どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
残念ながら私には絵の才能がゴミカスなのでまともにキャラすら書けないんですよね、何度か調べて練習したけど結局諦めてしまった。
ファンアートとかは貰うと滅茶苦茶嬉しいものですね。
とりあえずこの海の話が終わるまではいきたい。
お兄ちゃん、またしても要素が追加されて一人呪術廻戦してる件。最初は個性とブラコンっぷりだけだったはずなのに!
――寝る前は硬い感触だったのに、なんだか後頭部から柔らかい感覚があって微妙に騒がしい声が聞こえる。
パラソルの下で仮眠を取るために寝転んで、そこから先の記憶はない。
精神的に疲れていたのもあるだろうが、あまり寝てないというのもあったのだろう。
恐らくすぐに眠ってしまったのだと思われる。
とにかく現状を知るため、俺は目を開けた。
真っ暗な世界から徐々に視野が回復すると、最初に視界に映ったのは水色のビキニだった。
視線を横に逸らせば、暗い海と食欲を唆るようなやけに香ばしい匂い。
反対を見れば白い肌に臍が見えて視線を戻すと視界に写るふたつの双房から女子だということ、膝枕されてるのだと理解した。
僅かに動いたからか、覗き込むように顔を出してきた。
「あ……起きてたんだ、転間くん」
「……さっきな」
着ていた水着から誰かなんて絞れていたが、案の定ねじれだったらしい。
仕事を完全に終えて、パーべキューの準備をする必要があって。
俺はパラソルの下で軽く眠るだけのつもりだった。
「どれくらい寝てた?」
「2時間くらいかな?」
「そうか……じゃあ俺も準備を――」
そう思って体を起こそうとしたら両手で押さえられた。
体が普通に戻される。
おい。
「動いたらダメ」
「何故?」
「今は休む時間だから」
十分もう休んだのだが。
そう視線に籠めると、首を横に振られた。
「……私、転間くんが人助けするのは咎めないし良いと思う。それは君の魅力でもあるから。だけどね、無理しすぎに見えるんだ、私たちからしたら」
「私は知ってるつもりでも実際には転間くんの全てを知ってるわけじゃない。きっと私に隠したいこともあると思う。それはいいよ。全て話す必要なんてないもん。でも私、ずっと見てたから知ってるんだよ、本当は無理してたんでしょ? たくさん考えて動いて、個性を使って――じゃなきゃ転間くんがここまで無防備になるはずないもん」
「……それは」
「巻き込む巻き込まないじゃなくて、巻き込んで。せめて私だけでも頼って欲しいな。私はどんなことでも転間くんのためならするよ?」
そう言ってきたねじれの目は何処か寂しそうに感じた。
確かに無理はしただろう。数分の仮眠のつもりが数時間してしまった。
正直何を言っても言い訳にしかならない気がして何を言えばいいか分からない。
「それとも……私はまだ頼り甲斐がない……かな?」
「……いや、それは……ただ……」
「……?」
前世の自分は自分が傷付くのは良くて、誰かが辛い思いをするくらいなら自分が背負うべきだと思っていた。
社会を回すために必要な“部品”。他の人が傷つかないために存在するだけの “部品”だった。
ただ今の俺は、この世界の俺は違う。
人を救うことはやめるつもりはない。人を心から救うことが最高のヒーローだと思うからだ。
ならなぜ、誰も頼ろうとしなかったのか。
過去の自分を降ろした後はまだしも、その前に。
「情けないし、もしかしたら幻滅するかもしれない。俺らしくないように見えるかもしれない。それでも聞きたいか?」
「そんなことしないよ……絶対。だから……聞かせて?」
理由は本当に、単純だ。
とんでもなく情けなくて、ある意味では俺の弱さなのだろう、と今回の件で分かった。
「俺はずっと一人だった。弟と母親は居たけど、自分の力で全部やるしかなかった。それが“良いお兄ちゃん”になるための行動故で、そこを後悔したことはない」
そう、後悔はない。
弟のために生きるのが俺の生きる目的でもある。
俺の人生の全部を、弟がいずれ最高のヒーローになれるように使うつもりでもある。この世界で生きる意味を見出したその時からその決心は揺らいだことは一度たりともない。
「でもな、一人でずっとやってきて、やり遂げてきた。誰も居なくてやるしか無かったから。必要なかったんだ、俺には誰も。だから今回も……頼ることをしなかった。元々遊びに来たのに、仕事をさせる訳にはいかないというのもあったけど、結局は俺が引き受けた問題に他の誰かを巻き込むのは違うと思ってたんだ。何があっても自分の力だけで解決しなくちゃならない。俺は、俺の人生が
誰かがやるしか無いなら自分が。
自分だけが。
それがきっと
今も、これからも。
「転間くん……それは――」
「言わなくたっていい」
間違えてるのは俺なのだろう。
だとしても何を言われようが俺は俺で、誰も変えることは出来ない。
体を起こした俺はねじれと向かい合う。
普段の明るさは鳴りを潜め、今はただ悲しそうで、何故か彼女が泣きそうになっていた。
揺らぐ青い瞳。本当に海のように。
間違えてるなら間違えてるなりに、別の方法を取ればいい。俺はきっとこれからも一人で背負うだろうが……。
「それよりさ……例え俺がどれだけ頑張ったところで俺は神様なんかじゃない。戦闘なら何とでもする自信はあるが、こういった俺一人じゃどうしても解決出来ないこともあるらしい」
「……うん」
「だから……なんだ。もし次に困ったことがあって、誰かの手を借りたくなった、その時は――」
呼吸を挟んで、真っ直ぐ。真剣に。
それでいて静かに。
少なくとも彼女がこんな顔をしなくていいために。
「真っ先にねじれに伝えることにする」
「――――」
俺はそう呟いた。
ヒーローを目指してる以上、同年代でも涙は見たくないものだ。慰めになったかは分からない。
目を見開いて反応のないねじれに、妙に照れ臭くなった俺は後頭部を搔いて、息を吐く。
「ま、まぁ……お前が嫌じゃなかったらだけ――」
「嫌じゃないっ! 何でも、いつでも言って!」
「お、おう……と言っても俺一人で解決出来るようなことは自分でやるけどな」
「今はそれでいいよ、絶対だからね?」
「ああ……善処するよ」
「うんっ!」
一転して、笑顔を浮かべるねじれに無意識に口角が上がる。
やっぱりこっちの方が落ち着くというか……違和感がないな、こいつは。
「じゃあ今は――」
前のめりになって両腕を伸ばしてくる。
意図が読めずにいると、彼女の両手が後頭部に添えられ、そのままねじれの太腿に額がくっついた。
「ちゃんと休んで、ね?」
そうして膝枕してきた彼女によって頭が撫でられる。
状況的に思うことがひとつ。
「――よく水着姿で出来るな」
「――えっち」
「待てそれはおかしい」
流石にうつ伏せは色んな意味でやばいので首を動かして顔を横にしたが、今更頬を赤くするねじれに理不尽なレッテルを貼られた。
俺がやったわけじゃないだろ……。
「転間くんなら……いいよ?」
「何言ってんだお前。病院行け」
「むうーっ」
「痛い」
度が過ぎてる冗談というか妙なことを言ったねじれに真剣に返したら何故か耳を引っ張られた。
俺が何をしたって言うんだ。
「おーいそこのイチャつきカップル。準備終えてるよー」
少ししてそんな呼びかけが聞こえた。
何かと言いたいことはあるが、結局クラスメイトたちに全て任せてしまった。
いつまでも膝枕されてるわけにはいかず立ち上がった俺は手を差し伸べる。
「とりあえず、腹ごしらえだな」
「うん」
手を取るねじれを引っ張り、立ち上がらせると手を離して先に歩く。
すぐ隣にやってきたねじれと共に、待つクラスメイトたちと元へ向かっていった。
純粋にBBQをして、ミリオや環にも友達だから頼ってくれだの似たようなこと言われたりからかってきた甲矢を無視したりクラスメイトに揉まれたり、そうやって普通の日常といえる時間を過ごした後は片付けてから花火をした。
手持ち花火で四本持ちだけでなく、だんだん本数を増やすミリオだったり絵や文字を描くように動かす人たちだったり純粋に振り回していたり、手に持って爆竹に火をつけようとするバカを止めたり、回転花火に悲鳴をあげる姿があったり、何人か大人しく線香花火をしてる人たちもいれば、俺は俺で環と一緒に大人しく線香花火したり、火を点けれない人の代わりに火を点けたりなんで保護者みたいなことしてるんだろうかとだんだん思いながら見守っていた。
が、こんなバカな、あまりにありきたりな日常こそ“青春”というやつなのだろう。
そうやって全体を見渡せる位置で何かあれば駆けつけられるようにしていると、ねじれが歩いてくるのが見えた。
「ねえねえ転間くん!」
「遠慮しとく」
「何も言ってなーい!」
反射的に答えてしまうとねじれがリスになった。
いやてっきり面倒事を押し付けられるかと。
これ以上面倒は見れんぞ、仕事でもそうだったが、俺は分身が出来ないのだ。せいぜい並列思考が可能なだけである。*1
「線香花火! 一緒にやろ?」
「ああ、なんだそれか。別にいいけど、お前絶対すぐ火が消えるだろ」
さっき環ともやったが、緊張してない環だから全然手がブレなくてほぼ同タイミングで火種が落ちたのだ。
貰ったので風で消えないように膝を突き合わせてしゃがみ込んだ状態になり、自分とねじれの線香花火の火薬がつまった先端から少し上のくびれた部分を軽くひねる。
この理由は、製造時や保管中に紙のこよりが緩むことがあるため、再度締めることで火薬が固まって火の伝わりがゆっくりになって火球が落ちにくくなるからだ。
それから点火棒でロウソクに火を点け、ロウソクで互いの線香花火を点火させた。
その際に線香花火を斜め下45度くらいに傾けた状態で、先端にのみ火を当てる。
なぜなら一気に火薬全体に火がつくと燃え尽きが早いからだ。ゆっくり燃えると長持ちしやすい。
45度の理由も火球が落ちようとする力が分散され、軸との接地面積が増えて支えやすくするため。*2
そして火を点けたため、先端にオレンジ色の小さな火球がうまれ、花が咲く前の蕾のように静かに始まった。
実際名称は蕾だが。
それから数秒後に火球がふっくらと安定し、牡丹――パチパチと力強く、大きめの火花が散り始めていた。
意外にもねじれは揺らすことなくじっと保ち続けていた。
「花火大会のような打ち上げ花火と違って派手じゃないけれど……これもこれでいいものだよね。とっても綺麗だもん」
線香花火を見つめるねじれの瞳の中で光がゆらゆらと揺れていた。
向こう側は変わらず騒がしいがここは線香花火と海くらいで、俺たちが黙れば音しか聞こえなくなる。
返事しない俺に対して、線香花火が静けさを消し去るかのように、火花の勢いがさらに増し、次々に多くの火花の1本1本が松の葉のように四方八方へ勢いよく枝分かれし、激しく飛び散る。
「……そうだな。むしろこうやって手軽に出来て空へと打ち上げられる花火と違って身近で見られるからこそ、いいのかもな。手に持って、眺められるから。 それに花火大会と違って終わりは一瞬だ。静かで儚い美しさ……一瞬の輝きと散り際の美しさを感じられるのと、集中力を生むからこその特別感があるんだろう」
人は儚く美しいものに魅力されるものだ。
線香花火は身を寄せ合う必要があって距離感が近くなるのもあるのだろうが、会話が自然と少なくなって小さな音と光だけが残るのが特徴的だ。
実際にやっていてもその一瞬の輝きに目を奪われる。
結局のところ、どれだけ長くても1分か1分弱でしかない。
「うん、色が変化するのもね」
「炎色反応な。赤がリチウム、黄色がナトリウム、薄紫がカリウム、青緑が銅、オレンジがカルシウム、紅色がストロンチウム、黄緑がバリウム――化学とはよく言ったものだ。こんな個性が溢れる世界でも、花火は綺麗だと思えるんだからな」
「そうだね……でもね、不思議」
「ん?」
「こうやって転間くんと線香花火をしてると他の人より綺麗に見えるんだ。君の瞳がいつもより輝いて見えるから……かな?」
「それはただの屈折と集光だろ」
「そうだけどそうじゃないというか……あ」
マジレスで返すと不満げな顔をされて意味が分からなかったが、気が付けば勢いが徐々に落ちて、完全に火の玉が落ちていた。
別にどっちが長く保てるかの勝負をしていたわけではないが、俺の方が残ってしまったようだ。
「本当に儚いなぁ……まだなのは分かるけど、夏の終わりって感じがしちゃう」
「まあ、あながち間違ってないんじゃないか。俺たちヒーロー科は夏だとか感じてる暇はないし」
「うん……ねえ転間くん」
「……なんだ?」
俺のも限界だったようで、1本1本と花びらのように落ち、光が弱くなって、まるで菊の花びらが散るように穏やかに。足掻くように残った玉が儚くも落ちて消えてしまった。
「来年は私たちはどうしてるかな? 3年になるし関係性も変わったり、色んな経験して変化があったりするのかな」
「……さぁな。確かに来年には、いやもうすぐ俺たちはそれぞれの道を歩むと思うしプロと変わらない経験を何度も積む。インターン先だって決まって既に行ってる人と決まってない人で分かれてる」
仮免を取った以上、後はひたすら現場で経験を積んで学校で学べることを学ぶ。
無論誰かが死ぬようなことすらあるかもしれないし体験によっては人は変わるだろう。
これから先の未来なんて俺には何一つ分からない。
しかし“これから”が心配になる気持ちは分からなくはない。
「変わるものもあれば変わらないものもある。だけど現実は変化の毎日だ」
「結局変わっちゃうってこと?」
「だいたいは変わるものだろうな。けれど俺は、俺だけは変わらないよ。これから先の未来、例え何があったとしても――俺はどんな時だって出久の“お兄ちゃん”として在るべきままで居るだけだ。お前の周りで変化しようともお前自身が変わろうとも、俺だけは変わらない」
「だから定まってない、まだ曖昧な未来に不安がったり心配があるなら変わらない存在である俺が居るということは頭に入れとけ」
「転間くん……」
周りが大人になろうと、諦めようと、変わろうと、俺だけは決して変わることはない。
そう、それは。
「それが
俺のヒーロー名がそうであるように。
原点が変わらない俺は決して変わらない。
「……うん、やっぱり転間くんは転間くんだ」
「だろ?」
「ズルいとこも変わんない」
「何がズルいんだよ」
「そーいうとこっ」
全く意味が分からないが、両足に力を入れて立ち上がったねじれを見て俺はバケツを持ちながら立ち上がる。
「けど、転間くん。私は、私はね。君のそーいうとこや他人を思いやって自分を貫く姿がね。私はね――」
こちらを見つめるねじれは両手を後ろにしていて、頬が赤く染まっている。何かを躊躇しているような様子だった。
視線を彷徨わせて、お腹の辺りで両手をもじもじとさせて、何処か落ち着かない感じというか。
行動が奇抜なのは良くあることだが、いつもグイグイ来るねじれとは思えない。
もしかして……。
「私はっ……」
「おーい! 打ち上げ花火上げるぞー!」
「そこの二人も早く!」
「お、いよいよかー」
「緑谷――保護者早くー」
「転間や波動さんも近くで見よう!」
「あと……転間と波動さんだけだよ」
俺らが線香花火してたらいつの間にか集まってたのかクラスメイトたちが待っているようだった。
甲矢、お前サラッと俺を保護者扱いしたな。こんな騒がしくて面倒くさくて世話がかかる子供なんて欲しくないし何人居るんだよ、仮にそうなら産んだ人やばすぎるだろ。ひとりじゃなくて何人かとしないと無理だろこの人数。
母胎に負担が大きすぎる。
「ま、フィナーレにはちょうどいいか。既に発射時点で怪しいし止めないと。行くぞねじれ」
「あ、うん」
「どうした?」
「ううん、楽しみだなーって! 次は派手な花火だよ! 二人で見るのも良かったけど、次はみんなで楽しも!」
そう言って先に歩くねじれの後ろ姿を見たからか、耳が真っ赤になってるのが見えた。
さっき思ったことを、俺は改めて思った。
もしかしてねじれ――
風邪を引いてるのだろうか、と。*3
「うわしまった倒した!」
「助けてお兄ちゃん!!」
「早速やらかすのはある意味尊敬するよ……暇にならねえなお前ら」
仕方が無いのですぐに駆けつけて軌道修正した。
しかしまあ、こうして海辺で花火を見るのも悪くはないものだ。
昔の俺が言ったら現実逃避をするな、と言っただろうな。
連続花火を打ち上げたり皆と楽しんだ後、片付けも済ませて泊まりといえば枕投げとか意味わからない原理で枕投げに勃発したが、最終的に届かせないようにして一方的に投げつける虐殺をしたら疲れからか力尽きるように皆寝ていた。
俺は仮眠を取ったせいか眠れず、深夜帯であるにも関わらず暇なので海辺の砂浜で両手を後ろに着いて支えながら空を見上げていた。
月が出ている。月の光が青くて少し眩い。
そういえば職場体験行った時も月が出てたっけ。セルキー船長やシリウスさん、船員たちは皆元気だろうか。
「緑谷さん」
思い馳せていると後ろから声が掛かった。
振り向くと白いパーカーに身を包んだ金髪の少女――うみちゃんが居た。
今は髪を下ろしているようで、肩にまで掛かるショートヘアーとなっていて少し印象が変わる。
元気な娘から大人しめの娘に変わったような。
「うみちゃんか……眠れないのか?」
「はい、少し目が覚めちゃって」
「そっか。女の子一人だと危ないぞ」
「すみません、でも緑谷さんが見えたから来たんですよ。いつもは出歩きませんので」
「うーんそれなら……いいか。いいのか?」
そういうつもりはないが、夜中に男に会いに行くというのはなかなか良いとは言えないため、判断に困る。
俺は別に変なことをするつもりはないが。
「緑谷さんならいいんですっ! それより緑谷さんは?」
「お、おう。俺は仮眠したからな。元々あまり寝ない人間なんだ」
「ショートスリーパー……って言うんでしたっけ?」
勢いに負け、隣に来たうみちゃんが両膝を抱えるようにして座りながら覗き込むようにして見つめてくる。
ショートスリーパーか。
そうなのだろうか。正直昔から削れるものを削った結果、睡眠時間を1番削るべきだと判断したからあまり寝なくなっただけなのだが。
エナドリとか錠剤とか色々使ってたし。
食事は手軽に食えるもので何とかなったしな。
「ですけど、寝ないと体調崩しちゃいますよ、今日あんなにも頑張ってくれたのに……」
「それを言えばうみちゃんも同じだろ? それに寝れないのに無理矢理寝た方がしんどくないか?」
「うーん、一理ある……。あっ、そうだ!」
いいことを思いついたと言わんばかりの反応。
なんだかそんなはずはないと分かっているが、電球が見えたような気がした。
「だったら私が寝かしつけましょうか――」
「じゃあ頼もうかな」
「なんて……ってええええぇぇぇっ!?」
「はは、冗談だよ」
「え、冗談……も、もうっ。緑谷さん意地悪です」
拗ねたように唇を尖らせてそっぽ向くうみちゃんに自然と笑みが溢れた。
なかなかいい反応をしてくれる、同期の同僚を思い出すな。
相変わらず社会人の頃の記憶ばかりなんだけど。むしろ自分を降ろしたせいでより鮮明になってきた気がする、封印封印。
もうお前の役目は終わっただろ。
「どっちかというとそれは俺の役目だろ?」
「へ? み、緑谷さんにそれはちょっと……私寝れません。むしろ寝たくありません」
「それは本末転倒になるな」
「ですねぇ」
「ま、暇なら一緒に話すか? うみちゃん一人にする訳にも行かないしさ」
「それはぜひっ!」
海辺というのもあって暗く、月明かりがなければもっと暗いだろう。
真っ暗になっても大丈夫なようにサポートアイテムは持ち歩いているが。
しかし彼女の明るさは真っ暗な世界でも輝いてるような錯覚を覚える。
「うみちゃんは本当に明るいな」
「えへへ、そうですか? でも私、最初はこんなに明るくなかったんですよ?」
「へえ、それは意外だな」
「ええ、こうなろうとしたのはある人に出会って救われたからなんです」
海を見つめる彼女は何かを思い出してるようだった。
一瞬見えた瞳の中には普段とは違う別の熱のようなものがあったような気がする。
「ある人?」
「はい。とってもかっこよくて優しくて、私が困った時に助けてくれた――とっても素敵な人なんです」
「へえ、そんな人が居たんだな」
うみちゃんにとっては恩人なのだろう。
そう笑顔で告げてきた彼女は俺にはよく分からないが、恋する乙女の顔とでも言えばいいのだろうか。
これもまた普段と違った表情だ。
少なくとも言えるのはこんな良い娘にここまで言わせて慕われる男がいるならそいつと会ってみたいものだな。
悪人だったら一度ぶっ飛ばして矯正しよう。
俺が許さんぞ。*4
「やっぱりかぁ……」
「やっぱりって?」
「いえいえ、なんでもありません」
何か意味深なことと視線を感じたが、何でもないなら何でもないのだろう。
「その出会いはうみちゃんを変えるきっかけになったんだな」
「そうですね、気になりますか?」
「そうだな、ちょっと聞いてみたい気持ちはあるよ」
「実はですね……私――5年前くらいかな。ヴィランに襲われたんです。知ってますか? 鳴羽田市というところなんですけど」
「突発性ヴィランで騒ぎになってたところだな」
しかし意外だ。
鳴羽田が話に挙がったこと、何より5年前くらいに俺も鳴羽田に行っている。
その時に変な3人がいたような気がしなくもない。*5
そういえば俺も巻き込まれたっけ。いや巻き込まれに行ったの間違いか。
人に襲いかかっていたヴィランに対して個性を使って撃退した。
たったそれだけのことだが。
「そうみたいですね。私、その時の騒動の時に巻き込まれちゃって。でもそこで助けてくれた人に命を救われて、心を救われて、私もこの人みたいに人を笑顔にできるような人になろうと思ったんです。その人は名乗ることもお礼も受け取ることなく去って行ってしまったんですけど……」
「そっか……それがうみちゃんのオリジンなんだな」
「ふふ、そうですね。ええ、
同じことを言ってるはずが、何か違うような気はするのは気のせいだろうか。
然しこんな偶然もあるものだな。俺も誰かを助けたことはあるが、その時は
少なくとも今のうみちゃんとは全然違う。目元も隠れてたし大人しそうな子だった。
「いつか会えるといいな」
「はい。でも……緑谷さんは、緑谷さんならどう思います? “例えば”ですけど、昔救われた人が会いに来て、こうして一緒に居るようなことがあったら」
「俺なら? そうだなぁ……」
もし俺が同じ立場だったらどう思うか。
正直わざわざ会いに来てくれたことに驚くとは思うが……それでもやっぱり。
「俺ならうみちゃんがこうして元気に生きていて、トラウマになってないなら嬉しいけどな。だって、それはその時の行動に意味があったってことだろ」
そう、意味のない行動ではなかったということだ。
他人の未来を守るなんて簡単に出来ることじゃない。例え救うことが出来ても心に傷を残す場合だってある。
少なくともうみちゃんを救った人は彼女の心を救い、こうして笑顔で生きられるようにしてみせた。
どんなヒーローか、もしくは一般人か気にはなるが凄いやつも居たものだ。
「なるほど……ふふ」
「欲しかった答えかは分からないけどな」
「いえいえ十分です」
何処か満足そうに笑顔を浮かべるうみちゃんに安心するが、ふと思ったのは彼女は俺のファンなのだという。
普通、その助けてくれた人のファンになるのでは? 俺のファンになるきっかけがあったのか?
「……そういえばうみちゃんは俺のファンって言ってたけどさ、きっかけとか聞いてもいいのか?」
「えー……ダメです。緑谷さんが“答え”に行き着いたなら話してもいいですけど、辿り着いてないので」
「いつの間に問題を出された……!?」
「ふっふっふ、昼頃くらいですかねー? 今も、出してますよ?」
今も出されている?
昼頃……俺のことをヒーローと言ったことだろうか。今はなんだ?
今の会話の中にヒントがあったのか?
うーん……。
「難問だな……」
「緑谷さんにとってはそうかもしれませんね。他の人なら1発だと思いますけど」
「もしかして俺、バカにされてる?」
「そんなことはしませんっ。緑谷さんはとっても頭も良くて凄い人です!! とってもとーっても魅力に溢れた人です!!」
「お、おお。なんかごめん……」
「……緑谷さんって鈍感ですよね」
「まぁあまり人の心に聡くはないと思う」
分かる時は分かるんだけど全く分からない時は全く分からない。
昔からそうだったので許して欲しい。
仕事には何一つ影響なかったんだけど、なんだろうな。好意とでも言えばいいのか。
その辺は昔からよく分かってないのだ。
休みもなく仕事とエナドリと錠剤漬け状態だったのもあると思うが。*6
「……よし!」
「ん?」
何かを決めたように頷いたうみちゃんが四つん這いになって急接近してくる。
結構近い。
鼻先が当たるんじゃないかというくらいには。
「緑谷さん。今日は、その……本当にありがとうございました。緑谷さんのお陰でお店も大盛況でしたしおばあちゃんも凄く喜んでいて」
「俺だけの力じゃないよ。うみちゃんやクラスメイトたちが居なければむしろ失敗で終わっていたかもしれない。悪化させたのは俺の知名度だし」
「それでも、です。私にとって緑谷さんが救いの手を伸ばしてくれたからなんですよ。それがなければ私はお店を諦めるしかなくて、緑谷さんとも会えなかった」
「だからありがとうございます。私と会ってくれて、助けてくれて。ずっと会いたかったから、とっても嬉しかったんです。ああ、私にとって緑谷さんは変わらずにヒーローなんだって」
「うみちゃん……」
「これが運命だと言われたら信じちゃいそうです」
「……俺は運命ってのは信じてるぞ?」
「そうですね……そう思った方がロマンチックかも。でしたらその運命に感謝しなきゃ、ですね。そして、緑谷さんにも」
僅かに距離が縮まり、思わず体を仰け反らせるとうみちゃんは俯いていた。
次に視線が交差した時は彼女は上目遣いとなっていた。
「で、ですから、その……お礼と言ってはなんですけど――」
緊張した面持ちで、顔を赤くしながら上着に触れた彼女は自身のチャックを掴む。
「み、緑谷さん。わっ、私と
そうしてゆっくりとチャックを下ろしながら顔を真っ赤にして、そう告げてきた。
上着が肩からズレ、腕の辺で止まると彼女の健康的で細身な肢体が顕になり、海の波立てる音と雲に覆われ始めた月がいつもより印象的に残ったような、そんな気がする。
ちなみにこの話というか編が出来上がったのはある大好きな作品の影響でした。
最高のアニメ化に本当に感謝します。この作品がなければぶっちゃけ続きが書けなくて続かなかった。ということでそのアニメのOPもEDも神だけどこの話(主に前半部分)が生まれた理由のEDを是非聴いてください。『https://youtu.be/kk2aVrhnA8U?si=JVzhpx-tYhllp3ZL』
あとAIくん頼りの髪下ろしたうみちゃん。
こういうタイプの服いいよね。主に下。
【挿絵表示】
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい