どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
明かされてるのって筆記、面接、実技だけだったはずなので。
それからというものの、夏休みの空いてる日に真綿に誘われて出掛けたり海に行ったことを伝えたらずるいと言われたので代わりに別の日にプールに一緒に行ったり、イツメンで出掛けたり出久と夏祭りに行ったり、そこで憎きオールマイトを一発で撃ち抜いたり*1、強化合宿で何故か監督役する羽目になったり*2、イレ先やマイク先生の他にミッドナイト先生やセメ先などと言った教師陣とボウリングやらカラオケやら行ったり*3、飲み会に行ったり*4、ホークスから近況報告を何故か受けたりとスターからインターンどうだとか言われたり、語れば長くなってしまうが、これといってヴィランの襲撃に遭うなどといった大きな事件は特になく。
月日が経ち、夏休みも終わったので二学期が始まった。
始まって早々になってしまったが、公安の方で用意出来たのか知らないが校長室に呼び出されたかと思えばヒーロー本免許試験を受けることになった。
根津校長先生はライセンスさえ貰ったらこっちで何とかするからしばらく預からせてもらうとか、合格するか分からないのに合格前提で言ってきたけど。*5
何やら注目されてるのか護衛要員なのかは知らんが、ホークスの他に若手の中でも突出してきたシンリムカムイとかMt.レディとか他にもヒーローが居たけど。
学生、それも二年の時点でこれは前代未聞と言われればそうだが。
内容は筆記。
これはプロヒーローに必要な知識を求められた。
簡単に言えば法律とか対処とか救助する際に必要なこととか。
次に面接。
これは人柄を見るためだろう。当たり障りのない答え*6で終わった。
そして多分1番見てる実技。
体力、救助、戦闘テストの三種の試験があり、体力は簡単に言えば学校でやるような延長戦のようなもの。
これに関しては1年でも2年でもやったが、個性を使用したテストだ。
プロヒーローの試験なんだから個性を使わないでどうするって話だし。
ただ問題になるのは救助と戦闘のテストだろう。
俺の場合は救助だった。
救助に関しては、
試験内容は災害だったけど、なんかすごい見覚えのある光景だった。
と言っても試験を作った人曰く半分以上で達成にするつもりだったらしいけど俺の労力を返せ。
そもそも1000人も集める必要あったのか……? 知らん間にエキストラでも募集してたのか?
最後は現行のプロヒーローと戦闘――なのだが、残念ながら出番はなかった。
ホークスが説得してたのが見えたけど、よっぽど俺と戦いたくなかったのだろう。まぁスターと戦える俺と戦いたいやつなんて居ないだろうし。
逆の立場だったら俺も嫌だ。
とまあ、そんなこんなであっさりとプロヒーロー免許を手に入れてしまったわけだ。
本免許より仮免の方がしんどかったってどういうこと?
それはさておき、免許を手に入ったからプロヒーローになる――わけではなく、俺はまだなるつもりはない。
学生は学生らしく学校に行かねばならないだろう。
――来年出久が入学してくるんだからデビューするわけねえだろ。*8
無理矢理デビューさせてこようとしたら海外に高飛びするぞ。そして4月になったら戻ってくる。
ただある意味プロヒーローになったものなので、ホークスの記録を塗り替えてしまったのだが、いずれバレるだろうけど世間にバレたら目立つから黙っておこう。
後はインターンに行くことになるが、他に大きなイベントとなると文化祭くらいだろうか。
問題はインターン先か。
どうやらNINJAに連絡したら今追ってる事件で時間がないらしい。
時が来れば連絡するとは言われたが、そうなると特に行きたいインターン先がない。興味本位でエンデヴァーのところに行ってもいいけど、既に二回も蹴ってるから今更すぎて敵意向けられそうだし。俺も上手くやれる自信はない。ビジネスならまだしも通常時の俺はコミュニケーション能力は低い。
海外に行く訳にも行かないしな……とスターの連絡先を見て思った。
となると上から順に選ぶのが基本、なんだけど。
別に急ぎでは無いし、ゆっくり考えていけばいいか。うちの生徒は既に何人か行ってるみたいだ。
俺も決めねばならないが、とりあえず度々どこか行ってみるかな。
そうだな、久しぶりにセルキーたちに会いに行くのもいいかもな。メッセージでのやり取りはしているが、シリウスさんたちは元気にやってるみたいだし。
と、暇だったのでそんなことを考えていると、足音が聞こえる。
「せんぱーい!」
今日は特に何も無く休みの日だったので、変わらず鍛錬に行った出久を(心の中で泣く泣く)見送っていつもの念をオールマイトに送ってから、待ち合わせのために待っていたのだ。
元気な声を響かせて手を振りながらこっちに来るのは、後輩である真綿。
なんかやけに機嫌が良さそうだ。いいことでもあったのかな。*9
「お、遅うなってごめんなさい」
「気にするな。俺も俺で考え事があったしな。いくらでも待つ」
「……先輩は変わらんね」
「変わるわけないだろ。俺が変わった時は俺が死ぬ時だよ」
「先輩は死なんと思う」
「よく分かったな、お兄ちゃんポイント10点をやろう」
「やった。……お兄ちゃんポイントって何ばい?」
「そうだな、じゃあ100点まで貯めたら何でもするとか」
「先輩……私以外に言っちゃダメだかんね、それ。先輩が言っちゃダメなやつ」
「信頼出来るやつ以外には言わないから心配すんな。第一、まず他の奴じゃ貯まらん」
「信頼――そ、それならよかよ。 ……頑張って貯めよ」
「頑張れ」
「な、なんで聴こえてるん!?」
「難聴じゃないもので」
小声だったみたいだが、どの環境下であろうと出久の早口を聴き取れる俺の耳を無礼るなよ。小さな声だろうと俺は出久の声は聞き逃さん。
そしてそこに社会人スキルがあるため、滑舌が悪かろうと小声だろうと問題がない。ド田舎レベルで訛ってるのは厳しいが。
それに100点まで貯めて何の還元もなしは酷い話だしな。出来ることならしてやろう。
ただし出久になら俺は常に何でもするがな!!
「そ、そんで、先輩。今日は――どう?」
服って聞くの流行ってるのか?
一か月前くらいにも聞かれたな……うみちゃんに。
真綿の服装は白い靴*10の上には黒のソックス*11に黒いスカート。襟のリボンがある腕が出ているピンク色の服*12だ。
まだ少し暑いのもあって涼しげなファッション。
「涼しげなファッションだし、真綿らしくていいと思うぞ。あまり詳しくないからなんとも言えないが、こう……服に着られるんじゃなくて着こなしてるって言えばいいか」
「そ、そっか。じゃあ、可愛い?」
「かわいいかわいい」
「心が籠っとらん!?」
「俺に女子のファッションセンスを求められても。似合ってるくらいしかわからん」
「じゃあ……女装してみる?」
「誰得?」
「文化祭とかでやるといいかもしれんし!」
「誰得だよ」
「ちぇー……」
何故か不満そうにしてるが、俺の女装見たいやつなんて居ないだろ。
まぁゴリラみたいな見た目じゃないから女装しても酷くはならないと思うが……。
「俺を女装させるってなら男装させるぞお前」
「へ? 先輩が見たいなら……」
「男装だと弱かったか……。じゃあ、なんか恥ずかしいようなやつ」
「か、過激なのは恥ずかしいけど……水着より上ってことは紐とか……? せ、先輩が見たかな、ええよ?」
「さて何処に行くか」
「むぅ」
何を言っても返されそうな気がした俺は話を切り上げた。
全く……付き合ってもない男にそんなことを言うものではないだろうに。
「先輩にしか言わんばい」
「人に小声を聴き取ること言っといてお前はサラッと俺の心を読むな」
それはそれでもどうかとは思うけど、それほど信頼されてると見るべきか。
ならばしっかりと応えなくちゃならない。
決して手を出さないという意味で。
「じゃあ行きたいとこあるから行こ!」
――手を取られて一瞬で手を出してしまった。
俺の決心瞬殺されたんだけど。
ずっと思ってたが、以前からなんか真綿が俺に対する距離感が更に近くなってるような気がするのは気のせいだろうか。
腕に当たる柔らかい感触を考えないようにして、そう密かに思った。
最初に行ったのは映画館だったが、そもそも全然テレビを見てないせいで何の映画か分からなかった。
サメ映画なら面白いんじゃないかな、と適当に思ってたレベル。
後はまだ暑いしホラーもいいんじゃないかと指差したらあからさまに顔色を悪くしていたのでやめた。
どうやらホラーは苦手らしい。こう言っちゃアレだが、こいつ得意だと思ってた。俺はいくら見ても全く理解出来ない恋愛系以外ならどの作品でも楽しめるし、ホラーは大歓迎だが。
そりゃ上司が仕事残して早々に定時で帰宅、部下を残らす訳にはいかない上仕事を押し付けられたため深夜の消灯した時間の中でひたすら一人でパソコンポチポチしてた俺がホラー苦手なら仕事出来ないしな。
ファンの音とかって真夏なんて特にホラーだし。
結局ほのぼのとしたオリジナルアニメーションになったが、意外と面白かった。
その次に本屋に行って、俺には全く分からないコスメに行ったり雑貨を見て回ったりUFOキャッチャーでぬいぐるみを取ったり*13と引き連れられて色んな場所に行ってるのだが。
「見て見て、先輩! どうね?」
「割とメガネ似合うな……」
「えへへ、そう?」
「嘘を言う必要ないだろ」
「う、うん……」
「あと賢そうに見える」
「私の事アホだと思っとる!?」
「いやそれは思ってないが」
本当に救いようのないアホだったらわざわざ修行つけたりせず適当に切り上げてたし、そもそも俺に教えを乞うような策を回せないだろう。
雄英なのもあって難しいところは難しいからテスト勉強に付き合った時はあったが、結構解けていたしな。
難しいところはミスとかあったけど、俺が教えたら簡単に吸収してたし。
俺はもちろん余裕。
入学してからずっと満点無礼るなよ。
「矛盾しとらん?」
「こう言っちゃアレだが、真綿は優等生って感じの見た目ではないだろ? ギャルっぽいし客観的に見たら適当そうに見えると思う。だからだよ。人間、見た目が9割なんだ。だけどお前が優秀で努力家だってことはよく知ってる。もちろん今のお前を否定するわけじゃなくって、むしろイメチェンなんてされたら俺は落ち着かんが」
「そ……そか……」
誤解されては困るのでそう伝えると、オーバル型の黒いメガネを戻していた。
買うつもりはないようだ。
その辺は本人次第なので任せるが。
「そっ、そういえば先輩ってサングラス持ってなかった?」
「ああ、陽射しが強い時とか掛けるな。あと人混みが多いところでは着けないと色んな意味でヤバい」
「あぁ〜……」
変装としても使用しているが、これでも俺は割と有名だ。体育祭優勝者だし、1年の学生、それも入学したての身でインタビュー受けさせられたり仮免取ったり事件解決したり。
私服はまだ大丈夫だがコスチュームの時とか制服の時とか見られる。
別に人気欲しくて事件解決してたりしてるわけでもないのにな。
しかし最高のヒーローになるには人気も必要なのか……めんどくさ。
オールマイトも人気だもんな、見た目画風の違うゴリラなのに。
あの人だけ出てくる世界間違えてるだろ。
「でも先輩なら似合いそう」
「どうだろうな。他人から見た評価次第じゃないか」
「絶対似合うと思うばい! なんでも!」
「勢いが凄い」
そこまで言うなら着けてみるか、と物色している真綿から少し離れてサングラスを手に取ってみるが、ふと視界に移った方を手に取る。
「先輩は青と赤、どっちが――」
メガネを選んでいたであろう真綿が振り向く前に装着すると、こちらに視線を向けた真綿を俺は見つめた。
「ぶっ……!?」
「ちょ、ちょ、ちょっと、せんっ、ぱいっ……。な、なにっ、それ。そ、それは、ふふ、ズルすぎるたい……!」
こうかはばつぐんだ。
左右に広がるちょび髭と大きな鼻。黒いフレームに眉――いわゆる鼻眼鏡を装着した。
腹を抱えて笑う程とは。よっぽどツボったらしく、涙目になっていた。
彼女がヤバそうなので取って元の場所に戻す。
「はぁ、はぁ……笑い死ぬかと思った……」
「笑えたようで何よりだよ」
「どうしてそれを選んだん?」
「何でも似合うと言ったのは真綿だろ」
「それはちっと違うと思うっちゃけど……笑わん人なんておらんくない……?」
「確かにそうかもしれないな。俺も真綿がつけたら笑う気がする」
「……やらないからね?」
「やれとは言ってないっての。面白いとは思うが、そっちよりもお前はこういうやつの方が似合うだろ」
スクエア型の赤いリムのメガネを手に取ると、差し出した。
両手で受け取った彼女は掛けると、見つめてきた。
「どう?」
「悪くは無いと思うが、いいのかは分からないな。似合ってるとは思うが……」
「じゃあ、これにする」
「そんな簡単に決めていいのか? そもそも真綿ってメガネが必要なくらい視力悪いのか?」
これでも半年以上の付き合いだ。
彼女の目が悪くないことは知っているし、度々会ってもいる。
「ううん。そないわけやなくって。ファッションにも使えるし、勉強するときにも使えそうかなーって。何より……せっかく先輩が選んでくれたもん。これが一番よか!」
「そういうもんか」
その目的なら軽く機能を付ければ遠視と近視に切り替えることが出来るだろう。
度数が合ってないメガネは逆効果だと言うし。
「じゃあこれは俺が買って真綿に渡すとしよう」
「え? で、でも……」
「イレ先から聞いてるよ。真綿、頑張ってるんだってな。リーダーとしてもヒーローとしても。イレ先から一学期に比べて1年のやる気が段違いだの遠回しに真綿を褒めるような話も聞いてる。その褒美ってか……まぁこれからも頑張れってことで」
あのイレ先が褒めることなんてあまりないだろう。良くも悪くも合理的な人で、あの人の評価は正しい。
俺に対する評価はおかしい。
ただ真綿の実力は他に比べて突出しているらしい。
俺が時折見てるのはあるが、見れない日の方が多いものだ。それでも成長してるのは彼女なりの目標があって、それを目指して頑張ってるからに過ぎない。
俺は彼女にリーダーの資質を見出した。俺にはない特別な才能だ。いくら実力があっても他のことが出来ても結局俺は他者を使わずに自分でやってしまう。
だからこそ、これからの未来、彼女の存在がきっと必要になる。
もしこの世界に大きな悪意が現れたとして俺がいつだって雄英に居たり出来るわけでも現場にいる訳でもないしな。
俺は最強になるつもりだが、無敵ではない。もしかしたら死ぬ場合だってある。正直今スターと本気で殺し合えば互いに弱点を知ってるから負ける確率の方が高いし。
実力もあり、リーダーシップも持つ彼女のような存在は貴重になるだろう。
救助に関しても彼女の個性は人を助けることに向いている。拘束もだが。
「先輩……」
「それに後輩に奢れない先輩ってのは情けないもんだろ」
「先輩は全然そんなことなか! でも、じゃあ……お願いしてもいい?」
「ああ、また後日渡す。とりあえず遠視と近視切り替えられるようにするから」
「さりげなくすごいことするよね、先輩。……もしかしてサポートアイテム作っとるっちゅう噂、本当やったり?」
「作れるが自分のは作らないな。使わないし動きづらくて邪魔」
「ほんまやったんだ……どげんの使っとったん?」
「大したもんじゃないぞ? 指向性を持たせる補助用のとか防護フィールドを展開するやつとか、エネルギー系の個性をストックするやつとか」
「十分賞取れそう……というかサポートアイテムって免許必要なんじゃ?」
「どれもこれもイマイチだな。手榴弾投げた方がマシレベル。免許は持ってるよ、本免許。ほら」
「ほんとだ!? 先輩……ほんなこつスペック高かね」
免許を見せたら見慣れてないようで結構じっくり見てた。
流石に出久に作ってるのに無免許で居たら出久に被害が及ぶからな、1年の頃にパワーローダー先生に作品見せて仮免、本免許とちゃんと取った。たまに爆発させるのは申し訳ないとは思ってるが。
ただまあ、ヒーロー科なのにサポート科の免許ある方が珍しいし、プロヒーローでも少ないからな。
それはそうと勧めたのも俺というのもあり、プレゼントという形で購入することにした。
おまけでメガネケースも買っておこう。
「まぁ、これくらいなら明日にでも渡せると思う」
「うん。絶対宝物にするっちゃ!」
「そうか。そういえば前渡したやつも使ってるんだな」
購入したあと、ついでに俺の個性を転用して、1度くらい身を守れるようなバリア機能でも付けようかな、などと考えつつ、彼女の手首に視線を向ける。
そこには以前渡した淡水パールの2連ブレスレットがある。
汚れが全くなく、大切に扱われてるということはそれだけで分かった。
「あ、うん。だって先輩が初めてくれた宝物やし……大事にしとるけん。すっごく」
そう言って彼女はパールにそっと触れていた。
思い出してるのか口元が緩んでいて、嬉しそうにも見える。
なんてことのない、特に機能性もないアクセサリーでしかない。
「だったら渡してよかった」
だが、いらなくなったら捨ててもいいだの、それはきっと言うべきではないのだろう。
俺にとって価値はそれほどなくたって彼女にとって価値があるなら彼女の価値観を否定することになる。
それに女性はオシャレに気を使ってるらしいし。
俺の母さんだって俺たちの卒業式とか始業式とかそういった特別な日にアクセサリー付けてたりするし。
だからこそ。
「大切にしてくれてありがとうな」
俺に言えるのはこれくらいなのだと、心から思って彼女の頭を撫でた。
ほんの数秒瞬きせず固まっていたが。
「うん! これからもずっと大切にするばい!」
次の瞬間にはそう言って、はにかんでいた。
パールも喜んでいるだろう。
なんだっけ、付喪神的な。
妖精さんが居たなら居ても不思議じゃないんだよな……。
そもそも俺に前世の記憶がある時点で普通じゃないが……そこは深くは考える必要はないか。後悔はないし、むしろこの世界に生きてるからこそ過去の自分が救われたような気もする。
出久に出会ったのが始まりで、弟のために生きている。これからもそれは変わらないが、高校生になってから周囲に人が増えて、気がつけば多くの人と関わりを持つことになった。
それはつまり――出久が俺を救ってくれたんだ、と。
流石俺の天使だ出久ゥ!!*14
「さて時間も時間だし何処か店入るか。食べたいものとかあるか?」
「ん〜正直先輩とならどこでもいいっちゃけど……」
俺も特にこれと言ったものはない。
食べれるなら何でもいいしな。
「先輩はある?」
「いや。この辺そこまで詳しくないし微妙だな。こういったところひとりじゃ来る機会早々ない」
「やっぱり?」
「ああ、特に俺自身が欲しいものはないしな」
強いて言うなら弟の笑顔と幸せくらいだが。
笑顔に関しては俺が笑顔にさせればいい。そのために俺が幸せにすればいい。
――ん?
解決では?
出久にとっての幸せ、すなわち最高のヒーロー。なんだ、元から俺はそのために動いてるじゃないか。
「先輩って結構欲がなかよねぇ。もっと欲持ってもいいと思うばい」
「そう言われてもな。例えば?」
「え? た、例えば……えと、恋愛に繋がること、とか……?」
「恋愛に繋がること? ……何かあるか?」
指同士を合わせて突き合わせながら照れたように告げる真綿だが、抽象的すぎてピンと来ない。
「……わ、分かんない」
「恋愛と欲を結びつけるなら……うーむ、世間一般でいうデートとかか?」
そういった関係は前世も含めてなかったため、俺にはよく分からない感情だ。
しかしデートというのがある以上、それもまた欲を満たすひとつだろう。
ただその場合はどういう欲、感情に分類されるのだろうか。
特別……好意……そうなりたいという感情?
「少なくとも日時や行き先を決めて出掛けるなら……ん? 休日に男女で出掛けるのはデートでは? いやそれは恋愛感情の有無か……?」
しかしデートという扱いにするなら俺が真綿に好意があり、また真綿も俺に好意がないと成立しない。
少なくともモテるであろう彼女*15にとって俺は強いだけの存在に違いない。つまりただの先輩と後輩で出掛けてるだけか……。
なんたって恋人がやるのって遊園地で手を繋いで歩いたりアトラクションに乗ったり観覧車で夕暮れか夜景を楽しんでなんかいい感じの雰囲気になったりクレープやアイスをあーんとかして一緒に食べるやつだろう。あとは水族館とか。*16
「というかデートって何するもんなんだ?」
「えっ!? そげん改めて言われると――難しかね……」
「手を繋ぐ――ってのはさっきしてたしな」
「う、うん……。じゃ、じゃあ……」
正確には俺が引っ張られてたのだが、映画館に入るまではその状態だった。
思い返してると、真綿が俺の腕を掴んでいた。
何か用かと視線を向けると、彼女は顔を赤くしながら腕に抱きつくようにぎゅっとしてきた。
「こ、これで……」
凄いデジャブを感じる。
前もこんなことされたか。相変わらず動きづらくなる。
「せ、先輩が恥ずかしいなら変えてもいいっちゃけど?」
「いや俺は別にいいんだが。そっちは大丈夫なのか?」
「へ?」
「いや前より生地が薄いし」
「っ〜! へ、平気……。先輩相手やし……」
そういう割には耳が赤い気がするが、まぁ俺を信頼してるってことか。
心配せずとも手を出すことはない。
俺は手を出すことはないが……。
「ただ気をつけろよ、勘違いするやつも生まれるからな」
俺の同級生の
うみちゃんを含めて50回も振られたってことはまあ、去年の3年生や1年生。今年の3年生と1年生にも何人かに告白したってことだろうしな。
いやもしかしたらプライベートで振られた可能性もあるが。
「別に先輩になら――」
「お、ここ特典あったのか。まさか俺の情報網から外れていたとは……やるな。あ、すまん。それで今の話はどういう――」
「なっ、なんでも! なんでもなか! そ、そげんより入るばい?」
俺の知らないオールマイトの特典があったことに長年培ってきたオールマイトグッズセンサーが反応してしまったせいで話を変えてしまったので意味を問い出そうとしたのだが、真綿はぶんぶんと首を振っていた。
――犬かな?
「へぁ……」
頭痛めるぞ、という意味も含めて頭をポンポンと叩いたら俯いてしまった。
だめだ、今日の真綿はよく理解出来ん。……いやこいつ予想外のこと来るから理解出来た回数の方が少ないか。
「大丈夫か?」
「へ、へーき……」
俺の腕を抱きしめる力が強くなった気がする。
力を入れたら簡単に解けるだろう。
それほどに柔く思える腕の力だ。
本当に華奢だな。
「ひゃっ!?」
ささっと肩を抱いて寄せることで通行人にぶつかるのを避けさせ、店を見つめる。
まさか俺が見逃していたとは、おのれステルスマイトめ。
許さんぞ。
昔の復刻か……新規か……どっちだ……?
出久のために獲得せねば。
ご本人すら俺から出久を奪ってる時点で憎ったらしいが、俺がお兄ちゃんじゃなければ我慢出来なかったな。オールマイトに突撃して喧嘩売ってた。
「自然に――」
「ん? 自然? 自然が見たいのか?」
「う、ううん! いや、先輩とならそれも全然悪くないけど――そ、それで、どうするん?」
「そうだなぁ……」
別に一人で来ればいいだけの話であるため、わざわざファミレスに行く必要は無い。
真綿を見ると、変わらず顔は赤い気がするが熱でもあるのだろうか。
そうではなく。
俺の視線に気づいて目を彷徨わせている。
褒美に高いところに行ってもいいんだよな。俺のお金の使い道がなさすぎて。
寄付したのにまだ他の件でお金が残ってる。母さんに渡しても返されたし、出久に渡しても全力で拒否されてむしろ俺がダメージ受けたし。なんなら普通にショック死するかと思った。
ということで、たまにはそれもいいだろう。
ただ予約制の店は無理だな、そもそも高級店となると格好から入らねばならない。
服はまあ、レンタルでドレスコードを店員にしてもらうとして、この辺で高い店だと――
「転間くん……?」
振り向いたところで、聞き覚えのある声と見覚えのある容姿をした人物が居た。
距離にして数m。
驚いたようにこちらを見つめる青い瞳とロングヘアーの髪。
青緑色の半袖のブラウスに裾にフリルがある黒いミニスカートに身を包むねじれの姿がそこにあった。
原作
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入る
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もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい