どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
えー、ということでね。More終わっちゃいましたね、死にます。
本音はさておき、軽くこの作品の話をしておくと、この話だけはかなり前から書き上げてました。これでも小説書いてた歴だけは私は無駄にあります。
その経験則から理解してたんですよ。
あっ、この話から先が書けない。これはエタるな、と。
なのでこれ以上書けないのに書いても無駄だと諦めてました。
ですが死んでる間にも感想をくれたり死にかけの作品に評価してくれる人が、まあ1部低評価入ってましたけど居たので頑張ってみるか……と足掻いた結果、なんか書けました。
再開出来た要因としてはもう消されてるけど支援絵をくれた人が居たので、それも割とありましたね。許可もらってないので名前は挙げませんけど。
ということで再開します。
リアルが忙しくなったのも事実なので3ヶ月投稿されなければエタったなこいつと思ってくれていいです。
とりあえず転間くん編最終章に繋がる、主人公の成長になる話になります。この話に出てくるキャラに愛着が湧いて永遠と原作行けない病が発症しましたが開き直りました。
ワイは弟バカな転間くんの物語を書いてるんや。後読み直して思ったことは勢いで書いてたから主人公キショすぎてドン引きした(褒め言葉)
ビーチフラッグスで遊んだあと、スイカ割りで頭が混乱するような情報ばかり言ってくるので、声の大きかったねじれに従った結果、思わず力を入れすぎてスイカを粉砕したけどバリアのお陰で悲惨な目に遭うことは回避したり、俺だと割ってしまうのでスイカ割りを別の人に任せて見守ったりとした。
いや上とか言われた時は本当に意味が分からなかった。
一瞬思考止まったぞ。誰だよ上とか言ったやつ。実はサポート科が偽物を掴ませたんじゃないだろうなと思った。*1
それはそうと何となく散歩がてら歩いていると、歳のいった女性が座り込んでいて、その女性の背中を摩る金髪の中学生くらいの女の子が居た。
何処か雰囲気が似ている。家族だろうか。
普通ではない様子に自然と足を運んだ。
「どうかしました?」
俺が声を掛けると、二人とも気づいたようで視線が集中した。
その後、少女が何故か固まっているため、少女の顔の前で手を軽く振ってみる。
「あのー、大丈夫か?」
「あっ、はっ、はい!」
「それでなにか困りごとでも?」
ハッとした様子で首を左右に振ったのち、俺の質問に彼女は顔を曇らせる。
何やら事情がありそうだな。
「それがその――」
聞いた情報をまとめる。
長年海の家を経営してるらしく実際に中学生らしい彼女、うみちゃんという名前らしいが、その子は夏休みの期間中手伝いにこちらに来たこと。
隣にいるのは彼女の祖母で湊さんという名前らしい。祖母がぎっくり腰になってしまい、なおかつ臨時で入る予定だったバイトが夏風邪でダウン。ドタキャン。常勤の人はまさかの熱中症や怪我などで来れなくなったこと。
料理は出来るものの、このままでは接客もレジも出来ないため店を開けることが出来ないこと。
せっかく人が多い期間だと言うのにこのままでは店を閉めるしかないこと。
それらを聞いた。
「なるほど、とりあえず湊さんを安静にさせようか。海の家の中で休むところはある?」
「はい、すみません……。えっと場所は開けたらいけるかと。鍵はすぐ開けます!」
「ごめんねぇ……うみ。それにお兄さんも」
「いえ、これでもヒーロー……候補生の学生なので。仮免ですけど、証拠です」
「あ……や、やっぱり緑谷転間さん!? す、すごい、本物……! あの、私ファンでっ!」
「あ、ああ、うん。とにかく湊さんを運ぼう」
「そっ、そうでした、すみません!」
一応安心させるために仮免許を見せる……が、どうやら俺のことは知っていたようだ。
ある意味信用を得たと思っていいだろう。流石雄英。さすが体育祭。*2
とりあえず俺が抱え、少し急いで海の家に入れてもらうと、簡易ベッドを作成して湊さんを寝かして休ませる。
そして必要な話をする。
たったの1日でも海の家は休むだけで大損になる。しかしうみちゃんひとりで店を回すとなると、間違いなく無理だろう。
となると。
「時間は?」
「あと1時間くらいで開けることになってます……」
10時30分か。
前世に比べたら珍しいが、まぁ昼前に開ける店もある。
問題はバイトがいないということ。
明日はバイトが数人と常勤の人が無理なため、代わりに身内や親戚の人が来るから問題ないらしい。
ただ今日だけが人が居ない状況とのこと。
閉めるというのもひとつの手だが……夏季限定だからな。
うみちゃん自身はだいたいのことは出来るらしい。俺の弟の出久と同じ歳だというのにわざわざ来たことから、彼女にとって祖母は大切で大好きなのは分かる。
「湊さん。俺が入っても大丈夫ですよね?」
「え? いや……見ず知らずの人にお願いするわけには……」
「言いましたよね、俺はプロでなくてもヒーローです。困ってる人に手を伸ばすのがヒーローでしょう? 時間がないので、いいのかダメなのかだけ聞かせてください」
「……そうだねぇ。毎年、楽しみにしてくれてる人がいるから……できるなら、やりたいねぇ……」
このタイミングで腰を痛め、常勤の人たちが不運に見舞われ、なおかつバイトまでドタキャンは想定外だったはずだ。
最初から分かっていたなら店を開けようとはしていなかったはず。だが既に店を開くという情報は出てるだろうし今更閉めるとなると信頼に関わる。
運が悪かったとしか言いようがない。
だが……彼女たちは悪くないのに今までの努力が水の泡になりそうな状況。
俺はそういう理不尽は嫌いだ。努力し、頑張って来た人たちは報われるべきだろう。全員が報われるとは思ってはいないが、それでも。
つまり、俺がやることは決まった。
「それだけ聞ければ十分だ。うみちゃん、海の家のメニューとレシピがあるなら見せてくれ。それから仕事内容のマニュアル、あるだろ?」
「え、ええ……ありますけど……って、もしかして!?」
「10分……いや5分欲しい。全部頭に叩き込む」
「い……いやいやっ! 無茶ですよ! それも5分って……! レシピと言っても指で数えられる数を超えるんですよ!?」
「時間がないんだろ? 心配するな、無茶でもなんでもやり遂げるのがヒーローってものだ。 ……どうする? ここで俺の手を取るか、それとも諦めるか」
選択肢を与えるように、手を伸ばす。
やるというならば手を取ればいい。やらないと言うなら取らなければいい。
やるかどうかは俺が決めるものではない。
「緑谷さん……」
「悪いが時間がないんでな。すぐにでも言って欲しい」
「……」
迷いを見せるうみちゃん。
もしやることになれば迷惑を掛けるということを理解してるのだろう。
目を彷徨わせ、伏せて、手を握りしめて、祖母を見つめて。
どれだけ葛藤したのか、そんなのは俺には分かるはずもない。
だが深呼吸して彼女は顔を上げた。
その顔を見れば答えなんて分かり切っている。分かり切っててもその口から聞かねばならない。
「よろしくお願いします、緑谷さん。私に……私たちに力を貸してください! 私、ここでやる海の家が大好きなんです! 私にとって大切な居場所……たった一日でも休みたくないんです!」
「……そうか。任せろ」
俺の手を取った彼女に、俺は安心させるように頭にそっと手を置いた。
それで少しでも不安が取り除けたのか、緊張が解けたのか、肩が大きく跳ねさせていた。なんだか頬も赤い気はするが、気の所為だろう。
それよりやると決めたならやり遂げるとしよう。
思い出したくないが、前世の経験と今日まで生きてきた全部を使う。
脳をフル回転させろ。
持ってきてもらったレシピ、マニュアル、経費。時間帯別の客数。その他。
それら全てを頭に叩き込み、計算し、どの時間帯に1番客が来るのかを計算する。
それらを頭に入れたあと、早速行動に入る。
俺に資格がない以上、湊さんには居てもらわなければならない。管理者として必要だ。
本当は家で休んでもらった方がいいのだが、こればかりは仕方がないだろう。
頭に叩き込んだのはいいが、ちゃんと出来てるかは分からない。
ひとまず何個かお店の味を再現して作ってみたので、うみちゃんに食べてもらった。
「すごい……完全にお店の味だ。どうやって!?」
「レシピ通りに作って湊さんにアドバイスを貰ったんだ。ただ俺は料理をそのまま再現しか出来ないからアドリブは出来ない。そこは欠点だけどな。でもこれなら出せるだろ?」
「はい、問題ないかと! でも私たちしかいませんけど……」
「うみちゃんは接客として必要だ。初めての人ならまだしも常連客がいるならうみちゃんが対応した方がいい。俺が対応したところで今まで通りには行かないだろう。支払いは電子決済もあるし、現金が必要な場合は俺がやる。うみちゃんは自分の仕事だけに集中して欲しい。君の方がしんどいだろ?」
「え……で、でも厨房も担当するんですよね? それにレンタルの貸出とか管理も……私よりも緑谷さんの方が仕事量が多すぎて……」
「接客の方が大変だよ。それ以上仕事を任せられない」
それにタスクを1つ2つ受け持つことなんて慣れっこだ。
頭の負荷が強いから戦闘以外ではしないが、並列思考をすれば問題ないはずだ。前世の頃からやってきたことをやるだけ。
他にも身体能力の強化と限界を迎える度に脳を治すのを繰り返すことになるが、昔ならまだしも今の俺なら何とかなるだろう。流石に前世と同じ状態なら厳しいけど、身体能力は段違いだ。
料理に関しても時間とその時の熱さも含めて計算しながら動く。
人がいない以上は俺がほとんど対応するしかない。
少なくとも一般人の彼女よりかは俺の方が適正がある。
元社畜の力を魅せてやろう。
「とにかくやるしかない。仕事は全部頭に叩き込んであるからな、何とかするよ」
「緑谷さん……」
「心配いらない」
分身が出来たらよかったが、まぁ瞬間移動を駆使すれば問題ないはずだ。
既に座標は設定してるし発動条件は整えてある。
ひとまず店が開く前に必要な準備を整えるようにした。
俺の計算上、ピークまでは何とか出来るはず。その後は気合いとしか言いようがない。
社畜時代の技能をまた仕事で使うとは、世の中何があるか分からないものである。
唯一残っている部分の、過去の自分を引き戻すとしよう。
……これだけはやりたくなかったけど背に腹はかえられない。憑依と言えばいいだろうか。
多分、余計に思い出してしまうかもしれないし考えるだけで吐きそうだ。
「今から開店しまーす!」
海の家がオープンすると少しずつ人が入ってくる。
他にもライバル店があるというのに、普通に入ってくるのはやはり長年ずっとやってきたという知名度の高さか。
それとうみちゃん自身の人懐っこさと容姿、何よりも笑顔が大きいだろう。
背は低めで童顔。本人の性格のように明るい金色の髪はサイドポニーテールを横に結ばれていて編み込みが加えられている。*3
瞳も琥珀――いや金色と言えばいいか。白いエプロンを羽織っていて、その下には赤いビギニにデニム柄のショートパンツを着ている。
健康的な肌色の素肌に発育も良くも悪くもないといった感じで、総合的に容姿が良いのだからそれだけで十分すぎる宣伝効果を発揮する。
厨房にいるのにここまで声が届くことから、彼女は昔からやってきたのだとわかった。
「いらっしゃいませー! ゆきひらへようこそーっ!」
「うみちゃん、久しぶりね」
「わあ、今年も来てくださったんですね! ありがとうございます! 今年もまた新作メニューあるんですよ!」
「本当? 楽しみにしてるわ」
「はいっ!! あっ、こちらのお席へどうぞ! ご注文がお決まりしましたら機械に触れるかお呼びしてくださいね! スマホからでも注文は可能です!」
湊さんに改造許可をもらったので、何気に弄ってたりもする。
人がいないなら人がいなくても出来るようにすればいい。スマホから注文した場合、注文商品が転送されるようにした。
サポートアイテムを作れるんだからこれくらい出来なければ作れるはずもない。
冷やし中華とガーリックシュリンプ。それから新メニューのオリジンジュリラ。
……俺のファンというだけあって、ヒーロー名を使われてるのは意外だったな。
うみちゃん曰く『1番の自信作なので!!』とのこと。
余計なことを考えつつも手は動かしてるため、冷やし中華をセット、終えたガーリックシュリンプとオリジン――なんか自分でヒーロー名を言うのもあれなので、ジュルリラ。
「緑谷さん! お好み焼きひとつ! 焼きそばひとつです!」
「了解。これ。こっちが2番テーブル。こっちが5番テーブル」
「はーいっ! お待たせしましたーっ!」
鉄板を使ってお好み焼きを焼きながら、焼きそばも並行して作る。
それから次に必要なかき氷。こちらは手動ではないので文明のパワーに頼るだけで問題なし。
ドリンクに関してもジュースディスペンサーがある。
ソフトクリームも言わずもがな。ビールはほぼないと見ていいだろう。
この時間帯に飲んだら入れないし。たまに早くから飲む人が来るくらいか。
と、料理に戻りつつ、うみちゃんと客の様子を見て時間高速計算。
レンタルの方へ向かい、パラソルの設置を頼まれたのでフィジカルで穴を高速で空けてパラソル設置後、応対してから瞬間移動で帰還。
時間ピッタリ。
お好み焼きひっくり返したり焼きそばを混ぜて調味料を加え、かき氷にシロップをかけて――
「イカ焼きとラーメン、唐揚げそれぞれ1ずつ3セット、ポテトとフランクフルトが1つですっ!」
「了解。先の注文出来上がってるから、ひとまずドリンクとかき氷持っていって」
「はい! あの……本当に大丈夫ですか?」
「俺が3人分くらいの動きをすれば問題ない。テーブルは――」
「覚えてるので大丈夫ですっ。記憶力はある方ですから! なので……こちらはお任せください。その、ただでさえ大変ですし……私、少しでも負担を減らせるように頑張るので!」
「……そっか。OK、頼りにしてる」
「はいっ! あっ、いらっしゃいませーっ!!」
ハツラツと動くうみちゃんを見てると微笑ましく感じる。
お店のために自分で出来ることはやろうとしている。
立派な子だ。こういう子には報われて欲しい。
同時に頑張らなければならないと思った。
ヒーローである以上、この笑顔すら守れないなら俺は弟が理想とする最高のヒーローにはなれない。
たった一つの目の前の笑顔くらい守ってみせろ。
ピーク時ではないため、元々仕込んでいたのもあり料理が落ち着いたので俺も可能な時は接客に入って捌いてると、ふと外が騒がしくなっていた。
まだまだやるべきことが多いため、正直これ以上忙しくなられると俺も処理しきれない。
今ですら追いついていないんだ。むしろたったの二人で提供だけでも出来てる時点で頑張ってる方だろう。
だが年々のデータを見る限りこの店が忙しくなるのはあと30分後のはず……。今はそのための準備をしていたのだが……。
「え、ええーっ!? ど、どういうことですか、これっ!?」
外を覗き込んだうみちゃんの声に反応し、何かトラブルかと彼女の傍に行くと外の様子が見えた。
――人が滅茶苦茶居る。列が出来ているが、誘導や整列出来てないせいで下手したら喧嘩になる危険性がある。
だが、なぜだ? 他の店もある以上、混みすぎてるならば他の店に行くのが普通だろう。特に新規客ほどその傾向は大きい。
常連客ならばまだ納得が出来るが……。見た感じ新規客の方が多そうだ。
「あ、あわわわ……こ、こんなの初めてだよぉ……な、なんでこんな時にぃ……っ!」
パニックになりかけ、倒れそうになるうみちゃんの背に腕を伸ばして支える。
思わず唇を噛み締めた。
流石にこれは想定外だ。計算が完全に狂った。
人が消えるどころか増える一方。ピークの時間帯どころか、このままでは昼過ぎになっても暫くこの状態が続くかもしれない。
そして客を待たせすぎれば、客の足は遠のいてゆきひらの評価にも響く。
「ひとまず俺が列を整えて……」
「む、無茶です。今もいっぱいいっぱいですよね!? 緑谷さんがすごい人なのは“よく”知ってますけど、こればかりは……!」
「だが誰かがやらなくちゃならないだろ?」
「それはそうですけど……でも、こればかりはもう……」
うみちゃんの負担を考えるなら休憩時間は作りたい。
しかし俺には分身する能力はない。配膳程度ならばロボで何とか出来るが……。いくら俺が強くなっても出来ないものは存在する。
そもそもなんでこんなに人が居るんだ?
耳を澄ましてみよう。
「――雄英の人が働いてるんだって!」
「へえー誰だろう?」
「緑髪の男らしいぜ」
「そういえばさっき雄英生居たよな?」
「売り子さんも可愛いし雄英の人にも会えるならこっちしかないよな」
頭を抱え、俺は思わずしゃがんだ。
――俺のせいかぁ……。
「だ、大丈夫ですか!? な、なんというか……やっぱり緑谷さんってすごいですね……」
「すまん……うみちゃん。俺のせいだった。流石に厳しい」
知名度、か。
たたでさえ雄英というだけで知名度があるのに、次々と出てくる特徴のヒントから考えると俺であることがバレたのだろう。
そりゃそうだ、体育祭で二回も優勝してしまえば記憶に深く残るよな。
呼び込みはしてない。つまり離れた客が宣伝代わりしてくれたから話が広まったとみていい。
元々無茶だったのを俺が人数以上動くことで何とかしていたが、それは結局数十人程度だからだ。
見る限り二十どころか数えられないくらいもっと居る。
満席になっても人が全然消えないだろう。
とにかくスペースも足りない。
今からやらないといけないことは許可を貰ってる敷地内に簡易のスペースの作成。料理。皿洗い。接客。レンタルの貸出や管理、片付け、清掃――
「やるしかない」
考えたらキリがないが、今更辞めるという手段は選べない。
何よりこんな状況になったのは俺のせいだ。
俺がやれば解決するだけの話。
しかしここまで人手不足なのは流石にまずい。俺はまだしも、うみちゃんが体調崩すことがあれば本末転倒だ。いざとなったら限界まで身体能力を強化してワンオペでどうにかして見せるが……。
どうする、この場で募集するか? ダメだ、そんなことをしても集まらない。それに経験ない者を引き込んでトラブルが起きた時の方が悲惨だ。
俺が引き受けるしかない。
料理に関しては準備してないもの以外はすぐに提供出来る。簡単な料理も中にはあるし。
問題は時間がかかる料理だ。
それが無くなる前に作らねばならない。
そしてうみちゃんの体調も見つつ、危うくなったら俺がひとりで――。
「緑谷さん……?」
「大丈夫、何とかする」
しなくてはならない。
それが仕事だ。誰かがやらねばタスクは残り続け、重なっていく。それに資料と違ってこっちは接客だ。優先順位が最も高いものからやっていくことはできない。
体はまだ動く。頭も動く。
変わらないだろ、ずっとやってきたことだ。
全部だ、俺が全部やれば誰も辛い思いをしなくて済む。しんどい思いをしなくて済む。理不尽から守れる。そう、俺が全部背負えば問題なく――
「こちら最後尾でーす! 列をきっちりと守ってお待ちくださいね! 待つだけじゃ暇! というそこの方! 一発ギャグいかがですか!?」
「もう少し待ってねー! 少しトラブルがあったみたいなので、すぐに対応します!」
「ゆっくりと進んで……ああ、そこ押さないで……ダメだ……俺はやっぱり無理かもしれない……」
「頑張れ環! お前なら出来る!!」
聞こえてきた声に思わず顔を上げて、姿を出す。
隣で驚く声が聞こえたが、意識を向ける余裕はなかった。
急にドアが開いたからか視線が集まってしまったものの、ミリオやねじれ、環の三人が何故か誘導していた。
あいつら、何をしに……。
「ちょっと失礼! 緑谷、あとやることは?」
「お前ら何をしてる……?」
「何って手伝いに決まってんでしょうが。こんだけ騒ぎになってりゃ誰が何をしてるのか分かるわよ。どっかのお人好しが人助けしてるんだろうなって」
人混みを分けてこっちに来た甲矢に目を向ける。
騒ぎになったのもあって、どうやら俺のことも耳に入ったらしい。
しかし。
「……これは俺の仕事だ。お前らは無関係だろ。口を出す暇があるならとっととみんなの元へ戻って海を満喫しておけ」
そう、引き受けたのは俺だ。
だからこそ俺がやらなくてはならない。
これは俺が責任を持ってやらなくちゃならない仕事で、他人を巻き込んでいいことでは――
「目を覚ませっ!」
「いって!? おまっ、いきなり何を……ッ!」
頭に衝撃が走り、頭部を押さえながら睨む。
本気では無いのは分かるが、目なんてとっくに覚めている。余裕ねぇんだから。
甲矢は呆れたような目を向けてきていた。
「あのねぇ、確かにあんたは優秀なんでしょうよ。成績トップだし実力あるし。でも人間でしょ。独りでやれることなんて限られてるじゃない。何、私らはそんな頼りないって思われてんの? あんたに守られる存在じゃないのよ、私ら。同じ学年で、同じようにヒーローを目指す“仲間”でしょ。それに緑谷も“みんな”に入ってるって忘れてない?」
「……だが、これは俺が勝手に引き受けて俺が勝手にやってることなんだ。巻き込む訳には……」
甲矢の言葉に上手く否定することが出来なかった。
現に俺は、今一人で解決出来る状態ではなかった。
それでも言い訳がましい発言をすると、気が付けばミリオたちがこちらに寄ってきていた。
「何言ってんだよ、転間。さっき言ったじゃん、余計なお世話を焼くのがヒーローだろ?」
「その通りだよ。独りで抱えようとしないで、転間くん。困ってる友達を助けるのに理由なんてないんだから! それに私、これでも君の力になれる自信、あるよ?」
「こういう時に……力になるのが友達、だろ。転間」
「お前ら……」
ミリオもねじれも環も、まるで俺が独りでないと言うように、そう告げてくる。
――ああ、そうか。
俺は緑谷転間だ。それが俺だろう。
守るべき部下は居ない。庇う必要もない。独りでやる必要は、もうないんだ。
俺としたことが自分を引き戻しすぎたらしい。
仕事というのもあって、全部の責任を負おうとしていた。
かつてのように、自分が代わりにやれば誰も苦しまないと。悲しまないと。犠牲になるのは自分だけでいいんだと。
そう言い聞かせて来た時のように。
ヒーローは独りで何でもかんでも解決出来る訳じゃない。あのオールマイトですら実際には他に手を借りている。
深呼吸して、俺は自分の頬を全力で叩く。
音が少し響くくらいの威力。
頬がヒリヒリとした痛みを残す。
「転間……!?」
「大丈夫!? 赤くなってるよ!?」
「戒めだ、気にするな。全く……バカだな、お前ら」
「……バカ呼ばわりは心外なんだけど」
「それ以上に、俺はもっとバカだったらしい」
「転間がバカならみんなバカになるんじゃ……」
「そう言いたいわけじゃないって」
なんか変なボケ……いやこれマジだな。
とにかく空気がぶっ壊された気がするが、改めて向き合う。
そうだ。俺はもう緑谷転間だ。
ヒーローであり、出久のお兄ちゃんの転間だ。
そういう人間として仕事をする。していかねばならない。
「悪い、俺が間違っていた。正直、手が全然足りない。俺に力を貸してくれ、頼む。俺はこの子の、うみちゃんの力になりたいんだ」
「緑谷さん……あ、あの。私からも……お願いします!」
だからこそ、俺は頭を下げると、うみちゃんも俺の横で同じように頭を下げていた。
俺がやることは遊びに来たこいつらの時間を奪うということだ。ヒーロー科はただでさえ時間がない。7限だし土日休みじゃなくて基本日曜日しかないし。土曜日は6限だが。休みの時もあるとはいえ、大半は学校。
夏休みも短めだ。
断られても何か言われてもおかしくない。
その場合、俺は謹んで受けようと思う。
「うん。いいよっ! というより……やっと言ってくれたっ! 転間くんはもっと私を、私たちを頼るべきだと思うの」
「そんな畏まらなくていいよ、もちろん手伝うに決まってる!」
「俺も微力ながら手伝うよ」
「そーいうこと。そんで、私らはどうしたらいいわけ? クラスメイトたちも協力してくれるって言ってるよ、リーダー」
4人の返事に下げていた頭を上げ、うみちゃんと顔を見合わせる。
そして俺は、すぐに必要なものや人数を組み立てる。
「……全く。
「了解。じゃあ私声掛けて役割分担してくるわ」
「俺はさっきのように誘導するね! 待ってる人を楽しませてくるよ。それと暑さ対策もしとく!」
「俺は厨房で皿洗いしておこう……接客なんて絶対無理だ……」
各々動き始めて移動していく。
それを見送ると、ねじれが手を挙げていた。
「私どうしよっか?」
「ねじれは接客頼む」
「おっけー!」
「いや待て、お前これ着てからにしろ」
「服? どうして?」
やる気満々なのは助かるが、ねじれの場合、水着姿はまずい。
着ていた服を投げると、ねじれは目をぱちくりしていた。
「ねじれのルックスだと面倒なことになる可能性の方が高い。お前容姿良いんだから、気にしとけ。何か問題あれば俺を呼べよ、変な客は客じゃないから追い出す」
「……うん、わかった。借りるね!」
そうしてねじれが服に袖を通す――ことなく。
何故かねじれは丸まった俺の服に顔を埋めていた。
何してんだ……。
「お腹が空きそうな匂い」
「……ずっと料理してたからな。というか嗅ぐな」
「でも、転間くんの香りも残ってるから嫌いじゃないよ」
「いいから行け」
「はぁーい!」
それは文句なのか、それとも違うのかはよく分からんが、俺の服を袖を通したあと前を閉めてちゃんと着てからねじれは接客のために準備していた。
それを横目で見つつ、ふと呟く。
「うみちゃん、君に言うのもどうかと思うのだが。俺、そんな匂いついてるのか……?」
「ふふっ! 優しい香りはしますねっ! とっても素敵です。今の緑谷さんはさっきよりも……特にっ」
「……そっか、こっちの方がいいってわけか」
「そういうことだと、思いますよ。さっきまでの緑谷さんは……苦しそうでしたから」
「……そうか」
自分ではそんなつもりはなかった。
観察眼がある人には無理してるようにも見えたのだろうか。
ただ今の俺の方が良いらしい。
異物としての俺ではなく、この世界に生きる緑谷転間という存在の方が。
完全に憑依させる必要はないんだ。
感情も感覚も価値観も捨てて、今の俺の人格のまま技術だけを持ってくるとしよう。
完全に降ろすのは良くないと分かったことだし。
あのまま居続けてたら心が先に参りそうだ。
「みなさん、私のために、私たちのためにありがとうございます! よろしくお願いしまーす!」
響くような声に各々返事を示すように声を出したり、手をあげてたりした。
甲矢は既にクラスメイトの方へ行ったからいないので、3人だが。
とにかくこれならこの状況も捌ける。
「うみちゃん、君は俺と料理だ。接客はクラスメイトたちも合流するだろうしねじれが居れば何とかなる……というか、恐らくこれから客はもっと増える」
「はい、分かりましたっ! それでは……お待たせしましたーっ! 海の家、ゆきひら再開しますっ! お詫びとしてちょっとしたサービスもしますので、是非お立ち寄りくださーい!!」
元気な明るい声が外にまで響いたのだろう。
――ほんの数分程度だから人は全然減ってないというか、思い切り目立ってしまったせいで確信を持たせてしまったようで少しずつ人が増えてるのが分かる。
これは、手を焼きそうだな。
「頑張ろう、うみちゃん」
「はい!」
元気一杯な返事を聞いてから、俺は厨房の方へ歩みを進めると、うみちゃんは隣に来る。
ふと見た表情は、とてもにこやかで優しい瞳だった。
「――皆さん、素敵な方々ですね」
「どいつもこいつもバカなだけだよ、ヒーローらしいっちゃヒーローらしいけどな」
メリットはないというのに、遊びに来ただけのやつらが仕事する必要なんてない。
なのに俺が困ってるからと手助けしようとする。
バカ以外になんて言えばいいのやら。
「そうですね……ヒーローです。そして緑谷さんはもっとヒーローです。それは私にとっては、すごく」
今までとは少し違う、明るさが成りを潜め、何かを思い出すかのように瞼を伏せた彼女は、何処か穏やかで柔らかい微笑を向けてきた。
うみちゃんの言葉に、少しの引っ掛かりを覚える。
なんだ? まるで、俺に会ったことがあるような……。だが正直金髪で、ここまで明るくて容姿のいい人物となると結構記憶に残りそうなものだが俺は全く覚えていない。
「それはどういう――」
「しっ!」
俺の口を塞ぐように、うみちゃんは立てた人差し指を宛てがってきた。
その続きは、喋らせないというように。
「それは乙女の秘密、ですよっ? 緑谷さんには内緒ですっ!」
うみちゃんが跳ねるように前に出て、振り向きながら弾んだ声でそう言い放つ。
屈託なく歯を全部見せて笑う、無邪気な子供らしい笑いだった。
「それなら……仕方ないな。しんどくなったら休むようにな。じゃ、俺たちもやっていこうか。気合い入れていこう」
「はい! 一緒に頑張りましょうねっ!」
ここからは二人で料理だ。
彼女に合わせて、一気に作っていく。
独りじゃないなら――問題なくこなせるはずだ。
彼女の笑顔を守るために、今はやれることを全力でやっていこう。
ただその前に、彼女に水分を摂らせないとな。
人物紹介。
白鳥うみ。
漢字にすると羽未。
・個性:???
・好きなもの:緑谷転間。家族。人の笑顔。料理。
うみ's ヘア:明るい金髪。セミロングぐらいの長さだが、サイドポニーテールにしている。
ただし普通のではなく、横に結ばれていて編み込みが加えられている編み込みサイドポニーテール風。
・うみ'sアイ:金色。
・うみ'sフェイス:色白童顔。可愛い系。感情豊か。
・うみ'sボディ:スレンダーな体つき。何処がとは言わないが意外とある。
・うみ'sレッグ:健脚。
・性格:天真爛漫。
・ICV:前田佳織里。
人物:人懐っこい、元気一杯の純粋無垢な少女。
その笑顔が取り柄だが、感情の機微を感知する能力に長け、嘘を見抜く能力が非常に高く鋭い。
コミュニケーション能力は圧倒的に高いため、まさしく陽キャ。他のキャラが実力ならば(精神的な)対人特化と言っていいだろう。
感情がすごいどストレートではあるが、腕白な側面もある。
どちらかといえば“みんなの妹分”的な存在であり、愛されキャラとも言う。
ただそれ以外は転間が知り合った中でも優秀で真面目な責任感の強い“普通の女の子”の域は出ておらず、ヒーロー飽和社会の現代にしては珍しくヒーローに対する憧れを持っていない。
THE・概要:自他共に認める重度の転間のファン。公式に出されてる情報は全て網羅しており、なんなら本人より知ってる。
グッズはまだないので、手作りするほど。
もちろんお兄ちゃんがマスキュラーをぶっ飛ばしたことや仮免の活躍、体育祭の活躍、海の怪物事件なども調べ済み。流石にアメリカのNo.1と日本のNo.3のコンビと殺り合った話は公にされてないので知らない。
転間のブラコンっぷりは当然の如く知っているが、家族のことが大好きな部分が同じなことにむしろ喜びを感じている。
少なくとも出久とうみが会ったら十中八九一日中転間のことを語り合うだろう。
実は金髪なのは染めてるだけであり、地毛は
元々はメカクレで大人しめの子であり、今ほど明るくなければコミュニケーション能力に長けていたわけではなかった。
転間のことを一方的に知っており、彼をヒーローだと告げているが……?
THE・裏話:元ネタは艦これ(1期の主人公)、青ブタ(髪型)、にごリリ(声優・一部性格)、サマポケ(名前と誕生日)と色々ミックスしてたり。お店のゆきひらは食戟。スノードロップはいいぞ。
オリジンジュルリラは彼女の自信作で、このあと無茶苦茶人気メニューになった。
ちなみにうみちゃんはモブではなく、ゲストヒロイン。前書きでも書いたが、この子のお陰でなんか楽しくなってめちゃくちゃ話が伸びた。本当なら次回で終わって最終章突入してた。
ただ元々だいぶ前にさらっと出した伏線回収のために出す予定ではあったが、どうせなら出す予定のなかった転間の前世要素を出すいいきっかけになったのでヨシと思っている。
何故転間くんが(個性以外で)緑谷家に生まれたのかがこの話でよく分かってもらえたと思いたい。
THE・おまけのおまけ:一応うみちゃんの容姿については試しにAI生成したのがあるが、そもそもAI生成したことない人なのでよく分かってないし苦手な人もいると思うので閲覧は自己責任で。
イメージはこんな感じ
↓↓↓
【挿絵表示】
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい