どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
──ヘイ! ヘイ!!
頬を叩かれる。
強くではなく、軽い力でだろうけれど頬に度々感じる感覚と呼びかけられる声に僕は目を開けた。
「へッ………あ、よかった――!」
「お、おおお、オールマイトォォォォオオォォあああ!?!?」
「いやー元気そうで何よりだ!」
他でもないオールマイトに起こされた、と僕の心臓はバクバクと早鐘を打つ。
本物だ。間違いない。夢じゃなかった!!
──画風が、全然違う!!
「いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」
「しかし、君のおかげさありがとう!! 無事、詰められた!!」
矢継ぎ早に言うオールマイト。手にはペットボトルに詰められたヘドロヴィラン。
僕を安心させるためなのだと、それは分かった。
わざわざオフだの慣れない土地だの言う必要はないからだ。流石オールマイト! ユーモアも素晴らしい……!
生で見れたことに過呼吸気味になりながらもサインを貰おうとした。
「してあるー!!」
流石、No.1ヒーロー。
ファンサービスに抜かりない。きっと僕以外にも同じことをしてたのかな。
「わああ、ありっありがとうございます!! 家宝に! 家の宝に!!」
「じゃあ、私はコイツを警察に届けるので! また、液晶越しに会おう!!」
「え! そんな、もう………? まだ」
憧れの人に会えたのに。
ほんの少し話せただけ。
「プロは常に時間との戦いさ」
まだ聞きたいことが、ある。
一つだけ。たった一つだけでいいから。
僕の質問に──!
「それでは、今後とも……!」
「応援、宜しくっ!!!!! ──ってぇ! 熱狂がすぎるぞ!!! 少年! 離したまえ!!」
「今離したら死んじゃいます!!!」
「確かに!!!!」
鍛えていたのが功を奏したのか咄嗟にしがみつくことに成功した。
マンションの屋上に下ろされて、ようやっとまともに吸える空気を荒い呼吸で味わった。
一分にも満たない飛行。否、跳躍。
風圧で、体に掛かるGはとんでもなくて、頑張って口を開いて離さなかった僕は我ながら頑張ったと思う。
オールマイト。No.1ヒーローの所以の、その一端でしかない力を体感した僕の頭の中はそんな感想で埋め尽くされている。
心臓が別の意味でバクバクだった。
「全く! 階下の方に話せば下ろしてもらえるだろう! 私は、マジで、時間がないので本当にこれで!!」
言わなきゃ。聞かなきゃ。
「待って!」
「NO!! 待たない!」
憧れの人に。
頂点に君臨するNo.1ヒーローに。
この人にだけは絶対に聞かなきゃと思ってたことが一つだけある──!
「──個性がなくても、ヒーローはできますか!?」
「個性のない人間でも、あなたみたいになれますか?」
言葉が届いたのか、”無個性“という珍しさからか、オールマイトは止まってくれて。
足を止めたオールマイトに、僕は畳みかけるように言う。
時間のないNo.1ヒーローに聞くような話ではないかもしれない。平和の象徴は時間が有限なのも分かってる。
でも、彼の言葉を僕は聞きたかった。
大切な人には肯定してもらったけど、もう一人の大切な存在に。
「個性がないせいで、そのせいだけじゃないかもしれないけど、ずっと馬鹿にされてきて──」
ずっと守られてきた。
僕が傷つくことを妨げるように、兄は僕の傍に居てくれた。
でもいつだって傍に居られるわけじゃないから。
「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる! あなたみたいな最高なヒーローに僕も──」
そう聞こうとして顔を挙げた途端。
煙が発生していたかと思えばオールマイトが居たはずの場所には骸骨のような細身の男性が立っていた。
「オ、オオオオオオ!!! 萎んでる!? 偽物!?」
「私はオールマイコポォ」
予想外の出来事に信じられないものを目にしたかのように驚愕していると、目の前の痩男が血を吐く。
「プールでよく腹筋に力を入れ続けている人がいるだろう? アレだ」
「ウソだーーー!!!」
突然のカミングアウトに混乱する。
筋骨隆々でどんなに困難な状況でも不敵に笑い、数多くのヴィランを退治してきた平和の象徴、オールマイトの正体がまさかこんな長身痩躯の、骸骨のような男性とは夢にも思わなかった。
ここに誰が居たって同じことを思うはずだ。少なくとも僕らの世代ならば。
だけど声質も同じで目の前で起きたことは現実で。
彼は、オールマイトは語ってくれた。
5年前の、恐ろしい敵のこと。
呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴したこと。
一日約3時間しか活動出来ず、全盛期より衰えていること。
平和の象徴の、矜恃。
「プロはいつだって命懸けだよ。力がなくても成り立つなんて、とてもじゃないが私からは言えないね」
オールマイトから提示された答えは『No』だった。
現実的な答え。プロ視点からした現実的な答えだった。
特に、数多くのヴィランと敵対してきたオールマイトからの言葉はどんな言葉よりも重たくて。
だけど。
『個性がなくたって、ヒーローになれる』
その一言が、欲しかった。それだけだった。夢は諦めなくていいんだと、追いかけていいんだと、励まして欲しかった。
「夢見ることは悪いことじゃない。だが……相応の現実も見なくてはな」
分かっていたことだった。
そうだ、周りからもずっと言われてきたじゃないか。
”無個性“じゃヒーローにはなれないって。
ただ今更、本当の現実を思い知らされただけで、だからもう現実を直視して――そんなの、どうした。
夢が潰えるのか。終わるのか。
──出久はヒーローになれるんだ……! 無個性だの個性があるだの関係ない! 必ずヒーローにさせてみせる! 心配ないぞ、出久! お兄ちゃんがついている!
No.1に否定されたから……諦める理由になるのか?
なるわけがない。なるはずがない。
僕は兄の、最高のヒーローの弟なんだ。
彼が僕を自慢の弟だと胸を張って言えるように、僕もまた、同じように。
そう僕の決意も話そうとした途端、街の商店街方面で爆発が起きる。
「!?」
「爆発……まさか、ない!! ヴィランを詰めたはずのペットボトルがない!」
「そんな!? 僕のせいで……!」
「……いや。君は悪くない! 時間ばかりに気を取られた。No.1だからといって基本を忘れてしまっていた!! 私のミスだ。少年、私はもう行かねばならない。階下の人に話して降ろして貰うんだ、いいね!?」
「だ、だけどオールマイト! 時間が……僕……っ!」
僕も……と言おうとして、口から止まってしまった。
僕が行って、どうなる? あのヴィランは流動的だ。
兄のお陰で肉体は鍛えられたしある程度戦闘能力もある。
だけどそれは、触れられる相手だけだ。
それこそオールマイトのような風圧でも起こせないと……。
伸ばした手は届かず。
オールマイトは既にこの場から去っていた。
きっと現場に向かったんだ。もう時間が無いのに……。
……行かなくちゃ。
僕が、僕も行かなくちゃ。
僕はきっと後悔する!
僕のせいで被害に遭った人が居たら、この先ずっと……!!
商店街の方へ走る。
その間に僕は流動体ヴィランに有効な手段を考えていた。
セメントで固める。それか燃やすことで炎で水分飛ばす。氷で固める。水を足しまくる。土や砂を出してドロドロじゃなくする。
ダメだ、どれも現実的じゃない。
兄が作ってくれたサポートアイテムは空中機動になれるための練習用にと作ってくれた鉤爪の付いたロープ。普段は鉤爪を収納してるけれど、鉤爪もまともに効くとは思えない。
そもそも僕のように人質を取るなら間違いなくどれも選択が出来ない。
不純物を混ぜたら人質が被害を被る。
商店街に着いた。
未だに解決してないようだ。予想通り、さっきの流動体ヴィラン!
ヒーローがこんなに居るのにどうして……!!
「なんで他のヒーロー動かないの?」
「ヴィランが流動体で掴めないんだって。有利なヒーローが来るまで待つらしい」
「つーかさっき、オールマイトが追いかけてたやつじゃね?」
そんな。
あんなに苦しいのをずっと耐えているのか!?
こんな時に兄がいてくれたら……!!
有利な個性を持つヒーローが来てくれたら……!!
──個性が不利だから無理です。相性が悪いから無理です……だなんてヒーローが一番言っちゃいけないことだろ?
……違うだろ。
ヒーローが助けなかったら、誰が助けるんだ!!
誰かじゃないんだ。
兄が居てくれたら……そんなの言ってたら、永遠に僕はヒーローになれない!
考えろ。考えろ。考えろ! 考えろ!! 考えるんだ、緑谷出久!!
僕が今、出来ること──!
その時、ヴィランの身体がズレて覆われていた人物の顔が見えた。
目が合ったような、気がした。
その刹那。
──僕は、
野次馬の中から全力で駆け出していく。
「馬鹿ヤロー!! 止まれ!! 止まれーーー!!!」
ヒーローの声を振り切り、ヴィランへと向かっていく。
声に反応したのかヴィランも僕に気づいた。
「あのガキ!」
なんで、どうして。
なんで出た!? 何も出来ないのに、考えがまとまってないのに! どうして!
「殺してやる!」
こういう時は、こういう時は──25P!!
不定形故のリーチの長さで手を伸ばしてくるヴィランに僕は背負っていたカバンをヴィランの目にぶつけた。
中身が空中で散らばり、目に入ったのか隙が出来る。
加速して駆け出し、ヘドロを剥がそうと掻く。
「かっちゃん!」
「何で!! 何も出来ねえやつが!」
「足が勝手に! 何でって、分からないけれど!!」
何も状況が変わらず、咄嗟にポケットに手を突っ込むとサポートアイテムである鉤爪のついたロープをヴィランに突っ込んでスイッチを押す。
すると鉤爪が現れて僅かに斬れる。
ロープを伸ばし、兄特製のサポートアイテムが悲鳴を挙げているのを理解しながら少し出来た空白からかっちゃんの手を僕はしっかりと掴んだ。
僕が動いたのはきっと色々理由も理屈もあったんだと思う。ただ今は、この時は。
「──君が、助けを求める顔してた!!」
精一杯、僕は笑って見せる。
正直ビビってる。
でも一番苦しい思いをしているのは、辛いのはかっちゃんだから。
太陽のような笑顔は浮かべることは出来ないけれど、せめて少しでも。
「や………め、ろ!」
「もう少しなんだから、邪魔するなぁ!!」
「自殺志願かよ!? 無駄死にだ!!」
加速される思考。ゆっくりと動く世界。
このままじゃ殺される。
だけど振り払うほどのパワーは僕にはない。
せいぜい諦めないようにかっちゃんを引き出そうとするだけ精一杯だ。
だけど引っこ抜いてみせる!!
「う……ぁあああああ!!」
腰を入れ、ただ両手で全力で引っ張る。
急に力が抜け、ヘドロヴィランから出てきたかっちゃんと共に僕は地面に倒れた。
「このガキィイイイイイ!!」
まずい――!
咄嗟に庇おうと僕が動こうとしたとき。
「──君を諭しておいて、己が実践しないなんて!!!」
そんな時だった。
憧れの人が、No.1ヒーロー、オールマイトが来た。
僕とかっちゃんの前に立って。
ヘドロの手を腕で受け止めて。
そして。
「プロはいつだって命懸け!!!!!!」
「DETROIT――SMASH!!!」
巻き起こる暴風。
走る抜ける衝撃。
上昇気流すら発生させ、天候を変えるほどの圧を伴い、ヘドロヴィランは飛散して、僕とかっちゃんは助けられた。
オールマイトの一撃によって降り出した雨が火の勢いを落ち着かせ、騒動で昂っていた身体をも冷やされて、ギャラリーは自然と解散していく。
かっちゃんは事態が収拾した後、タフネスさと個性が評価されてスカウトを受けていた。納得いかない顔してたけど、満更ではなかったようだ。
僕はというと………ヒーローたちに物凄く怒られた。
無茶するな。
……ちょっと思うところはあったけど、その通りだ。僕の行動はただ無駄に死人を出すだけの可能性があった。
でも僕が一番知る人なら、有利だの不利だの関係なく動くはずなんだ。
オールマイトにお礼を言わなきゃと思ったけども、マスコミに囲まれてて断念した。
「うぐぅ!? んぐぐぐぅー!
出久の危機をまたしても感じた俺は必死に抵抗する。猿轡のせいでまともに喋ることが出来ず、簀巻きにされてるせいで身動きが取れない。しかも最初にクラスメイト連中に高手小手縛りされたせいで余計に拘束が強い。
いくらなんでも厳重過ぎるだろ……。
しかも個性が使えない。俺の邪魔をするかイレ先!!*1
侮るなよ、俺は出久を助けに行くんだ!!
「急に落ち着いたかと思えば急に叫んでどうした」
「ぐぐぐ! ふぐぅ!!! あぐぅうううう!!」
「ねーねー、イレイザーヘッド! もういいんじゃない? 転間くんも反省してると思うの!」
芋虫状態でぴょんぴょん跳んでちょっとずつ動く。*2
個性さえ発動すれば一瞬で辿り着ける……!
待ってろ、出久!! まだ命が危うい状態ではないから時間がある!*3
今お兄ちゃんが向かうぞ!!
裏切り者の声など無視だ無視!
というか――
「ああああああ!!」
いい加減猿轡が鬱陶しいので地面に顔面を強く叩きつけて破壊する。鼻血が出てきたがどうでもいい。
ミッドナイト先生の余計な趣味のせいで邪魔臭かった。*4
なんてもん学校に持ってきてやがる。あんたにやってやろうかコノヤロウ。*5
「今行くぞーっ!!」
「何処に行くつもりか分からないが行かせるわけないだろ」
「グエーっ!?」
イレ先の捕縛布が首に巻かれる。*6
死ぬ死ぬ! 人間首絞められると死ぬ!
足さえ使えれば力尽くで布は破壊できるが!!
だが俺はお兄ちゃんだ……お兄ちゃんだぞ……?*7
弟の危機! つまり! こんなところで!
「負げるがああああ!!」
「ぐお……っ! この、バカ力……! オールマイトかお前は……!!」
さながらゴキブリのように動く俺はさぞかし滑稽だろう。
フハハハ、イレ先が椅子から立ち上がっても徐々に引っ張って行けている! 息が苦しいし摩擦でやばい気がするし簀巻きのお陰で大丈夫だ、せいぜい布団が燃えて俺の体も燃えるくらいだ。
だが一瞬でも個性さえ使えればこっちの物!
俺の尊厳など弟の前では無に等しい!!
このまま助けに行くぞ、出久ゥ!!
「く……波動も力を貸せ! 個性を使ってもいい! 俺が許可する!! ただし被害は出すな!」
「はーい」
は?
頭上を浮いては越え、突如反対から飛んできた波動に吹っ飛ばされる俺はスタートエリアに逆戻り。
ゴキブリからひっくり返ったダンゴムシになった。
その隙にイレ先が俺を天井に縛り上げた。
は?
「は? 裏切り者ォオオオオオ!!!」
「ふーんだ。君が悪いんだよ? 私が説得しようとしたのに逃げようとしたでしょ」
そっぽ向いてそんなことを言うねじれ。
なんだこの
説得しようとだと!?
そんな動き!
そんな会話!
──ねーねー、イレイザーヘッド! もういいんじゃない? 転間くんも反省してると思うの!
あったわ……。
「青春の香り!」
「帰れ。猿轡あんたに付けるぞ」
「あら、そういうのがお好み? 私はそっちでもい・い・け・れ・ど?」
「興味無い。出直せ」
「……生徒に手を出そうとしないでください」
どうやらそうこうしてる間に出久の危機は去ったらしい。怪我も無さそうだ、良かった。
お兄ちゃんの勘がそう言ってるから間違いない。
命の危機を感じたら最終手段として関節を全部外して抜け出す選択はあったが、しなくて済んだようだな。問題ないと分かったのはちょうど天井に縛られる前だった。
ただやったら母さんを悲しませる羽目になるし、あまりやりたくない手段だ。
もし怪我してたら怪我させたやつ地獄の底まで探し出して半殺しにする。*8
「安心して相澤くん。ちょっと”調教“するだけよ?」
「貴女のそれは色々とまず……緑谷? 何をする気だ?」
危機が去ったため、冷水を浴びたように冷静になった俺はこの場を打開する方法を分析しては考えると思いついた。
何やらミッドナイトとイレ先が話してるが関係ない。
ゴソゴソと身を捩り、動けそうだったので高速回転。
「なっ!?」
急に引っ張られたイレ先が耐え切れず目を僅かに閉じた一瞬でマジックのように消えた俺は着地する。
個性の”応用“を使えば拘束を解くことなどなんのその。
最初からこうしてりゃよかったな。いや上空に縛られたから出来たことなんだが。
それにしても今日一日で二回も出久に危機が……一体何があった、お兄ちゃん心配だぞ出久。
今日は反省文すぐ書いてすぐ帰るからな……待ってろ!
「……ねじれ。お前はそろそろ機嫌戻せ」
「別に機嫌悪くしてないもん」
「そういえば駅前で新しく出来たスイーツが美味しいって評判らしいぞ。でも一人じゃ食べられないから明日誰かと一緒に行くつもりだったんだよな。ジャスミンティーも美味しいらしいんだが、仲のいい友人……あ、そうだ。環かミリオでも連れていくか」
「仕方ないなあ。次は怒るよ」
ふっ、ちょろい。
お前の好みはジャスミンティーなのは把握済みだ。そしてスイーツも好きということもな。
出久や母さん以外の人間関係など興味ない俺でも雄英のヒーロー科となれば流石に必要ないとは思わない。
将来に直結するし、出久がヒーローになるまでにNo.1は奪い取らねばならないから同期も必要になるだろう。
チームアップもあるかもしれないし。
そしてねじれとは入学してからの仲だ。
今年で二年目になるが、伊達に一年間一緒に居たわけじゃねえからな。俺の前世だとクラス替えはあったのだが、ヒーロー科はA組かB組かが入学時に決まるだけでクラス替えは存在しない。
別の科から編入ってパターンはあるのだが。
だけど途中から編入って原作にあったかなぁ。この世界で生きていくにつれてこの世界に適応でもしたのか、前世の記憶があるだけで原作知識もほぼ薄れてしまっている。前世思い出したのが四歳だから十二年経ってるし。
重大なことは覚えているのだが。
とりあえず金玉の髪の毛とあのエッグマンの髭は千切ることは誓ったんだよな。
それは忘れたことはない。*9
「相変わらずお前は……ハァ。おい緑谷早くしろ。お前のせいでクラスメイト全員の時間がズレたんだ。
終わっていた俺がセメントスに頼まれてるからお前の面倒を見ているんだぞ」
「もう終わってますが何か」
「……普段は優秀なんだがな……。しかも適当じゃなくてちゃんと書けてやがる……!」
よし帰るぞ。
出久が俺を待っている。
お兄ちゃん今から帰るからな!!
「あ、ちょっと待ってよ転間くん。私も帰るってば」
「遅い方が悪い」
「それはそうだけどー。──ねえねえ、どうやって抜け出せたの〜? 結構キツくされてたよね?」
「興味あるならやってみたらわかるぞ」
「えーじゃあやってみようかな。ね、転間くん縛って。簀巻きはちょっと嫌だから最初のやつ」*10
「なんで?」
「ひとりじゃ出来ないんだもん」
「わかった、もう忘れろ。俺が甲矢に変なこと教えたとか言われる。なんなら殺される。それと……そういうことは誰彼構わず言うなよ」
「変なことって何? 教えて教えて! それに転間くんにしか言わないから」
「うわめんどくさ」
「わあ、清々しいほどに辛辣!」
あのままあの場所に居ても晒し者でしかない。
既に夕焼けになってしまって遅くなっちゃった。
「デクっ!!」
「………かっちゃん」
結局何も出来なかったことに落ち込みながら帰ろうとしていたところへかっちゃんが追いかけてきた。
「俺は………てめェに救けを求めてなんかねえぞ!! 助けられてもねえ!! あ? なぁ!? 一人でやれたんだ、無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ………恩売ろうってか? 見下すなよ! 俺を!!」
クソナードが! と吐き捨ててかっちゃんは反転。
来た方向へと去って行った。
その後姿を見てタフネスだなぁ……と思うのと。かっちゃんの言う通りだ。
オールマイトが居たから何とかなっただけで何も出来なかった。
オールマイトに無理をさせてしまった。
僕があの時しがみつくことをしなければかっちゃんも辛い目に遭うことはなかったんだ。
でもそれは過ぎた話で。
次はそうならないように対策もしよう。
そういえば……転間兄ちゃんのサポートアイテム壊れちゃったな。どうしよう、三日間も徹夜して作ってくれたのに……。
とりあえず報告して謝ろう。
そう決めたら、僕は帰りを急いで──
「私が来た!!」
「わ!?」
路地から急に現れたオールマイトに目を剥く。
「オールマイト!? なんでここに………さっきまで取材陣に囲まれて………」
「抜けるくらいわけないさ! 何故なら私はオールマ──ゲッボォ!!」
「わーー!?」
喀血と同時にオールマイトの身体が萎む。
実際にしっかりと目の当たりにしてしまうと、本人なんだと改めて実感した。
オールマイトは口元を拭うと、言葉を続ける。
「少年。礼と訂正………そして提案をしに来たんだ」
「へ?」
なんのことだろうと内心首を傾げる。
提案とはどういうことか。礼とは。訂正とはどのことなのか。
「君が居なければ………君の身の上を聞いてなければ、口先だけのニセ筋となるところだった!! ありがとう!!」
「そんな、お礼なんて! ………そもそも僕が悪いんです。仕事の邪魔して。何もできなかったくせに、生意気なこと言って」
「そうさ!! あの場の誰でもない、小心者で無個性の君だったから 私は動かされた!! トップヒーローは学生時から逸話を残している………彼らの多くが話をこう結ぶ!」
心臓が早鐘を打つ。
「『考えるより先に体が動いていた』と!!」
「君も、そうだったんだろう!?」
「………ッ!!」
そうだ。
あの時はただ我武者羅で後先考えられなくて。
ただ助けなくちゃ、とそう思ったんだ。
「──君はヒーローになれる」
誰かに認めて貰いたかった。
その言葉をくれたのはたった一人だけで。
その言葉を糧に生きてきた。
だけど憧れの人から他の誰でも無い、No.1ヒーローにそう言われて。
「っうあぁ………ッ!!」
声を殺した慟哭。
人気がないとはいえ住宅街であることすら忘れて僕は情けないくらい泣いて、喜んでいた。
――
言い忘れてたけどこれは、
僕と兄が、僕たちが最高のヒーローになるまでの物語だ。