同士は相手と繋がることがあるらしいし、それっぽい感じかな。それとも僕と同じだから、か』
何者だろうか、この人は。
周囲を見渡してもこの人が居る以外に変化はないようだ。送る視線が特にないので俺は男に目を向けて、何やら考え事してるようだったのでしばらく見つめていた。
『……ん〜? どうしたの、そんなに見つめて。ああ、ふーん……僕のかっこよさに見惚れちゃったかな? ま、
いやうざいなこの人。
初対面で俺にそう感じさせるなんて、何者だこの不審者。ある意味凄い。
そもそもどこだよここ。
少なくともこの人は濃いクラスメイトたちに負けず劣らない性格をしてるんだと今の一瞬でわかった。
『誰だ?』
『僕? 僕のことは、今はただの“先生”って思ってくれたらいいさ』
『先生?』
『そっ、教師をやってたからね』
名前は教えるつもりはないのだろう。
目隠し先生と呼ぶことにしよう。
目隠し先生は立ち上がると、身軽に椅子の背もたれに立ってゆっくりと椅子の前に着地した。
椅子が消えている。やはり普通の世界ではないようだ。傷もない。椅子も恐らくこの人の意思で消えた。
じゃあここは夢の世界か。
『僕のことは今はいいよ。それより君、本気?』
『何がだ?』
『またまたぁ〜惚けちゃって! 分かってるんじゃないのぉ? 最強を目指してるくせに、諦めるしかない……だなんて思ってるでしょ。まさか、そんな甘い考えで本当になれると思ってんだったら期待外れ。というか弱すぎて話になんないね』
初対面の人にクソほど煽られる。
これほどムカつくものはないだろう。人のことを知らないくせに。こっちはもう引き出せる力が限界なんだ。
むしろ誰が好き好んで降参なんてすると思うのか。俺が目指してるのは最強だぞ。
一発殴ってやろうか。
『ははっ、無理でしょ。傷一つ付けられないって。君弱いもん』
『覚悟しろよお前』
嘲笑した発言。
人の思考を読んできたことはこの際どうだっていい。人の今までの努力を全て否定して来るような発言には流石に俺もキレた。
瞬時に加速した俺は一直線に拳を叩きつける。
叩きつけ……叩きつけられない!?
静止している。いや延々と近づかない。つまり俺と同じ!
ふ、と息を吐いて肩を竦める目隠し先生にますますと苛立ちを感じる。
『ほらほら、さっきの威勢はどうしたの? 僕は1歩も動いてないよ〜? ああ、それとも僕から触ってあげようか? ん? こっちだよ〜こっちこっち。ほら、ハイタッーチ!』
デフォルメになったかと思えば手を小さく振って、自ら近づけようとしてくる。
――本当にイラつく煽りをしてきやがるなこいつ。
咄嗟に距離を離すとハイタッチは空振りしていた。
『ありゃ、せっかくハイタッチしようとしたのに』
真面目にやる気ないのか。いちいち癪に障る。
同じ個性なら同じ個性をぶつければいい。矛盾ってのはどう足掻いたって保てるものではない。
破る方法なんて俺なら簡単に出来る。
引き寄せる力。指向性を持たせ、防御ごと打ち破る。
『ふーん……なるほどね。そんな感じか、面白いな。撃ってきたら?』
何をするつもりなのか理解しているようだ。
まぁいい。本人だっての要望だ。
怪我じゃ済まないだろうが自己責任ということで容赦なくやらせてもらおう。
『本気で撃ってきてごらん。手本を見せたげる』
ただ体の凝りを解すように動かしている。両手を伸ばして、そのあとにクイクイと手招きしてきた。
俺の力を理解しておきながらも、まるで何も問題なさげに動こうとする様子もない。
本当に避けないのか? 俺と同じ力である限り、この人の防御は俺なら無効化出来るんだぞ。どうなっても知らないからな。
時間をくれるなら最大出力を解き放つ。
『だったら――蒼』
『術式順転――蒼』
その瞬間。
俺と全く同じものが放出され、あっさりと俺だけが吹き飛ばされた。
咄嗟に発動した防御突破されたし。無茶苦茶痛い。
――チートじゃねえか。何だこのバケモノ。世の中にはこんなやつもいるのか。
なら応用でぶっ飛ばすしかない。
『こっちなら――』
『術式反転――赫』
赤い衝撃波。
同じ力だというのに、またあっさりと押し負けた俺は全身から血を噴き出しながら堪え、両手を地面に突いた。倒れなかったのも吹き飛ばなかったのもただの意地だ。
防御に関しても収束に関しても俺以上。応用すら勝てない。これは技の方を撃っても同じ結論だろう。相手も使えると思っていい。
……規格外め。目隠しのくせに。同じ力なのになんでここまで差がある? 大きさは同じだ、密度が違う……?
『うん、やっぱり雑。自覚したばかりだからか? 僕の術式とは厳密にはちょっと違うみたいだけれど……術式じゃなくて個性ってやつだからかな。ただ呪力に関しては憂太みたいだね、君』
『だ、誰だよ……何を言ってる……?』
『僕の元生徒。今の発言に関しては気にしなくていいよ、自ずと分かるでしょ』
そういえば教師をやってると言ってたか。
憂太ってのは人の名前だろうが呪力ってなんの事を言っている……? 術式ってなんだ? 全く分からない。
……そんなことより体中が痛い。
それに何故か肉体を治すことができない。何故だ……? 夢の世界だからだろうか。夢なのにこんな痛い経験しないといけないのかよ。
『まぁ、僕ほどじゃないとはいえ六眼なしに扱えてるのは十分
俺の目の前に座り込んだかと思えば、目隠しを外して顔を近づけて来ると至近距離で見つめてくる目隠し先生。何やらニヤケ面で色々と言っている。
『宿儺の器の悠仁を見た時くらいの衝撃。僕ですらびっくりだ。正直、僕たちの世界に居たなら君は間違いなく
俺の記憶でも読む力があるのか。はたまたこの謎の空間が原因なのか。
俺はこの人を知らないはずなのに、この人は俺のことを知ってるかのように感じた。
しかしそれよりも、目隠しを外した男の瞳が気になった。
青に染まっている。
結晶や宝石のようにも見える、男の俺ですら綺麗だと感じてしまうほどの鮮やかなライトブルー。
この眼を見て見惚れない方がおかしいのでは、と思ってしまうほどのもの。この世のものとは思えず、この世界を形成してるものと同じだ。
視線がただ吸い込まれていた。
――自分で言うだけあって顔もいいなこいつ。あとちけーよ。男同士でキス寸前まで近い位置にあるとか誰得だよ。
『まぁ何、別世界のさらに別世界。前世……ってのがあるにしたって、ここまで独学で身に付けたのは素直に尊敬に値するけどね。ただ、まだまだ力の使い方がなってない』
立ち上がった目隠し先生の手によって俺も立ち上がらされる。
敵……ってわけでもないらしい。というか多分試されていたんだと思う。あの煽りも俺に本気を出させるためだったのだろう。
それはそれで手のひらの上みたいでムカつくが、今はこの人の発言だ。
……さらっと俺に前世の記憶があること気づいてなかった? いやそれより。
『力の……使い方……?』
『その力はただ“収束”させるだけじゃない。もっと別の力。変質した理由は……“アレ”かな。ああ、呪力は“縛り”かな? いや違うっぽいな……。ヤバ、六眼の情報と一致しないし僕ですら分からなすぎて理解出来ねー。言えることは、“分からない”』
『いや分かった風に言っといて分からねぇのかよ』
『まあまあ。でも言えることはあるよ。君が持つ力は僕と同じ力――つまり本当の力に気づいてないってこと。それを自覚した時、君は更に高みへと登れる。――辿り着けるかは君次第だけど』
……なるほど。
ダメだ、知らない単語ばかり並べられても流石の俺も理解ができない。
そりゃ人間知らない……例えば身近だと英語以外の海外の言語。
その単語ですら並べまくられたら理解出来ないだろう。それと同じ感覚だ。何が何を指して何の意味を持ってるのか分からない。
ただ話から唯一分かることはある。
俺の個性は“収束”ではないと言いたい……のか?
正確には変質した? 元は収束だったのか? わからん。
反転した力。脳や肉体を治癒させる力。それどころか血液すら補填している。欠損した肉体の再生はしたことないけど出来る気もする。他人は、分からない。
確かに個性とは全然一致はしていないだろう。せいぜい自力で身につけたのは脳の処理能力と肉体のみだ。
『君は聡い心を既に持っている。足りないのは絶対的な強さ。大切な人を守りたいならなってみせなよ、僕や宿儺を超えるような、そんな最強に。こんなところでただ負けるんじゃなくて、諦めるんじゃなくて、最後まで窮鼠猫を噛むように抵抗して来なさい』
額に指を突きつけられ、体が後ろに倒れるとスカイダイビングするかのように落ちていく。
体の自由が利かない。
たた何処か慈愛に満ちた瞳を俺に向けてたのだけは分かった。
『――悟。誰に言ってるんだい?』
『ん? 傑か……。遠い生徒に少しな』
『遠い……? 誰も居ないだろう。ついに幻覚でも見たか?』
『あぁ゛!? ダレがぁ!? 領域も展開してないのにこの“眼”もあって見るわけねえだろ!』
『それもそうだな。ところでその腕は?』
『……ちょっと掠った。いずれ僕を超える存在になるかもしれない』
『へえ、悟より、か。なるほど、彼か。その割には随分と楽しそうじゃないか』
『まーね』
会話は聞こえない。
白髪の目隠し先生が親友に絡みに行くように黒髪の男性に腕を回す姿を見たのが最後。
大空から落とされて、落ちて。
海へと沈む。
そこで猛烈な眠気に襲われた俺は沈むように意識が遠のいた。
――緑谷転間。いくら“最強”でも“孤高”は侘しいもんだよ。大切なモノは手放さないようにね、頑張りなよ。
――今の記憶は一体……夢?
だが不思議だ。妙に覚えている。
あの人は同じ個性を持っていた。つまり個性と個性。空間と空間。
ダメージは変わらず残っているが、あの空間で受けた傷は一切ない。だからあんなにも容赦なかったし俺の傷も治らなかったのか。
先の急激な眠気は今の夢に俺の意識が引き込まれたのか? 個性に取り込まれた?
同じ力みたいなこと言ってたし、共鳴でも起きた? にしては存在しない記憶だったけど。分からない。
どうだっていい。
――今はこの記憶が俺を導いてくれる。どうやら降参する必要はなさそうだ。
出久、悪いな。
いや気にしなくていい、か。ちゃんと対抗手段を持ってるなら出久はそう言ってくれるはず。
「これが私の全部だ!!」
「ミョルニル!」
雷の槌が迫り来る。
その名の通り、雷神トールが振るったとされるミョルニルそのものに感じてしまう。
直撃しないコースだ。だが直撃しなくても地面にぶつかっただけで体は動かなくなるだろう。これほどの威力なら逸れても痺れる。
そのまま痺れさせて動きだけを止める算段ってわけか。確かに俺の意思関係なく麻痺したらどう足掻いても動けない。しかも最初に俺に大ダメージを与えた時と同じ圧を感じるし。
防御に回せば防げる。ただし負ける。
攻撃に回したらどうなるか。
勝てない。今の出力だと必殺技が出せないなら無理。
普通なら、勝てない。さっきまでの俺なら無理だった。
だが今は違う。
記憶を思い出す。
頭の中にある言葉、意味も何もかも分からないものの、呪文? 呪詞? なんかよく分からないが浮かび上がる。まるで知らなかった知識を押し付けられたかのような。
あの目隠し先生のお土産だろうか。なんだっていい、使えるものは使わせてもらおう。
時間が無い。
やれるかも分からない。
いいや、やれるはずだ。足りない出力を戻す。足りないお兄ちゃんパワーを補填する。
一か八かの賭けに出る!!
「位相 波羅蜜 光の柱――」
「出力最大――赫」
引き出せる60%を超え、最大の100%。
限界を超えた赤い光が解き放たれる。
今までとは比にならない一撃。
互いの攻撃が直撃し、世界を揺らすかのような衝撃と轟音が鳴り響く。
初めてのアドリブ技。
自身の肉体が吹き飛ぶ感覚と共に世界が真っ白に染まった。
――光が世界を覆ったかと思えば俺の体も巻き込まれていた。
全身が痛いし、所々焦げたような跡もあれば体も少し痺れてるし血も流れている。
ゴーグルも壊れてしまっていた。生きてるのが奇跡のように思える。
だがそれより自分のやるべきことを思い出して、顔を上げたらグラウンド∑は消し飛んでいた。
言葉通り、消し飛んでいる。完全に。全部。
――なんて威力。じゃない!!
「スターさん! 緑谷くん!!」
二人は無事なのか!?
最悪相打ちにでもなったのでは……と思うと顔が真っ青になる。
いくら俺でも楽観出来る状況じゃない。
ダメージが大きいせいで上手く飛行出来ない上に速度も遅いが、ゆっくりと飛んで二人を探す。
どこもかしこも酷い有様だ。空中に居て離れていた俺が巻き込まれたこれほどのダメージなら当人たちはどうなる!?
地底に落ちた可能性もあるが、今は地上を最優先に探す。
どれくらい掛かっただろう。
体感的には数分だったが、あからさまに違和感のある瓦礫見えた。
すぐに着地すると、個性が解けて画風が戻っているスターさんが埋まっていた。
「ホークスか……無事だったみたいでなによりだ」
「そちらも……ええ、ほんっとに! てっきり死んだのではないかと……!」
内心で安心しながら急いで羽根を飛ばして瓦礫を持ち上げると解放する。
「HAHAHA! 死にかけはしたけどね! 個性も限界で保てすらしない!」
「笑い事じゃないですよもう! それで緑谷くんは!?」
あのスターアンドストライプが頭から血を流しているだけでなく、コスチュームすら所々破けている。
覆っていた生地が消えている腕や足も同様血が流れていて、まさに全身ボロボロといった様子。
彼女でこれならただでさえボロボロな緑谷くんはまずい状況下にあるかもしれない。
「私の負けさ、ホークス」
「……はい?」
「最後の最後、威力そのものを殺すように蒼い光が見えた。あれほどの力と力がぶつかりあったらもっと吹き飛んでいる。想像以上の火力が飛んできたから私も動いたけど、私よりも彼の判断が早かったんだ。それに……攻撃だけに力を注いでたなら勝ったのはテンマミドリヤだろう」
視線を追うと、スターの背後には意識を完全に失っている緑谷くんが倒れていた。
また全身血だらけになっているが、出血量大丈夫なのだろうか。顔色は悪くないことから血液が不足してるわけではないみたいだけど。
息はあるようで呼吸をちゃんとしている。やっぱり緑谷くんって不死身なんじゃないだろうか。もう今回の戦い見たせいで緑谷くんが死ぬところが想像出来なくなったよ、俺。
少なくともスターさんが近くにいるってことはあの力がぶつかりあった後はスターさんが守ったのだろうけど。
「確かに私は試合には勝ったが、勝負は間違いなく彼の勝ちだ。彼は間違いなく、“最強”で“最高のヒーロー”になれるだろうさ」
「――いや良いこと言ってる風ですがどうだっていいです。勝ち負け云々もどうだっていいです。それよりあんたらやりすぎです。これ試験だって忘れてますよね!? 見てくださいよこれ! グラウンド消し飛んでますからね!? どうすんだ!! ああちくしょう! 二人とも生きていてくれてよかった、本当に……!」
心の底からそう思った。
問題は残っているが、後は俺とスターさんが怒られる……怒られるで済むかな。財布は寂しいことになりそう。少なくとも暫くは始末書なども含めて残業確定だろう。胃がヒリヒリとしてきた気がした。
とにかくスターさんはいいとして、最優先で緑谷くんを運ぼうと、俺は残る力を振り絞った。
――意識が戻る。
知らない天井だ、なんてベタな発言はしない。というかそれは前世でやってるので今更しない。
ここは用意された仮設室か。
なるほど、どうやら俺は完全に負けてしまったらしい。
――最強は遠いな。悔しいが、俺の負けだ。
全能感に包まれた状態、あれはバフが掛かった状態だ。その状態でも負けた以上は別の手段なら勝てた、なんて言い訳に過ぎない。
確かに必殺技は使わなかった。使う時間も体力もなかったとも言える。それに力の衝突による被害を減らすために咄嗟に蒼を発動して吸収したのもあるだろう。
……ま、これも言い訳だ。負けは負け、この世は結果だ。
敗北の結果だということには変わりない。
負けたからこそ、前に進めるとも言える。
「やっと目覚めたかい?」
「……リカバリーガール」
体の節々が痛い。
まだお兄ちゃんパワーが不足してるのか脳の回復が不可能。
お陰で頭が鉄パイプで殴られてるかのようにズキズキとした痛みを発生させていて、頭痛が半端ない。
体力もほぼない。
体中には包帯が巻かれている。動かすことは出来るから骨は折れてないな。
「状態が状態だったからね。あんまり個性は使えなかったんだよ。むしろアメリカのNo.1と戦って五体満足なのが奇跡に近いさね。緑谷がこうして運ばれるなんていつぶりだい?」
去年の秋くらいだろうか。
脳の限界を迎えた時に倒れたことはあった。
もう少しでなにか掴める、と思ってやったことがあったのだ。
今思えばオート化の前兆みたいなもの。
その時だろう。結果としてはただただ使いすぎてぶっ倒れただけという話なのだが。
「とにかく今日はゆっくり休んどきな。私は他の怪我人を診るために離席するさね、その間に話すといい。もういいよ」
扉が開かれる。
触覚が無くなっていて、ポニーテールになっているスターだ。
画風も違うことから、これが素の彼女なのだろう。俺が知ってる彼女よりもムキムキではない。十分筋肉ついてるけど。やはり時代はいつだってパワーなんだろうな。*7
ちなみに俺同様彼女も包帯巻きにされてはいるが、俺と違って動けている。
――改めて負けたんだと思い知らされるな。やはり悔しい。最強の壁は超えられなかったようだ。
「わざわざすまないね、リカバリーガール」
「あんたといいオールマイトといい、無茶をするのは勘弁して欲しいもんだけどね。まったく試験だってことを忘れてどうするんだい? さっき言ったからもう言わないけれど……次は許さないよ。この子は確かに実力こそ規格外だがまだ子供なんだ」
「あれだけ怒られたら反省してるよ、次からはもうしないさ。ここで二言は無いと改めて約束しよう」
本当に反省してるのだろう。
スターは申し訳なさそうにしているが、むしろ俺は逆だった。
感謝。
本当に殺す気で来てくれたからこそ、自分の立ち位置を確認することができた。
俺の力はNo.1に届き得る。
――来年だ。来年には必ず、超えてみせる。
本当の最強は、その時になればいい。
そのためにはお兄ちゃんパワーを鍛えなくては。
改めてやるべきことを考えたあと、意識を戻す。
するとリカバリーガールが退出するのを見送ったスターが近くの椅子に座っていた。
「まず先に謝罪させてくれ。すまなかった、やりすぎてしまった」
「別にいいですよ。むしろ感謝してます。それより……楽しかったですか?」
「――不謹慎なのは理解しているが、楽しかったよ」
頭を下げてまで謝罪してきたが、その発言を聞けたなら謝罪なんて必要ない。
俺も同じだ。
――楽しかったな。
そう感じてしまう。全力でやって負けた。勝てなかった相手。まだまだ上に行けるんだと思うことも出来たから。
「それで……その、容態は?」
「肉体は問題ないです。……完敗でした」
「別状がないのはよかった。それにこっちは私とホークスの2人だ。防御を突破したのだって私1人ではあんなに早く見つけられなかっただろう。君は負けたとは言うが――」
「やめてください」
何も問題ないことに安心したのだろう。
息を吐いていたが、次の発言を予想出来た俺は止める。
言わせてはならない。その言葉は、聞きたくもない。
――それはきっと、俺が止まってしまう。
「結果的に負けたのは事実です。“もしも”なんて必要ありません。ただ次は勝つ、それまでに首を洗っといてください」
「……そう。だがそう簡単に首は取らせないよ。私も鍛えなければならないって思い知らされたからね」
察してくれたのか挑戦的な笑みを浮かべてきた。
余計な火を点けたのかもしれない。これから対峙するであろう未来のヴィランたちに心の中で合掌。
そういえば……結局あの記憶はなんだったのだろう。
あの人はまるで知ってるかのようだったけど、俺自身は使えるから使ってるだけで理解なんてしてない。お兄ちゃんパワーとしか思ってないし。呪力? いや違うだろ。お兄ちゃんパワーだな。*8
個性に関しては普段言い訳に使ってることと変わらないから特に問題ないだろう。
普段は傷を治してるのは“収束”を肉体に纏わせて縫うようにしてるということ。弾く力に関しては応用という形で誤魔化しているに過ぎない。結構強引だが、俺の個性の練度の高さはかなり高いのもあって俺ならそうか、みたいな納得はされる。
そっちはそっちでちょっと納得できないけど。*9
ただあの目隠し先生の発言から俺の個性はあの人と同じなのだということは分かる。
結局何一つよく分からない名前やら単語ばかり言ってたが、気にしなくていいか。
問題はあの人の個性が何なのかを俺は知らないということだ。
あの人は変異した原因も特定したみたいだったが、教えてくれなかったしな。
アレってなんだよ。言葉にしろバカ目隠し。
『めんご!』
なんてふざけながら言ってることが簡単にイメージ出来る。
いや、そもそも結局あの記憶って何の記憶なのかすら分からないんだけど。夢だと思う。いや夢じゃない? 全く分からない。
前世の記憶でもないし。個性が同じだから記憶が生えてきたって線が1番大きい。
記憶が生えてきたって何? あの時の状態が状態だったから普通に受け入れるしかなかったけど今思ったら意味不明だ。あの人誰だよ。先生だということと眼がクソ綺麗なのと顔が良いのと強いってことしか分からなかったぞ。性格は割と酷かった。
総括すると、お兄ちゃんパワーが俺の力の源ということは理解出来た。
さすが俺。社畜時代の闇を使ってるって考えると悲しすぎるけど。
「さて、それじゃあホークスも呼ぼうか」
考え事をしていたらスターが扉を開けていた。
するとホークスが入ってくる。
――やけにボロボロで。
「……焼き鳥志願ですか?」
「なわけないでしょーが! 君とスターさんに巻き込まれてコレ!! むしろ君たちの耐久値がおかしいんだよ。それと……はい、これ君の荷物ね」
「ありがとうございます」
包帯ぐるぐる巻きになっている。志々雄真実かよ。
ヤワなやつだ。その程度で弟を守れると思ってんのか。もっと鍛えろ。*10
荷物は持ってきてくれたのは有難いので、素直に受け取った。
「さて証人もいることだし、テンマミドリヤ。ここからは重大な話だ」
「重大な話?」
「俺、公安直属のヒーローなんすよ。これ、内密にね」
公安というだけで察してしまった。
そういやスターが来た時の衝撃で流してたが、公安とか言ってたっけ。
つまり俺をプロヒーローに――
「テンマミドリヤ、もし日本で何かあったら
じゃなかった。
――ただのスカウトかよ。
「弟がいないなら」
「弟や家族も一緒さ」
「じゃあ考えときます」
「即答なのね……ま、これでスターさんの後ろ盾が得られたってことだ。公安に関しては俺も何とか君に被害が及ばぬように頑張るから気にせんでいいよ」
思考が上手くできないんだから仕方がないだろう。
治ってないからあまり深く考えると頭が痛いんだ。さっきの思考で頭が痛くなるって痛いほど分かった。痛かったし、いやギャグじゃなくって。
しかしホークスは俺に味方してるタイプの人だったようだ。つまりこの人の上の人たちが俺をプロヒーローにさせたいってわけか。
というより平和の象徴の代わりか。
味方なら……まぁ……仮免の時のことは水に流してやるか……。今回ボロボロにさせたし、満足。
「あと今回のこともね……うん……何とかする……」
遠い目をするホークス。
その反応からグラウンドはまぁ、また消滅したんだろうな。これで2度目である。
この試験って内密らしいし、二人で怒られて来てください。国に帰らないといけないスターの代わりにホークスは多分始末書に追われると思うが。
「話ってそれだけですか?」
「まぁね。だがテンマミドリヤの力はそれほど強大なんだ。正確には君自身が鍛え上げた力。実力でいえば既に私やオールマイトの領域にいる。私と戦えてる時点で分かるだろう?」
「……まぁ」
「そうなると何に利用されるかなんて分からない。何の権力もない子供じゃ色々と不便になる。本当なら是非ともアメリカに欲しいところだが、本人の意向を無視したくはないからね。ただ日本が何か君に問題を起こすことがあればアメリカで受け入れることが可能になる。私からの精一杯の恩返しと謝罪だ、必ず君を権力から守ると誓おう。無論、家族の身もね」
「なるほど、国外追放されるようなことは今のところするつもりはないですしそのことは理解は出来ますけど、それだけじゃないですよね?」
「おや、バレたか。本音を言えば純粋に私が気に入っただけさ、
「誰が弟だ、ふざけんな」
俺の中でスターは人を勝手に弟判定してくる変人にレベルアップした。
レベルダウンか……。人を弟にしてくるようなやつは初めてだ。実力のあるヒーローはどいつもこいつも変人しかいないのかよ。*11
まぁ少なくともスターの個性は国を相手に出来るほどに強い。俺も似た存在ということになったわけか。
だがあの目隠しはもっと強かった。力ってよりも技術って言うのかな。
正面から戦ったら俺は絶対に勝てないと思うくらいに。俺の個性が当たることすらなく押し負けたレベルだったんだ。
修練が足りないな、俺も。でもこの身に力を受けたからこそ、何となくお兄ちゃんパワーの使い方も分かったような気もする。
狙ってやったのだろうか。いや……まさかな。
「言いたいことは言ったし私は
「……ありがとうございます。あと弟やめろ」
使うか分からない名刺を貰ってしまった。彼女は会いたい人とやらに会って帰国するのだろう。
だが俺の要件も聞いてもらわなければ。この人に要求するのはひとつ。
「ただ帰る前にサインはください。弟が喜ぶので。それ以外は何も望みません」
「それはもちろん。本当は内密に来てるからダメなのだが、我儘を聞いてくれた特別サービスだ。いいだろう?」
「まぁ……緑谷くんも事情説明するかもしれないし、家族に話すのはいいけど家族以外にはダメだからね。頼むよ、本当に。俺の首が本気で飛ぶから!」
「分かりました」
本気で言ってくるホークスに流石に俺も理解はしてるので素直に頷くと、カバンから色紙を取り出してスターに差し出した。
素早くサインを書いて返してくれたので色紙を見る。
案外丁寧だ……書き慣れてるからか書くスピードも早い。俺もサイン考えないとな。
そう思ったところで仮設室を出ようとするスターの背中を見て、聞きたかったことがあったのを思い出した。
あの時の戦い、答えを聞いていない。
俺が建てたのはあくまで仮説だ。個性を封じられた理由を知りたい。スターの個性を考えるなら何の問題もなく出来るとは思えなかった。結局あれ以降封じてなかったし。
「そういえばスターは俺の個性を封じましたよね。俺の予想だと何らかのデメリットがあったと思うんですけど……」
「ああ、私の個性はルールを2つ設定出来るからね。概念や事象まで。ただあれに関しては本来出来ないし出来なかったよ。今回が初めて。私の能力や行動に“縛り”を設けることでしか発動出来ないらしい。あの時は代わりにルールを1つしか設定出来なくなる、封じた倍以上の時間は使えなくなる、みたいに。強力であればあるほど。力量差があればあるほどデメリットが大きくなると思う。だから使う機会はあまりないだろうが……と言っても君の力を間近に見て発想を得られたからやれたことだ」
「そんなことも出来るんすか……なんでスターさんが成長してるんです?」
ホークスの言葉も尤もだ。
普通成長するのって学生の俺だからな。なんでトップヒーローがさらに強くなってるんだよ。
彼女もまた解釈の拡大を行えたのだろう。
いやいや、俺の個性を見てすぐに実践して成功させるとかバケモノかよ。これだから“天才”は……。
俺とは異なる存在。
俺の長年の努力すら飛び越えるのがそう言った存在なんだ。俺は所詮凡夫ってわけか。
だけどそれ、視野を広げて扱い方変えればもっと強いのでは?
例えば――
「ルールを1つしか使えず、個性は自分のみを対象にとかしたら身体能力の強化上限を増やせたりとか」
「……!!」
口に出してみたが、てっきり気づいてるものだと思っていた。
スターが言葉を失ったように固まっていた。
この答えに行き着かなかったならこの人、やはり俺とは違う生まれながらの強者か。じゃなきゃ手段なんて選ばずに色々やるだろうし。
「そうか、私はルールを増やそうとしたことはあったけど自ら減らそうとは考えたことすらなかった。そもそも自らデメリットを背負うなんて普通考えないことだ……逆転の発想! 確かにそれならマスターに……オールマイトに限りなく近づけるかもしれない……!」
何やらボソボソと言っているが、頷いてたから勝手に納得したらしい。
「感謝するよ、テンマミドリヤ。用が済んだら試してみることにする。感謝と謝罪も込めて後日お礼をするよ」
別にそんなつもりで言ったわけではないのだが、まぁいいか。
いつまでも居たら俺が休めないからか、また会おうという言葉に返事すると二人が部屋を出るのを見送った。
ちなみにだが、試験はクリア判定との事。
勝負に負けはしたが試合には勝った……ってところかな。うーん引き分け寄りの俺の負けって感じ。
グラウンド消滅でセメ先とパワーローダー先生が咽び泣いていたとはホークス談。ちなみに雄英も一部の区域が停電だったとのことで、二人は滅茶苦茶叱られたらしい。校長もまさかここまでやるとは思っていなかったとか。
そこは俺も原因だから申し訳ない。俺がやれって言ったし。
とにかく頑張ってくれ、セメ先。責任はNo.1とホークスに押し付けていいので。俺はどちらかというと比率的には3割くらいしか悪くないのでやめてください。*12
――ちなみにこの後すぐにホークスから『オールマイトが増えた。助けて』みたいなメッセージ来てたんだけど、どういうこと?*13
原作
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作者の好きなようにやって欲しい